複雑・ファジー小説

Re: 君を、撃ちます。 ( No.52 )

日時: 2014/01/29 21:20
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ



 また同じように手を繋いで、通学路を進む。ひんやりとした風だけど、まだ厚着をするほどじゃない。真浩から伝わる手の温もりが、私の体温全体を暖かく保っていてくれている。
 道を通り過ぎる、同じマンションの人達には嫌そうな目で見られた。同じマンションで殺人事件となれば、仕方が無いことかもしれないけれど、まだ少し心に刺さる。最初は同情とか、非難する声と視線が多かった。

「椿、あんなん気にすんなよ。絶対守ってやっから」

 そう言った真浩が、私の手をぎゅっと握る。それがとても嬉しくて、私も強く真浩の手を握った。何だかお兄ちゃんと一緒に歩いているようで、兄を持つ子の気持ちが分かった気がする。
 そうして二十分ほど、ゆっくり歩いた。美優と春と分かれた十字路を、向かって右に曲がる。少し進んだところにある、角に建つ大きな家が春の家だった。春の両親は、優しくて、どちらも端正な顔立ちをしている。

 真浩が手を離し、インターフォンを押す。マンションの音声とは違う、深みのある音が外と内に響いたようだった。

『はい、神野谷』

 機械越しの春の声に、真浩が「椿と、真浩」と応える。すると、少し神経質そうだった春の声が柔らかくなった。

「いらっしゃい、もう美優来てるよ」

 重たそうに扉を開けて出てきた春に、真浩は笑顔で歩んで行った。私も真浩に続いて、春の家に吸い込まれていく。白とダークブラウンのコントラストが美しい、欧風な家のつくり。優しいオレンジの香りがした。
 玄関からリビングまでの長い廊下を、春について歩く。長い廊下も暖かくて、普通の家庭とは違った。春がリビングへの扉を開けると、併設されたキッチンからはいい香りがする。

「大皿って考えたら面倒だったから、パスタにしたんだ。真浩はナポリタンで、椿はカルボナーラだったよね?」

 確認するように春は私達を振り返る。春の記憶力は完璧で、私と真浩は頷いた。小さい頃から、料理人のお父さんと作っていた料理は、驚くくらい美味しい。そのことは、美優と私に、真浩しか知らないこと。
 リビングにある白い革張りのソファに、荷物を置いてキッチンのほうへ向かう。皿に盛られたパスタを、リビングのテーブルまで持っていく。美優はサラダを作ることに集中していて、私達が来たことを気付いていないみたいだ。

「美優、二人とも来たよ」

 美優の肩に、ぽんと春が手を置く。美優は驚いて「ひあぁあ!?」と声を上げた。少しだけ訪れた静寂を壊すように、美優以外の笑い声が響く。春は口元に手を当てて、笑いをこらえるようにしながら「大丈夫?」と言っていた。
 真浩は笑いを隠すことなんかなく、大きく口を開けて、目元には涙も見せている。私も、そんな二人を見てると面白くなってきて、思わず声を出して笑った。
 
「もおおお!! 春のばかっ! 真浩も、椿も笑うなあっ!」

 恥ずかしさで目に涙を滲ませたまま、美優が怒る。それがとても可愛らしくて、私は小さく微笑んだ。

「いやっ、ごめん。面白くてさ、そこまで驚くと思わなくて」

 ふふっと笑う春と怒った美優の掛け合いをBGMに、私と真浩で飲み物などをテーブルに運ぶ。一通り運び終わって、座って待てば、少しして美優がサラダを持ってきた。まだ少し怒っているみたいで、頬が膨らんだまま。

「美優、そんな顔してっと幸せにげんぞー?」
「誰がさせたの! 真浩もでしょーがっ!」
「ほら、折角作ったのに冷めるから食べようよ」
「そうだね。真浩なんかほっといて良いから、横で一緒に食べよ?」
「椿がそういうなら……食べる」
「一応解決っつーことで、いたあっきやーす!」
「いただきまーす」
「いただきます」
「どうぞ、召し上がれー」

 用意されたフォークとスプーンを使い、パスタを食べる。どこかの料理店に出ても可笑しくないくらい、美味しい。

「やっぱうめーな、春の手料理。俺んとこ、嫁に来ねぇ?」

 大好物のナポリタンを食べながら、真浩が春を口説く。春は苦笑交じりにそれを受け流し、お茶を飲む。

「春がお嫁さんに来るなら、いいね」
「毎日ご飯作ってもらえるってさいこーだよねー」

 くすくす笑いながらご飯を食べる。

「二人とも……。僕は作ってもらったほうが嬉しいんだけどな」
「春に勝てる料理つくれる女、椿以外いなくね?」

 そんな風にくだらない事を笑い合いながらご飯を食べた。これから、長い長い夜が始まる。


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