複雑・ファジー小説

Re: 君を、撃ちます。 ( No.14 )

日時: 2013/03/29 15:55
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ

 謝ってばっかりだ。声に出せないまま、出そうともしないまま心の中で謝り続ける。声が出せないのが苦になったのは、初めてだ。「母親」となら筆談でやっていける、耳は聞こえるから話の内容も理解できる。けれど僕の声が出ないことを良く分かっていないのかな、「椿木」は。
 書いて教える手もあるけれど、あからさま過ぎて。“僕は声が出ないんです。だから代わりに書いたので見てください。”なんて、馬鹿げてる。七年前の事件すら無ければ、きっと元気に遊んでいられたんだろうな。今でも、十分元気に遊べるのか。自分が動こうとしなかっただけで。

 クッションを離し、無音の部屋を見渡す。窓から差し込んでいる満月の光がベッドを照らしていた。都会独特の喧騒も無い場所だから、夜になれば月や星が綺麗に見える。田舎程ではないけれど、それなりに空気も澄んで星も綺麗だ。

「いーぶきくん、入ってもいーい?」

 ドア越しに聞こえた声に反応して、僕は扉の正面まで歩いていく。一度首に触れ、包帯があることを確認した。「母親」にも、「椿木」にも見せたくない傷は、隠さないといけない。包帯から手を離し、ノブに手を掛け扉をあけた。正面にはまだ少し髪が濡れている「椿木」が笑っている。
 僕も少し笑顔を作り、「椿木」を部屋に招き入れる。部屋の電気をつけると、電球の眩しさに思わず目を細めた。「椿木」がラグに立ったままだったから、手で“座ってどうぞ”と示す。申し訳なさそうに微笑んで、その場に「椿木」は座った。

「男の子の部屋って初めてはいるけど、物全然ないんだねー」

 きょろきょろと僕の部屋を見る「椿木」に、なんと言葉を返せばいいのか分からなかった。取り敢えずベッドに付属している引き出しの中から新品のメモ帳と同じく新品の黒ボールペンを取り出す。“そうでもないよ”と書き、「椿木」に見せた。
 
「えー、そうかなー。ってこんな事話に来たんじゃなくって。……うるさかった、かな? 夕方にみんな連れてきたのに、帰るときは真っ暗になっちゃってさ」

 僕は座ったまま黒いクッションを手繰り寄せて、胡坐をしてる足の間に置いた。利き手である左手にはペンをもったまま、「椿木」の話を聞く。

「それで、学校祭の進行役とか確認してプチリハーサルもやってみたんだ。本番、明後日だから。それでね、明後日の学校祭に伊吹くんに来てほしくって」

 どうかな、と僕を見る「椿木」。返答に困ったけれど、“いいよ。何で?”とメモに書いて見せた。少し考えた表情を見せたあと、「椿木」が口を開く。

「んー、楽しんで欲しいからかな。隣町の中学校の子とかも、沢山来て楽しいんだよ。私がちゃんと責任持って案内するし」

 得意気に胸を張ってみせた「椿木」に、思わず口角が上がった。少し不服そうな「椿木」の顔が、無性に可愛く感じる。可愛いな、と言いたかったけど言えなかったからただ声を出さないまま笑顔を向けた。頬をふくらまし、体育座りをした「椿木」の頭を「母親」にしてもらったようにぽんぽんとする。
 僕をじっと見てくる「椿木」の視線を気にしないで、右手でぽんぽんとし続けた。まだ少し湿っている髪の毛は新鮮だと感じる。可愛いな、「椿木」って。

「結局どうする、伊吹くん。学校祭くる?」

 僕に撫でられたまま聞く「椿木」に、さっとメモ帳に書いた文字を見せる。嬉しそうな顔をして、「椿木」が僕を見てきた。満面の笑みで「ありがとっ!」と言う。僕はその笑顔にときめいたのか、赤くなった顔を見せないように、顔を背けた。

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