複雑・ファジー小説

Re: 君を、撃ちます。 ( No.49 )

日時: 2014/01/14 22:35
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ



 かちん、かちん。時計の秒針だけが、私の意識の中に入り込んでくる。どうしてなんだろうとか、やっぱりなあとか。膝の間に顔を挟めて、私は考えた。なんでこうなっちゃったんだろう。そう考えると、ぽろぽろと涙が落ちた。私は泣きたくなんて無いのに、勝手に涙があふれてくる。
 お父さんが死んじゃっても、お母さんが死んじゃっても、どうでもいいはずなのに、涙が止まらない。急に、自分がちっぽけな存在に思えてしまって、止まらない。

「なんで」

 呟いた言葉が、か細く震えた。心細くて、仕方が無い。早く警察に来て欲しい。遠くでサイレンの音が聞こえるから、きっともうすぐなんだろうけど、来るまでの時間がとても長く感じる。もしかしたら、私以外にも何か通報した人がいるのかもしれない。
 そうして数十分――実際には数分くらいしか経ってないと思う――静かに待っていた。すると急にインターフォンがなる。私は急いで立ち上がり、玄関へ向かった。上手く足に力が入らなかったけれど、できる限り早く。

 ドアスコープから外を見れば、少し強面の男の人が何人か立っていた。重たい鉄の扉を開き、小さく会釈した。









 そこからは、何を話したのかよく覚えていない。色々なことが終わって疲弊していた私を待っていた、マスコミが持ってきたカメラのフラッシュ。騒がしく、忙しなく、質問が投げかけられる。
 目の下にクマが出来ている私を気にしない、自己中心的で、利己主義の人々。両親が殺された次の日から、学校には通えなくなった。外に出ることも、できなくなった。何が怖い、という訳ではなくて、ただ人と関わることが恐怖になっている。

 助けて、とも叫べない私を、誰も助けようとはしない。何ヶ月も、私は学校を休んだ。只管に人とかかわることだけを避ける。簡単なようで、とても辛い行為。家に帰っては涙を流し、外に出るときには顔が分からないようにマスクをつけた。
 大きな事件で生まれた、小さな綻びが修復するまで。静かに、静かに暮らした。私が学校に登校出来たのは、事件から三ヵ月後。授業もびっくりするくらい進んでいて、毎日夜遅くまでノートを写して、独学で勉強した。

 まだ制服は夏仕様の、半そで。初めて学校に行った日は、皆可哀想な人を見る目で私を見ていた。それでも別にいいと思っていたけれど、やっぱり辛いものは辛い。

「つーばきっ。おはよう!」

 聞きなれた声に、私は一瞬驚いた。毎日私を心配してくれていた、大親友の声。振り向けば、いつもの顔ぶれがそろっていた。学級書記の春、元気いっぱいの真浩、誰にでも優しい美優。

「椿、元気ないのはしょうがねぇけど、俺らといる時くらいは楽しんでくれよ。お前を助けてやるって、俺ら三人で決めたんだからさ」

 少し申し訳なさそうに微笑む真浩の言葉に、思わず目の端から涙が溢れ出した。誰も助けようとしてくれなかった私を、無条件で助けてくれる。私に足りていなかった優しさを、三人はいつでもくれた。
 
「ちょっと椿、泣かないでよー」

 クスクス笑う美優に抱きしめられながら、涙を流す。春と真浩も、少し遠慮がちに頭を撫でてくれた。その優しさがまたじんわりと広がってきて、辛くなる。戻ってきていいよって言ってくれているみたいで、嬉しいけど辛い。
 これから始まるSHRなんかに出られないくらい、涙が零れて止まらなかった。美優に連れられて行った保健室は、ほどよい消毒液のにおいがした。先生はいなかったけど、美優には教室に戻ってもらった。情けない顔を、これ以上見せたくなかったから。

 鼻水を少しすすりながら、部屋の真ん中にある丸椅子に座る。自分がちっぽけで惨めだと、感じる。みんなの言葉は上辺だけなのかもしれない、とか。だんだんと醜い感情で、埋めつくされていっているみたいだ。

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