複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.16 )

日時: 2018/08/22 07:17
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 翼を広げ、ピースをしてみせたその機体───プテラノドンは、くるくると3機の周りを回り始める。ひとしきり回って満足したのか、プテラノドン───搭乗者である朝山(あさやま) 御代(みよ)は、全員に向けて話し始める(といっても通信なのだが)。

『ほんとは一緒に行こうと思ってたんだけど、ちょっと遅れちゃったうぇい』
「他に誰か来るとかは?」
『聞いてないぽよ』

 御代はおちゃらけた様子で言う。その言葉に嘘偽りはなさそうで、超子たちはならいっか、とひとまず安心した。何に対してなのかは、本人たちにしかわからないのだろう。
 するとところで、と突然御代は話を変える。何か気になることでもあったのか、少し声のトーンを変えてほかの3人に話しかける。

『ねえねえ、松永くん急に戻ってきたけど、どうしたの?』
「それについては……まあ、後ほど?」
『ふーん?』
「というかそろそろ行こうか、近いし」

 超子がそう呼びかけると、皆は体勢をポイントAに向き直し、再び発進した。





 ところ変わってマグノリアの、フォルテッシモ出撃ブース。そこで一条常磐は普段通りに、フォルテッシモたちの整備を行っていた。トップふたり組が不在のこの状況、否が応でも自分が取り仕切ることとなる。そこにある程度のプレッシャーと不安を感じながらも、常磐は日々を生き抜いている。
 そんな時、整備が一段落ついてさて休もうかというところで、突如通信が入る。

「もぉーなんすかー、こっちは休もうとしてたんすけど」
『FUUUU悪ィNA!開けてくれYO』
「あれ?キューちゃん?戻ってきたんすか」

 何だ何だとゲートを開けば、なんだか寒そうな様子でフォルテッシモ、愛宕丸が入ってくる。道中で何かあったのだろうか。所定の位置にフォルテッシモが来ると、動きは止まり、ポッドからキューちゃんこと、松永久舵が降りてくる。どことなく顔色が悪そうだ。

「どうしたっすか?キューちゃん」
「Oh…それがYO、SAITAMA通る時に風邪を引いちまったのSA!ブエッキショエ」
「うわ汚っ!だったら医療部行ってくださいっす、愛宕丸ちゃんのメンテはしとくっすから!」

 休みのあとっすけど。言外にそう付け加えると、常磐は震える彼の足元ににワープパネルを敷いてやり、医療部へとそのまま飛ばしてやった。流石に朝から働き詰めなので、今から愛宕丸を一からメンテというのは無理がある。あの調子だとしばらく出撃もできそうにないから、しばらくの休憩の後ででいいだろう。そう思ってあくびをし、仮眠室へと向かおうとしていたときだった。突如としてある2人組がここへとやってくる。ため息をついて誰だ誰だとそちらへ目を向ければ、常磐はメガネの向こうの寝ぼけナマコをカッと開く。なんでいきなりここに来たんだ。

「入るぞ、一条常磐」
「いやあすまんなぁ〜、突然の出撃で……ワイらのフォルテッシモ、準備してはる?」
「え?あー……多分そこに」
「(にしても突然やな、流星はん。いきなり来たかと思っとったら、私も出る言い出すしのォ)」
「というより、連絡は入れておいたはずなんだが」
「んー……そうだっけ……あ、そうだったっすね。紅蓮指揮官とヤク中先生」
「月見里那生!いい加減覚えといてや〜」

 そう、マグノリアの指揮官、紅蓮流星その人と、マグノリア随一のヤク中でありマグノリア医療部の長、月見里那生である。連絡が入っていたことを忘れていたのか、常磐はそんなものあったっけ?と首を傾げたが、そういえば少し前に一方的な連絡が入って、急ピッチで整備してたんだっけ。と思い出した。その前にぼんやりと指し示した場所には、彼らのフォルテッシモが佇んでいた。いつでも行ける、というように。
 流星は視線だけそちらへよこすと、すぐに目を閉じたかと思えば、ゆっくりとその目を開く。意を決したのか、はたまた別の意志か、流星は身を翻し、自らのフォルテッシモ【アビス】に向かっていく。那生もそれに続くように、フォルテッシモ【テオドール】へと向かう。その姿を見て、すんげー嫌な予感がするっす、と常磐はつぶやくのだった。

 各々のフォルテッシモのコントロールポッドへ入り、それを閉めて起動させる。目の前に映し出される、『Hello World!』の文字。慣れた手つきで各システムを確認していく。正常に戦闘が行えるか、飛行が行えるか、その他諸々。かなりメンテナンスが行き届いているようだ。前に搭乗したときの不満点が、ほとんど解決されている。ただすべてを確認するには、実際に動かしたほうがいい。流星は那生に通信をつなぐ。

「そちらはどうだ」
『なんも変なとこはあらへんで。いつでも行ける』
「ならば今すぐに出るとしよう、確かめたいものもあるのでな」
『はいはい、仰せのとおりに。ワイははよ終わらせてゆっくり、寝たいもんですなァ』

 そこで通信は終わる。外にいる常磐に向け、ゲート開放を要求する。と、同時にもうゲートは開かれるようで、仕事が早くて助かるな、と思う。ただそれだけ。
 開かれた先には戦場が待っている。あの頃を思い出す、あの血肉踊る戦場が。口元をわからぬように上げると、

「フォルテッシモ【アビス】、出る」

 すぐに飛び出していった。





 栃木県日光市、ポイントA。そのちょうど真上に当たる場所で、超子たちは止まる。

「よーし、到着!まずは周囲転換しなきゃね」

 それを言うのが先か後か、超子のでは素早く動き、周囲をスキャンしまたたく間にデジタルデータへと変換していく。これで民間人に被害が行くことはなくなったし、自分たちの姿も民間人に見えなくなった。それを確認すると、合図とともに急降下していく。
 その先には日光の町並み。これだけ見れば何も不自然な点はないのだが、本来そこにあるはずのものがない。なるほど、確かに『見えなくしている』ようだ。周囲を転換していても効力が発揮されているとは。超子はぺろりと唇を舐める。すぐさま通信をつなぐ。

「歌子ちゃん、とりま『フォルテ』しくよろ」
『わかった、でも念の為に離れててね』
『うぇい』
『わかったわ』

 通信は終わり、超子とエレクシア、御代は歌子の忠告通り、彼女のそばから離れる。それを確認した歌子は、システムを弄り、コントロールポッドの中をまたたく間に変えていく。座っていた座席はなくなり、マイクが目の前に現れ、まるでカラオケルームかなにかへと変貌していく。フォルテッシモ【ディーヴァ】も同様に、周りに鍵盤のようなものが現れ、羽のようなオーラが広がる。その姿はまるで『歌姫』。あたりの音は何一つなく、邪魔するものもいない。すべての準備が整った。



 ────見えずとも 感じ取る
 ────その姿を 隠された姿を
 ────我らは問う お前の意味を
 ────我らは問う お前の存在を
 ────なんの為に そこに在るのか
 ────今一度問う お前の意義を
 ────お前の姿を 我らに示せ



 戦場に響くその歌声は、聞く者の全てを浄化する。歌声は辺りに、風に乗って全てへと行き渡り、浄化する。歌はやがて茨となり、『そこに在るべきもの』へと絡みつく。羽はゆらぎ音は融け、空には虹がかかり、美しき花びらが舞い降りる。
 茨はそこに在るべきものへ、次第に絡みつく強さを強め、何もないところからメキメキと音がなり、その場所にヒビが入る。ヒビの隙間から、無機質なそれは見える。



 ────開け 我らが道よ
 ────開け 我らが空よ
 ────そこに何かあるというなら
 ────我らはそれを壊してみせよう
 ────響け 我らが祈りよ
 ────穿け 我らが力よ



 それがトドメとなり、茨はついに『空間』を破ることに成功する。すると同時に本来あるはずの『無機質なそれ』が姿を表し、茨は光の粒となって、やがて消える。間違いない、アレこそが、今回の作戦で潰すことになる施設だ。やたらと大きいじゃないか。超子はニヤリと笑う。燃やしがいがありそうね、とも思う。
 だがその前に、例のものを投げなければならない。超子は歌子に下がるよう言い、他の2機に対しても、そのままでいるようにと伝える。フォルテを使い、消耗した歌子はやっとの思いでシステムを直し、巻き添えにならないように遠くへと離れる。それを確認した超子はどこからともなく例のもの───『特殊防御壁破壊爆弾』を取り出し、起動させる。カウントダウンが10から始まる。
 9 まだ、まだ待つ。8 まだまだ待つ。7 まだだめだ。 6 我慢しろ。 5 まだ抑えろ。 4 いよいよ。 3 あと少し。 
 そしてカウントが2になるか否か。その時に超子は思いっきり、それを施設へとめがけてぶん投げる。

「いっけえええええええッ!!」

 1。そのカウントで爆弾は施設へと直撃し、ゼロと同時に爆発する。
 その瞬間、あたりは爆発によって生まれた爆風に巻き込まれ、窓ガラスが吹き飛んだり、建物自体がふっとばされたりと、相応の被害を被った。しっかりと準備をしていた【マザー】も、他のフォルテッシモたちも、その影響をもろにくらい、後ろへとのけぞったり若干吹き飛ばされそうになる。ただメンテのおかげか準備のおかげか、そこまでの被害はなかったようだ。証拠に、皆のフォルテッシモは、パーツが溶けたりなどという事は起きなかった。むしろそれさえなかったのが『奇跡』というべきか。
 爆発を目の前で食らった施設は、その時点で貼られていたのであろう防御壁が、見事なまでに崩れていった。正確に描写するならば、『跡形もなく消え去っていた』とするべきか。兎にも角にも、施設は丸裸の状態となった。
 だが当然のことながら、それを受けて、それとも前々からいたのか、グローリアのフォルテッシモがすぐに現れる。すでに臨戦態勢は万全のようで、今すぐにでもこちらへ攻撃を仕掛けてくるようだ。否、もうしている。
 あるグローリアの量産型フォルテッシモが、フォルテを使用したがために消耗したディーヴァ、もとい歌子にたいして幾つものミサイルを放つ。それらをいち早く、御代は彼女の前に立ち、すべてをはらう。はらわれたミサイルは、あちこちに分散していきやがて何かにぶつかり、爆発する。御代はそれを見て眉をひそめた。予告なしに撃つな、そう思うが流石に予告して攻撃する敵などいないか、と肩を落とした。

「御代ちゃん、歌子ちゃん、大丈夫?」
『な、なんとか…御代ちゃんがやってくれたみたい』
『もーまんたいうぇい!それよりも早くこの雑魚たちなんとかしなきゃぽよ』
『貴方、まともに話せないのかしら』
「はいはいおしゃべりは後!まずは御代ちゃんの言うとおり───この雑魚集団を蹴散らそうか!」


 今このとき、命がけの戦闘が始まった。


続く

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