複雑・ファジー小説

Re: 君を、撃ちます。 【6/11 up】 ( No.63 )

日時: 2014/06/11 21:44
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ



 それから春のお母さん達と一緒に朝御飯を食べて、お昼頃まで春の家で皆で過ごした。お昼になったら春のお母さんは仕事に戻って、また半月は帰れないと申し訳無さそうに春に伝えていた。少し寂しそうな表情を見せた春だったけど、最後は笑顔で「いってらっしゃい」と伝えていた。

「んー、どーする? なんもすることねーよな」

 少しだけ静かになった室内で真浩が言う。皆欠伸混じりに、賛同した。

「そしたら、椿と真浩でお菓子買ってきてもらってもいいかな? 出来れば、晩御飯の食材とかも含めて。お金はお母さんが置いていってくれてるからさ」

 眠たそうな美優をチラと横目で見ながら、春は少し申し訳無さそうに言う。断る理由は一つも無く、私と真浩はしばし目を合わせた後に「分かった」とだけ告げた。春は安心したように笑顔を見せて、一言、「ありがとう」とだけ言って、真浩にお金を渡す。
 今日の晩御飯は、皆でわいわい作りたいとも言った。

「それじゃあ、買ってくるね。春、美優のことお願い」

 柔らかい笑顔を私は浮かべて、いってきます、と二人に手を振る。美優はもう半分ほど眠っているようで、呂律の回らないまま「いってらっしゃい」と言った。真浩も私も、それに微笑んで部屋を後にする。
 長い廊下をのんびり歩いて、靴を履く。大きさの違う真浩の靴の横にあった私の靴は、子供用といっても差し支えないくらいの大きさだ。

「靴ちっせーな」

 けらけら笑う真浩。

「真浩が大きいだけだよ」

 そんな風に笑って話す。心のどこかで、久しぶりだなあと感じた。誰かとふざけてみたりとか、誰かと買い物に行ったりとか。お父さんとお母さんが生きていたときは、ずっと一人で買い物をしていた。煙草、お酒、コンビニのお弁当。
 解放されたら解放されたで、少し寂しい気持ちもする。大嫌いな人たちだったのに、いなくなって初めて、やっぱり私の親だったんだと感じていた。

「椿ぼーっとしてんなよ、道端で転ぶぞ」

 ははっと笑いながら、真浩が重たいドアをあける。ドアの隙間から見える空は、ひたすらに青く、雲は一つもない。清々しいほどの青空を感じたのは、久しぶりな気もする。

「転ばないよ、そこまでぼーっとしてないからね」
「いや、お前結構ぼーっとしてんぞ? 自覚ねぇとかすげぇな」

 心底驚いたような表情を見せる真浩に、反論する気もおきず、思わず笑ってしまった。真浩の人気が高い理由が、よく分かる。多分、顔がいいからというのが一番の理由だろうけれど。リアクションが大きい分、話が弾んでいる気がする。
 他愛も無い話をして、お互いに笑いあいながらスーパーへの道をのんびりと歩いていく。春の家からスーパーまでは意外に距離があり、数分では付かない所にある。スーパーに近づくにつれて、エコバックを持つ人の数が増えてきた。

 遠くには黄色い看板が見え始め、スーパーの入り口からたくさんの人が出入りしていた。正午過ぎのスーパーは、お年寄りや主婦の人が多くいる。色とりどりの服を着た、様々な年代の人たち。幼児の姿も、時折見られた。

「あ」

 ぱっと目に止まった、一人の少年。少し前に見たことがある、その病的に青白い肌に、私の瞳は釘付けになった。力なく歩く、弱弱しい姿。気付いたら私は、駆け出していた。後ろに聞こえた真浩の声も聞き取れないくらい、夢中になって。

「伊吹、くんっ……!」

 息切れ混じりにやってきた私を見て、伊吹くんは少し驚いた表情を見せた。やっぱり合ってた。あの時保健室で会った、あの伊吹くん。その細い肩を支える女の人にも、見覚えがある。

「もしかして、椿ちゃんかしら……?」
「あっ、えっと、時雨、椿です」

 この人に会った時はいつもしていた癖が、思わず出た。涙の出ていない目元を、手首で擦り、頬の叩かれた部分を優しく撫でる癖。その様子を生気の宿っていないように見える目で、伊吹くんは私を見ていた。蔑みも哀れみも、何も含まれて居ない視線。
 伊吹くんは、女性の服の裾を二三回軽く摘んで、私のことを指差した。まるで、こいつは誰だ、と聞いているように。何を言っているのか分かったのか、女性は小さく頷いて私の紹介をする。私に起こった大きな出来事に関しては、一切触れずに。

「椿っ、急に走り出したからなんかあったのかと思ったじゃねぇか! ――誰、この人」

 私を追ってきた真浩は、息切れ一つしていなかった。そして、伊吹くんに対してあからさま過ぎるほどの嫌悪感を表に出して、私に問う。

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