複雑・ファジー小説

Re: 君を、撃ちます。 【6/11 up】 ( No.64 )

日時: 2014/06/30 21:39
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ


「あ、えっと」
 
 私が感じる気まずさを伊吹くんは感じていない様子で、光を全て吸い込んでしまうような瞳は真浩を一瞥し、コンクリートへと視線を移す。それが少し気に食わなかったらしく、真浩は私をじっと見つめてきた。「早く買い物済まそうぜ」とでも言いたげに。

「椿ちゃん、最近は、もう大丈夫?」

 伊吹くんのお母さんが、重たそうな買い物袋を持って聞く。私は何時の間にか得意になった作り笑いをしながら「はい」と答える。両親が殺されてから、誰にも心配をかけないように作っていた偽りの笑顔。それでも、伊吹くんのお母さんは嬉しそうに微笑んだ。
 何も勘繰られていないと安堵するのと同時に、やっぱり誰も気付かないんだな、と少し切なさを感じる。そんな私を刺すような視線を感じ、その方を見ると、伊吹くんがじっと私のことを見つめていた。

「そうだ、椿ちゃん! おばさん、これから外さない用事があって、××も連れて行こうと思ってたんだけど……、もし良かったらでいいんだけどね、一緒に遊んであげてくれないかしら」

 少し困惑した私に気付き、伊吹くんのお母さんは言葉を付け足す。真浩の表情が強張ったのを、私は感じた。

「××、体が丈夫なわけじゃないから、学校も中々行けなくてお友達もいないのよ。だから、少し友達と遊ぶことの楽しさを感じてほしいなって、駄目な母親ながら思うの。でも、無理なら全然気にしないでちょうだい」
「むしろ、えっと、一緒に遊んだりとか、したいです」

 自分でも思ってもなかったことが口から飛び出し、いって直ぐに驚いて自分の口を手でふさいだ。背中に感じる真浩の視線が、感じたことも無いくらい鋭く痛い。反して伊吹くんは、生気のなさは変わらないけれど、どこか嬉しそうに見えた。
 それだけで、真浩の視線が気にならなくなるくらいに、嬉しさを感じる。伊吹くんが楽しければ、それで十分。そう思って、思わず言ってしまったことを心底から肯定した。

「夜になったら、伊吹くんのおうちまで一緒に行きますっ」

 そう意気込んだ私に、伊吹くんのお母さんは少し驚いた顔をしてから微笑む。やっぱり人は微笑んでいるときが一番綺麗な気がする。美優も、たまに微笑んだときの綺麗さはギャップがあってとても心にきた。

「それじゃ、お言葉に甘えちゃうわね。有り難う、椿ちゃん」

 嬉しそうにそう言ってから、伊吹くんの頭を撫でて、伊吹くんのお母さんは車に乗って行ってしまった。スーパーの前で立つ私達に、沈黙が訪れる。変わらずに刺さる真浩の視線を訝しげに見ているような伊吹くんの姿が、私の視界いっぱいいっぱいに映った。
 細い足でゆっくりと歩く伊吹くんを、私は慌てて支える。手と肩に手を添えて、伊吹くんの歩幅にあわせゆっくりと歩いた。スーパーに向かって歩く伊吹くんは、もしかしたら私と真浩がスーパーに用があると分かったのかもしれない。

 真浩は私達の後ろをついて歩く。店内に入ってからは買い物カゴとカートを持ち、必要そうな食材を先に選びに行ってくれた。私は伊吹くんと歩きながら、お菓子コーナーに向かう。どのお菓子にするか、三人にどうやって伊吹くんを紹介するかを、ずっと考えていた。

「伊吹くん。真浩、怖い?」

 大袋のお菓子が陳列する棚の前で、私は伊吹くんを見ながら問う。伊吹くんが、不思議そうに私の目を覗き込んだ。そして、軽く視線を外し伊吹くんは首を横に振る。私の顔を、じっと見つめる。どうしてそんなことを聞くのかと、視線だけで問われた気がした。
 その視線から逃れるように、今度は私が目を背ける。聞かなければ良かったような気も、少しした。

「真浩、伊吹くんのことなんかよく思ってなかったような気がしたから、ちょっとだけ気になったんだ。あっ、なんか馴れ馴れしくてごめんね!」

 まともに話をするのは今日が初めてだというのに、今迄ずっと友達でしたといわんばかりに話していた自分に恥ずかしさを感じる。

「ごめんね、今更気付いたのって感じなんだけど……」

 申し訳なくなりながら、伊吹くんのことを見る。伊吹くんはじっと私の目を見ながら、表情を変えずに私の頭に手を置いた。そして優しく、ぽんぽんと頭の上を触る。その感覚が、いつか真浩にしてもらったのと同じような暖かさがあって、許してもらえたような気がした。

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