複雑・ファジー小説

Re: 君を、撃ちます。 ( No.9 )

日時: 2013/03/24 13:22
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ
参照: タグはきっと『君撃ち。』『かぎかっこが多い小説』だろうな

 それからの生活は少し変わり、僕が朝起きると「椿木」と「母親」がキッチンで朝ごはんの準備をして、僕が顔を見せた所でご飯が始まる。ご飯を食べ終わると「椿木」は学校へ行く準備をして、学校へ行く。道の途中まで送っていくのが僕の日課だ。
 すれ違う「椿木」と同じ制服を着た「人たち」にチラチラと物珍しそうに見られるのが初めは辛かったけど、今は少し慣れてきている。言い出したのは僕ではなくて「母親」だったけど、そのことに僕は少しだけど感謝していた。「椿木」は最上級生と呼ばれているらしくて、残り数ヶ月生徒会長の役割が残っているらしい。

「それじゃ、行ってきます」

 まだ少し歩けると思ったが、一度後ろを振り返り僕の家が見えにくいことを確認して「椿木」に、行ってらっしゃいと手を振った。「椿木」はもう一度笑顔を僕に見せると、背負ったリュックを横に揺らしながら駆けていく。もう小さくなってしまった「椿木」の姿を見てから、僕は回れ右をして家へ帰った。


「おかえり、××。今日の夕方、椿木ちゃんお友達連れて帰って来るらしいから、まだ人に慣れてないんだったらリビングか、自分の部屋にいて良いからね」

 玄関で靴を脱いでいるとき「母親」に言われたことを忘れない内に、リビングに置いてあった僕の荷物を持って部屋に運ぶ。知らない人と会うのも、話すのも嫌だったから部屋のカギを掛けた。昇る途中の太陽が部屋を照らす。
 白いベッドがより一層白く輝いて見えた。部屋に入って立ち尽くしたままだった僕は、手に持った荷物を黒いテーブルの上に置く。昨日の夜使ったままだった人生ゲームやトランプを置き、ベッドに横になる。じっとりと汗が出てくるようなそんな夏の日差しを浴びながら目を閉じた。足りていない睡眠時間のツケが回ってきたのか、僕は睡魔に身を任せた。




「ただいまーっ、お友達連れてきたので私の部屋で遊びますねーっ」
「お邪魔しますっ!」
「遅くにすいません、お邪魔します」
「こんちゃっす! お邪魔しまっす!」

 ――最悪な目覚め。

 聞き慣れない声が、僕の聴覚を占領する。「母親」が応答する声と「椿木」が指示を出す声が良く聞こえないくらい、大きな声。むくりと起き上がり、部屋の鍵が掛かっていることを確認した。ちゃんと掛かってる。「母親」には「椿木」が帰ってきたとき僕に構わない様にお願いしてもらった。
 ばたばたと鳴る足音。近い。近い。近い。手が震えた。目は自然と見開く。薄いシーツを一枚手繰り寄せる。ぐるりと体に巻きつけ、耳をふさいだ。ぎゃいぎゃい騒ぐ。聞き慣れない汚い男の声と、「椿木」よりも甲高くて耳が痛くなる声。

「あ、ジュースとかもってくるから私の部屋に行ってて。他の部屋入ったらだめだからね。……本当に怒るから」

 僕の聞いたことのない「椿木」の低い声は、他に「入ってきた人」も聞いたことがなかったのか小さな声で、はーいと返事が聞こえた。「椿木」は「友達」が部屋に入ったのを確認したのか、僕の部屋の扉をこんこんとノックする。
 僕はシーツに包まった状態で、カギをはずし扉をあけた。笑顔だった「椿木」が僕の姿を見て、少しだけ申し訳なさそうな顔をする。首筋や額に、冷や汗がうかんでいたからだろうか。理由は分からなかったが小さな声で「学校祭の打ち合わせだけだから、直ぐ終わると思う。みんな泊まる予定は無いから、ごめんね」と僕の耳元で言い、「椿木」は階段を下りていった。

 初めての出来事に、僕は耳が熱くなっていくのを感じる。音が鳴らないように扉を閉め、カギをかけた。扉にもたれかかるようにして床に座り込み、恥ずかしがっている自分を隠すようにシーツで体全体を包んだ。

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