複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.18 )

日時: 2018/08/28 20:50
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 マグノリアには、ひときわクセの強い奴らがいる。毎日を面白おかしく彩り、生きていく。たとえそれがつまらぬものであろうと、何であろうと、面白おかしくしてしまう。日々のスパイスにしてしまう。退屈なんて言葉は存在しない。彼らにとって、退屈とは自由。何をしても構わない。それがスパイスになるのであれば、尚更。
 そんなクセの強い彼らは自らをこう名乗る。

『チームケイオス』ってね。


第3話
【fake town baby】


 栃木県日光市、ポイントAでの戦闘から一夜明け。戦闘に加わっていた朝山御代は、もうすっかり調子を取り戻していた。捕食者に捕まっていたとき、嫌に体中からメキメキと音がしていたが、もう治った。あれだけ苦しかった呼吸もこの通り。今すぐにでも出撃できる勢いだ。
 だが、病室に現れた存在を見て、何かを察する。

「入るぞ、朝山御代」
「げ……指揮官」
「と、オレも居るんだよなー」
「あれ?リーダー、ようやく引きこもり脱出うぇい?」

 よく見知った顔、指揮官である紅蓮流星は、御代を見るなりフルネームで呼んでくる。指揮官が来たということは何か言い渡されるのだろう。その先が読めてしまった御代は、うげえという顔をする。が、後ろからひょっこり出てきたマグノリアリーダー、狂示にその顔色を変える。めったに表に出てこないくせに、今日はどうしたんだろうか。
 狂示は引きこもりなんてしてねえよ、とおちゃらけ、ズカズカと入ってきて勝手にそばにあった椅子に座る。マイペースっていうか、なんというか。

「体調は大丈夫かー」
「うぇいバリバリ治ったうぇい」
「だ、そうだが」
「ふーむまあ時雨みてーに1週間休むなんてことはさせなくていーだろうな。超子は流石に病室から一歩も出んなとは、言っといたが…」

 どうなるかね、アレは。狂示は肩をすくめてそういう。超子に何があったというのか。それを押しとどめるように、流星は狂示の前に出て口を開く。

「朝山御代。お前に3日間の休養を言い渡す」
「……へっ?」

 突如言い渡されたその一言に、御代は口をあんぐりと開けた。何を突然言ってんだろうか、この人は。酒でも飲んだのかな。御代の今の顔を見て、狂示は笑い始めたが、それに構わず流星は淡々と告げる。当たり前だと言わんばかりに。

「フォルテを使ってはいなかったが、それでも相応の体力を要したはずだ。体力は無限にない。そしてお前個人としての代わりなどない。暫く安静にしていろ」
「うぇい……ナマコ指揮官」
「謹慎処分」
「ぷてー!」

 言い渡された内容に、ついつい冗談を挟んで返事をしてみるものの、間髪入れずに謹慎処分に格上げされる。御代は思わずおかしなポーズを取って仰け反るが、流星は顔色を変えずに「冗談だ」と返す。冗談に聞こえないところが恐ろしい。これ以上ふざけると本当に謹慎処分にされるかもしれない。そう思った御代は頷いて、おとなしく寝る体制に入った。流星の隣りに居たリーダーは、一連の光景をケラケラ笑いながら見ていたらしいが、用がなくなったのか、椅子から立ち上がり戻る準備をする。すでに流星は早々に部屋から去っていた。
 と、そこで狂示は何かを思い出したように、そうだとつぶやいてみせる。

「オウ喜べモーニングマウンテン。近いうちにまたなんかやっかもしんねーから。そんときゃ流星のヤローぶん殴ってでも認めさせてやらァ」
「……名前で呼べうぇい」

 ケケ、そんじゃな〜。そう最後に言い残すと、今度こそ部屋から去っていった。部屋に残された御代は、病床の上で天井を見る。シミひとつない、きれいな天井。

「誰かこないかな……超暇」

 ぽつりと呟いてみるが、それを拾うものは誰もいなかった。





 静かなくらいがちょうどいい。誰にも邪魔されず、誰からも見向きもされない。なんと素晴らしい空間なのだろう。この図書館という場所は。
 ここはマグノリアにある巨大な図書館。その一角に、とある少女は傍らに大量の分厚い本を積み重ね、その中の一冊を静かに読んでいた。メガネをかけ、長髪で、いかにも文学少女と言っても差し支えないほどの少女。名を、『英咲(えいさき)れお子』。れお子はここでの日々を何よりの楽しみにしていた。静寂なくらいがちょうどいい。本に囲まれて1日を過ごす。嗚呼なんと素晴らしき理想の日常。文学的な本を読み、心の癒し、知識の蓄えにする。これこそが人類が目指すべきものだろう。
 といいたいところなのだが、彼女が今読んでいるのは、大昔にやっていたという『特撮ヒーロー』をまとめたもの。よく見ると積み重ねられている本も、殆どが『ヒーロー』に関するものばかりである。だがそれでいい。読む本など偏っていい。それが自らの心を満たし、知識の蓄えになるのであれば。れお子はそう思っていた。

「れお子さん」

 ふいに声をかけられる。よく話す人物の声であったので、れお子は栞を挟んで本を閉じ、そちらの方へ顔を向ける。ああ、やっぱり貴方だった。

「……アスカさん。呼び捨てでいいのに」
「れお子さんだってさん付けじゃない。人のこと言えないと思うなー」

 アスカと呼ばれたその人───東野(とうの)アスカは、くすくすと小さく笑い、話を続ける。

「『会合』の時間。だよ?」
「え……あ、ああ。確かに。……それで?」
「もう!れお子さんも来るんだよ、ほら」

 アスカはそう言うと、れお子の手を引いて一緒に来るように言う。当のれお子はなんでそんなものに、などと言いたげな顔をするが、アスカがこの通りだ、拒んでも無意味だろう。もっと本を読んでいたかったのに。仕方ないかなあ。
 れお子は気だるげに立ち上がり、アスカとともにその会合とやらに行くことにしたのだった。





「モーニングマウンテンは?」
「暫く安静にしていろー、って指揮官に言われたってさ」
「へえ〜何やらかしたの?」
「さあ?指揮官に聞いても教えてくんなかった」

 結構な人数が集まり、わいのわいのと騒がしいここはマグノリアの大会議室。この前、フォルテッシモについての報告会をしたあの場所である。そこの丁度真ん中のスペースに円卓が置かれ、それを囲うようにある人物たちが座っていた。その中にはあの三森弥里もいた。最も、ヒロポンを手にしていて表情がいかにも危うげではあるが。
 円卓には空席は計4つあり、先程の会話を鑑みるに、これから席が埋まるのはそのうちの3つなのだろう。現に、空席になるひとつに、御代の写真が置かれた。端から見れば何かあったのかと問いただしたいものであるが。

「流石にそれは駄目だと思います」
「んー、じゃあ紙に『御代代理』って書いて椅子にはっつける?」
「その発想はどこから来るんですか…」

 やいのやいのと騒いでいると、扉が開けられアスカとれお子が入ってくる。2人が入ってくるのを見るなり、他のメンバーは2人の席を少し引いてやり、すぐに座れるようにした。礼を言いつつアスカとれお子は座る。これであと空席は1人となった。

「あとは指揮官だけかー。脱いでいい?」
「アウト」
「れお子即答すぎない?脱ぐけど」

 れお子にダメ出しをされたにもかかわらず、突然立ち上がって服を(全部とまではいかないが)脱ぐ者がいる。羽織っていたコートを投げ捨て、腰に巻き付けていたアクセサリーも投げ捨て、ついにはベルトにまで手をかけ始めたため、慌てて隣りに居たアスカが止める。流石にまずい。

「ヒナタさんそれはまずいって!男子いるし」
「えー」
「百合姉さんがスタンバってるし!」
「あっ、おとなしく服着てます」

 投げられた言葉にヒナタと呼ばれた彼女───保瀬(ほせ)ヒナタは一瞬で真顔になり、投げ捨てたはずのコートとアクセサリーを直し始める。その様子を見ていた百合姉さんこと、霧島百合(きりしまゆり)は、残念そうな顔をしてヒナタを見つめる。流石に百合姉さんが期待することはできないっす。言外にそう伝えるが、多分伝わってないんだろうなと肩を竦めた。諦めて席に座り直す。
 そうこうしているうちに扉が開き、流星がその場に入ってきた。いつもの服装は崩さずに、そのまま入ってくる。だからだろうか、部屋の中の空気が一瞬にしてピリッとしたものへと変わり果てる。流星は空いている席のうちの1つに座り、周りを見回す。欠席の御代以外が揃ったことを確認すると、流星はひと呼吸おいて口を開いた。

「全員揃っているな。念の為点呼をするが───朝山は安静、浅葱柚子(あさぎゆず)、英咲れお子、川上水木(かわかみみずき)、霧島百合、東野アスカ、藤山(ふじやま)まろん、保瀬ヒナタ、三森弥里、そして私。いない者は手を上げろ」
「指揮官ー、そのネタ古いです」

 全員の名前を読み上げ典型的なセリフをつぶやくが、即座に川上水木と言う名の少年に突っ込まれる。その隣にいた藤山まろんなる少女は、首を傾げてケタケタと笑った。意味がわかっているのか、わかってないのかは置いといて。流星は少し黙ったあと、1つ咳払いをして話を再開する。この者たちが集い、名乗る名はただひとつ。

「では。これより『チームケイオス』定例会合を執り行う。寝たら牙突をかますから、そのつもりで」


そう、ここに集まった者たちはすべて、クセの強い奴らが集うグループ『チームケイオス』の面々なのである。彼らはこれから、何を『しでかす』というのだろうか?


続く

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