複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.19 )

日時: 2018/10/05 12:50
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「流星は?」
「チームケイオスの会合やて」
「へえ」

 マグノリア喫煙所。いつもならいるはずの別の2人がいない今このとき、リーダーの狂示と医療部長那生は、各々にタバコを吸っていた。狂示のタバコは少しタールが強めのものらしい、とは那生が言っていたことだが、割とどうでもいい。狂示は口からぼわっと煙を吐き出すと、何か考えるように手を顎に当てる。

「チームケイオス、チームケイオスねえ。ネーミングセンスの欠片もねえな」
「それ言ったらアカン」
「つぅかよお、今思い出したんだけどよ」

 自分から出した話題の流れを切り、ふと狂示は言う。タバコはすでに3本目へと突入していた。

「今日でちょーど、3年になるんだな」
「へぁ?なんや?」
「ホレ、青森の───」

 そこまで言うと那生も同様に思い出したようで、間抜けた顔を苦々しいものへと変えた。

「大火災……『青森大火災』やな」

 その言葉が口から漏れ出た時、喫煙所は異様な空気に包まれた。





「さて、まずは朝山だが。つい昨日の戦闘により、3日間の安静を言い渡した故、しばらくは来ない。以上」
「なんで指揮官は無傷なんですか」
「私が秩序だからだ」
「あっはい」

 ところ変わりチームケイオス定例会合。まず流星が欠席の御代について話を終えると、多少の茶番はあったものの、すぐに別の話題へと変わる。それは奇しくも今現在喫煙所にて、那生と狂示が会話していた、あの青森大火災についてだった。

「今日で3年目になる。あの光景は今でも忘れられない」

 その一言に、チームケイオスのひとりであり、青森出身の水木は体を固くする。
 ────青森大火災。それは、3年前に起こった、大規模な火災。青森県のほぼすべてが全焼。死亡者は…生存者が当時100人にも満たなかったというから、数えるだけ徒労になるだろう。
 かつて青森県を突然、火災と呼ぶには巨大すぎる火の塊が喰らうように広がった事件。出火原因は不明。フォルテによるものとも、自然によるものとも。青森県を、火の塊が数日感に渡って焼いた。その火が青森県の外を出なかったことが、不幸中の幸い、いや、奇跡にも等しいだろう。なにせ本当に、青森県以外は焼かなかったのだから。
 その大火災で奇跡的に生存したのが、川上水木。そして別にいるもうひとり。特に水木はその故郷を焼いた火災が原因となり、フォルテが目覚めフォルトゥナとなったのだから、無意識に体を固くしてしまうのは当然のことである。そのせいで、彼は笑顔を捨てたのだから。

「未だ捜査は進んでいない。無理もないだろうな、何せ何もないに等しい状態だ」
「出火原因もですー?」
「ああ。あんな火災を引き起こせるものなど、常軌を逸脱している。それが例えフォルテであってもな」
「そりゃそうよなー、どんだけ強いフォルテなんだって話になるし」

 水木の隣にいた柚子がため息をついて、椅子にもたれかかる。
 確かに柚子の言うとおり、それが例えフォルテだとしても、土地まるごとをいっぺんに焼くフォルテなど聞いたことがない。ましてやあったとしても、使用者の身が持たないだろう。そうなる前に使用者は丸焼きにされている。ならば自然現象か?いいやそれも違う。もし自然現象ならば、そんな大規模なものはよほどのことがない限りない。人が意図的にやった放火だとしても。それはないだろう。
 だからこそ、水木は手を握りしめる。固く固く、握りしめる。故郷や家族、友も焼いたあの炎。水木は憎くて仕方がなかった。そしてそのときに目覚めた自らのフォルテも、彼は嫌いだった。すべてが焼かれたあとに目覚めたフォルテ。それは全てを焼かれるさまを見てきた水木にとって、絶望するにはひどく簡単なものだった。

「水木、舌を噛むなよ」
「……はい」

 柚子にそう声をかけられ、いつの間にか力を込めていた奥歯を緩める。たしかにこのままにしておけば、気が付かないうちに舌を噛んでいそうではあった。手の力も自然と緩める。

「それでだ。今回チームケイオスはその青森大火災の現場───青森県に出撃する」
「理由を聞いても?」
「3年目だというのと、こちらの独自の調査だな。それにチームケイオスは青森出身者が多い。それもある」
「そういや弥里ちゃんも青森出身者だよねー。なんか覚えてない?」
「んー、火災起きる前に上京してたからしーらない」
「それでだ。今回の出撃はフォルテッシモを使わず、生身での出撃となる。対策はしっかりしておけ。出撃予定は本日正午。いいな。それでは解散」

 早々とたたまれた会合。言いたいことだけを言って満足したのか、流星はさっさと席からたち、懐からタバコを取り出して部屋をあとにした。あれは2時間吸うつもりだろうな、と柚子は思う。
 流星を皮切りにして、チームケイオスの他の面々も次々と席を立つ。その中でも会合中ただずっと笑っていただけだった藤山まろんは、席を立ったあと何かを思わせるような素振りを水木に見せつけた後に部屋をあとにした。残念ながら当の本人である水木は、それに一切気づくことなく部屋をあとにしたのだが。

「今日で3年目、ねえ。そりゃ当時は大騒ぎだったよねー」
「青森がなくなった……だったっけ」
「そうそうれお子のそれ。ずーっとひっきりなしにテレビはそればっかり。ほんとに突然だったから仕方ないんだろうけどさ。今にして思えば、あれ報道に熱が入り過ぎてやばいと思うのよ、いやほんとに」

 そうやってヒナタとれお子、そして後ろからアスカが加わり、3人で青森大火災当時のことを思い出していた。あれだけ巨大な火災だったし、なによりもひとつの県がもろともなくなった、というのはありえないことであったわけで。実際の映像がテレビでひっきりなしに流れてようやく、人々は現実なのだと受け入れることができたのもあるのだろう。にしてもやり過ぎな部分があったのは否めないが。

「かろうじて生き残った人たちにさー、言っちゃ悪いけど『ねえどんな気持ち?ねえねえ今どんな気持ち?』ってやったらだめでしょ…しかも亡くなった人たちへ一言お願いします、じゃないよほんとさあ」
「水木は受けてなかった分、そのニュース見てしばらく手がつけられなかった」
「うん、すごかったよねえ。時雨くんでさえ近づけなかったし」

 何もかもをなくした水木にとって、そのような報道はただ彼の傷をえぐるだけ。彼の荒れ様を思い起こすのは容易いことだ。

「にしても急だねえ。今日もう出撃って早くない?」
「いつもの指揮官は3日くらい間を置いていた。たしかに早い」
「だよねー」

 そうしてしばらく歩いていると、向こうから人影が2つ、こちらへと歩いてくるのが見えた。それはこちらにはどうやら気づいてはいないようであったが、アスカはその2つの人影に対していつものように挨拶をする。

「あっ、こんにちは〜」
「こんにちは〜。ほらナナシちゃんもご挨拶〜!」
「……っす」

 ナナシと呼ばれた少女は、もう片方の少女に言われると、声は小さかったもののちゃんと挨拶らしき挨拶をする。れお子はその2人を見てすぐに口に出す。

「……この子達、『ななよし』?」
「ななよし?えーっと……ああ!ななよしかあこの子達!」
「な、ななよし?なにそれ?」

 ななよし。その言葉にはたと気づいてアスカは手を叩く。だがヒナタだけは何もわからなかった模様で、アスカは彼女に対し説明する。

「えっと、確か『ナナシと善佳』で、『ななよし』だよヒナタさん」
「ちょっとまってよくわかんない」
「……ナナシって子と、善佳って子がいっつもいるからついたあだ名が『ななよし』」
「あ、そういう意味?」

 ようやく解せたようで、ヒナタはアスカと同じように手を叩く。そしてななよしと呼ばれた2人組をまじまじと見つめる。

「仲良いんだねー」
「もっちろん!」
「どこがだ」
「でもななよし、この前謹慎処分出されたって聞いたけど」
「外に出なければいいんだよ〜今から娯楽室行くの」
「そうだったんだ、私達も行く?れお子さんヒナタさん」
「そんならアタシも行く!れお子?」
「本読みたいから、あとで」

 それだけれお子は伝えると、2人に挨拶をしたあと図書室へと向かっていった。一刻でも早く安息の地へ向かいたかったのだろうか。自然と足が早くなっていく。

「……」

 れお子はなぜだか、胸騒ぎが起こったのに知らないふりをするように、家とも呼べる図書室へと急いだ。





「………ねえ、青森のあの火災のこと。覚えてる?



─────『カナム』。」




続く

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