複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.18 )

日時: 2018/08/28 20:50
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 マグノリアには、ひときわクセの強い奴らがいる。毎日を面白おかしく彩り、生きていく。たとえそれがつまらぬものであろうと、何であろうと、面白おかしくしてしまう。日々のスパイスにしてしまう。退屈なんて言葉は存在しない。彼らにとって、退屈とは自由。何をしても構わない。それがスパイスになるのであれば、尚更。
 そんなクセの強い彼らは自らをこう名乗る。

『チームケイオス』ってね。


第3話
【fake town baby】


 栃木県日光市、ポイントAでの戦闘から一夜明け。戦闘に加わっていた朝山御代は、もうすっかり調子を取り戻していた。捕食者に捕まっていたとき、嫌に体中からメキメキと音がしていたが、もう治った。あれだけ苦しかった呼吸もこの通り。今すぐにでも出撃できる勢いだ。
 だが、病室に現れた存在を見て、何かを察する。

「入るぞ、朝山御代」
「げ……指揮官」
「と、オレも居るんだよなー」
「あれ?リーダー、ようやく引きこもり脱出うぇい?」

 よく見知った顔、指揮官である紅蓮流星は、御代を見るなりフルネームで呼んでくる。指揮官が来たということは何か言い渡されるのだろう。その先が読めてしまった御代は、うげえという顔をする。が、後ろからひょっこり出てきたマグノリアリーダー、狂示にその顔色を変える。めったに表に出てこないくせに、今日はどうしたんだろうか。
 狂示は引きこもりなんてしてねえよ、とおちゃらけ、ズカズカと入ってきて勝手にそばにあった椅子に座る。マイペースっていうか、なんというか。

「体調は大丈夫かー」
「うぇいバリバリ治ったうぇい」
「だ、そうだが」
「ふーむまあ時雨みてーに1週間休むなんてことはさせなくていーだろうな。超子は流石に病室から一歩も出んなとは、言っといたが…」

 どうなるかね、アレは。狂示は肩をすくめてそういう。超子に何があったというのか。それを押しとどめるように、流星は狂示の前に出て口を開く。

「朝山御代。お前に3日間の休養を言い渡す」
「……へっ?」

 突如言い渡されたその一言に、御代は口をあんぐりと開けた。何を突然言ってんだろうか、この人は。酒でも飲んだのかな。御代の今の顔を見て、狂示は笑い始めたが、それに構わず流星は淡々と告げる。当たり前だと言わんばかりに。

「フォルテを使ってはいなかったが、それでも相応の体力を要したはずだ。体力は無限にない。そしてお前個人としての代わりなどない。暫く安静にしていろ」
「うぇい……ナマコ指揮官」
「謹慎処分」
「ぷてー!」

 言い渡された内容に、ついつい冗談を挟んで返事をしてみるものの、間髪入れずに謹慎処分に格上げされる。御代は思わずおかしなポーズを取って仰け反るが、流星は顔色を変えずに「冗談だ」と返す。冗談に聞こえないところが恐ろしい。これ以上ふざけると本当に謹慎処分にされるかもしれない。そう思った御代は頷いて、おとなしく寝る体制に入った。流星の隣りに居たリーダーは、一連の光景をケラケラ笑いながら見ていたらしいが、用がなくなったのか、椅子から立ち上がり戻る準備をする。すでに流星は早々に部屋から去っていた。
 と、そこで狂示は何かを思い出したように、そうだとつぶやいてみせる。

「オウ喜べモーニングマウンテン。近いうちにまたなんかやっかもしんねーから。そんときゃ流星のヤローぶん殴ってでも認めさせてやらァ」
「……名前で呼べうぇい」

 ケケ、そんじゃな〜。そう最後に言い残すと、今度こそ部屋から去っていった。部屋に残された御代は、病床の上で天井を見る。シミひとつない、きれいな天井。

「誰かこないかな……超暇」

 ぽつりと呟いてみるが、それを拾うものは誰もいなかった。





 静かなくらいがちょうどいい。誰にも邪魔されず、誰からも見向きもされない。なんと素晴らしい空間なのだろう。この図書館という場所は。
 ここはマグノリアにある巨大な図書館。その一角に、とある少女は傍らに大量の分厚い本を積み重ね、その中の一冊を静かに読んでいた。メガネをかけ、長髪で、いかにも文学少女と言っても差し支えないほどの少女。名を、『英咲(えいさき)れお子』。れお子はここでの日々を何よりの楽しみにしていた。静寂なくらいがちょうどいい。本に囲まれて1日を過ごす。嗚呼なんと素晴らしき理想の日常。文学的な本を読み、心の癒し、知識の蓄えにする。これこそが人類が目指すべきものだろう。
 といいたいところなのだが、彼女が今読んでいるのは、大昔にやっていたという『特撮ヒーロー』をまとめたもの。よく見ると積み重ねられている本も、殆どが『ヒーロー』に関するものばかりである。だがそれでいい。読む本など偏っていい。それが自らの心を満たし、知識の蓄えになるのであれば。れお子はそう思っていた。

「れお子さん」

 ふいに声をかけられる。よく話す人物の声であったので、れお子は栞を挟んで本を閉じ、そちらの方へ顔を向ける。ああ、やっぱり貴方だった。

「……アスカさん。呼び捨てでいいのに」
「れお子さんだってさん付けじゃない。人のこと言えないと思うなー」

 アスカと呼ばれたその人───東野(とうの)アスカは、くすくすと小さく笑い、話を続ける。

「『会合』の時間。だよ?」
「え……あ、ああ。確かに。……それで?」
「もう!れお子さんも来るんだよ、ほら」

 アスカはそう言うと、れお子の手を引いて一緒に来るように言う。当のれお子はなんでそんなものに、などと言いたげな顔をするが、アスカがこの通りだ、拒んでも無意味だろう。もっと本を読んでいたかったのに。仕方ないかなあ。
 れお子は気だるげに立ち上がり、アスカとともにその会合とやらに行くことにしたのだった。





「モーニングマウンテンは?」
「暫く安静にしていろー、って指揮官に言われたってさ」
「へえ〜何やらかしたの?」
「さあ?指揮官に聞いても教えてくんなかった」

 結構な人数が集まり、わいのわいのと騒がしいここはマグノリアの大会議室。この前、フォルテッシモについての報告会をしたあの場所である。そこの丁度真ん中のスペースに円卓が置かれ、それを囲うようにある人物たちが座っていた。その中にはあの三森弥里もいた。最も、ヒロポンを手にしていて表情がいかにも危うげではあるが。
 円卓には空席は計4つあり、先程の会話を鑑みるに、これから席が埋まるのはそのうちの3つなのだろう。現に、空席になるひとつに、御代の写真が置かれた。端から見れば何かあったのかと問いただしたいものであるが。

「流石にそれは駄目だと思います」
「んー、じゃあ紙に『御代代理』って書いて椅子にはっつける?」
「その発想はどこから来るんですか…」

 やいのやいのと騒いでいると、扉が開けられアスカとれお子が入ってくる。2人が入ってくるのを見るなり、他のメンバーは2人の席を少し引いてやり、すぐに座れるようにした。礼を言いつつアスカとれお子は座る。これであと空席は1人となった。

「あとは指揮官だけかー。脱いでいい?」
「アウト」
「れお子即答すぎない?脱ぐけど」

 れお子にダメ出しをされたにもかかわらず、突然立ち上がって服を(全部とまではいかないが)脱ぐ者がいる。羽織っていたコートを投げ捨て、腰に巻き付けていたアクセサリーも投げ捨て、ついにはベルトにまで手をかけ始めたため、慌てて隣りに居たアスカが止める。流石にまずい。

「ヒナタさんそれはまずいって!男子いるし」
「えー」
「百合姉さんがスタンバってるし!」
「あっ、おとなしく服着てます」

 投げられた言葉にヒナタと呼ばれた彼女───保瀬(ほせ)ヒナタは一瞬で真顔になり、投げ捨てたはずのコートとアクセサリーを直し始める。その様子を見ていた百合姉さんこと、霧島百合(きりしまゆり)は、残念そうな顔をしてヒナタを見つめる。流石に百合姉さんが期待することはできないっす。言外にそう伝えるが、多分伝わってないんだろうなと肩を竦めた。諦めて席に座り直す。
 そうこうしているうちに扉が開き、流星がその場に入ってきた。いつもの服装は崩さずに、そのまま入ってくる。だからだろうか、部屋の中の空気が一瞬にしてピリッとしたものへと変わり果てる。流星は空いている席のうちの1つに座り、周りを見回す。欠席の御代以外が揃ったことを確認すると、流星はひと呼吸おいて口を開いた。

「全員揃っているな。念の為点呼をするが───朝山は安静、浅葱柚子(あさぎゆず)、英咲れお子、川上水木(かわかみみずき)、霧島百合、東野アスカ、藤山(ふじやま)まろん、保瀬ヒナタ、三森弥里、そして私。いない者は手を上げろ」
「指揮官ー、そのネタ古いです」

 全員の名前を読み上げ典型的なセリフをつぶやくが、即座に川上水木と言う名の少年に突っ込まれる。その隣にいた藤山まろんなる少女は、首を傾げてケタケタと笑った。意味がわかっているのか、わかってないのかは置いといて。流星は少し黙ったあと、1つ咳払いをして話を再開する。この者たちが集い、名乗る名はただひとつ。

「では。これより『チームケイオス』定例会合を執り行う。寝たら牙突をかますから、そのつもりで」


そう、ここに集まった者たちはすべて、クセの強い奴らが集うグループ『チームケイオス』の面々なのである。彼らはこれから、何を『しでかす』というのだろうか?


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.19 )

日時: 2018/10/05 12:50
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「流星は?」
「チームケイオスの会合やて」
「へえ」

 マグノリア喫煙所。いつもならいるはずの別の2人がいない今このとき、リーダーの狂示と医療部長那生は、各々にタバコを吸っていた。狂示のタバコは少しタールが強めのものらしい、とは那生が言っていたことだが、割とどうでもいい。狂示は口からぼわっと煙を吐き出すと、何か考えるように手を顎に当てる。

「チームケイオス、チームケイオスねえ。ネーミングセンスの欠片もねえな」
「それ言ったらアカン」
「つぅかよお、今思い出したんだけどよ」

 自分から出した話題の流れを切り、ふと狂示は言う。タバコはすでに3本目へと突入していた。

「今日でちょーど、3年になるんだな」
「へぁ?なんや?」
「ホレ、青森の───」

 そこまで言うと那生も同様に思い出したようで、間抜けた顔を苦々しいものへと変えた。

「大火災……『青森大火災』やな」

 その言葉が口から漏れ出た時、喫煙所は異様な空気に包まれた。





「さて、まずは朝山だが。つい昨日の戦闘により、3日間の安静を言い渡した故、しばらくは来ない。以上」
「なんで指揮官は無傷なんですか」
「私が秩序だからだ」
「あっはい」

 ところ変わりチームケイオス定例会合。まず流星が欠席の御代について話を終えると、多少の茶番はあったものの、すぐに別の話題へと変わる。それは奇しくも今現在喫煙所にて、那生と狂示が会話していた、あの青森大火災についてだった。

「今日で3年目になる。あの光景は今でも忘れられない」

 その一言に、チームケイオスのひとりであり、青森出身の水木は体を固くする。
 ────青森大火災。それは、3年前に起こった、大規模な火災。青森県のほぼすべてが全焼。死亡者は…生存者が当時100人にも満たなかったというから、数えるだけ徒労になるだろう。
 かつて青森県を突然、火災と呼ぶには巨大すぎる火の塊が喰らうように広がった事件。出火原因は不明。フォルテによるものとも、自然によるものとも。青森県を、火の塊が数日感に渡って焼いた。その火が青森県の外を出なかったことが、不幸中の幸い、いや、奇跡にも等しいだろう。なにせ本当に、青森県以外は焼かなかったのだから。
 その大火災で奇跡的に生存したのが、川上水木。そして別にいるもうひとり。特に水木はその故郷を焼いた火災が原因となり、フォルテが目覚めフォルトゥナとなったのだから、無意識に体を固くしてしまうのは当然のことである。そのせいで、彼は笑顔を捨てたのだから。

「未だ捜査は進んでいない。無理もないだろうな、何せ何もないに等しい状態だ」
「出火原因もですー?」
「ああ。あんな火災を引き起こせるものなど、常軌を逸脱している。それが例えフォルテであってもな」
「そりゃそうよなー、どんだけ強いフォルテなんだって話になるし」

 水木の隣にいた柚子がため息をついて、椅子にもたれかかる。
 確かに柚子の言うとおり、それが例えフォルテだとしても、土地まるごとをいっぺんに焼くフォルテなど聞いたことがない。ましてやあったとしても、使用者の身が持たないだろう。そうなる前に使用者は丸焼きにされている。ならば自然現象か?いいやそれも違う。もし自然現象ならば、そんな大規模なものはよほどのことがない限りない。人が意図的にやった放火だとしても。それはないだろう。
 だからこそ、水木は手を握りしめる。固く固く、握りしめる。故郷や家族、友も焼いたあの炎。水木は憎くて仕方がなかった。そしてそのときに目覚めた自らのフォルテも、彼は嫌いだった。すべてが焼かれたあとに目覚めたフォルテ。それは全てを焼かれるさまを見てきた水木にとって、絶望するにはひどく簡単なものだった。

「水木、舌を噛むなよ」
「……はい」

 柚子にそう声をかけられ、いつの間にか力を込めていた奥歯を緩める。たしかにこのままにしておけば、気が付かないうちに舌を噛んでいそうではあった。手の力も自然と緩める。

「それでだ。今回チームケイオスはその青森大火災の現場───青森県に出撃する」
「理由を聞いても?」
「3年目だというのと、こちらの独自の調査だな。それにチームケイオスは青森出身者が多い。それもある」
「そういや弥里ちゃんも青森出身者だよねー。なんか覚えてない?」
「んー、火災起きる前に上京してたからしーらない」
「それでだ。今回の出撃はフォルテッシモを使わず、生身での出撃となる。対策はしっかりしておけ。出撃予定は本日正午。いいな。それでは解散」

 早々とたたまれた会合。言いたいことだけを言って満足したのか、流星はさっさと席からたち、懐からタバコを取り出して部屋をあとにした。あれは2時間吸うつもりだろうな、と柚子は思う。
 流星を皮切りにして、チームケイオスの他の面々も次々と席を立つ。その中でも会合中ただずっと笑っていただけだった藤山まろんは、席を立ったあと何かを思わせるような素振りを水木に見せつけた後に部屋をあとにした。残念ながら当の本人である水木は、それに一切気づくことなく部屋をあとにしたのだが。

「今日で3年目、ねえ。そりゃ当時は大騒ぎだったよねー」
「青森がなくなった……だったっけ」
「そうそうれお子のそれ。ずーっとひっきりなしにテレビはそればっかり。ほんとに突然だったから仕方ないんだろうけどさ。今にして思えば、あれ報道に熱が入り過ぎてやばいと思うのよ、いやほんとに」

 そうやってヒナタとれお子、そして後ろからアスカが加わり、3人で青森大火災当時のことを思い出していた。あれだけ巨大な火災だったし、なによりもひとつの県がもろともなくなった、というのはありえないことであったわけで。実際の映像がテレビでひっきりなしに流れてようやく、人々は現実なのだと受け入れることができたのもあるのだろう。にしてもやり過ぎな部分があったのは否めないが。

「かろうじて生き残った人たちにさー、言っちゃ悪いけど『ねえどんな気持ち?ねえねえ今どんな気持ち?』ってやったらだめでしょ…しかも亡くなった人たちへ一言お願いします、じゃないよほんとさあ」
「水木は受けてなかった分、そのニュース見てしばらく手がつけられなかった」
「うん、すごかったよねえ。時雨くんでさえ近づけなかったし」

 何もかもをなくした水木にとって、そのような報道はただ彼の傷をえぐるだけ。彼の荒れ様を思い起こすのは容易いことだ。

「にしても急だねえ。今日もう出撃って早くない?」
「いつもの指揮官は3日くらい間を置いていた。たしかに早い」
「だよねー」

 そうしてしばらく歩いていると、向こうから人影が2つ、こちらへと歩いてくるのが見えた。それはこちらにはどうやら気づいてはいないようであったが、アスカはその2つの人影に対していつものように挨拶をする。

「あっ、こんにちは〜」
「こんにちは〜。ほらナナシちゃんもご挨拶〜!」
「……っす」

 ナナシと呼ばれた少女は、もう片方の少女に言われると、声は小さかったもののちゃんと挨拶らしき挨拶をする。れお子はその2人を見てすぐに口に出す。

「……この子達、『ななよし』?」
「ななよし?えーっと……ああ!ななよしかあこの子達!」
「な、ななよし?なにそれ?」

 ななよし。その言葉にはたと気づいてアスカは手を叩く。だがヒナタだけは何もわからなかった模様で、アスカは彼女に対し説明する。

「えっと、確か『ナナシと善佳』で、『ななよし』だよヒナタさん」
「ちょっとまってよくわかんない」
「……ナナシって子と、善佳って子がいっつもいるからついたあだ名が『ななよし』」
「あ、そういう意味?」

 ようやく解せたようで、ヒナタはアスカと同じように手を叩く。そしてななよしと呼ばれた2人組をまじまじと見つめる。

「仲良いんだねー」
「もっちろん!」
「どこがだ」
「でもななよし、この前謹慎処分出されたって聞いたけど」
「外に出なければいいんだよ〜今から娯楽室行くの」
「そうだったんだ、私達も行く?れお子さんヒナタさん」
「そんならアタシも行く!れお子?」
「本読みたいから、あとで」

 それだけれお子は伝えると、2人に挨拶をしたあと図書室へと向かっていった。一刻でも早く安息の地へ向かいたかったのだろうか。自然と足が早くなっていく。

「……」

 れお子はなぜだか、胸騒ぎが起こったのに知らないふりをするように、家とも呼べる図書室へと急いだ。





「………ねえ、青森のあの火災のこと。覚えてる?



─────『カナム』。」




続く

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Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.20 )

日時: 2018/10/07 22:34
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 旧青森県。あたりはまっさらで、ところどころ焼け焦げたあとが未だに残っている。さすがにやけた匂いはもう残ってはいなかったが、それらしき痕跡は痛々しいほどに残っている。目の前に、見せつけてくるように。
 その地に降り立つのはチームケイオスの面々。今回は2手に別れ、それぞれを見回る。視界を遮るものなど何もないからか、随分と見晴らしがよく、それなりに安心感はあった。とはいっても、足元の問題があるので油断はできないのだが。

「ここは最初に燃えたとされる場所だ。未だ人骨が発見されるな」

 2手に別れた中の、流星が率いるグループは、大火災における出火元だとされる場所に来ていた。その中には川上水木の顔もあったが、表情は固いままだった。流星は水木に向け、声をかける。

「川上水木。お前が『カナム』を見つけたのは、ここの近くだったんだな」
「はい。そうです。僕は逃げている途中で、この近くで『カナム』見つけました」

 ぐっと拳を握りしめる。その様子に流星は構うことなく、あたりを調べ始める。水木の隣りに居た柚子は、彼の背中をぽんと叩いてやり、血が出そうなほど力を込めていた拳を緩めさせる。そしてふっと笑いかけると、僕達も少し調べよっか、と水木を別の場所へと連れて行く。残った弥里は流星にくっつき、地中などから出てきたものに、興味本位で薬剤をふりかけていく。

「『カナム』ちゃんはまだ寝てる?」
「はい……今日も反応はないです」
「そっか。『カナム』ちゃん、まだ起きないか」
「そもそも起きているところを見たことがないです。気がついたらいたし、気がついたら寝ていました。それに長い間、親族をたらい回しにされてたみたいで…」

 そこまで言うと水木は黙る。柚子もそれ以上の詮索は無用だと判断したのか、改めて周りを調べ始める。
 ───『カナム』。それは水木が青森大火災の時に、命からがら救い出した少女のことである。本名、年齢、過去経歴は一切謎。水木でさえ、『カナム』という名前と、ずっと目を覚まさないということだけしか知らない。いつからかはわからないが、『カナム』は寝たまま目を覚まさない。それどころか、目を開けて起きたことすらないのだ。最もそれは水木が彼女を知ってからのことであるが。ともかく、彼女はずっと目を覚まさず眠り続けている。いつ目を覚ますのかはわからない。そもそも目を覚ますのかすらわからない。
 現在彼女はマグノリアの地下施設にて保護されている。彼女専用の機材───というかカプセル───で、眠り続けている。何にも邪魔されることなく、何の妨げも許すことなく。なお、彼女のことを知っているのはチームケイオスの面々と、医療部長の那生、そしてリーダーである狂示のみだ。他は存在すらも周知されていない。時雨でさえも。

「───3年間。長かった?」
「いえ。とても短いものです。まだ3年目なんだな、としか思えません。未だに引きずってます。『なんであの時、もっと前に発現していれば』って、ずっと思ってます。ほんと、なんでですかね。柚子さん」

 そういった水木の目はけっしてきれいなものではなかった。どす黒く淀んて、その先の暗闇は恐怖心を煽らせるほど。口元は固く真っ直ぐに結ばれ、ただ何かをもらいたげに、柚子の方へと向かれていた。柚子はそんな水木に引きつつも、笑顔を崩さない。崩さずに口を開く。

「────僕は、何でもわかる神様じゃないよ」

 それだけいうと、さあ調査を続けようか、と話題を切って顔を逸らした。彼の項には嫌な冷たい汗が流れる。
 ほしい答えが来なかったのか、その柚子を少しにらむと、水木は同じように調査に戻った。

「(わあすっごい不穏。水木くん、そんなんじゃ助けられるものも助けられないよ。逆にそんなんじゃすぐ殺しそう。君絶対意図せず殺すたち悪いタイプだよね)」

 ただひとり。弥里だけは水木を見てそう思った。





「そっちなんか見つかった?れお子さん」
「何もない」

 一方変わって別のグループ。こちらではれお子、アスカ、ヒナタ、百合、まろんがあたりの調査を行っていた。だが新しく見つかったものなどは見られず、どれだけ調べてみてもハズレばかり。そうかんたんには行かないようだ。あったとしても放置されている人骨くらいで。流石に黙祷は捧げたが、ちょっと危険な気がする。

「まさかここまで人骨が放置されてるとはね」
「予想外、だった」
「それほど大規模だったのよ、この火災は」
「実際水木くんもその火災にあって、消えない火傷痕をつけちゃったらしいし、ああそういえばフォルテも───」

 ヒナタが何かを言いかけたとき、場の空気はピタリと固まる。ヒナタもあっという顔をして、手に口元を当てる。この場に水木本人がいなかったことが幸いだった、というようなことをれお子が言うと、ごめんと一言ヒナタが謝る。

「この話は軽率に出しちゃいけなかったやつよね。ごめんほんと」
「まあまあ彼本人がいないから、まだ良いでしょう。尤も、良い話でないのは確かだわ」

 百合はそう言うと、空を見上げて目を細める。嫌に良い天気ね。そうつぶやいてみせた。

「だいかさい、だいかさい?あおもりあおもーりー、まろんわかんないわかんないっ」
「ああ、そうだね。『今の』まろんちゃんにその『記憶』は共有されてないかあ」
「まろんはまろん、あなただあれ?わたしだあれ?わたしまろん?まろんだあれ?まろまろまろーんけらけらけらりん」
「うーん、これ別の『人格(おもかげ)』にして来たほうが良かったんじゃ」

 ───フォルテ、『人格(おもかげ)』。藤山まろんのフォルテであり、藤山まろんを『藤山まろんたらしめている』そのもの。かんたんに言えば多重人格、というやつだろうか。人格、姿形、声をもろとも『全く別のもの』へと変えるフォルテ。ただこのフォルテは限度はなく、ころころとしょっちゅう人格(おもかげ)が変わってしまう。本人の意思があったとしても、なかったとしても。だから、そこにいる『藤山まろん』が果たして『藤山まろん』であるかどうかすら、確かめるすべはないのである。もしかしたらもとから、『藤山まろん』など『存在しなかった』のかもしれないのだから。
 だから彼または彼女に、青森大火災の記憶は『ひとつを除いて』存在しない。記憶は共有されないのだから。

「まあまろんちゃんのことはアタシが抑えるからいいとして。とりあえずアタシたちは周りを警戒して、調査を再開しましょう。グローリアがここに来ないとは限らないんだから」
「はーい」

 その一言で各々また調査し始めた。何が見つかるとかは、次の瞬間の自分たちにしかわからない。





『なんで…なんでいま!』

 少年は絶望した。力が目覚めたのは何もかも手遅れになったあとだった。

『今になってこんなのがでるなんて……』

 少年は折れた。その力は手遅れになった自分をあざ笑っているかのようだった。

『こんなの……こんなの……こんなのぉ!!』

 少年は自らの手の周りに現れた『水球』を、自らの手で破壊した。


水球は少年の頭を濡らしただけだった。



続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.21 )

日時: 2018/11/28 20:37
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「そういや」
「どないしたん狂示」

 マグノリア医療室。たまたま遊びに来ていた狂示と那生は、互いに菓子をつまみながら昔話やらなんやらに花を咲かせていた。その中で唐突に、狂示は何かを思い出したようで、ぼそりと零す。那生はもう何個目かもわからない菓子に手を出し、狂示に声をかける。狂示は食べかけの菓子を一口で頬張りいくらか咀嚼し飲み込むと、茶を飲んで話を始める。

「いや、チームケイオスのメンバー。『2人』たんねーなと思ってな」
「2人ィ?誰と誰や?」
「ホレ。あの『魔法使いと弟子』」
「んんー……あぁ、せやな。どこいっとるんやろか」

 狂示と那生はまた思い出話を始める。それはマグノリアが今のような形になる前。そして今の形になってから。マグノリアにふらりと戻ってくる、『流れの魔法使いとその弟子』の話。
 チームケイオスで流星と同じくらいの歴で、特定の場所に居着かない。ふらりとやってきては窮地を救い、あるとき突然姿を消す魔法使い。そしてその魔法使いのそばを離れず、魔法とは似ても似つかないフォルテを使う、20に満たぬ弟子。

「今度はいつ戻ってくることやら」
「案外近かったりしてなぁ」

 狂示と那生はにやりと互いに笑うと、ひとつだけ残った菓子に同時に手を伸ばした。





 雲行きがだんだんと怪しくなってきた、燃え尽きた青森県にて。チームケイオスの面々は変わらず、周辺の調査を進めては居たが、特にこれといった発見はなく。すべてが徒労に終わりそうであった。現に、流星は顔にこそ出さぬものの、目は諦めが混じっている。他のメンバーも、もうめんどくさくなってきた、というのが本音だろう。絶対に声には出さないが。
 そのほんの数分後、別行動をしていたヒナタ達が、疲れた顔をして流星達のもとへ戻ってきた。

「しきかーん、こっちにはもう何もなかったですよー」
「保瀬ヒナタ。そちらは終わったのか」
「ええ、ええ。なーんにもなかったです。というかこの調査やって意味あります?こんだけ燃え尽きて何もないのに」
「『何もない』のを『確かめる』。それも立派な調査だ」

 流星はしれっとそう言うが、ヒナタは訝しげな顔をしてあたりを見回す。
 本当に何もない。建物と呼べるものは、殆どが燃え尽きてしまい、視界の邪魔となるものはないと言っていいほどだ。やはり調べても何も出てこなさそうだ。強いて言えば、雨が振りそうだなあとか、グローリア来たりしてなあ、とか。

「(わざわざ青森大火災の日に、水木くんのトラウマえぐるようなことしなくてもいいと思うんだけど)」

 ヒナタはちらりと水木を見る。当の水木は癒えない傷に塩を塗りこまれたかのように、顔には疲労と別の何か───例えるなら絶望───の色が、複雑に混ざり合っている。手は止まってどこでもない虚空を見つめ続けているだけ。隣の柚子はそもそも作業に飽きているため、全く別のことをしていた。とは言っても体育座りで寝ているだけなのだが。

「(水木くん大丈夫かな、隣の柚子はスルーしておくとして)」

 ヒナタは水木に近づき、声をかける。

「水木くん疲れた?」
「……あ、いえ。ちょっと考え事を」
「そっか」

 それ以降会話は続かなかった。それ以上踏み込むのは良しとしなかったのか、タネが見つからなかったのか。ヒナタと水木は互いに虚空を見つめる。やることがないから。飽きたから。
 その様子を弥里はじっと見ていた。面白そうとか、そういう理由ではなく、単に気になって。弥里はじっと2人を見続ける。ちょっかいを出してやろう、少し話しかけてみよう。そんなことは思うはずもなく、弥里はしばらくしたあとに注射器を懐から取り出し、そーっと水木の方へと近づいていく。音もなく、そーっとそーっと。───だが。

「やんないけどねー」
「えっ?」

 ぼそっと言ったあと、水木が咄嗟に振り向いたため、弥里は手にしていた注射器をすぐさま懐へとしまった。そしてニッコリ笑うと、水木の肩をがしりとつかむ。

「もうすぐ帰る時間だから、帰ったらヒロポン打とうね」
「嫌ですよ!?」

 ケラケラケラと弥里は笑うと、水木の方から手を外してもとの場所へと戻っていく。残された水木は何がしたかったんだとこぼしつつ、その場にまた座り込んで、何をするわけでもなく暇を持て余していた。
 弥里の方はというと、一瞬真顔になったかと思うと、すぐさまニッコリとした笑顔に戻り、流星の隣へと戻る。

「(なんだ、元気よく返事できるならまだいい方じゃん)」

 ヒロポンは打たなくていいかな?なんてことを思いながら、やることもないのであたりをぐるりと見回す。いやほんとに何もないなあ、まさか故郷がここまで燃えるとは思わなかった。なんて他人事なことを思う。

「きれいに燃え尽きたなー」
「…ああ、お前も青森出身だったな」
「えーまー。尤も大火災起こる前に上京してたんで、どうでも良かったんですけど」
「懐かしいな、あの頃のお前は見るに耐えない姿だった」
「ちょっともー懐かしすぎるからやめてくださいってば〜!」

 流星の背中をバシバシと遠慮なく叩く弥里。その顔には明らかに、『掘り起こすのやめろ』と書いてあった。顔こそ笑顔ではあったが、それが逆に恐ろしい。周りは青ざめた顔でそちらを見ている。

「背中が痒くなるからやめろ」
「はぁい。んでそろそろ帰る時間じゃないです〜?雨も振りそうですしぃ」
「……そうだな。特にこれといった発見もなかったしな。これではただ来て荒らしただけになってしまったが」
「ほんと何しにきたんですかね」

 全員の顔には披露の文字が浮かんでいる。結果は何もなかった、得られたものはそれだけだった。これ以上ここにいても無駄だろう。

「さて、帰るとするか。本部に通信……?」

 流星が帰還しようとして、インカムをつけて通信をつけようとした。が、流星はあとに続くであろう言葉を発さなかった。何かあったのだろうか。

「指揮官?早く帰りましょ?」
「……おかしい。繋がらん」
「へっ?」
「何度も通信をかけてはいるんだが……応答がない。完全に繋がってない」

 そして次の瞬間、れお子が何かに気づき、大声を上げた。

「全員伏せろッ!!」

 刹那、鼓膜に響くのは爆発音。爆風がチームケイオスを襲い、音は衝撃波となってやってくる。辛うじてヒナタが体の一部を『盾』に変化させ、ある程度の被害は防げた。煙は濃く、各々は口元と鼻を手で覆い、誤ってその煙を吸わないようにする。
 ようやく煙が晴れてきた頃、ヒナタは変化を解除し、その爆発音がした方向へ顔を向ける。

「ッ、皆戦闘準備!」

 そこには、『グローリア』の紋章である『槍と剣』が描かれている旗が立っていた。周りには、それらしき人物が数人ほど。そしてこちらへ向けて、銃口のようなものを向けている。明らかにこちらに明確な敵意を持っていることが伺える。その背後には、フォルテッシモの姿も何機か確認された。確実に、こちらがマグノリアであることを分かっている。もしわかっていなければ、無闇矢鱈に武器は構えないし、そもそもフォルテッシモなど持ってこない。
 チームケイオスの面々は、一同にそれぞれの武器を構える。あるものは銃、あるものは刀、あるものは鞭、あるものは注射器。

「通信が繋がらないのは奴らのせいですかね、指揮官」
「十中八九そうだろう。『周囲転換』もなされているからな」
「もっと警戒しておくべきだったわね。いくら燃え尽きた青森県とはいえ、ここにグローリアが来ないという保証はないわけだから…」

 そう言って百合は憂鬱だわ、とため息をつきながら鞭を振るう。その瞳にはかすかな怒りが生まれている。

「───チームケイオス、緊急事態。グローリア襲撃アリ。これより我々は迎撃を行う。総員、戦闘を開始する」



『我々は、混沌であり狂気である』






「───お師匠。何やらめんどくさそうなことになってるけど」
「そんなにめんどくさそうかな?まあ、だけどまだだめだよ」
「何がですか?」


「───奇跡は、突然くるものさ」


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.22 )

日時: 2018/11/28 20:38
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「んえ?」

 マグノリア医療部。そこで暇を持て余し、ベッドの上をゴロゴロとしていた御代は、突然開けられた部屋の扉へ目を向ける。そこに立っているのは、見間違えようがなく、リーダーの狂示であった。狂示はニヤニヤと何やら楽しげに、御代のもとへやってくる。うわ何だ気持ち悪い、何考えてんだ。
 狂示はクックックと笑いながら、御代に話しかける。

「喜べモーニングマウンテン。お前今から絶対安静撤回」
「はぁ?」
「なんでだと思う?」
「知らねーしわかるわけねーうぇい」
「だよなー!」

 どっと大きく笑うと、狂示は親指をぐっと立ててみせる。なんの意味があるんだそのポーズは、と思ってみるが、口に出すのはやめておく。絶対面倒くさいことになるから。御代は訝しげな目で狂示の次の言葉を待つ。

「青森でチームケイオスが戦闘に入った。グローリアの連中が嗅ぎつけたみてぇだ。つーわけでお前開放。早く行ってさっさと抑えてこい」
「いきなりうぇいね?」
「数は多けりゃいいだろ。ほれ行ってこい。どーせ暇してたんだろ?」

 さもねーと流星にお前が病室から脱走したってチクんぞ〜と、随分と楽しげに狂示は言う。どうしてこんなにも楽しそうに言うのだろうか。単に面白いのか、別の理由があるのか、そもそも頭がおかしいのか。考えれば選択肢はごまんとあるのだろうが、面倒くさくなってやめた。これ以上考えても無駄なだけだ。
 御代は背伸びをして体をほぐす。たった1日だけだが動かしていなかったためか、バキバキと音がなる。確かに暇はしていた。やることがないし、娯楽室に行こうにも、絶対安静を言渡されているために行きづらかった。だからベッドの上でゴロゴロするしかなかったのだが、正直飽きた。ならばこの狂示のこの誘い、乗らないわけには行かない。とにかく体を動かしたかった。

「よしっ、行ってくるうぇい!」

 ベッドから飛び降りると、御代は一目散に部屋から飛び出し、出撃室へと向かっていった。
 その後ろ姿を狂示は元気でいいねえと見送ると、懐からタバコの箱を取り出し、1本取って火をつけると、途端に顔つきを変える。

「……さてと。俺は『調べ物』をしとくか」

 タバコの煙は、ゆらりゆらりと不審に揺れる。





 先に仕掛けるはヒナタ。まずは腰に下げていたガンホルターからハンドガンを出して構え、誰に当てるでもなくひとつ弾丸を放つ。弾丸は狙ったとおりに、誰にも当たらず一定の距離まで行くとゆるゆると地に落ちる。それに続くように百合と柚子が動く。相対するグローリアの構成員も、彼らに向かってやってくる。百合と柚子、構成員数人がチリッと近づくと、百合の鞭、柚子の『指鉄砲』が相手側より早く動いた。

「───『君を、撃ちます。』」

 柚子の透明な声が響き渡ると、銃を撃つ真似事のように、指で作った鉄砲を上に上げる。するとその指鉄砲の先にいた構成員の1人の丁度胸のあたりが、見事に派手な音を立てて穴を開けた。『何も貫いていないにもかかわらず』。構成員は糸が切れたように地に伏せた。
 フォルテ、『ガン・ショット』。手を鉄砲のような形に作り、対象者にむけて『君を、撃ちます。』と言いながら銃を撃つ真似をすると、その相手を確実に撃ち抜けるというもの。弾丸も何も残らない、『何かと』便利なフォルテだ。
 柚子が相手を撃ち抜いた次の瞬間、横から百合の鞭が向かってきた残りの構成員を縛り上げる。そしてそのまま空中へ高く放りなげたと思えば、後ろから水木が手をそちらへ掲げ、念を込める。すると構成員はたちまち、どこからともなく現れた水球によって閉じ込められる。
 フォルテ、『水沫(みなわ)』。水場のない場所でも、水球を作り出せるフォルテ。その水球を大きく作れば、人をその中へ閉じ込めることもできる。勿論その中に閉じ込められた人間は、呼吸もできずに時間がくれば溺死、または窒息死する。そしてその水球をはじけさせ、大規模な火事を消すことだってできる。だから、だから。水木はこのフォルテが嫌いだった。何よりも嫌いだった。

「……あの時、これが発現してさえいれば」

 故郷は焼かれずに済んだのかもしれないのに。





 時は遡ること3年前。青森大火災。当時の水木は、眠り続ける『カナム』をやっとの思いで救出し、とにかく火のない安全な場所へと避難を急いでいた。その間、何度も何度も見た。人々が火に呑まれ、焼かれてもがき苦しんでいくさまを。その中には友人もいた、親戚もいた。そして、自らの親もいた。水木の両親は彼を逃し、言った。『お前だけでも生きろ』と。その直後に両親は火のるつぼとなった、かつての家に呑まれていった。最後に聞こえたのは、絶叫だった。

『────カナム、だけでも』

 彼はひたすらに逃れた。火の魔が及ばない、遠い遠い場所へと逃れた。カナムも連れて逃れた。水木は必死に逃れた。ただただ生きるために。死なないために。
 しばらくしないうちに火の手はもう来ない場所まで来たようだった。遠くに見えるは焼かれゆくかつての故郷。その場所に、友人も、両親もいる。手を付けられないほどに火の手が広まっている。水木は茫洋と故郷を見つめることしかできなかった。
 そんなときだった。

『え───』

 自らの手から、小さな水球が生まれていた。尽きることはなく、ポコポコと。それは水球どうしてくっつき、次第に大きくなっていく。やがてあれだけ小さかった水球たちは、ひとをひとり包み込めるくらいの大きさにまで膨らんでいた。そしてはじけた。はじけたそれは確かに『水』だった。間違えることなく、水木を水浸しにしたのだから。
 水木は己の手をまた見る。コポコポと再び水球が生まれる。水球どうしがくっつき、大きくなる。
 その意味を『全て理解した瞬間』、彼は絶望し、絶叫を上げる。


『ッあああああああああああああああ──────!!』


 その叫びはどこまでもこだましたが、彼を包み込むものは、憎らしく膨れ上がった水球しかなかった。





「……」

 ギリ、と奥歯を噛みしめる水木。自然と握り拳に力が入る。形相も怒りへと変わっていく。生み出される水球も数をだんだんと増やしていく。許さない。何を?過去の自分自身を。『フォルテが発現した過去の自分自身を』。あの日から彼は笑うことをやめた。夢を追うこともやめた。甘えることも、休むこともやめた。これも全て、許せないから。許さないから。

「許さない……」

 ついこぼれてしまうその一言に、水球はますます数を増やしていく。目障りなくらいに膨れ上がった水球も増えていく。すでに閉じ込めた構成員は、足をジタバタとさせ、もがき苦しんでいる。せいぜい苦しめばいい。せいぜい苦しんで死ねばいい。お前たちも許さない。水木は強く強く思う。

「死ね────ッ!」

 水球を空高く浮かばせ、更に高い場所でそれを弾けさせると、構成員を地に落とした。その瞬間、飛び散る脳漿。もはや人の形を保っていない。見るにたえないものがあたりに飛び散っている。

「水木くぅん、ちょっとやり過ぎだよ〜後処理大変じゃ〜ん?」
「……弥里さん」
「でもお、グッジョブ〜!後でご褒美にヒロポンあげるよ」
「お断りします」
「えぇ〜」

 それを後ろから見ていた弥里が水木に近づき、声をかける。水木は面倒なのに声をかけられた、と思いつつもしっかりと受け答えをする。もちろんヒロポンはきっちり断らせてもらった。そんなのは勘弁願いたい。たとえ死んだとしてもだ。

「それじゃあしばらく休んだら?ちょっと顔色悪いよ、怖い」
「はっきりいいますねえ…まあ、流石に言葉通り、休ませてもらいます」

 水木は一気にドシャっとその場に座り込む。彼のフォルテは維持をするのに、かなりの集中力と精神力、そして体力を必要とする。あれだけのことをやったのだ、水木の体は疲労がずっしりと乗っかっていた。
 それの前に出るように、弥里はやたらと大きい注射器を構える。中身はなにやら不健康そうな色をした薬品か何かが入っている。十中八九、というより確実に人体には有害なものが詰まっているだろう。

「今度は弥里ちゃんの出番っ、お薬の時間ですよぅ?」

 そう言いつつ、弥里は別の注射器を取り出し、自らの首にそれを打ち込んだ。





「お、来たみたい」
「びゃーっと登場うぇいっ!」
「ストップあさみよ。何かまだ出ちゃだめだってさ」
「へ?だめうぇい?」
「うん。お師匠がまだって。何のことか知らないけど」
「な、なんでっ?」 


「だって私は流れの魔法使い。姿を現すなら、それはもう奇跡。奇跡は突然くるものだからね」


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.23 )

日時: 2018/11/28 20:40
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 水木が数人を倒したことにより、チームケイオスは一気に連中との距離を詰める。詰めている最中にやってくる攻撃の数々は見事に、百合の鞭さばきで弾き返した。フォルテを使ったことにより、疲弊した水木は弥里の背によって守られる。水木を狙い、やってくる連中の攻撃も、弥里が防ぎ切る。少々危なっかしいところはあったものの、おかげで水木は無傷だ。弥里が渡したミネラルウォーターを少しずつのみ、消耗した体を癒やす。
 彼のフォルテは水を使う。フォルテを長い時間使ったり、また短時間でかなりの力を使うと、体中から水分が抜け落ちて行く。単にフォルテを使ったことによる体力的、精神的疲労もくるが、彼の場合はそれもあるため、休むときにはミネラルウォーターが欠かせない。多少なりとも、疲労回復はしてくれる。何かと楽な身体だな。水木は思う。
 距離を詰めたらやることは一つ。グローリアの連中を徹底的に叩き潰すだけ。否、距離を詰めなくともそうだと決まっている。残りの連中の1人に、まずヒナタが手をナイフに変えて切りかかる。動きを読まれていたのか、すぐにかわされてしまうが、それでもナイフの切っ先には血がついていた。かすり傷程度は負わせられたようである。
 ───フォルテ『銃刃変化』(じゅうじんへんげ)。体の一部を銃やナイフといった武器に変えることができるというもの。ただしそれには制限があり、『一度自らの目で見たことがあるもの、及び触れたことがあるもの』にしか、変化させることはできない。もしそうでなければ、あやふやな変化となってしまい、とてもじゃないが武器とは呼べるものではなくなってしまう。
 だからだろうか。ヒナタは服のそこかしこに武器を隠し持っている。種類は問わない。ただ『変化できる武器』であれば、かたっぱしから用意しているようだ。

「後ろに引いたって無駄だかんねっ!」

 すぐにヒナタはナイフから銃へと手を変化させ、一発鉛玉を撃つ。急所には当たらなかったが、ちょうど右肩のあたりに食らわすことはできたので良しとする。体に当てるより肩に当てる方が難しいと聞いた。あくまで聞いただけだが。だが相手もやられっぱなしではない。すぐにその傷はある1人の手によって塞がれてしまう。気がつけば水木が倒した───正確には『殺した』だが───奴らが、その1人の手によって回復していき、完全復活してしまう。どうやらかなり強い回復の力を持つフォルトゥナらしい。先程から傷を追わせた者に対し、ずっと回復をし続けている。その傷は完全に塞がれ、むしろ傷を負う前より良くなっていると言っていいほど。ならばそいつから倒すだけ。いち早く動いたのはれお子だった。
 れお子は仁王立ちになると、一気にポーズを決める。そして高らかに叫んだ。


「『英雄顕現(ヒーロー・ネクスト)』!!」


 その瞬間眩い爆発とともに、れお子の周りを虹色の光が包み込む。まるで特撮や子供向けの変身ヒーローのアニメを見ているかのような気分になる。
 れお子の服は地味なものから、ところどころに可愛らしい装飾のついた少し派手目なものへと変わっていく。髪の毛もいつものロングストレートから、サイドテールへと様変わりし、メイクもされていく。そして最後に手を叩けば、その手に手袋がはめられ、虹色の光が晴れる。
 そこに現れたれお子はもはや、いうなれば───そう、女児が一度は夢見たであろう『プリティでキュアキュア』な戦士。

「この私が成敗するッ!ハァッ!」

 その言葉とともに、れお子の強烈な蹴りが、回復薬のグローリアの人間の顔面にキレイに入る。蹴りを入れられたその者は、もろに食らったためか遠くへと吹き飛んだ。れお子は攻撃の手を緩めず、今度は強烈な拳を、近くにいた別のグローリアの人間のちょうど腹のあたりに叩き込む。叩き込まれたことによって相手の体制が崩れたので、そのまま後ろに回り、かかとを項のあたりに落とす。そのままその者は地に伏せ、動かなくなった。
 ───フォルテ『英雄顕現(ヒーロー・ネクスト)』。自身の思い描いた英雄像に変身するというもの。思い描いた英雄像が強く、そして固いものであればあるほど、その英雄に転身したときの力は計り知れないほど強くなる。逆に、英雄像が定まらず、転身するたびに姿が変わると、人より頭抜けて強い程度にしかならない。強い英雄像を描くには、確固たる心の思い、そして心の強さが必要になっていく。
 だがいまのれお子は、自身の思い描く英雄像は定まっておらず、自分自身にとっての『ヒーロー』が、まだはっきりと掴めていない状況にある。だからなのか。今彼女は『女児にとってのヒーロー』に変身しているが、本当に追い求めているのは『仮面のヒーロー』であり、変身しているものからは程遠い。だけどこのヒーローも好きだ、なりたい。そのあやふやさが、時として刃となる。
 それがいつ来るのかはわからない。けど今は、こうしてやってきたグローリアの連中を叩き潰すだけ。それ以外に戦う理由はない。たとえどんなヒーローになったとしても、その力をふるうのみ。
 その隣ではアスカが蘇ったグローリアの人間の1人に対し、攻撃を仕掛ける。ヒナタから借りたナイフを投擲し、更には懐に隠していた針も投擲する。大してダメージにはならなかったものの、そのものをよろけさせるには十分なものだった。いっきに距離を詰め、アスカは口元をゆっくりと上げて、目を細める。笑顔のように見えるが、その目は全く笑っちゃいなかった。

「ねえ、貴方。『どうして生きてるの?』」

 ゾッと言うような音が聞こえる気がする。アスカの口から紡がれた言葉は、たしかに相手の心に入り込む。そこからじわじわと、言葉は心を侵食する。アスカは変わらない笑顔で、問いかける。

「ねえ、『教えて?』」

 甘く、それでいて気味の悪い言葉は、じとじとと心を蝕む。入り込まれた場所から、腐って融けていくみたいだ。気がつけばその者は目尻に涙をため、口から唾液が垂れ流しになる。足はガクガク震え、まるで生まれたての子鹿のようだった。漏れでる声は、もはや言葉としての機能を為してはいない。喃語をひっきりなしに出していく。その間もアスカの『それ』は続いていく。教えて?教えて?と問うているだけなのに、相手はどんどん壊れていく。目はあらぬ方向を向き、ぷらんと手は垂れ下がり、しまいにはどしゃりと地に落ちる。それを見て、アスカはにっこりと微笑み

「おばかさん」

とだけ吐きすてた。
 何が起きたのかわからないこのフォルテ───『Tell me?』は、彼女が『知りたい』と思った相手にのみ効果を発揮する。彼女が『知りたい』と思った人間に、『知りたいこと』をただ『教えて』と乞う。ただそれだけのフォルテだが、実はその人物を内側からどんどん壊していく恐ろしいものだ。ただ教えてほしいと言い続けるだけ。『たったそれだけ』で、相手は心を蝕まれ、それはやがて表立って出てくる。先程のように。彼女は相手がどんな状況になろうが、ただ教えてと乞う。問い続ける。本当にそれだけ。

「えげつないなあ、アスカちゃん」
「それは貴方もでしょ、柚子くん」
「あはは。それほどじゃあ」
「でも本当にえげつないのは」
「……うん、彼女だよねえ」

 アスカと後からやってきた柚子は互いにある一方を見る。その視線の先には水木を庇いながら戦い続ける弥里の姿。なのだが、何やら様子がおかしい。よくよく見れば、妙な液体が入った注射器を、自らの首に差し込んで注入している。一瞬だけ見せられないような恍惚の表情をしたかと思えばすぐに治り、その同じ液体が入った注射器を、グローリアの連中の首元にどんどん刺していく。刺されて注入された者達は、所謂『ラリ』った状態になり、ひとしきり奇声を上げたあとに、血を吹き出して地に落ちる。その様子を見て、弥里はケタケタと笑いながら人間だったものを、つんつんとつつく。もちろん、指ではなく注射器の針で。後ろから見ていた水木の顔は、青ざめるとか、恐怖とか言ったものではなく、『ドン引き』の表情であった。

「まあ、ああなるよね」
「そりゃね」

 アスカと柚子はため息をついて、背後から襲ってくるグローリアの人間の攻撃を軽くのし、踏みつけたあとに戻ろっか、と一言つぶやいてもとの場所へ行こうとする。

「……ふ、ふふふ。バカめ、バカどもが。本当にバカどもが。我々とこんなふうに遊んでいる暇があるのなら、さっさと殺していればいいものをッ!」

 突然、柚子が踏みつけた場所から、そんな悪あがきのような声が聞こえたと思ったら、地面が揺れ動き始めた。あまりにも突然のことだったので、アスカと柚子はバランスを崩し、尻餅をついてしまう。周りもそんな状況だったようで、何が起きたんだという顔がほとんど。そんな中ひときわ大きく音がなる場所があった。そこに顔をバッと向けると、視界いっぱいに広がったのは、瓦礫の山々が自ら動いて形となっていく様。それらはやがてしっかりとした輪郭をとり、はっきりと形になる。
 それはまるで『フォルテッシモ』。瓦礫で作られたフォルテッシモだ。ただ普段見ているものより、かなり大きなサイズのものだ。
 そういえば奴ら、こちらを襲うにしてはなんだか力加減をされているようだった。なんどやっても回復してくる、なんどやっても殺そうという気が見えない。長期戦に持ち込むつもりかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

「……はじめからこれ狙いか」

 流星はぽつりとつぶやく。だが、それに返すものはいなかった。すでにグローリアはその場から消え去っていた。十中八九グローリアの支部や本部へと帰ったのだろう。この『瓦礫フォルテッシモ』を残して。殺しの汚名を自らかぶらず、そこら辺のもので適当に作った何かによって、殺させる。それがいい策なのか汚いのかはさておいて。少しは頭が回るようだ。

「指揮官、どうします?」
「相手するにしても、このデカさは…」
「───大きさでとやかく言っていたら、何もならないだろうが。立ちふさがる敵は叩き潰すだけ。たったそれだけだ。いいな、チームケイオス」
「無茶苦茶言いますね!」

 まあでも仕方ないかなあ。最初に指示を求めたヒナタは、肩をがっくり落としてデカブツを見やる。この大きさ、たしかに叩き潰すだけならいいんだろうけど。周りに行く被害が尋常じゃなさそうだ。周りというのは建物や環境のことではなく、自分自身の周り。すなわちチームケイオスのメンバーたちのこと。もしこいつを倒せたとしても、瓦礫はガラガラと崩れ去り、我々を押しつぶして形を消していくだろう。そうなったら終わりだ。何がって人生が。

「やるしかないんですよねー」
「嫌なら帰ればいい」
「帰りませんよう」

 各々は自らの武器を構える。見据えるは、目の前の瓦礫で作り上げられたフォルテッシモもどきのみ。流星は刀を構え、ひとつながく息を吐き、少しの間を持って突っ込もうとした。
 その時である。



「────おっと、私達も参加いいかな?」



 突如として響く声。流星はピタリと動きを止め、ほかのメンバーたちも構えを少し解いてそちらを見る。そして視界に写った姿を見て、流星は目をカッと開く。

「やあ、久しぶりだね。『流星くん』」
「せんせ……指揮官。相変わらずすごい髪の毛ですね」

 流星はゆっくりと名前を紡ぐ。

「……竹澤吟子(たけざわぎんこ)、胡代翡翠(こしろひすい)?」
「ははは。フルネームじゃなくていいのに。変わらないなあ」


 あの時と変わらぬ姿で、『魔法使いと弟子』がやってきた。


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.24 )

日時: 2018/11/29 22:14
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「久方振り……だな」
「そんなに固くならなくていいじゃない。お互いマグノリア古参メンバーなんだし」

 ケラケラと笑って答える魔法使いこと、竹澤吟子。杖を軽く振り回し、作り上げられた巨大物体から落ちてくる瓦礫たちを弾く。その巨大物体───瓦礫フォルテッシモを見上げ、ひゅう、と口笛を鳴らす。

「いやあ壮観だね。よく作り上げたねえ、奴さん」
「お師匠、これもフォルテ?」
「十中八九そうだろうね弟子くん。でなきゃ作れないよこんなの。自分の重みで崩れてるはずさあ」

 弟子くんと呼ばれた、吟子の傍らにいた胡代翡翠は、皮付きのみかんを頬張りながら同じように瓦礫フォルテッシモを見る。その後ろからアスカが、皮付きのみかんまるごと食べると美味しいよね、と翡翠に歩み寄る。その翡翠はもぐもぐと食べながら、バッグから皮つきのみかんを取り出してアスカの口の中へと突っ込む。
 そびえる瓦礫フォルテッシモはとにかく巨大だった。だが足元は不安定で、いつそれごと倒れてきてしまうかと、ヒヤヒヤしてしまうほど。否、もうすぐ倒れてしまうだろうと、断言できるほどだ。流星はひたすらに頭を回転させる。どうやって被害を最小限に食い止めるか、どうやってこいつを倒すか。いくら周囲転換で空間が切り離されているとはいえ、もし仮にこいつを正攻法で倒したとしたら、大量に瓦礫は崩れ落ち、こちらへくる被害は甚大なものとなるだろう。
 突然の救援で、吟子と翡翠が来たとはいえ、吟子のフォルテではこいつの崩壊を食い止めるには限界があるし、翡翠に至っては戦闘向きでもなければ、サポート向きでもない。強いて言うならば手にしている巨大なフォークで何かを刺すことくらい。今の状態では全く戦うということは考えられない。どうする、どうするか。

「指揮官、正直にここは壊しちゃいましょう」

 不意に、背後から声がかかる。そちらを見ればそこに立っていたのは、他の誰でもない───

「……藤山まろん、何を考えている?」
「私達の名前はそうでしょうけど、『あたし』としての名前は『藤田浪漫(ふじたろまん)』ですよ。前にも言った気がしますけどー?」

 先程までの空気とは打って変わって、どこか知的な雰囲気を漂わせる彼女───藤山まろんの中の、『藤田浪漫』は、口角を少しだけ上げて、瓦礫フォルテッシモを指差す。

「だってあれ、壊す以外に何かあります?ないでしょ。そんでもって壊す方法が何か安全なのあるかって言ったら、それもないでしょ?フォルテでどうにか被害が行かないように〜なんて言ったってですよ、体力持たないでしょあんな大きさじゃあ───。だったら真正面からぶっ壊す。単純明快、これのどこに迷う選択肢があるんです」

 まろん、否浪漫は、多少の身振り手振りをつけながら、まるで物語を語るかのように言葉をつらねた。その笑顔の本心は読めず、まるで『こう言ったけど責任は取らないよ』とでも言いたげである。流星はその浪漫に眉をひそめはするが、それで終わる。

「とりあえず頭からブッ壊しましょうよ。それならまだ」
「……ああ、そうだな。チームケイオス、戦闘準備。対象は瓦礫巨大物体。破壊方法は───」

 ひと呼吸おいて、流星は言う。


「真正面から、やる」





「───青森でぇ?」
「せやで〜、ほいこれ」

 一方、マグノリア本部のリーダー室。突然ノックもなしにやってきた那生に、狂示はしかめっ面をうかべるものの、彼から報告された事項に、思わず間抜けな声を出して復唱してしまう。青森大火災後の調査に行ったものの、やけに帰りが遅かったので流星に連絡を取ろうかと思っていたところでのこの報告。まさか、焼け野原の青森でグローリアとの戦闘があるとは。狂示は思わず大きなため息をつく。おいおい勘弁してくれよ。と。

「んーとな、まずグローリアがきたやろ。そんでもって周囲転換してー、ドタバタ戦闘でー、んで今は向こうさん、瓦礫で作ったでっかいフォルテッシモ作って逃げおったみたいや。チームケイオスはそれの処理に取り掛かり中言うところやんなぁ」
「はァー……奴ら面倒なのに巻きこまれたもんだな」

 ため息をついて椅子に深く座り込む狂示。流星も行っているとはいえ、随分と大変そうだなあ、などと他人事のように思う。まあでもあいつのことだ。さくっと終わらせるだろう。特に心配することといえば、青森大火災が起きたこの日に、燃え尽きた生まれ故郷に調査しに行った水木のメンタルか。それとヒナタが必要以上に脱いでいないか、とか。
 ふと、狂示は『魔法使いと弟子』のことを思い出す。そして那生に、そうだそうだと言いながら話をふる。

「お吟と翡翠は今どこにいんだ?」
「へ?ワイにもわからんわァ?どないしたん」
「うーむ…」

 神妙な顔になって考えこむ。那生はその様子の幼馴染をどこか不審に思いつつも、何かあったのかと聞いてみる。

「……オレの思いこみなら、いいんだけどな」
「?」

 ───面白半分でその現場にいねえだろうな。
 乾いた笑いを浮かべながら思ってしまったそれは、今現在まさにそれが起こっているとは知る由もなかった。

「あ、そういや病室から御代はん消えとったんやけど、狂示ィ……?」
「おっとぉオレァ今急に耳が悪くなったみてえだ、けぇれけぇれ」





「とっどっけえええええッ!」

 ヒナタの腕はフォルテによって大砲へと変わり、狙いを定め、瓦礫フォルテッシモの頭を撃ち抜く。ものの見事に頭部は弾けたものの、瓦礫は重力に従って落ちてくることなく、空中に漂う。そしてまたたく間に逆再生するかのように、もとに戻っていた。

「うえ、回復機能付きぃ?」
「これもフォルテのようだねえ。かけられてるフォルテは、様子を見るに『維持』系、『再生』系、『人形作成』系かな?他にもありそうだけど、というか瓦礫フォルテッシモっていうより、まんまゴーレムみたいだ」
「木っ端微塵にやればいんじゃね?アヒャヒャ」
「弥里ちゃん簡単に言うよねえ!」
「だがそれでいい。木っ端微塵に、跡形も残さず粉砕する。それだけだ」

 言うやいなや、流星はまっすぐに瓦礫フォルテッシモ───ゴーレムといったほうが正しいだろうそれに飛んでいく。両手の中にある青く輝き、電流を迸らせる刀たちをゴーレムへ突きつける。触れるか触れないかのところで、電流はゴーレムへと襲いかかり、体を作っていた瓦礫たちはそれを避けるように重力に従い落ちていく。だがすぐにその瓦礫たちは『吸われるように』もとの位置へ戻り、修復されていく。

「指揮官、引いて!」

 直後流星の背後から、れお子の声が響く。その声に従い、流星はゴーレムを蹴って更に上へと避ける。瞬間れお子は強烈な蹴りをゴーレムへとぶつける。派手な音を立てて体を作り上げている瓦礫たちは、いとも簡単に崩れ去って行く。

「────!」

 その時、その場にいたチームケイオスの面々はある物を目にする。それは落ちていく瓦礫の隙間から見えたが、すぐにまた瓦礫に覆われ見えなくなっていく。流星とれお子は体勢を立て直し、ゴーレムを仰ぎ見る。若干動きは鈍くなったかと思ったが、気のせいだったようだ。

「今の、ひし形の水晶は……」

 それを見た百合は無意識に口を開く。その疑問に答えたのは柚子だった。

「───『コア』ってヤツ?」
「おおかたそのとおりなんだろうね。お師匠」
「そうだね弟子くん。さっきの、あれを中心として瓦礫が来たから」
「あれが中心としたら、そのコアを叩けばいいってこと?」
「───恐らくは、そうだろう」

 各々はゴーレムのコアらしきものがあるであろう場所を睨む。ゴーレムはそれを気にせず、己の拳を握りしめ、腕をゆっくりと大きく振り上げる。

「来るぞ、お吟」
「わかってる」

 ゴーレムの拳がまっすぐに彼らのもとへと降りてくる。それよりも早く流星は吟子に声をかけ、彼女もまた手にする杖を振り上げる。瞬間、どこからともなく水が現れ、その水は彼らを覆う『壁』となる。それによりゴーレムの拳は派手な音を立てて弾かれる。役目を終えた水壁は音もなく消えていく。
 ───フォルテ『ソーサラー』。その名の通り魔法使い。様々な『奇跡』の力を借りて、自らや状況に影響を与える。吟子はこのフォルテをとても気に入っていた。魔法使い、なんて浪漫があることだろうか。昔口癖のように言っていたな、と流星は思い出す。その時の吟子の掴みづらさといったら。今もそんなに変わらないが。
 吟子はすかさず直接ゴーレムの足へと杖を軽く振り、どこからともなく吹いてきた風の刃でその足を切り刻む。切り刻まれた足はぐしゃっと崩れ、ゴーレムはバランスを崩す。すぐに再生しようと瓦礫は集まってくるが、それを阻止しようと、ヒナタが間髪入れずに腕を大砲に変え、渾身の一撃を放つ。
 その隙に柚子と水木が飛び、崩れた足とは反対にある腕を狙い、攻撃を仕掛ける。柚子が指鉄砲を作り肩の部分を撃って、水木は水球を作って一部を包み、水圧を強めて腕を破壊する。ガラガラと腕は落ちていく。
 そして流星と百合、れお子、弥里はゴーレムの胴体へ突っ込んでいく。流星は己の刀で瓦礫を切り刻み、百合は鞭でゴーレムの頭部を締め付けてそのまま潰し、れお子は強烈なキックを胴体へと再び食らわせ、トドメとばかりに弥里は手にしていた巨大な注射器をゴーレムへと打ち込み、怪しげな色をした薬品を注入する。
 戦闘向きではないフォルテを持つアスカ、まろん、翡翠はそれをただ見守るだけ。瓦礫からは吟子やヒナタが全て弾き返していたため、被害は特になかった。だがそれでいい。被害がないのが一番いい。
 弥里が注入した薬品が効いたのか、それとも蓄積されてきたダメージが爆発したのか、ゴーレムの胴体は一気にあたりに飛び散っていく。そして顕になる、ひし形水晶───そう、『コア』。流星は眼帯を外し、その『眼』でコアを睨む。瓦礫を踏み台にし、刀を構え、コアへと真っ直ぐに飛んでいこうとしたその時。


「ふっふっふ……あーっはっはっはっは!!うぇい!!」


 突如高らかに響く笑い声。それは空からやってきたらしい。流星ははっとそちらを見上げる。空に浮かぶは1つの影。その影は空中で仁王立ちをして、コアを見据える。そしてにやりと笑う。


「真打ちは、最後に登場───だうぇい!」


 刹那、その影は脚をコアへと真っ直ぐに。まるでそう、その構えはまさに『ライダーキック』そのもの。バキン、とガラスが割れたような音を立てて、コアの全体へヒビが入っていく。最後には一気に弾けて広くとびちって、何もなくなった。コアを消失したことにより、瓦礫もまたたく間に重力に従い崩れていく。

「………な、なんで」
「ふふふ、朝山御代!華麗に参上っ!」

 瓦礫が完全に崩れ落ち、あたりにはチームケイオスしかいなくなったとき、目の前にやってきた真打ちこと、『朝山御代』に注目が集められていた。その当の本人は本人が思う『かっこいいポーズ』を披露している。
 一時(いっとき)の静寂の後、柚子が口を開く。

「御代、どうしてここに?」
「チームケイオスが出撃してるのに、私が来ない理由がないうぇい。本当はお吟さんたちと一緒に来るはずだったんだぷてよ?」
「私が止めたんだ。『真打ちは最後に来るものだよ』ってね」

 くすりと笑う吟子。その隣では翡翠が懐からどら焼きを取り出して、食べ始めている。そのどら焼きを隣からアスカがこっそり取ろうとするのだが、翡翠の行動は早く、アスカの手をぺちりと叩いてみせた。だがそんな説明で流星が納得するわけもなく。

「朝山御代。3日間の絶対安静を言い渡したはずだ。命令違反と捉えるぞ」
「えーでもぉー。リーダーから『行ってこい』って言われたぷて。リーダーに文句言ってほしいうぇいよ」

 リーダー様々うぇい。そうつぶやいてくるくると回りだす。流星は眼帯を直し、深いため息をつくと、咳払いを一つ。

「……チームケイオス、任務終了。これより本部に帰還する」

 片手を上に上げると、指を鳴らす。その瞬間、チームケイオスの面々は消え去っていた。
 残されたものは何もない。





「おけーり」

 帰った先にはリーダーである狂示が待ち構えていた。隣には複雑な顔をした那生も。恐らく御代の事だろう。
 流星はのんきな顔をして出迎えた狂示に、これまた大きなため息をついて文句という名の抗議をしようとする。が、狂示はそれを手で制して、流星を押しのけて一緒についてきた吟子と翡翠に対して話しかける。

「よう。久しぶりだなァ魔法使い?」
「そっちも変わってなさそうだね。リーダー」
「まーおかげさまでな。(つーかオレの予感的中してたんかよ…)」

 狂示は内心乾いた笑いを浮かべる。まさか本当にいたとは。絶対面白半分で戦闘に加わっただろこいつら。その部分が当たっているのかはさておいて、隣の翡翠へと顔を向ける。だが翡翠は狂示に目を合わせることもなく、疲れていたのか眠いのか、さっさとその場を離れてどこかへといってしまった。嫌われたかね。そう思わず口に出すが、吟子はそれをすぐに否定した。眠いだけさ、と。

「さてとチームケイオス。まずはおつかれさん。しっかり体休めてこいよ。報告は流星たちから聞くからよ」

 狂示がそう言うやいなや、流星と吟子、百合を除いたメンバーは、わっと散り散りになった。残ったのはマグノリアでも、成人している数少ないメンバーだけ。

「さてと流星。お吟に百合。あっちであったことを事細かに教えてもらおうか?」
「その前に御代のことについて聞かせてもらおうか」
「ワイもそれ聞こう思てたんや。手伝ってくれへん?」
「ああ。任せろ」
「だぁらそこはもう話しただろうがうるせえな。さっさと報告しろや」
「まあまあここは私がやるよ。───あれは10年前のことで」
「お吟は今は黙っててくれややこしくなる。百合」
「お断りするわ」

 この日、マグノリア最古参メンバーである数少ない成人組は、らしくもなく子供のような戯れをしたとか、してないとか。





 ────チームケイオス。それは、毎日を面白おかしく生きてしまう、クセが強すぎるフォルトゥナたち。趣味も嗜好も何もかもが違うフォルトゥナたちが集まった、『よくわからない団体』。
 彼らは描き、書きしるす。その時であった『日々のスパイス』を。彼らは語る。毎日の生活で起こった、『小さい軌跡』を。



 ────毎日は、スパイスとほんの少しの『混沌』で満ちあふれている。



第3話【fake town baby】終

 

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