複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.22 )

日時: 2018/11/28 20:38
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「んえ?」

 マグノリア医療部。そこで暇を持て余し、ベッドの上をゴロゴロとしていた御代は、突然開けられた部屋の扉へ目を向ける。そこに立っているのは、見間違えようがなく、リーダーの狂示であった。狂示はニヤニヤと何やら楽しげに、御代のもとへやってくる。うわ何だ気持ち悪い、何考えてんだ。
 狂示はクックックと笑いながら、御代に話しかける。

「喜べモーニングマウンテン。お前今から絶対安静撤回」
「はぁ?」
「なんでだと思う?」
「知らねーしわかるわけねーうぇい」
「だよなー!」

 どっと大きく笑うと、狂示は親指をぐっと立ててみせる。なんの意味があるんだそのポーズは、と思ってみるが、口に出すのはやめておく。絶対面倒くさいことになるから。御代は訝しげな目で狂示の次の言葉を待つ。

「青森でチームケイオスが戦闘に入った。グローリアの連中が嗅ぎつけたみてぇだ。つーわけでお前開放。早く行ってさっさと抑えてこい」
「いきなりうぇいね?」
「数は多けりゃいいだろ。ほれ行ってこい。どーせ暇してたんだろ?」

 さもねーと流星にお前が病室から脱走したってチクんぞ〜と、随分と楽しげに狂示は言う。どうしてこんなにも楽しそうに言うのだろうか。単に面白いのか、別の理由があるのか、そもそも頭がおかしいのか。考えれば選択肢はごまんとあるのだろうが、面倒くさくなってやめた。これ以上考えても無駄なだけだ。
 御代は背伸びをして体をほぐす。たった1日だけだが動かしていなかったためか、バキバキと音がなる。確かに暇はしていた。やることがないし、娯楽室に行こうにも、絶対安静を言渡されているために行きづらかった。だからベッドの上でゴロゴロするしかなかったのだが、正直飽きた。ならばこの狂示のこの誘い、乗らないわけには行かない。とにかく体を動かしたかった。

「よしっ、行ってくるうぇい!」

 ベッドから飛び降りると、御代は一目散に部屋から飛び出し、出撃室へと向かっていった。
 その後ろ姿を狂示は元気でいいねえと見送ると、懐からタバコの箱を取り出し、1本取って火をつけると、途端に顔つきを変える。

「……さてと。俺は『調べ物』をしとくか」

 タバコの煙は、ゆらりゆらりと不審に揺れる。





 先に仕掛けるはヒナタ。まずは腰に下げていたガンホルターからハンドガンを出して構え、誰に当てるでもなくひとつ弾丸を放つ。弾丸は狙ったとおりに、誰にも当たらず一定の距離まで行くとゆるゆると地に落ちる。それに続くように百合と柚子が動く。相対するグローリアの構成員も、彼らに向かってやってくる。百合と柚子、構成員数人がチリッと近づくと、百合の鞭、柚子の『指鉄砲』が相手側より早く動いた。

「───『君を、撃ちます。』」

 柚子の透明な声が響き渡ると、銃を撃つ真似事のように、指で作った鉄砲を上に上げる。するとその指鉄砲の先にいた構成員の1人の丁度胸のあたりが、見事に派手な音を立てて穴を開けた。『何も貫いていないにもかかわらず』。構成員は糸が切れたように地に伏せた。
 フォルテ、『ガン・ショット』。手を鉄砲のような形に作り、対象者にむけて『君を、撃ちます。』と言いながら銃を撃つ真似をすると、その相手を確実に撃ち抜けるというもの。弾丸も何も残らない、『何かと』便利なフォルテだ。
 柚子が相手を撃ち抜いた次の瞬間、横から百合の鞭が向かってきた残りの構成員を縛り上げる。そしてそのまま空中へ高く放りなげたと思えば、後ろから水木が手をそちらへ掲げ、念を込める。すると構成員はたちまち、どこからともなく現れた水球によって閉じ込められる。
 フォルテ、『水沫(みなわ)』。水場のない場所でも、水球を作り出せるフォルテ。その水球を大きく作れば、人をその中へ閉じ込めることもできる。勿論その中に閉じ込められた人間は、呼吸もできずに時間がくれば溺死、または窒息死する。そしてその水球をはじけさせ、大規模な火事を消すことだってできる。だから、だから。水木はこのフォルテが嫌いだった。何よりも嫌いだった。

「……あの時、これが発現してさえいれば」

 故郷は焼かれずに済んだのかもしれないのに。





 時は遡ること3年前。青森大火災。当時の水木は、眠り続ける『カナム』をやっとの思いで救出し、とにかく火のない安全な場所へと避難を急いでいた。その間、何度も何度も見た。人々が火に呑まれ、焼かれてもがき苦しんでいくさまを。その中には友人もいた、親戚もいた。そして、自らの親もいた。水木の両親は彼を逃し、言った。『お前だけでも生きろ』と。その直後に両親は火のるつぼとなった、かつての家に呑まれていった。最後に聞こえたのは、絶叫だった。

『────カナム、だけでも』

 彼はひたすらに逃れた。火の魔が及ばない、遠い遠い場所へと逃れた。カナムも連れて逃れた。水木は必死に逃れた。ただただ生きるために。死なないために。
 しばらくしないうちに火の手はもう来ない場所まで来たようだった。遠くに見えるは焼かれゆくかつての故郷。その場所に、友人も、両親もいる。手を付けられないほどに火の手が広まっている。水木は茫洋と故郷を見つめることしかできなかった。
 そんなときだった。

『え───』

 自らの手から、小さな水球が生まれていた。尽きることはなく、ポコポコと。それは水球どうしてくっつき、次第に大きくなっていく。やがてあれだけ小さかった水球たちは、ひとをひとり包み込めるくらいの大きさにまで膨らんでいた。そしてはじけた。はじけたそれは確かに『水』だった。間違えることなく、水木を水浸しにしたのだから。
 水木は己の手をまた見る。コポコポと再び水球が生まれる。水球どうしがくっつき、大きくなる。
 その意味を『全て理解した瞬間』、彼は絶望し、絶叫を上げる。


『ッあああああああああああああああ──────!!』


 その叫びはどこまでもこだましたが、彼を包み込むものは、憎らしく膨れ上がった水球しかなかった。





「……」

 ギリ、と奥歯を噛みしめる水木。自然と握り拳に力が入る。形相も怒りへと変わっていく。生み出される水球も数をだんだんと増やしていく。許さない。何を?過去の自分自身を。『フォルテが発現した過去の自分自身を』。あの日から彼は笑うことをやめた。夢を追うこともやめた。甘えることも、休むこともやめた。これも全て、許せないから。許さないから。

「許さない……」

 ついこぼれてしまうその一言に、水球はますます数を増やしていく。目障りなくらいに膨れ上がった水球も増えていく。すでに閉じ込めた構成員は、足をジタバタとさせ、もがき苦しんでいる。せいぜい苦しめばいい。せいぜい苦しんで死ねばいい。お前たちも許さない。水木は強く強く思う。

「死ね────ッ!」

 水球を空高く浮かばせ、更に高い場所でそれを弾けさせると、構成員を地に落とした。その瞬間、飛び散る脳漿。もはや人の形を保っていない。見るにたえないものがあたりに飛び散っている。

「水木くぅん、ちょっとやり過ぎだよ〜後処理大変じゃ〜ん?」
「……弥里さん」
「でもお、グッジョブ〜!後でご褒美にヒロポンあげるよ」
「お断りします」
「えぇ〜」

 それを後ろから見ていた弥里が水木に近づき、声をかける。水木は面倒なのに声をかけられた、と思いつつもしっかりと受け答えをする。もちろんヒロポンはきっちり断らせてもらった。そんなのは勘弁願いたい。たとえ死んだとしてもだ。

「それじゃあしばらく休んだら?ちょっと顔色悪いよ、怖い」
「はっきりいいますねえ…まあ、流石に言葉通り、休ませてもらいます」

 水木は一気にドシャっとその場に座り込む。彼のフォルテは維持をするのに、かなりの集中力と精神力、そして体力を必要とする。あれだけのことをやったのだ、水木の体は疲労がずっしりと乗っかっていた。
 それの前に出るように、弥里はやたらと大きい注射器を構える。中身はなにやら不健康そうな色をした薬品か何かが入っている。十中八九、というより確実に人体には有害なものが詰まっているだろう。

「今度は弥里ちゃんの出番っ、お薬の時間ですよぅ?」

 そう言いつつ、弥里は別の注射器を取り出し、自らの首にそれを打ち込んだ。





「お、来たみたい」
「びゃーっと登場うぇいっ!」
「ストップあさみよ。何かまだ出ちゃだめだってさ」
「へ?だめうぇい?」
「うん。お師匠がまだって。何のことか知らないけど」
「な、なんでっ?」 


「だって私は流れの魔法使い。姿を現すなら、それはもう奇跡。奇跡は突然くるものだからね」


続く

メンテ