複雑・ファジー小説

不正戦艦 赤い大砲
日時: 2020/08/02 18:12
名前: ジャベリン改 (ID: N7iL3p2q)

 赤い大砲……その砲身から飛ぶのは……「真っ赤な嘘」

 若者たちが乗り込む地獄行きの船、

 果たして、その航路の果てにあるものとは……


 「不正戦艦」


 それが、僕たちが乗り込んだ、最後の船の名前だった。


一章


 僕たちは主に大砲で戦う。もちろん剣と銃も持ってはいるけれど、今の時代なら相手の船に乗り込んで白兵戦なんて面倒な事をしなくても大砲で船ごと沈めて仕舞えばいい。そっちの方が安全で手間もないから、今の海戦は皆んなこの方式で戦っている。昔はモナーの喧嘩士も居たけれど、今は全く見掛けなくなったね。そういう化け1匹に依存するよりも、代替可能な複数の個人で適当なDIY潜水艦に連邦法違反になる荷物をたっぷり載せて運航させた方が利益が上がるもんだ。航海には憑物の事故が起きても、船とクルーのどちらかさえ残っていれば、後はそいつらをニコイチで合わせればまた出撃させられる。実質特攻のような片道切符の作戦がよくあるのもこういう理由さ。船の発展は個人の価値を無くしてしまったんだ。僕たちは船を動かす部品の一部になったんだ。
 そんな訳で今日も僕は他の連中と一緒に航海をしている。
 今回のメンバーは何時もよりもずっと豪華だった。豪華といっても語弊があるのかもしれないけど、今僕が居るのは立派な駆逐艦の甲板の上だ。隣には家みたいにデカい連装砲がちゃんと備わっているし、この船には魚雷と対空砲も備わっている。そして何よりも嬉しいのは、今日まだ生きている愉快な仲間たちが20人もいる事だ。
 と、いうのも、僕が普段乗っていた船というのは、正確には船じゃない。今僕が乗ってる駆逐艦よりもずっと小さい、半沈潜水艦というものだ。普通のボートをDIY改造して潜水艦「っぽく」したもので、武装どころかエアコンもテレビもついてない。主な用途は密輸なんだけど、そういえば過去に爆弾を乗せてターゲットへ特攻するとかいう任務もあったっけ。
 なのにどうして僕が生きているのかといえば、その時の船の仲間たちと相談して途中で船を降りて作戦をバックれたからだ。丁度近くに漁師の船が来てて助かったよ。

 甲板にサイレンが鳴り響く。いよいよ来てしまったか、本番だ。正直やりなくない任務だし、途中で逃げ出す手筈もあるのだけれど、取り敢えず最初は戦っている「フリ」はする。甲板に穿った塹壕に隠れ、銃を構える。銃といっても、僕に渡されたのは火縄銃だ。駆逐艦がある時代にこんな銃を渡すって事は、司令官は僕に死ねと言っているようなものだった。
 双眼鏡を覗くと、夕焼けの水平線の向こう側に金星の如く輝いている物体が見えて来た。

V(ヴァルキュリア)3000

 それが今回の僕たちの戦う相手だ。見た目は海上に浮く超巨大二等辺三角形みたいな形をしていて、表面の色は全部金色だ。まるでSF映画に出てくる宇宙船みたいなコミカルな見た目だが、全く油断はできない。何故なら何故金色なのかは勿論、中にどんな武装が隠されているのかを僕らは知らないからだ。波動砲とかついてるのかな。
「あの船の中に金塊が入っているってマジ!?」
「金を稼ぐぞ!ギャハハ!」
 公共無線に下っ端クルー達の声も入ってくる。戦闘前なのに呑気な連中だ。
 双眼鏡に映る金色の物体はみるみる大きくなっていく。相対速度的に計算して、向こうもこっちに向かって来ているようだ。海戦の基本は最大火力が最も高い船の横腹を相手に向けて撃ちまくる砲撃戦スタイルが基本だが、相手は安直に真っ直ぐこっちに向かって来ている。形状もアレだし、先っぽに衝角でもついてるのかな……
 此方の船も相手に対応して船首を傾ける。右斜め前に向けて舵を切り、相手の鼻先に10時の方向から連装砲をお見舞いするつもりだろう。

パパパン

 と、金ピカのV3000とはまた別の何かが、そいつの甲板から空に向けて立て続けに発射された。
「……は?」
 状況が呑み込めない僕は思わず声を漏らす。ミサイルか……でもそれにしては遅いし、こちらのCIWSやレーダーは反応していないみたいだし、航空機にしては小さい。僕が双眼鏡のピントを発射された何かに合わせると、更に狼狽するハメになった。
 形状は球体に近く、熱エンジンのスラスターと思われる光が洩れている。そして中央にある瞳のような不気味さのあるカメラアイと目があってしまった。ドローンとも違うそれは、一瞬で僕の視界から消えて……気付いたらそいつは僕らの船の真横に来ていた。生身の僕からすれば、まるで瞬間異動して来たような超スピードに感じた。
「自律兵器だー!」
「え、ちょまー」
 刹那、複数の方向から放たれた光線の雨によって、基地から遥々やってきた僕らの駆逐艦は一瞬で火ダルマになる。甲板には美術館のアートのように光線で焼かれた跡が広がっていった。もう迎撃とか初期消火とかいうレベルではない。僕らは一瞬で「敗北」したのだと理解した。
「ヴァルキュリアって、そういう事かよ」
 そして僕にはもう一つ気づいた事があった。ヴァルキュリアというのはあの金ピカの船のことではなく、今僕らを襲っている丸い自律兵器の方だ。きっと金色の船の方は、この自律兵器の輸送用のカーゴか何かだろう。ややこしいな、北欧神話ネタならば船の方にもヴァルハラって名前を付けておけよ。
 流石に僕もこんな「変な天使」達にここで殺される訳にも行かないので、予め下に着込んでいたダイビングスーツと、傍に置いておいた水中モーターを掴んで海に飛び込んだ。まるで北朝鮮の工作員だ、僕も韓流映画に出演できるかな。

 そして僕は火の海を背に生き残る。黒煙によって覆われた空は海面の炎を反射して不気味に輝き、そこには「変な天使」達が僕たちの事を見下ろしていた。
 僕たちは自慢の大砲を撃つ暇も無くやられた。相手の主砲は船には無かった。今僕らを見下している、この天使達こそが奴らの大砲だったんだ……

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Re: 不正戦艦 赤い大砲 ( No.1 )
日時: 2020/08/02 16:21
名前: ジャベリン改 (ID: N7iL3p2q)

 のこのこと逃げ帰って来た僕らを待っていたのは温かい食事とシャワーと毛布と1割の報酬だった。金額的には数千円、7日も航海したのにこれだけしか貰えないのは、僕たちの船は海上でバーベキューになって魚の餌になってしまったからだ。生活的には正直厳しいか……
 しかし僕たちの敗戦があってかなくてか、重要な情報の数々が管理部に集まって来ていた。

 先ずはあの敵艦V3000の正体だ。あの戦艦は元々は「多目的強襲艦」と呼ばれる物だったらしく、その名の通り様々なアタッチメントを交換することによって汎用性を得ることの出来る兵器だそうだ。また内部にはブリッジを複数持ち、複数の指揮系統を統率できるんだとか。つまりは艦長も複数人いると、素人目で見てもかなり変わった船だ。
 そしてその多目的強襲艦をベースに例の自立兵器を搭載して「トロフィー級」の戦艦へと改造したらしい。

 トロフィー級戦艦、半年毎に数隻製造される特戦艦で、ゴールド、シルバー、ブロンズの3ランクに分けられていて、ゴールドが最も優れているとされる。そして僕たちが戦ったのはこのゴールドランクのトロフィー級戦艦だった訳だ。
 不思議なのはV3000は元々はトロフィー級として造船された船ではないにも関わらず、途中から改造してゴールドランクにまで昇格した事だ。よっぽどの事情があったのだろうか。
 そして一番狼狽したのが過去にもゴールドランクのトロフィー級戦艦は他にも造船されており、未だに稼働している艦まであるという事だ。V3000みたいな戦艦が他にも太平洋をウロウロしていると想像するとゾッとしない話だ。僕が住んでる兵舎では「V3000はゴールドランクの中でも実力も評価も低い」という話まで出ている。ゴールドの格下でアレならば僕たちは一体なんなのか。
 僕は変な菌がついて自己嫌悪に陥る前に寝ることにした。翌朝、人生で最悪の任務が待っているとも知らずに……

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