複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.13 )

日時: 2018/05/15 21:37
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「おっじゃまっしまーっす!」

とてもとても大きな扉が、超子の顔を認識して少ししたあと、ゆっくりと、鈍い音を立てながら口を開く。ガチャンと鳴ると、中の様子が顕になり、超子は無遠慮に踏み込んでいく。
ここはマグノリア、メカニック部門。主にフォルテッシモの開発やメンテナンスを生業とする部門である。その為にメカニック部門が必要とする敷地はかなり広く、なれた人間でも案内のアプリやら何やらがなければ、高確率で迷子になる。それだけ広大『すぎる』のだ。
満面の笑みで入ってきた超子に、ある1人のメカニッカーが気づき、声をかける。ハネが強い長く白い髪をポニーテールにし、いかにもな丸メガネをかけた少女だった。超子も彼女に気づいたのか、やっほやっほー、と手をブンブン振る。

「超子ちゃーん!どうしたんすかわざわざこっちまで?話くれたらすぐにいったっすよ?」
「いやあ、実は耳寄りな情報をもらいましてえ」

てへへ、と超子は笑うが、対して少女はニヤリと笑ってメガネを光らせる。
メカニッカーの少女の名は『一条(いちじょう) 常磐(ときわ)』。マグノリアメカニック部門の今の事実的ナンバーワンである。というのもメカニック部門のトップとナンバーツーは現在本部を離れており、そのせいで本来ならば3番目なのだがほとんど権限を持たないはずの彼女が、この部門を取り仕切っている。なかなかに仕事は楽じゃないようで、仮眠室にたまに行くと、布団に入らずベッドに頭を突っ伏す形で寝落ちている彼女の姿を見る。それほどまでにトップの仕事はハードなのだろう。主にメカニック部門にいる問題児の扱いと、よくフォルテッシモがぶっ壊れるのでそれのメンテナンスで。その姿を見るたびに、申し訳ねえ申し訳ねえと超子は心の中で謝るのだが、一向に良くなる傾向はない。正直すまんかった……!とまた、超子は心の中で常磐に謝る。

「お話はかねがね。『特殊防御壁破壊爆弾』すね?」
「早くて助かりまっせぇ」
「ふっふっふ。でもあげるには条件があるっす」
「条件?」
「はいっす。後であの『バカ』に、『ちったあ外でろ』って言っといて下さいっす」

そういった彼女のメガネの奥の瞳は笑ってなどいなかった。口元は僅かに上を向いていたが、瞳は決して笑ってなどいなかった。むしろ『あのクソ野郎』という文字が見えたほどだ。彼女の言う『バカ』が誰のことか分かっていたのか、超子は満面の笑みでりょーかい、とだけ。案外簡単な条件で良かった、と胸を内心なで下ろす。

「そんじゃま、爆弾については超子ちゃんのフォルテッシモちゃんに付けるっすね」
「あいよー、そうしてもらえると助かるわっ」
「今回出撃するのはどの機体っす?」
「んーと、あたしの『マザー』と久チャンの『愛宕丸』、歌子ちゃんの『ディーヴァ』とエレちゃんたちの『アルテミス』ね。もしかしたら増えるかもしれないけど」
「じゃあメインはその4機すね。出撃はいつす?」
「お昼すぎかなあ。多分」
「ふむふむ。ならそれまでにチェック終わらせるっすねー」
「あ、そういやさ、あすこにあるの『愛宕丸』?」

常磐がメモ帳を取り出し、出撃機体と出撃時刻を確認しているところで、超子が真後ろでメンテナンスをしていたあるひとつのフォルテッシモを指さす。なかなかに細いフォルムをしているが、どうやら作りはしっかりとされているフォルテッシモだ。超子はそのフォルテッシモ、『愛宕丸』を見て感嘆を漏らす。

「いつ見ても個性的だよねえ」
「見た目はヒョロいっすけど、機動性は充分す。しかもあれキューちゃんが1から設計したんすよ。あっ、ヒョロいじゃなかった、『フョロイ』だったっすね。キューちゃん的には」
「へぇー……つか久ちゃんそここだわるよねえ。あたしもヒョロいって言ったら『フョロイだZE!』って直されたっけ」

ケタケタと2人は笑い合う。何故だろうか、銀色のアフロが輝かしい彼の話をすれば、自然と笑いが混み上がってくる。マグノリアとグローリアの戦闘は日々激しくなっていく一方、メンバーはその戦闘に疲弊し、みるみるうちに表情が消えていっている。だが最近入ってきた例の彼のせいで、何をするにしても脳内に彼が現れてひとしきり笑わせてくる、という現象がちらほら出てきている。これを狙っているのか、はたまたただの偶然なのか。

「ま。その話は置いといて。爆弾の件はこっちで仕込みしとくっすから。他になんかあるっすか?」
「そうねー……強いていえば」

超子はうぬぬ、と唸ったあとで、これだと言わんばかりに口を開いた。

「うちのマザーちゃんに愛宕丸の性能くっつけられない?」
「無茶言うなっす」





「遅いねえ、2人とも」
「そうね。退屈だわ」
「だねえ。やることないねえ」
「ただいまーっ!」
「えっ今?」

マグノリア会議室。医療部に心底行きたくないとして、この場所にとどまることを選んだ歌子とエレクシアは、暇を持て余していた。特にやることがないため、ただ単にぼうっとしてる事くらいしかない。あまりにも暇すぎて、数十分前に『微妙に使いどころがないフォルテをあげる』という、妙な遊びをしていたほどだ。しかしそれはもう飽きて、やはりぼうっと過ごすことになったのだが。
さてどうしたものかとなにか考えようとした矢先、医療部に出かけていた超子が戻ってきた。

「ふっふーん。特殊防御壁壊す道あったよー」
「ほんと?情報の出処は?」
「月見里センセだよ」
「え、信じていいのそれ」
「メカニック部門行って事実確認したからおーるおっけー」
「……メカニック部門?」

超子の口から出たその言葉を、エレクシアは疑問符をつけて復唱する。流石エレちゃんお目が高いっ!と超子はキラキラと顔を輝かせながら、先ほど手に入れた『特殊防御壁破壊爆弾』の話を2人に伝える。その話は2人の興味を引くのに容易いものだった。

「なるほど。つまりその爆弾を、あの場所にぶつけるわけね」
「破壊力凄まじいらしいからさー、爆発する時離れてた方がいいかもねっ」
「なら、その爆弾を最初にぶつければいいのだわ。それならやりやすくなる」
「そのへんは現場行かないとなー。爆弾が無駄になっちゃうかもしれないし」
「そうだねえ。で、そういえば松永くんは?」
「あっ」

ごめん忘れてた!と親指をぐっと立てながら言うと、歌子は乾いた笑いをし、エレクシアは心底どうでもいい、というような態度で超子を見るのだった。





マグノリア医療部。松永との自撮り写真に満足したのか、弥里はスッキリした顔で松永に礼を言う。当の松永は「いいってことYO」と、サムズアップして言う。

「そういや超子ちゃんもういないっぽい?」
「Oh!どうやらオレッチは置いてかれたみてーだNA……」
「超子はんならメカニック部門に行かれたで」
「あ、童貞!」
「童貞言わんといてや弥里チャン!」

いつの間にか目を覚ましていたらしい那生が、松永と弥里に近寄って話に加わる。だが弥里から発せられたそれは、那生を凹ませるには充分なものだったようで、那生は壁に頭を打ち付けて「ワイかて……ワイかて……」と、ブツブツ繰り返す。

「あ、そうだ松永くん」
「どうしたんだbaby?」
「これさ。もしもの時があったら使ってね」

弥里から差し出されたのは、日常生活などでよく見る、小さな薬のようなカプセルだった。松永はそれを潰さないように気をつけて受け取る。だがこれだけでは一体何なのかわからない。首をかしげて、松永は弥里に聞く。

「MOSIMO?」
「『大変なこと』になるよ……♪」

そういった弥里の口元は、何よりも鋭く、何よりも悪役らしく、三日月よりもつり上がっていた。まるで『大変なこと』になることを、待ち望んでいるかのように。
ただ松永はそれを気にしちゃいないのか、ありがとYO!と言う。そして彼は独特な歩き方で医療部を後にした。恐らくメカニック部門に行くのだろう。最もそのメカニック部門には、既に超子はいないのだが。


「気をつけてねー……」


弥里はニヤリと笑って見送ると、さーてお薬の時間だ〜と、妙な色をした液体が入った注射器を、自らの首元に射した。

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