複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.24 )

日時: 2018/11/29 22:14
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「久方振り……だな」
「そんなに固くならなくていいじゃない。お互いマグノリア古参メンバーなんだし」

 ケラケラと笑って答える魔法使いこと、竹澤吟子。杖を軽く振り回し、作り上げられた巨大物体から落ちてくる瓦礫たちを弾く。その巨大物体───瓦礫フォルテッシモを見上げ、ひゅう、と口笛を鳴らす。

「いやあ壮観だね。よく作り上げたねえ、奴さん」
「お師匠、これもフォルテ?」
「十中八九そうだろうね弟子くん。でなきゃ作れないよこんなの。自分の重みで崩れてるはずさあ」

 弟子くんと呼ばれた、吟子の傍らにいた胡代翡翠は、皮付きのみかんを頬張りながら同じように瓦礫フォルテッシモを見る。その後ろからアスカが、皮付きのみかんまるごと食べると美味しいよね、と翡翠に歩み寄る。その翡翠はもぐもぐと食べながら、バッグから皮つきのみかんを取り出してアスカの口の中へと突っ込む。
 そびえる瓦礫フォルテッシモはとにかく巨大だった。だが足元は不安定で、いつそれごと倒れてきてしまうかと、ヒヤヒヤしてしまうほど。否、もうすぐ倒れてしまうだろうと、断言できるほどだ。流星はひたすらに頭を回転させる。どうやって被害を最小限に食い止めるか、どうやってこいつを倒すか。いくら周囲転換で空間が切り離されているとはいえ、もし仮にこいつを正攻法で倒したとしたら、大量に瓦礫は崩れ落ち、こちらへくる被害は甚大なものとなるだろう。
 突然の救援で、吟子と翡翠が来たとはいえ、吟子のフォルテではこいつの崩壊を食い止めるには限界があるし、翡翠に至っては戦闘向きでもなければ、サポート向きでもない。強いて言うならば手にしている巨大なフォークで何かを刺すことくらい。今の状態では全く戦うということは考えられない。どうする、どうするか。

「指揮官、正直にここは壊しちゃいましょう」

 不意に、背後から声がかかる。そちらを見ればそこに立っていたのは、他の誰でもない───

「……藤山まろん、何を考えている?」
「私達の名前はそうでしょうけど、『あたし』としての名前は『藤田浪漫(ふじたろまん)』ですよ。前にも言った気がしますけどー?」

 先程までの空気とは打って変わって、どこか知的な雰囲気を漂わせる彼女───藤山まろんの中の、『藤田浪漫』は、口角を少しだけ上げて、瓦礫フォルテッシモを指差す。

「だってあれ、壊す以外に何かあります?ないでしょ。そんでもって壊す方法が何か安全なのあるかって言ったら、それもないでしょ?フォルテでどうにか被害が行かないように〜なんて言ったってですよ、体力持たないでしょあんな大きさじゃあ───。だったら真正面からぶっ壊す。単純明快、これのどこに迷う選択肢があるんです」

 まろん、否浪漫は、多少の身振り手振りをつけながら、まるで物語を語るかのように言葉をつらねた。その笑顔の本心は読めず、まるで『こう言ったけど責任は取らないよ』とでも言いたげである。流星はその浪漫に眉をひそめはするが、それで終わる。

「とりあえず頭からブッ壊しましょうよ。それならまだ」
「……ああ、そうだな。チームケイオス、戦闘準備。対象は瓦礫巨大物体。破壊方法は───」

 ひと呼吸おいて、流星は言う。


「真正面から、やる」





「───青森でぇ?」
「せやで〜、ほいこれ」

 一方、マグノリア本部のリーダー室。突然ノックもなしにやってきた那生に、狂示はしかめっ面をうかべるものの、彼から報告された事項に、思わず間抜けな声を出して復唱してしまう。青森大火災後の調査に行ったものの、やけに帰りが遅かったので流星に連絡を取ろうかと思っていたところでのこの報告。まさか、焼け野原の青森でグローリアとの戦闘があるとは。狂示は思わず大きなため息をつく。おいおい勘弁してくれよ。と。

「んーとな、まずグローリアがきたやろ。そんでもって周囲転換してー、ドタバタ戦闘でー、んで今は向こうさん、瓦礫で作ったでっかいフォルテッシモ作って逃げおったみたいや。チームケイオスはそれの処理に取り掛かり中言うところやんなぁ」
「はァー……奴ら面倒なのに巻きこまれたもんだな」

 ため息をついて椅子に深く座り込む狂示。流星も行っているとはいえ、随分と大変そうだなあ、などと他人事のように思う。まあでもあいつのことだ。さくっと終わらせるだろう。特に心配することといえば、青森大火災が起きたこの日に、燃え尽きた生まれ故郷に調査しに行った水木のメンタルか。それとヒナタが必要以上に脱いでいないか、とか。
 ふと、狂示は『魔法使いと弟子』のことを思い出す。そして那生に、そうだそうだと言いながら話をふる。

「お吟と翡翠は今どこにいんだ?」
「へ?ワイにもわからんわァ?どないしたん」
「うーむ…」

 神妙な顔になって考えこむ。那生はその様子の幼馴染をどこか不審に思いつつも、何かあったのかと聞いてみる。

「……オレの思いこみなら、いいんだけどな」
「?」

 ───面白半分でその現場にいねえだろうな。
 乾いた笑いを浮かべながら思ってしまったそれは、今現在まさにそれが起こっているとは知る由もなかった。

「あ、そういや病室から御代はん消えとったんやけど、狂示ィ……?」
「おっとぉオレァ今急に耳が悪くなったみてえだ、けぇれけぇれ」





「とっどっけえええええッ!」

 ヒナタの腕はフォルテによって大砲へと変わり、狙いを定め、瓦礫フォルテッシモの頭を撃ち抜く。ものの見事に頭部は弾けたものの、瓦礫は重力に従って落ちてくることなく、空中に漂う。そしてまたたく間に逆再生するかのように、もとに戻っていた。

「うえ、回復機能付きぃ?」
「これもフォルテのようだねえ。かけられてるフォルテは、様子を見るに『維持』系、『再生』系、『人形作成』系かな?他にもありそうだけど、というか瓦礫フォルテッシモっていうより、まんまゴーレムみたいだ」
「木っ端微塵にやればいんじゃね?アヒャヒャ」
「弥里ちゃん簡単に言うよねえ!」
「だがそれでいい。木っ端微塵に、跡形も残さず粉砕する。それだけだ」

 言うやいなや、流星はまっすぐに瓦礫フォルテッシモ───ゴーレムといったほうが正しいだろうそれに飛んでいく。両手の中にある青く輝き、電流を迸らせる刀たちをゴーレムへ突きつける。触れるか触れないかのところで、電流はゴーレムへと襲いかかり、体を作っていた瓦礫たちはそれを避けるように重力に従い落ちていく。だがすぐにその瓦礫たちは『吸われるように』もとの位置へ戻り、修復されていく。

「指揮官、引いて!」

 直後流星の背後から、れお子の声が響く。その声に従い、流星はゴーレムを蹴って更に上へと避ける。瞬間れお子は強烈な蹴りをゴーレムへとぶつける。派手な音を立てて体を作り上げている瓦礫たちは、いとも簡単に崩れ去って行く。

「────!」

 その時、その場にいたチームケイオスの面々はある物を目にする。それは落ちていく瓦礫の隙間から見えたが、すぐにまた瓦礫に覆われ見えなくなっていく。流星とれお子は体勢を立て直し、ゴーレムを仰ぎ見る。若干動きは鈍くなったかと思ったが、気のせいだったようだ。

「今の、ひし形の水晶は……」

 それを見た百合は無意識に口を開く。その疑問に答えたのは柚子だった。

「───『コア』ってヤツ?」
「おおかたそのとおりなんだろうね。お師匠」
「そうだね弟子くん。さっきの、あれを中心として瓦礫が来たから」
「あれが中心としたら、そのコアを叩けばいいってこと?」
「───恐らくは、そうだろう」

 各々はゴーレムのコアらしきものがあるであろう場所を睨む。ゴーレムはそれを気にせず、己の拳を握りしめ、腕をゆっくりと大きく振り上げる。

「来るぞ、お吟」
「わかってる」

 ゴーレムの拳がまっすぐに彼らのもとへと降りてくる。それよりも早く流星は吟子に声をかけ、彼女もまた手にする杖を振り上げる。瞬間、どこからともなく水が現れ、その水は彼らを覆う『壁』となる。それによりゴーレムの拳は派手な音を立てて弾かれる。役目を終えた水壁は音もなく消えていく。
 ───フォルテ『ソーサラー』。その名の通り魔法使い。様々な『奇跡』の力を借りて、自らや状況に影響を与える。吟子はこのフォルテをとても気に入っていた。魔法使い、なんて浪漫があることだろうか。昔口癖のように言っていたな、と流星は思い出す。その時の吟子の掴みづらさといったら。今もそんなに変わらないが。
 吟子はすかさず直接ゴーレムの足へと杖を軽く振り、どこからともなく吹いてきた風の刃でその足を切り刻む。切り刻まれた足はぐしゃっと崩れ、ゴーレムはバランスを崩す。すぐに再生しようと瓦礫は集まってくるが、それを阻止しようと、ヒナタが間髪入れずに腕を大砲に変え、渾身の一撃を放つ。
 その隙に柚子と水木が飛び、崩れた足とは反対にある腕を狙い、攻撃を仕掛ける。柚子が指鉄砲を作り肩の部分を撃って、水木は水球を作って一部を包み、水圧を強めて腕を破壊する。ガラガラと腕は落ちていく。
 そして流星と百合、れお子、弥里はゴーレムの胴体へ突っ込んでいく。流星は己の刀で瓦礫を切り刻み、百合は鞭でゴーレムの頭部を締め付けてそのまま潰し、れお子は強烈なキックを胴体へと再び食らわせ、トドメとばかりに弥里は手にしていた巨大な注射器をゴーレムへと打ち込み、怪しげな色をした薬品を注入する。
 戦闘向きではないフォルテを持つアスカ、まろん、翡翠はそれをただ見守るだけ。瓦礫からは吟子やヒナタが全て弾き返していたため、被害は特になかった。だがそれでいい。被害がないのが一番いい。
 弥里が注入した薬品が効いたのか、それとも蓄積されてきたダメージが爆発したのか、ゴーレムの胴体は一気にあたりに飛び散っていく。そして顕になる、ひし形水晶───そう、『コア』。流星は眼帯を外し、その『眼』でコアを睨む。瓦礫を踏み台にし、刀を構え、コアへと真っ直ぐに飛んでいこうとしたその時。


「ふっふっふ……あーっはっはっはっは!!うぇい!!」


 突如高らかに響く笑い声。それは空からやってきたらしい。流星ははっとそちらを見上げる。空に浮かぶは1つの影。その影は空中で仁王立ちをして、コアを見据える。そしてにやりと笑う。


「真打ちは、最後に登場───だうぇい!」


 刹那、その影は脚をコアへと真っ直ぐに。まるでそう、その構えはまさに『ライダーキック』そのもの。バキン、とガラスが割れたような音を立てて、コアの全体へヒビが入っていく。最後には一気に弾けて広くとびちって、何もなくなった。コアを消失したことにより、瓦礫もまたたく間に重力に従い崩れていく。

「………な、なんで」
「ふふふ、朝山御代!華麗に参上っ!」

 瓦礫が完全に崩れ落ち、あたりにはチームケイオスしかいなくなったとき、目の前にやってきた真打ちこと、『朝山御代』に注目が集められていた。その当の本人は本人が思う『かっこいいポーズ』を披露している。
 一時(いっとき)の静寂の後、柚子が口を開く。

「御代、どうしてここに?」
「チームケイオスが出撃してるのに、私が来ない理由がないうぇい。本当はお吟さんたちと一緒に来るはずだったんだぷてよ?」
「私が止めたんだ。『真打ちは最後に来るものだよ』ってね」

 くすりと笑う吟子。その隣では翡翠が懐からどら焼きを取り出して、食べ始めている。そのどら焼きを隣からアスカがこっそり取ろうとするのだが、翡翠の行動は早く、アスカの手をぺちりと叩いてみせた。だがそんな説明で流星が納得するわけもなく。

「朝山御代。3日間の絶対安静を言い渡したはずだ。命令違反と捉えるぞ」
「えーでもぉー。リーダーから『行ってこい』って言われたぷて。リーダーに文句言ってほしいうぇいよ」

 リーダー様々うぇい。そうつぶやいてくるくると回りだす。流星は眼帯を直し、深いため息をつくと、咳払いを一つ。

「……チームケイオス、任務終了。これより本部に帰還する」

 片手を上に上げると、指を鳴らす。その瞬間、チームケイオスの面々は消え去っていた。
 残されたものは何もない。





「おけーり」

 帰った先にはリーダーである狂示が待ち構えていた。隣には複雑な顔をした那生も。恐らく御代の事だろう。
 流星はのんきな顔をして出迎えた狂示に、これまた大きなため息をついて文句という名の抗議をしようとする。が、狂示はそれを手で制して、流星を押しのけて一緒についてきた吟子と翡翠に対して話しかける。

「よう。久しぶりだなァ魔法使い?」
「そっちも変わってなさそうだね。リーダー」
「まーおかげさまでな。(つーかオレの予感的中してたんかよ…)」

 狂示は内心乾いた笑いを浮かべる。まさか本当にいたとは。絶対面白半分で戦闘に加わっただろこいつら。その部分が当たっているのかはさておいて、隣の翡翠へと顔を向ける。だが翡翠は狂示に目を合わせることもなく、疲れていたのか眠いのか、さっさとその場を離れてどこかへといってしまった。嫌われたかね。そう思わず口に出すが、吟子はそれをすぐに否定した。眠いだけさ、と。

「さてとチームケイオス。まずはおつかれさん。しっかり体休めてこいよ。報告は流星たちから聞くからよ」

 狂示がそう言うやいなや、流星と吟子、百合を除いたメンバーは、わっと散り散りになった。残ったのはマグノリアでも、成人している数少ないメンバーだけ。

「さてと流星。お吟に百合。あっちであったことを事細かに教えてもらおうか?」
「その前に御代のことについて聞かせてもらおうか」
「ワイもそれ聞こう思てたんや。手伝ってくれへん?」
「ああ。任せろ」
「だぁらそこはもう話しただろうがうるせえな。さっさと報告しろや」
「まあまあここは私がやるよ。───あれは10年前のことで」
「お吟は今は黙っててくれややこしくなる。百合」
「お断りするわ」

 この日、マグノリア最古参メンバーである数少ない成人組は、らしくもなく子供のような戯れをしたとか、してないとか。





 ────チームケイオス。それは、毎日を面白おかしく生きてしまう、クセが強すぎるフォルトゥナたち。趣味も嗜好も何もかもが違うフォルトゥナたちが集まった、『よくわからない団体』。
 彼らは描き、書きしるす。その時であった『日々のスパイス』を。彼らは語る。毎日の生活で起こった、『小さい軌跡』を。



 ────毎日は、スパイスとほんの少しの『混沌』で満ちあふれている。



第3話【fake town baby】終

 

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