複雑・ファジー小説

Re: 君を、撃ちます。 ( No.13 )

日時: 2013/03/27 22:25
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ

 小さな頃はお喋りで。口を開けば今日の出来事や、楽しかった思い出を何度も繰り返して話していた――気がする。七年前のとある日の出来事は、今はもう、社木伊吹とその「母親」の記憶ぐらいにしか留まっていない。僕を殺そうとした「誰か」は、何かで聞いたが同日に銀行強盗をして、銀行の「職員」を殺害した。
 そのまま「誰か」は逃げて、僕を見つけ誰も来ないような廃ビルに連れ込まれ首を締め上げた。きっと僕の苦しそうな表情は、「誰か」にとっては悦だったんだろう。「椿木」の声を感じながら、僕は外界の音をシャットダウンするかのように、過去の出来事を思い出していた。

 僕に居たはずの弟は、それっきり姿をけした。家に仏壇は一つも無い。「母親」一人の財力では厳しかったはずの一軒家に、神棚も仏壇も無かった。「母親」が僕の弟について何か言ったりしたことは、一度も無い。僕から話を振ることは、ゼロに等しかった。

「伊吹くん、何か気に触ること言っちゃってたら、ごめんね。それじゃ、私お風呂行ってくるね」

 そう言った「椿木」の気配が遠くにいったのを感じる。シーツから頭を出して、キッチンのほうを向くと「母親」が晩御飯を作っていた。香ばしいごま油の匂いが鼻腔をくすぐる。メモ帳とペンを取るためにソファをおりた。
 メモ帳と普段使っている黒ボールペンを手にとって、キッチンへ向かう。金網の上に揚げた鳥のから揚げがおかれていた。香ばしいごま油の香りは気のせいだったようで、IHヒータの上には油が沢山入ったダッチオーブンが一つだけだった。

「伊吹くんのお母さん、お風呂借りますね」

 顔を覗かせた「椿木」に「母親」は、遠慮なく使ってね、と笑顔を向けた。

「さて、××は何か言いたいことあるの? ご飯の準備中にキッチンくるなんて、珍しいじゃない」

 たれに浸かった鶏肉をダッチオーブンの油の中に入れ、「母親」が聞いてくる。僕はボールペンのキャップをはずし紙に“椿木はどうして、僕達の家に来たの?”と書いた。相変わらず、子どもみたいな汚い字で。
 それを見せて、僕は「母親」の表情を窺う。本当に困ったときは、いつも感情の伴っていない笑顔を見せるから。じっと「母親」を見つめて、回答を待つ。「母親」は先ほど油の中にいれた、程よく揚がったからあげを金網の上に出し口を開いた。

「椿木ちゃんね、お母さんとお父さんに虐待されてるんだって。学校が午前中だけのときは、家に帰りたくないらしくて、よく家の庭にくるのよ」

「それで、ついに耐え切れなくなったらしくてね。この前××が椿木ちゃんと会った時に、招き入れちゃった」

 ごめんねぇと、ゆるく言った「母親」に、メモ帳で書いた、ありがとうを見せリビングへ戻る。メモ帳とボールペンをもとの場所に戻して、部屋へ戻った。どうしようもなく、罪悪感に襲われたまま僕は部屋に入りラグの上に横たわる。

 ――ごめんね、勝手に聞いちゃって。

 そんな申し訳なさが慣れなくて、僕はクッションを抱いたまま横になって動かなかった。

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