複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.20 )

日時: 2018/10/07 22:34
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 旧青森県。あたりはまっさらで、ところどころ焼け焦げたあとが未だに残っている。さすがにやけた匂いはもう残ってはいなかったが、それらしき痕跡は痛々しいほどに残っている。目の前に、見せつけてくるように。
 その地に降り立つのはチームケイオスの面々。今回は2手に別れ、それぞれを見回る。視界を遮るものなど何もないからか、随分と見晴らしがよく、それなりに安心感はあった。とはいっても、足元の問題があるので油断はできないのだが。

「ここは最初に燃えたとされる場所だ。未だ人骨が発見されるな」

 2手に別れた中の、流星が率いるグループは、大火災における出火元だとされる場所に来ていた。その中には川上水木の顔もあったが、表情は固いままだった。流星は水木に向け、声をかける。

「川上水木。お前が『カナム』を見つけたのは、ここの近くだったんだな」
「はい。そうです。僕は逃げている途中で、この近くで『カナム』見つけました」

 ぐっと拳を握りしめる。その様子に流星は構うことなく、あたりを調べ始める。水木の隣りに居た柚子は、彼の背中をぽんと叩いてやり、血が出そうなほど力を込めていた拳を緩めさせる。そしてふっと笑いかけると、僕達も少し調べよっか、と水木を別の場所へと連れて行く。残った弥里は流星にくっつき、地中などから出てきたものに、興味本位で薬剤をふりかけていく。

「『カナム』ちゃんはまだ寝てる?」
「はい……今日も反応はないです」
「そっか。『カナム』ちゃん、まだ起きないか」
「そもそも起きているところを見たことがないです。気がついたらいたし、気がついたら寝ていました。それに長い間、親族をたらい回しにされてたみたいで…」

 そこまで言うと水木は黙る。柚子もそれ以上の詮索は無用だと判断したのか、改めて周りを調べ始める。
 ───『カナム』。それは水木が青森大火災の時に、命からがら救い出した少女のことである。本名、年齢、過去経歴は一切謎。水木でさえ、『カナム』という名前と、ずっと目を覚まさないということだけしか知らない。いつからかはわからないが、『カナム』は寝たまま目を覚まさない。それどころか、目を開けて起きたことすらないのだ。最もそれは水木が彼女を知ってからのことであるが。ともかく、彼女はずっと目を覚まさず眠り続けている。いつ目を覚ますのかはわからない。そもそも目を覚ますのかすらわからない。
 現在彼女はマグノリアの地下施設にて保護されている。彼女専用の機材───というかカプセル───で、眠り続けている。何にも邪魔されることなく、何の妨げも許すことなく。なお、彼女のことを知っているのはチームケイオスの面々と、医療部長の那生、そしてリーダーである狂示のみだ。他は存在すらも周知されていない。時雨でさえも。

「───3年間。長かった?」
「いえ。とても短いものです。まだ3年目なんだな、としか思えません。未だに引きずってます。『なんであの時、もっと前に発現していれば』って、ずっと思ってます。ほんと、なんでですかね。柚子さん」

 そういった水木の目はけっしてきれいなものではなかった。どす黒く淀んて、その先の暗闇は恐怖心を煽らせるほど。口元は固く真っ直ぐに結ばれ、ただ何かをもらいたげに、柚子の方へと向かれていた。柚子はそんな水木に引きつつも、笑顔を崩さない。崩さずに口を開く。

「────僕は、何でもわかる神様じゃないよ」

 それだけいうと、さあ調査を続けようか、と話題を切って顔を逸らした。彼の項には嫌な冷たい汗が流れる。
 ほしい答えが来なかったのか、その柚子を少しにらむと、水木は同じように調査に戻った。

「(わあすっごい不穏。水木くん、そんなんじゃ助けられるものも助けられないよ。逆にそんなんじゃすぐ殺しそう。君絶対意図せず殺すたち悪いタイプだよね)」

 ただひとり。弥里だけは水木を見てそう思った。





「そっちなんか見つかった?れお子さん」
「何もない」

 一方変わって別のグループ。こちらではれお子、アスカ、ヒナタ、百合、まろんがあたりの調査を行っていた。だが新しく見つかったものなどは見られず、どれだけ調べてみてもハズレばかり。そうかんたんには行かないようだ。あったとしても放置されている人骨くらいで。流石に黙祷は捧げたが、ちょっと危険な気がする。

「まさかここまで人骨が放置されてるとはね」
「予想外、だった」
「それほど大規模だったのよ、この火災は」
「実際水木くんもその火災にあって、消えない火傷痕をつけちゃったらしいし、ああそういえばフォルテも───」

 ヒナタが何かを言いかけたとき、場の空気はピタリと固まる。ヒナタもあっという顔をして、手に口元を当てる。この場に水木本人がいなかったことが幸いだった、というようなことをれお子が言うと、ごめんと一言ヒナタが謝る。

「この話は軽率に出しちゃいけなかったやつよね。ごめんほんと」
「まあまあ彼本人がいないから、まだ良いでしょう。尤も、良い話でないのは確かだわ」

 百合はそう言うと、空を見上げて目を細める。嫌に良い天気ね。そうつぶやいてみせた。

「だいかさい、だいかさい?あおもりあおもーりー、まろんわかんないわかんないっ」
「ああ、そうだね。『今の』まろんちゃんにその『記憶』は共有されてないかあ」
「まろんはまろん、あなただあれ?わたしだあれ?わたしまろん?まろんだあれ?まろまろまろーんけらけらけらりん」
「うーん、これ別の『人格(おもかげ)』にして来たほうが良かったんじゃ」

 ───フォルテ、『人格(おもかげ)』。藤山まろんのフォルテであり、藤山まろんを『藤山まろんたらしめている』そのもの。かんたんに言えば多重人格、というやつだろうか。人格、姿形、声をもろとも『全く別のもの』へと変えるフォルテ。ただこのフォルテは限度はなく、ころころとしょっちゅう人格(おもかげ)が変わってしまう。本人の意思があったとしても、なかったとしても。だから、そこにいる『藤山まろん』が果たして『藤山まろん』であるかどうかすら、確かめるすべはないのである。もしかしたらもとから、『藤山まろん』など『存在しなかった』のかもしれないのだから。
 だから彼または彼女に、青森大火災の記憶は『ひとつを除いて』存在しない。記憶は共有されないのだから。

「まあまろんちゃんのことはアタシが抑えるからいいとして。とりあえずアタシたちは周りを警戒して、調査を再開しましょう。グローリアがここに来ないとは限らないんだから」
「はーい」

 その一言で各々また調査し始めた。何が見つかるとかは、次の瞬間の自分たちにしかわからない。





『なんで…なんでいま!』

 少年は絶望した。力が目覚めたのは何もかも手遅れになったあとだった。

『今になってこんなのがでるなんて……』

 少年は折れた。その力は手遅れになった自分をあざ笑っているかのようだった。

『こんなの……こんなの……こんなのぉ!!』

 少年は自らの手の周りに現れた『水球』を、自らの手で破壊した。


水球は少年の頭を濡らしただけだった。



続く

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