複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.10 )

日時: 2018/04/04 16:33
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: https://www.youtube.com/watch?v=WHcFDJCjY3s

 時雨たちが休暇に入ってから3日。与えられた休暇は1週間。ぞのおよそ半分を消化したのはいいものの、出撃もないとなると特にやることがなさ過ぎて、ただひたすらに部屋でぼうっとしているだけで1日が終わってしまう、というサイクルで時雨は3日を自堕落に過ごしていた。外に出て鍛錬でもすればいいのだろうが、なぜかやる気が起きない。このままではいけないと思いつつも、すべてのことに手がつかない。時雨は己に与えられた休暇を持て余していた。

「やっほ」

 そんなときである。時雨の部屋の扉を開き、無遠慮にも入ってくるのは、彼の双子の姉である超子。ベッドの上に座り、ただぼうっとしている時雨をチラリと見やると、ふぅと息を吐く。

「あんたさあ、少しはぱーっと遊ぼうって気にはなれんのかね」
「…姉上、いらしてたのですか」
「え、反応遅…ってか、もーそんなんじゃだめでしょ!せっかく休暇なのにサー」
「やることがないんですよ…」
「そ・う・じゃ・な・く・て!」

がしっと超子は時雨の肩をつかむ。思いっきり強く。ぎりぎりと肩に超子の指が食い込み、時雨はあまりの痛さにぱしぱしと超子の腕をたたく。しかし超子はそんなことをお構いなしに話を続ける。

「リフレッシュしに、家に戻ってみたら?」


第2話
【Oshama Scramble!】


「え」
「だーかーら!そんなに疲れてるんなら、家に戻ってみたらッて!静かな場所だし、ゆっくりできるでしょ?」
「そ、そんな急に」
「もう連絡は入れてあるよ?」
「用意がいいですねずいぶんと」

じとりとした声で超子に言うも、超子は「ほめていいのよ!」と誇らしげに言うばかりで、時雨は何なんだとため息をつく。

「あとね、泥くんにもいってあるから」
「はっ!?」

超子から思いがけない一言が飛び出したせいか、時雨は思いっきりベッドから立ち上がる。どうどうと時雨を落ち着かせると、超子はまた口を開く。

「泥くんと時雨で、時雨の家でゆっくり休んできなよ。あすこはただでさえ山の中だから、猶更ゆっくりするならいい場所でしょ。おじさんたちには連絡入れてあるから」
「ずいぶんと…急展開ですね…」
「あんた前から頑張りすぎなのよ。この前だって急な出撃に自ら出てっちゃうんだから…まともな休みなんてあってもないようなものじゃないリーダーが休暇を1週間もくれたのが幸いだったけど、3日もそうしてんなら強硬手段に出るしかないじゃない」
「でもそれじゃあほかのみんなが」
「休めないって?まーったくあんたは!確かにあんたも大事な戦力よ。フォルテ抜きにしても、『陰陽術』が使えるのはかなり強い。よくわからないけど。フォルテッシモの操縦もフォルテッシモ自身も、ほかを寄せ付けない。いくつもの作戦のかなめであり続けたわ。で・も。ちゃんと休養もとらないで、ただ部屋でぼけっとしてるまんまで休暇を終わらせようって?ほかにやること見つかんないから?バッカねー、そんなんで休暇あがってもあんたまともに動けないわよ」
「それはどういう意味ですか姉上、僕だってちゃんと動けますよ。それだったらこの休暇も捨てて」
「ぼけっとしてたあんたがムキになるんじゃないッ」
「ァだっ」

 超子からつらつらと飛び出てくる言葉に少々腹に据えかねた時雨は、ぐっと顔を超子に近づけて反論するも、後頭部に回った彼女の手刀がゴスッと直撃する。いいところに当たったのか、時雨は思わずその部分を手でおさえてその場にうずくまる。そのまま放っておくがごとく、超子は時雨の目の前に荷物をつめたのであろうキャリーをずずいと差し出す。

「はいこれ荷物ね。転送ルームで泥くんと一緒にいってね」
「な…いつの間に」
「うん、昨日やっといた!」
「姉上ぇぇ…!」

 「やってやったぜ!」と誇らしげに、きらきらと輝く満面の笑みでそう言われてしまうと、もう時雨はただ恨めし気にうなるしかなく、しぶしぶそのキャリーを受け取る。早く行った行ったとせかされると、もう行くしかなく。時雨はとぼとぼ部屋を出て転送ルームへと向かっていった。それを笑顔で見送った超子は、時雨に向けていた笑顔を崩し、至極真面目な顔へと変わる。

「お姉ちゃんは心配だわ。あのままじゃきっと、いいえ、絶対に精神も壊れる…だからこそ。だからこそなのよ。ごめんね時雨。あんたはこうでもしないと、絶対に体も心も壊しかねないから。わかるのよ。あたしは───あんたのお姉ちゃんだもの」

いつもより強めの口調で、トーンでそうつぶやくと、彼女もまた主の消えた自室から去っていった。





「というわけでっ」

ぱんっと小気味いい音が鳴る。その場にいるのは超子と歌子、そして松永───松永(まつなが) 久舵(ひさかし)───、そして

「私たちもいるわ」
「エレちゃんたちもありがとねっ!」

 まるで精巧なドールを思わせる容姿をした少女───エレクシア=エレーヌ───を含め、4人はリーダー、狂示の部屋へと集まっていた。相変わらず未成年が目の前にいるのにも関わらず、リーダーとあろうその人物は、新たな煙草を取り出しそれにジッポで火をつけて、1つ吸う。すこし部屋は煙たくなるが、それを気にせず超子は話を続ける。

「時雨を強制的に帰省させて休ませる作戦大成功!だよ!」
「FUUUU!イカしてんぜ超子ォッ!姉特権ってやつだNA!」
「(それ作戦とは言えないんじゃ)」
「ハハッ、元気だなーお前ら。んまあ時雨を帰省させたのはよくやった。休暇やったとしてもどうせ部屋でぼけーっとしてるだけだろうと思ってたんでな。玖音は休みなのをいいことにサバゲ―やりにいったっつーのに」
「あの子はいつも無茶をするもの。エレーヌもそういっていたわ」
「とりあえず無理やり休ませた時雨の話は終わりにしといて。リーダー、何かない?」

 長くなりそうだと踏んだのか、超子はいったん話を切って狂示に別の話題を振る。彼はそのために来たんだろうがとせせら笑い、煙草の火を落とす。行儀悪く部屋に置かれた専用の机に腰掛け、足を組むとふむ、と頭の中の棚を引っ掻き回す。そうすること数分、なにかを見つけたようでああと声を出す。

「最近なんか栃木の日光で連中の研究施設を見っけたって話があったっけな。普段は見えねえように幻術かなんかで隠してるらしいが」
「どんな施設?」
「おう、その辺は調べといたから教えてやろう。どうせそこ破壊しろって発令出すつもりだったし。ちょうどいいやお前らに任せるわ」

 そういうとニヤリと笑いながら狂示はまだ残っていた煙草を灰皿に押し付け、つぶす。そしてゆっくりと話し始めた。

「栃木県日光市。そのあるポイントで連中の研究施設が発見された。発見日は今日から5日ほど前だ」

仮にそのポイントを『A』とする。そのポイントAで発見された研究施設は、普段は幻術のフォルテか何かしらを使って見えないように施しているらしい。その施設ではフォルトゥナの子供を連れ去って研究の実験台にするのはもちろんのこと、そのフォルトゥナの子供を慰み者にしたり、洗脳や薬剤を施し『ペット』として裏社会に販売したり、さらには人身売買オークションにかけたりしているとのことだ。極めつけは子供を使って『そういうこと』をさせる商売までも手を伸ばしているらしい。すでに被害にあっている子供は数えたらきりがない。中には『ペット』として買われたり、オークションで競り落とされていって消息が不明な子供もいる。こんなことを、今現在国家権力を握ってこの国を支配している組織がやっていることなど、人々は到底思えないだろう。否、思わない。

「そんなもんをほっとけるかっつったら、できるわけねえだろ。というか普通そうだ」
「やっぱり大人は嫌いだわ…私も、エレーヌも。丸ごと潰さなきゃね」

そう『彼女(エレクシア)』がそういうと、途端に右の金色の瞳だけが眼振を起こした。

「ええそうねエレクシア。わたしもよ。沸々と沸き上がっているの…とてもとても『痛い』ものが」
「お、エレーヌじゃねえか。どうだいやってみるか?」
「勿論よ。行きましょうエレクシア」

そして出てきた彼女、『エレーヌ』は狂示をひとつ、嫌悪感たっぷりに見上げると、そのまま部屋から出ようとする。それを超子はがしりと腕をつかんで止める。まだ話は終わっていない、というように。彼女(エレーヌ)は顔こそは変えないものの、足取りはどこかいやそうに戻ってくる。狂示はのんきにも、「ずいぶん嫌われてんなァ」とケラケラ笑う。

「あなたも大人だもの」
「ひっでえな。俺は今でこそ22だが、作った当時は未成年だぜ?」
「今は今よ」
「あーへいへい耳が痛いねェ」
「オイオォイ、リーダーはそんなに睨むもんじゃネェYO、フレンドルィイにいこうZE!」
「静かにしてくださる?」
「オレッチが静かでいられると思うかYO?FUU」
「そうね。あなたはそういう人だったわね…」
「で。話を戻すぞ」

 このままでは本筋が流れてしまうと思ったのか、狂示は机から降りて待ったのジェスチャーをして話を戻す。

「お前らに任務を与える。その施設をフォルテッシモで潰してこい。塵になるまで、徹底的につぶせ。いいな。おそらく中に連れ込まれた子供はもう手遅れだ。無理に救出して元に戻そうと思っても、それはゆであがったゆで卵を、もとの生卵に戻すくらいには不可能だ。いいな。『跡形もなく』残すな」


それは『死刑宣告』にも似た『任務』が、たった今下された。

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