複雑・ファジー小説

Re: 君を、撃ちます。 ( No.48 )

日時: 2013/12/31 21:35
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ


 私の小さな声は、いつものリビングの明かりに消されてしまった。半開きのドアから、リビングの中を覗き込んだ瞬間に息が止まる。目の前にうつる状況が信じられなくて、静かに息を潜めた。
 空中から浮いた足が、二本。少し黒ずんだ、液体。その中にお母さんがうつ伏せで倒れこんでいた。それを見つめる私の息はだんだんと早くなり、ここにいたらいけないと無意識に感じる。

 意識的に、警察に電話をしなくちゃいけないとも感じ、相反する二つの感覚から私は動けなくなった。今、この状況で私のするべきことは何なのか。最優先事項が分からなくなってしまうほどに、混乱していた。
 かたかたと震える体に鞭をうち、リビングに足を踏み入れる。一歩踏み出すと、もう、リビングには私の知っている雰囲気は存在していなかった。じっとりとした、気持ちの悪い空気。

 吐き気を催しそうな感覚に囚われる。気持ち悪いことこの上ないけれど、かたかたと震える手で受話器を取る。気持ちを落ち着けるために、ゆっくりと『1』『1』『0』の番号を押した。無機質に鳴り響くコール音。
 もしかしたら、もしかしたら。そんな考えが私の頭の中を支配していく。一人ぼっちになってしまった私は、本当の意味で一人ぼっちになってしまったんじゃないか。そう思うと、涙が零れてきた。目元の涙を手首で拭っていると、コール音ではなく人の声が聞こえてきた。

 ダムが壊れた音がする。それと同時に、私の口からは断片的な言葉が沢山溢れ出てきた。何を伝えたかは分からないけれど、受け答えをしてくれる人の『今から向かいます』の声はしっかりと記憶に残った。
 私を一人にしないでくれる人がいる、と安心して受話器を置く。同じ空間にいる、お父さんとお母さんには視線を向けないようにしてその場に座った。

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