複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.21 )

日時: 2018/11/28 20:37
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「そういや」
「どないしたん狂示」

 マグノリア医療室。たまたま遊びに来ていた狂示と那生は、互いに菓子をつまみながら昔話やらなんやらに花を咲かせていた。その中で唐突に、狂示は何かを思い出したようで、ぼそりと零す。那生はもう何個目かもわからない菓子に手を出し、狂示に声をかける。狂示は食べかけの菓子を一口で頬張りいくらか咀嚼し飲み込むと、茶を飲んで話を始める。

「いや、チームケイオスのメンバー。『2人』たんねーなと思ってな」
「2人ィ?誰と誰や?」
「ホレ。あの『魔法使いと弟子』」
「んんー……あぁ、せやな。どこいっとるんやろか」

 狂示と那生はまた思い出話を始める。それはマグノリアが今のような形になる前。そして今の形になってから。マグノリアにふらりと戻ってくる、『流れの魔法使いとその弟子』の話。
 チームケイオスで流星と同じくらいの歴で、特定の場所に居着かない。ふらりとやってきては窮地を救い、あるとき突然姿を消す魔法使い。そしてその魔法使いのそばを離れず、魔法とは似ても似つかないフォルテを使う、20に満たぬ弟子。

「今度はいつ戻ってくることやら」
「案外近かったりしてなぁ」

 狂示と那生はにやりと互いに笑うと、ひとつだけ残った菓子に同時に手を伸ばした。





 雲行きがだんだんと怪しくなってきた、燃え尽きた青森県にて。チームケイオスの面々は変わらず、周辺の調査を進めては居たが、特にこれといった発見はなく。すべてが徒労に終わりそうであった。現に、流星は顔にこそ出さぬものの、目は諦めが混じっている。他のメンバーも、もうめんどくさくなってきた、というのが本音だろう。絶対に声には出さないが。
 そのほんの数分後、別行動をしていたヒナタ達が、疲れた顔をして流星達のもとへ戻ってきた。

「しきかーん、こっちにはもう何もなかったですよー」
「保瀬ヒナタ。そちらは終わったのか」
「ええ、ええ。なーんにもなかったです。というかこの調査やって意味あります?こんだけ燃え尽きて何もないのに」
「『何もない』のを『確かめる』。それも立派な調査だ」

 流星はしれっとそう言うが、ヒナタは訝しげな顔をしてあたりを見回す。
 本当に何もない。建物と呼べるものは、殆どが燃え尽きてしまい、視界の邪魔となるものはないと言っていいほどだ。やはり調べても何も出てこなさそうだ。強いて言えば、雨が振りそうだなあとか、グローリア来たりしてなあ、とか。

「(わざわざ青森大火災の日に、水木くんのトラウマえぐるようなことしなくてもいいと思うんだけど)」

 ヒナタはちらりと水木を見る。当の水木は癒えない傷に塩を塗りこまれたかのように、顔には疲労と別の何か───例えるなら絶望───の色が、複雑に混ざり合っている。手は止まってどこでもない虚空を見つめ続けているだけ。隣の柚子はそもそも作業に飽きているため、全く別のことをしていた。とは言っても体育座りで寝ているだけなのだが。

「(水木くん大丈夫かな、隣の柚子はスルーしておくとして)」

 ヒナタは水木に近づき、声をかける。

「水木くん疲れた?」
「……あ、いえ。ちょっと考え事を」
「そっか」

 それ以降会話は続かなかった。それ以上踏み込むのは良しとしなかったのか、タネが見つからなかったのか。ヒナタと水木は互いに虚空を見つめる。やることがないから。飽きたから。
 その様子を弥里はじっと見ていた。面白そうとか、そういう理由ではなく、単に気になって。弥里はじっと2人を見続ける。ちょっかいを出してやろう、少し話しかけてみよう。そんなことは思うはずもなく、弥里はしばらくしたあとに注射器を懐から取り出し、そーっと水木の方へと近づいていく。音もなく、そーっとそーっと。───だが。

「やんないけどねー」
「えっ?」

 ぼそっと言ったあと、水木が咄嗟に振り向いたため、弥里は手にしていた注射器をすぐさま懐へとしまった。そしてニッコリ笑うと、水木の肩をがしりとつかむ。

「もうすぐ帰る時間だから、帰ったらヒロポン打とうね」
「嫌ですよ!?」

 ケラケラケラと弥里は笑うと、水木の方から手を外してもとの場所へと戻っていく。残された水木は何がしたかったんだとこぼしつつ、その場にまた座り込んで、何をするわけでもなく暇を持て余していた。
 弥里の方はというと、一瞬真顔になったかと思うと、すぐさまニッコリとした笑顔に戻り、流星の隣へと戻る。

「(なんだ、元気よく返事できるならまだいい方じゃん)」

 ヒロポンは打たなくていいかな?なんてことを思いながら、やることもないのであたりをぐるりと見回す。いやほんとに何もないなあ、まさか故郷がここまで燃えるとは思わなかった。なんて他人事なことを思う。

「きれいに燃え尽きたなー」
「…ああ、お前も青森出身だったな」
「えーまー。尤も大火災起こる前に上京してたんで、どうでも良かったんですけど」
「懐かしいな、あの頃のお前は見るに耐えない姿だった」
「ちょっともー懐かしすぎるからやめてくださいってば〜!」

 流星の背中をバシバシと遠慮なく叩く弥里。その顔には明らかに、『掘り起こすのやめろ』と書いてあった。顔こそ笑顔ではあったが、それが逆に恐ろしい。周りは青ざめた顔でそちらを見ている。

「背中が痒くなるからやめろ」
「はぁい。んでそろそろ帰る時間じゃないです〜?雨も振りそうですしぃ」
「……そうだな。特にこれといった発見もなかったしな。これではただ来て荒らしただけになってしまったが」
「ほんと何しにきたんですかね」

 全員の顔には披露の文字が浮かんでいる。結果は何もなかった、得られたものはそれだけだった。これ以上ここにいても無駄だろう。

「さて、帰るとするか。本部に通信……?」

 流星が帰還しようとして、インカムをつけて通信をつけようとした。が、流星はあとに続くであろう言葉を発さなかった。何かあったのだろうか。

「指揮官?早く帰りましょ?」
「……おかしい。繋がらん」
「へっ?」
「何度も通信をかけてはいるんだが……応答がない。完全に繋がってない」

 そして次の瞬間、れお子が何かに気づき、大声を上げた。

「全員伏せろッ!!」

 刹那、鼓膜に響くのは爆発音。爆風がチームケイオスを襲い、音は衝撃波となってやってくる。辛うじてヒナタが体の一部を『盾』に変化させ、ある程度の被害は防げた。煙は濃く、各々は口元と鼻を手で覆い、誤ってその煙を吸わないようにする。
 ようやく煙が晴れてきた頃、ヒナタは変化を解除し、その爆発音がした方向へ顔を向ける。

「ッ、皆戦闘準備!」

 そこには、『グローリア』の紋章である『槍と剣』が描かれている旗が立っていた。周りには、それらしき人物が数人ほど。そしてこちらへ向けて、銃口のようなものを向けている。明らかにこちらに明確な敵意を持っていることが伺える。その背後には、フォルテッシモの姿も何機か確認された。確実に、こちらがマグノリアであることを分かっている。もしわかっていなければ、無闇矢鱈に武器は構えないし、そもそもフォルテッシモなど持ってこない。
 チームケイオスの面々は、一同にそれぞれの武器を構える。あるものは銃、あるものは刀、あるものは鞭、あるものは注射器。

「通信が繋がらないのは奴らのせいですかね、指揮官」
「十中八九そうだろう。『周囲転換』もなされているからな」
「もっと警戒しておくべきだったわね。いくら燃え尽きた青森県とはいえ、ここにグローリアが来ないという保証はないわけだから…」

 そう言って百合は憂鬱だわ、とため息をつきながら鞭を振るう。その瞳にはかすかな怒りが生まれている。

「───チームケイオス、緊急事態。グローリア襲撃アリ。これより我々は迎撃を行う。総員、戦闘を開始する」



『我々は、混沌であり狂気である』






「───お師匠。何やらめんどくさそうなことになってるけど」
「そんなにめんどくさそうかな?まあ、だけどまだだめだよ」
「何がですか?」


「───奇跡は、突然くるものさ」


続く

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