複雑・ファジー小説

Re: 君を、撃ちます。 ( No.25 )

日時: 2013/04/09 06:17
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ
参照: スクロールが短くても、書いているのは1500字オーバーです。

「××くん、少しお話聞きたいんだけどいいかな?」

 引き戸をあけ入ってきた「男」に、僕は訝しげな視線を向ける。顔中に貼り付けた愛想笑いと、理解しにくい不思議なオーラ。仲良くなることは不可能だと、直感的に僕は判断した。気味悪い笑顔のまま、「男」は僕の近くへと歩み寄る。
 僕とは違い不思議そうに「椿木」は「男」を見ていた。信用してはいないだろうが、僕よりは「男」に興味があるように見える。初対面の、それも見ず知らずの「男」のせいで僕の緊張感は跳ね上がっていた。

「嗚呼、そんなに構えなくていいよ。僕は精神科医の、谷俣 実(ヤマタ ミノル)です。少しだけお話聞きたいんだけど、いいかい?」

 これ、と差し出された名刺には携帯の番号と、氏名と勤務先が書かれていた。僕は片手でその名刺を受け取りチラッと目を通す。それを「椿木」に見せ、僕は「谷俣さん」をじっと見る。「谷俣さん」も僕のことを、同じようにじっと見る。
 僕が信用していないことを察しているのかも分からないが、「谷俣さん」は目的の僕ではなく「椿木」の隣へ行き、「椿木」と談笑を始めた。別に「椿木」が誰と話していてもどうでもよかったが、「谷俣さん」と話している時だけは無性に嫌な感じがする。

「珍しい苗字だね。時雨さんっていうんだ。今は中学生? 青春満喫中でしょ? おじさん、中学生の頃は結構モテたんだよー。あ、おじさんって言ってもまだ二十代半ばなんだけど」

 一人マシンガントークで話す「谷俣さん」は、「椿木」の苦笑いに気づいていない様子だった。僕は二人を無視し、無言でナースコールを押す。数分経てば、誰かしら来るのは何となく分かった。医療ドラマで培った、知識ではあったけれど。

「そうだそうだ。××くんって、声が出せないんでしょ? メモ帳とペン持ってきたから、これで返事してもらっていいかな」

 自己中心的な「谷俣さん」に僕は一つも文句を言わずに、メモ帳とペンを受け取る。無遠慮に僕が触れて欲しくない部分に触れてくる「谷俣さん」は、はっきり言って苦手なタイプだ。心の中で、よく精神科医になれたなと呆れ、口からは嘆息がもれる。
 丁度「谷俣さん」が僕への質問をしようとしたところで、「母親」が室内に入ってきた。ナースコールと「母親」を交互に見ると、“故障してるみたいで、明日にならないと換えられないだって”と苦笑交じりに言われ、納得する。

「あら、どちら様ですか?」

 「谷俣さん」に気づいたのか、「母親」が不思議そうな表情をした。それまで僕に話しかける振りをして、僕の首の痕をじっくりと見ていた「谷俣さん」は慌てながら「母親」を見る。けれど、得意技であるはずの愛想笑いが顔には張り付いていなかった。

「私、精神科医を遣らせていただいている谷俣実といいます。自殺未遂というお話を聞きまして、興味があったので少しお邪魔していました。それでは、失礼したします」

 足早に出て行った「谷俣さん」については、「椿木」が事細かに説明した。遠慮なく僕の声について触れたことを特に沢山話しているのを、僕は静かに聴いていた。「椿木」の話は、何も盛らずにそのままを話していたから、少し聞いてて心地が良い。
 「母親」の相槌がわざとくさく感じ、笑いそうになったけれど只管こらえた。僕は「椿木」の話が一段落した所で、「母親」に「谷俣さん」からもらった名刺を渡す。勤務先は、今僕達がいる病院の名義になっている。

「ちょっと、お母さん聞いてくるわね。椿木ちゃんごめんね、学校祭の準備だったんでしょう?」
「あっ、いえ、大丈夫ですよっ! みんなが動いてくれているので、心配しないで下さい」

 ニッコリと笑う「椿木」に、「母親」も微笑み返し病室から出て行った。二人きりになった瞬間、室内に漂っていた空気が先ほどより重みを増し僕を押し潰そうとする。その感覚はきっと僕だけではなくて、「椿木」も感じているはずだった。


 原因は、僕にあるから当たり前といえば当たり前でもある。

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