複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.15 )

日時: 2018/08/22 07:15
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「高度異常なし、障害物なし……って当たり前かあ。んー、風向きなしの天候は快晴、気温は19度?」

 超子はコクピット内で、今現在の周囲の状況を確認していた。周囲変換で空間を切り離してないため、こういった確認は非常に重要なものだ。最も、当たり前のことなのだが。

「今しがた飛んでる旅客機とかも、ないね。うん、このまま行っちゃっておっけーっしょ」
『でも途中埼玉通るから、暖かくしたほうがいいよね?』
「そね。ぐっと気温下がるし。みんなー、埼玉近づいたらあったかくする準備してー」

 それだけ言うと、超子は通信を切り、背後にあったブランケットを膝にかけ、備え付けてあったポットから、持ってきておいたスープのもとが入っいてるカップにお湯を注ぐ。気が早いかなあ、とおもいつつ、スープをスプーンでかき混ぜる。あっという間にわかめスープの完成だ。これで埼玉を通る準備は完璧。超子は上着に袖を通しながらわかめスープを一口。だが思ったより熱かったのか、「あっつぃ!」と声を荒げた。
 埼玉を通るだけなのに、こうまでする理由。それは埼玉の今の現状にあった。今現在の埼玉は、『氷の国』として存在している。もちろん都市機能は完全に動いていない。というのも十数年前、埼玉は『たった一夜』にして、全てが氷の中へと閉ざされた。その氷はただの氷でなく、『近づく者を容赦なく氷に閉じ込める』氷なのだ。たとえそれが遥か高い上空でも、氷漬けにはされないが、空気が一気に冷え込むほどである。それはまるで強力な冷凍庫の中に勢い良く入るくらいに。だからこそ、埼玉を通るとなると、それがたとえ夏でもこのレベルの対策をしなければならないのだ。そう、今いるこの空間が、『切り離されている』としても。
 なぜ埼玉がそんな氷の国になってしまったのかは、未だにわかっていない。調査をしようにも氷漬けにされるだけだし、またもしそれがフォルテだとして、そのフォルテが『生きている』とすれば、手も足も出ない。というのが現状で。なんせ近づくにも近づけない。これでは調べようにも調べられない。一体何が起きたのか、何が原因なのか、中はどうなっているのか。真相はすべて、氷の中である。

「うひー……寒いねー」
『気づかれないようにゆっくり移動してるのもあるからね、すっごく寒いね』
『この高度で飛んでいても、こうなのは嫌ね』

 一行はいよいよ埼玉へ入った。それが一発でわかるくらいに、周りの空気は一気に冷え込んだ。先程作ったばかりのわかめスープも、すぐに冷めてしまう。超子は冷めてしまったわかめスープを一気に飲み干すと、すぐに別のわかめスープの粉末をカップに入れ、お湯を注いでそれを一口。だが彼女はどうせすぐに冷めんだろうな、と、多少急いで飲み干した。もっと味わって飲みたかったのに。

「にしてもいつ通ってもすごいねえ、この冷気」
『ほんと。ここだけ日本じゃないみたい』
「それ埼玉の人聞いたら怒るよ〜。でも今の埼玉じゃそれ色々と当たってるかもね」
『というより、貴方達。何か気づかなくって』
「へ?」
『今いるフォルテッシモ、数えてご覧なさい』

 エレクシア───否、エレーヌだろうか。彼女たちがそう言えば、超子と歌子は訝しげに周りの状況をよく見やる。ひぃ、ふぅ、みぃ……自らを含めれば、今この場にはフォルテッシモは3機いる。そこで気づいた。

『……愛宕丸は?』
「はぐれちゃった…とか?」

 周囲には松永が乗っている愛宕丸の『あ』の文字すらない。一体どうしたのだろうか。何かしでかしたのだろうか、それとも先に行ったのか。いや、先に行ったとすればそれは見えているはずだし、もし敵に見つかって撃墜されたとすれば、必ず音が聞こえるはず。それに周囲転換からの空間は切り離されていない。どうしたのだろうか。
 これまずいんじゃ?と焦る超子たちに対し、エレクシア、またはエレーヌはふうと息を一つ吐露し、答えを出してやる。

『帰ったのよ。風邪引いたらしいわ』
「えっ」
『埼玉に入った直後にね。私たちにだけ通信が入ったわ』

 その時松永は聞くに耐えない声で

『Oh……どうやらオレッチは体調がBad……になっちまったみてえだ……ズビーッオレッチはズビーッ、先にゴーゥホーゥムクゥーウィックルィーさせれもらうJE……ブェェッキショエエエエ』
『……そう』

 と言ってすぐさま帰ったらしい。あまりにも鼻を啜る音と、くしゃみがひどすぎた為、呆れて何も言えなかったそうだ。なんで一緒に出撃したのか、わけがわからない、と彼女たちは言う。その経緯を聞いて、やはり超子と歌子もこれには苦笑すら出なかった。どちらかというと、ははは、と棒読みで出てきたくらい。たしかに寒いがそこまでなるほどなのか、2人は頭を抱えた。

『けどね。後方からフォルテッシモが1機来てるの』
「え?もしかしてグローリア?」
『超子ちゃんちがうよこれ。反応マグノリアのフォルテッシモだよ!』
「えぇ?誰ぇ?」
『私だうぇい!』

 その直後。やってきたフォルテッシモを確認したまさにその直後。超子のフォルテッシモであるマザーの背後に、やってきたフォルテッシモが立つ。思わず超子は距離を取って戦闘態勢を取るが、やってきたそのフォルテッシモを見てその態勢を解く。

「───御代(みよ)ちゃん!」
『ご名答ー!』

 御代と呼ばれたその機体、『プテラノドン』は、その名の竜を思い起こさせるような翼を広げて、ピースしてみせた。





「……那生」
「お?珍し。なんやワイに用なんか?流星(りゅうせい)はん」
「おいおい俺も忘れんなナオ」
「狂示ィ?なんやほんまにどないしたんや?」

 ところ変わりマグノリア医療部……ではなく、喫煙室。ちょうどヤクを炙ってさて吸うぞ、というタイミングで、那生の前に来客が2人ほど現れる。
 1人はマグノリアリーダーであるその人、葛狭狂示。そしてもう1人、全身を黒でまとめあげ、紺と黒が入り混じったやたら長い髪を適当に広げ、左目に眼帯をした男。その人の名を、『紅蓮流星(ぐれんりゅうせい)』。彼はこのマグノリアで、おそらく最年長の人物であり、現在指揮官をしている。昔はそれこそ前線で、狂示や那生と共に鬼のような強さを誇っていたが、あまりにも強すぎるために、狂示から「お前出ると新人育たねえから指揮官やっとけ」とのお達しをもらい、今に至る。強すぎるというのも、なかなか嫌な問題らしい。
 普段は自らの書斎か図書室で本を読みふけっていたり、趣味である創作活動をひきこもってやっているはずの彼が、なぜわざわざこんな場所に来たのだろうか。しかも隣にはタバコを現在進行形で吸っている三森弥里がいる。もしかしてそのことでお呼び出しを食らったのか?那生はそう考えるも、すぐにやめた。んなの今更やんけー、と。全く反省していないようだ。

「お前、今からフォルテッシモ乗れ」
「ハァ?」
「いやー。追加で調べてたんだけどよ、とんでもねーことが分かっちまった」
「なんやなんや、緊急事態(エマージェンシー)かいな?」
「それに近しいものではあるが、な」

 流星はまっすぐに那生を見据える。

「栃木のポイントAで、非常に危険な薬物が使われているのを確認した」
「ん?それまさか、超子はんたちが潰しに行くっちゅう、例の奴さんの研究施設やろか?」
「そーなんだよ。やっべーんだわ」
「なんやなんのヤクなんや?」
「ワクワクするな。それでだ。その薬物というのが、『ゾンビ』だ」
「……ひっじょーにくだらん質問するわ。そのゾンビっちゅうヤク、まさかネクロマンス的なもんとちゃうやろな」
「正解だ。この薬物は摂取した者が死んだあと、自我なき人形へ作り変えるものだ。その薬物が、例の栃木の研究施設のフォルトゥナの子どもたちに使われていることが判明した」
「しかもゾンビ摂取してゾンビになっちまった奴は、生者を食う。食われた生者もまたゾンビになる。まるでどっかの詐欺みてーなことになんな」
「うひーなんつーもん使いおるんや」
「でだ。貴様にはその薬物の回収と、研究施設の破壊、それと摂取したフォルトゥナの子どもたちの完全なる抹殺。それを任務として下す」

 流星は那生に多少声のトーンを強めて言い放つ。那生はあんさんいきゃええやろ、と反論してみるも、私が出てしまえば新人が育たない。ときっぱり言い切られる。なんやカッタイやっちゃなあ。那生は頭を掻きながらひとりつぶやく。

「童貞どーしたのー」
「えっ…あーお仕事入ったんやよ」
「まじかよー」

 がんばってぇ〜、と応援する気などもとから内容に、弥里は那生に手を振った。童貞言わんといてや弥里チャン!

「決まりだな。さっさと出撃ポートへいけ。連絡は通してある」
「へいへい。オペレーター室から、まともなオペレーターくっとええねんけどなあ」

 その言葉に、流星は『当たっているから何も言えないな』と、そこだけは心底那生に対して賛同した。他の行為は賛同しかねるが。

「さて……そろそろか」

時計を見た流星は、急ぐように喫煙室から出ていった。

「……いや、私も出るとするか」

 思い出したようにつぶやくと、流星は通信端末を取り出し、メカニック部門へと繋いだ。


「───私だ。やはり私も出る」


つづく

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