複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.3 )

日時: 2018/03/14 11:19
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「…あれ?」

 遠い遠い昔の話。大地がそこまで緑で覆われていなかった頃の話。
1人の子供が見つけたのは、とてつもなく巨大な『鉄のかたまり』。それはきれいとは言えず、いくらか煤や傷跡が残っていた。
 それは地面に深々と突き刺さっていて、とても子供ひとり、いや大の大人が何人いたって、掘り起こせるようなシロモノではなかった。それでも、どうしてもそれが『ほしい』と思ったのか、子供はそれに恐る恐る手を伸ばす。柔く、小さすぎるその手で。
 その時、その鉄のかたまりは触れた瞬間に、触れた場所から青い光を走らせた。
機械的な音を立てて、ゆっくりと地面からその姿を現す。
そして地面からすべてを出したその鉄のかたまりは、確かに子供に『語り始めた』。


自らの『本来の名』と、『これから起こるであろう先の話』を。



変革戦機【フォルテ】
第1話─Magnolia─



 今ここは人々がせわしなく動き回る、現代よりは先の日本。
 ビル街の中でもひときわ大きいビルに、大きなビジョンが映し出され、コメンテーターと司会者と思われる人物が、各々好きなように、収拾がつかないくらいに持論を繰り広げていた。その内容は、わざわざ立ち止まって耳を貸すような内容ではなく、聞くに堪えないものであるというのが現実である。通行人もそんなものを聞く暇があるのなら、何か別のことをしたほうがもっと有意義だと踏んだのか、目もくれずに先を行く。
しかし、その上──否、正確には『同じ場所の別の空間』といったほうがいいだろうか──では、巨大ロボットによる2つの陣営の戦闘が行われていることを、待ち行く人々は何も知らない。
『何も影響のないよう』、『単なるエゴか世の為か』、激しい戦闘が行われていることを。

「いい加減帰れ、グローリア!お前たちのせいでどれだけ一般人に被害が行くと思ってるんだ!」
『帰るのは貴様らだろうがクソガキ共!それにこれはちゃんとした公共事業!フォルトゥナの子供を引き取って、国の事業に役立ててやってるだけだ!それがわからんのか!』
「これだから大人って…自分のしてることを素直に悪だと認めないのよねー。どれだけそのフォルトゥナの子供たちに悪影響を与えてんのか知らないの?というかあんたらの引き取るは単なる『誘拐』とか『拉致』でしょうが!」
『このクソガキ共…連れ帰れば使えると思ったんだが、やはりここで殺しておくべきだな!』
「へー、へー、有用そうなフォルトゥナの子供を今ここで殺すんだー、へー、これでも食らえ!」

 上空。否、『周囲の風景をスキャンしデジタルデータ化し、そこだけ切り離された別空間』では、軽3機の巨大ロボットが、互いに互いを傷つけあいつぶしあっていた。ある者は手数で攻め、ある者は手にしている刀で切り込む。残りの1機はライフルで懸命に2機の猛攻を必死に凌ごうとするが、おそらく支給品であろうライフルだけでは、猛攻を防ぐことなどまず不可能に等しいだろう。しかも相手は『特殊能力』を使って襲い掛かってきている。

「超子ちゃん必殺!『スーパーパイロキネシス』!」

 その時、手数で攻めていた1機が、補助具の役割をしているのであろう杖から、巨大な『火のかたまり』をライフルを持った1機にぶつける。ぶつけられた相手は瞬く間に火によって包まれる。

『あ、熱い熱い熱い熱い熱いぃぃぃぃ!なんだっこれ、い、息が…ッ!かひゅッ…』
「うおやっべえキャンプファイヤーじゃん踊らな」
「そんなことしてる暇ないと思うんだけどなあ…」
『お前らッ…なに…しや…』
「うわまだしゃべってるよただでさえ酸欠なのに、元気アルネ―」
「なんで最後カタコトなんだよ?とりあえず機能停止するだろうから、さっさとパイロットだけ放り投げて、機体だけ持ち帰るぞ」
「はーいはい!とりあえず機体回収要請だすねー」

 燃え盛る機体を前に、この戦闘において勝利したと思われる2つの機体は、徐々に機能を停止していくそれに対して同情も慈悲もなく、ただ淡々と残りの作業に入るのだった。



 この世界には、『フォルテッシモ』と呼ばれる巨大なロボがあった。どこから来たのか、誰が作り上げたのか。それは今となってはわからない。ただ、原初の機体をあるひとりの子供が見つけ、その機体に触れた瞬間に動き出し、触れた子供に対し、自らのこととこれから起こるであろうことを語った、とは史実には書かれている。真実か偽か、確かめる者はだれ1人としていない。
 そのフォルテッシモは前までは、軍用兵器として使われていたが、現在は互いの存亡の為にある2つの組織が使用し、闘い、そして散っていく。とはいっても一時的にベッドの上の住人になってフォルテッシモには二度と乗れないだけなのだが。
 それが、大人だけで構成された今現在の国家最高権力組織『グローリア』と、その組織に対抗しまとめ上げられた、未成年で構成された組織『マグノリア』。本来、グローリアは『フォルテ』と呼ばれる『異能力』に目覚めた人々、『フォルトゥナ』を、一般人からの迫害から守るため、およびフォルトゥナの社会的地位を向上させるために作られた組織なのだが、いざ政治に介入したとなると、その目的は一変した。
 国家権力を握り、自由に政治に口出しをできるようになっただけでは飽き足らず、自己利益の為だけに、国中からまだフォルテに目覚めて間もないフォルトゥナの子供たちを連れ去り、実験の実験台にしたり、奴隷として扱ったりと、悪いように使うようになった。中には使い捨ての兵士として他国の戦場に送り込まれ、フォルテを乱用された挙句命を落として国に帰ってくる子供もいた。そして一般人への洗脳教育。グローリアに、たとえフォルトゥナがなくとも絶対の崇拝心をもたせるように仕立て上げた。
 そんなグローリアに対抗すべく、未成年のフォルトゥナだけで構成されたのが

「『マグノリア』ってわけ。ここまでオッケー?」
「FUUU!イカしてんZEマグノリア!」
「で、なぜもとよりマグノリアにいる俺もこの講義に出されてるんだ?部屋に帰りたいんだけど」
「初心に戻ってもらおうとね!あと引きこもりもいい加減にしなさい」
「そうだYO芳賀(ハカ)!ファーストハートも肝心だZE!」
「おまえうるせえ…」

 そして今。マグノリアでは、『初心に戻ろう講義』と題した、いままでの歴史の授業がたった3人で執り行われていた。



続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.4 )

日時: 2018/03/16 11:58
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「じゃ、次の話に移るわよ。そもそもフォルトゥナは──なんでひどい目に合ってるか、わかるかしら」
「一般人からすれば、『普通ならばあり得ない力のようなもの』を使える人間なんてものは、恐怖の対象にしかすぎない。自分とは違う『異常者』なんて、近づきたくないだろうし、そもそも存在を認めたくないだろう。だからあの手この手を使って、自分らの視界、もしくはこの世から消し去ろうとやっかみになる。僕たちフォルテを持つフォルトゥナが、今現在においても社会的地位や社会的存在が危ういのは当たり前の話だ」
「───あら、突然の来訪者さん大正解」

 講義を受ける2人に対し自ら教鞭をとる少女の問いかけに、その2人とは違う第三者が割り込んで答えた。少女は声がしたそちらの方向に目線だけを向けて呟いた。
 閉じ切っていたはずの扉は開かれており、そこには顔を何かしらの布のようなもので覆い隠した、いかにも神社の息子というような少年がいた。少年は部屋の中で執り行われていた講義と、そのメンバーを見るなりため息をついた。あきれたのかそれともただのため息か。意味合いは変わらないだろうが。

「時雨じゃんYO!どうしたんだYOため息ついちまってさベイベェ」
「…松永、そのしゃべり方はどうにかならんのか」
「いや無理だろコイツがこれ以外のしゃべり方したらそれこそ一大事だ」
「で、松永くんのことはおいといてだけど。時雨くん何かあった?」

 時雨(しぐれ)───春夏冬(あきなし) 時雨───と呼ばれた少年は、最初に自らの名前を呼んだ銀色のアフロとサングラスが特徴的で、いかにもラッパーを思わせるようなしゃべり口調の少年には一切顔を向けず半ば無視するような形で、話を続ける。

「さっきまで出撃していた姉上と正紀が回収してきた機体のデータがとれたぞ。報告会だ。急げ」
「はっや!」
「オォウなんつースピードだYOパネェ!」
「そこにいる芳賀がいればもっとはやかったんだがな」
「うるせえ」
「とにかくだ。もう全員集まってる、さっさと来い。それと…歌子さん」
「なあに?」

 時雨は用件を伝えると、先ほどまで教鞭をとっていた少女───黛(まゆずみ) 歌子(うたこ)───の名を呼ぶ。歌子は時雨に柔らか笑みを浮かべて返答を待つ。心なしか周りに花が飛んでいる雰囲気を醸し出している。

「疲れているのならば、疲れたといっても構わないんですからね」
「あらどうしたの?」
「目の下。クマがついています。また寝ていないのでしょう。それと若干顔色が悪いです」
「あっ」

 時雨がちょうど目の下あたりをトントンと示してやると、歌子はハッとして目元を隠す。その様子に時雨は深いため息をつく。先ほどのため息よりはもっと深く。今度こその意味合いはあきれか。

「何が原因かは知らず処ですが…活動に影響が出ないようにしてください。ひとつの油断が『死』を招きます」
「…ごめん」
「それでは」

 今度こそ要件を済ませると、時雨は去っていった。急いでいたのか、多少小走りで。歌子はそれを追いかけるように、無言で部屋を出ていく。そして取り残された、2人の会話を聞いていた松永と、時雨から芳賀と呼ばれた少年───電堂(でんどう) 芳賀(はか)───は、各々に言い合う。主に時雨のきつすぎる物言いに対して。歌子に追い打ちをかけるような物言いに、松永は若干トーンを落として苦言を呈する。

「あの言い方はねぇだルォ?トドメさしに来てんじゃんYO」
「いやむしろ、時雨はあれが精いっぱいなんだよ」
「どういう意味だYO」
「あいつさ。クソほど口下手でな。あれでも必死に言葉は選んでんだろうが、頭の中はパニックになってんの。仲間を心配するあまりつい厳しい言葉になってさらにへこませちまう」
「時雨は自覚してんのかYO?」
「してるっちゃしてんだろうな。今までにもそういうことあって何度か直そうと頑張ってるみてーだが。あ、そうそう。報告会終わった後のあいつ見てみろよ。まるで覇気がねえしクソウケるぐれーにしなっしなだぜ」

 芳賀はケタケタ笑いながら椅子から立ち上がり背伸びをして、めんどくせえが行くか、とぽつりとつぶやいて部屋を後にした。もちろん松永のことは待つわけでもなく、伸ばしたはずの背は思いっきり丸めて猫背にして、報告会の会場へと足を進める。ただひとり残された松永は、オイオイ待ってくれよ置いてくなんてひでえだルォ!?と叫ぶなり、また部屋を後にするのだった。





「お、全員揃ったな。んじゃ報告会はじめんぞ」

 少し大きめの会議室。そこに芳賀と松永が入ると、プロジェクタの前で構えていた帯刀している少年───村山(むらやま) 正紀(まさき)───が、部屋の明かりを消して報告会を始める。会議室にはそれなりの人数が入っており、先ほど芳賀たちとともにいた歌子もしっかりといた。倒れることを考慮してか、周りが立っているなか椅子に座らされていたが。その椅子を用意したのは誰なのかは知らなくていいことだ。

「デジタルデータ内の見回り中、突如グローリアの乱入あり。戦闘開始時刻は13時27分。戦闘時間はおよそ16分間。相手は1機のみで、フォルテッシモの形状は量産型。どうやら乱入理由は『気に入らなかった』、らしい。何に対してかはもう知らん。んなことはどうでもいい。で、桐乃さんのパイロキネシスで機体を焼いて戦闘終了。パイロットを放り投げたあと、機体回収ののちに解析にかけたら、こんなデータが出てきた」

 正紀がプロジェクタにデータを映すと、出てきたそれに会議室にいた面々はとたんにざわつき始める。
『捕獲したフォルトゥナの子供のフォルテの組み込みプログラム』と表示されたそれには、明らかに遺伝子情報と思われるデータが、何行にも及ぶ文章がずらりと並んでいた。隣にはわかりやすいようにか図式まであった。そして組み込まれたと思われるフォルテの持ち主のフォルトゥナの子供の、詳細な情報まで。血液量、罹患歴、これからかかるであろう病の情報までつらつらと。そして張本人である子供の顔写真まで、ご丁寧に張り付けされてあった。

「これは…」
「ま、あながち、というかほぼ確定だろうが、ヤツらは連れ去ったフォルトゥナを、『何らかの形にして』フォルテッシモに組み込んでる。『いざ』という時のため…なんだろうな。組み込んだ子供のフォルテを使って逃げるなりとらえるなりもしくは殺すなりな。さっきの戦闘では偶然か運がよかったのか、そういうことをしてこなかったらわからなかったが。しかしこういった機体がきたのは初めてだ。これからもこういったフォルテッシモが来ることは間違いないだろう」
「それに考えられる範囲でいくと、あたしらの誰かが向こうにつかまって、『いいように』されたあとこうなることも、否定はできないからね」

正紀の言葉に続くように発言するは桐乃(きりの) 超子(ちょうこ)。先ほどまで正紀とともに出撃し、相手に『火のかたまり』をぶつけてとどめを刺した少女である。超子はたまたまか隣にいた自らの『双子の弟』である時雨をとっつかまえ、後ろから抱きかかえる。時雨はそれを振りほどこうとせず、口を開く。

「『何らかの形』…というのは具体的にはどういうものだ?」
「今現状考えられるのは『デジタルデータ』。これが最有力だな」
「というかそれしかなくないか?それこそ本人をフォルテで急速成長させて、パイロットとして搭乗させることなど考えられんぞ」
「つかデータとして出てきてるんだからそれしかないよ」
「すまん。なら言い方を変えるか。やっこさんは連れ去ったフォルトゥナの子供をデジタルデータに変換して、フォルテッシモに組み込んでいる。いいか?」
「で、組み込んだ子供はどうしてるのかね?」
「やっこさんの今までの状況から見るに、わざわざ『生かして残す』と思うか?」

正紀の間髪入れずにはなったその言葉に、それまでざわついていた部屋はシンと静まり返った。

「そういうことだ。これから相手さんの状況はますます指一つさえ見逃せなくなるな」

正紀はそういうとプロジェクタの電源を切り、部屋の明かりをつける。


「報告は以上。各自解散。いいか、指一つの動きも見逃すな」


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.5 )

日時: 2018/03/21 18:51
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 正紀の一言とともに、報告会は解散となる。
ぞろぞろと皆々が何かを言い合いながら、会議室を後にする。
 そんななか超子は、しっかと捕まえている弟が、なにやらどんよりとしていて覇気がないのに気づく。

「時雨」

 超子が名前を呼ぶと、時雨はため息をついた。何に対してなのかは聞かないことにしておく。きっと聞いても弟の地雷に踏み込むだけである。そして『どうぢてこうなったのか』、それを聞けばますます時雨は消沈し、下手をすれば自室に引きこもり、1日中出てこないのだろう。それをわかっていながら『わざわざ』聞くのは間違っている。超子はそれを誰よりも知っている。なんといっても彼女は『お姉ちゃん』なのだから。

「お姉ちゃんがあんたの大好きな雑煮、作ったげよっか」

その言葉を良しとしたのか、時雨はぽんぽんと自らを捕まえている姉の腕をたたいた。これでは移動しようにも動けない。超子はにっこりと笑って、時雨を開放する。そしてスキップで会議室を後にした。早く来なさいよ、と言葉を残して。
 その様子を見ていた1人の少女が、時雨の横に立ち声をかける。

「時雨」
「…髪川さん?」

 髪川───髪川(かみかわ) 因幡(いなば)───と呼ばれたその少女は、ショートカットの髪の毛を『伸ばし』て、会議室の隅のほうに置かれていたビニール袋を取りそれを持ってこさせ、その中から大きめの肉まんを取り出して、大口を開けて頬張る。伸ばした髪はシュルシュルと短くなっていき、元のショートカットへ戻った。声を時雨にかけても、目線や顔はそちらへとは向けず、口に入れた肉まんを飲み込んでから口を開く。

「歌子に謝った?」
「……」
「慌てるせいで言葉を直球で伝える癖、よくない。いつものことだとしても。ほんとに治すの?」
「……」
「黙り込むの、よくない。口下手どうにかしなよ。そのせいで誰かいなくなったら時雨が責任取るべき」

ただ淡々と思ったことを伝える因幡に、時雨は返す言葉もなく立ち尽くす。どういうわけだか、足元がひどく冷える。冷えはおさまるどころかどんどんと悪化していく。動悸はどんどん早くなり、ぎりりと拳を固く固く握りしめるばかり。それを知ってか知らずか、はたまたわざとか、因幡は追い打ちをかける。

「───『ひとつの油断が死を招く』。歌子に言ってたこと、時雨にも言える。この先どうなっても知らないけど」
「…それ、聞いてたのか」
「で、どう?時雨の『思ったことを直接言う』行為を実際に身に受けて。気持ち悪いでしょ」
「…まねごとをしたつもりか」
「何か悪い?少しでも痛かったんなら歌子に謝ってその癖直して」

それだけ言うと満足したのか、因幡は肉まんにかじりつき、会議室から出て行った。ただ1人、時雨を残して。
時雨はぽつんと残された会議室で、まるで絞られたように言葉を吐く。

「わかってる。わかってるけど───でも、そうじゃなきゃ『俺』は…あの時助けられたかもしれないのに。嘘なんてもので包まずに…!」

時雨は足早に会議室を後にし、部屋には誰もいなくなった。





 調理室。その部屋いっぱいに、良いにおいが充満する。そのにおいだけで、腹の虫は鳴いてしまうほどに。

「時雨遅いなー。もうすぐできるのに…というかもうできたのに」

その部屋でただ1人調理して、それを完成させた超子は、身に着けていたエプロンを外して独りごちる。
 先ほど時雨に作ると約束した彼の好物、雑煮ができたというのに、肝心の張本人が来ないことに少々機嫌を悪くする。というより超子は会議室を出る前にたしかに言った。『早く来なさいよ』と。それを時雨はちゃんと聞いていたはずである。聞き取れないような声では言っていない。いったいどうしたというのか。時雨の性格上、言いつけを破るようなことはしないはずだ。

「あ、あの」
「んお?あ、歌子ちゃん!?どしたの?」

 そんな時、入り口付近か時雨とは似ても似つかない、女性特有の高いソプラノボイスが聞こえてくる。時雨以外の人間が来るのは予想外だったようで、超子は声の主を見て驚く。まさかここにくるなんて思いもしなかったようだ。その張本人の女性、歌子はおそるおそる超子に声をかける。中に入るのをためらっているようで、入口の扉の後ろに体を半分以上隠しながら。

「ねえ…あのね。相談事があるんだけど…」
「えっ?」
「入って、いいかな?」

超子は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしつつも、その直後に満面の笑みを咲かせる。

「まっかせなさい!このお姉ちゃんに!」

そういうと彼女は、歌子を引っ張って中へと招いた。



「…へ?時雨に謝りたい?」

 歌子を部屋に招き入れ、余分に作った雑煮をふるまって歌子がいくらか落ち着いた後に話を聞いた超子は、その内容にこれまた間抜けた顔をして結論を口に出す。当の歌子は明らかに落ち込んでいるようで、いつの間にやら食べ終えた雑煮の器をがっしりと両手でつかみ、超子におかわりを請う。超子は自然な流れで器を受け取り、餅をいれ汁をいれ菜っ葉をいれて歌子に渡す。歌子はうんとうなずいて、餅を食べ始める。

「あのね…その…ちょっと時雨君の言葉に傷ついたのもあるんだけど…」
「うん」
「明らかに私の態度、『傷ついてます』って感じがあからさまだったかなって。しかもその後の報告会で、私だけ座ってたでしょ?それもあって時雨君を傷つけさせちゃったというか…なんというか」
「え、時雨傷ついてるように見えた?どっちかっていうともんのすごい落ち込んでるように見えたけど」
「それ同じじゃない?」
「同じかなあ…というか、歌子ちゃん時雨のあの様子に気づいてたのね」
「気づかないものなの?」
「いや態度パッと見ふつうじゃん…歌子ちゃん観察眼鋭くない…?」
「そうかなあ」

 そうしている間にも、歌子は雑煮を食べきっていたようで、さらにお代わりを超子に要求する。しかしこれ以上食べられると肝心の時雨の分までなくなってしまう可能性がおおいにあるので、超子はストップをかける。そのかわりに超子は取っておいた飴を歌子に渡す。歌子はそれを受け取ると同時に包まれていた飴をとりだして、迷わず口の中へと放り込んだ。コロコロと音がする。

「まあ時雨に謝りたい理由は分かったけど…でも謝るべきは時雨のほうだと超子ちゃん思うわあ」
「え」
「そこまで歌子ちゃんに罪悪感みたいなもの?まあそういうものを背負わせるのはよくないよ。発端は時雨の物言いのきつさから来てるんだしね」
「…そうなのかな」
「いやそうでしょ。それに時雨だってかなり気にしてるだろうし、というかきっとたぶん、因幡ちゃんあたりからいろいろ言われて謝りに来るんじゃない?」
「…なんでそこまでわかるの?」

歌子の何気ない質問に対し超子は答える。

「だってあたしは───お姉ちゃんだもの。弟のことならなんでもわかるわ」

自信たっぷりに言うと、すぐに別の足音が近づいてくる。まっすぐにこちらへと。

「きたかな?」
「あ、じゃあ私帰った方が」
「ダメダメ!歌子ちゃんいなきゃ、きっと時雨が謝るチャンスなんて無くなるから!お互いに苦しいだけでしょ?」

帰ろうとする歌子を超子は引き止め、先程まで座っていた椅子にまた座らせる。歌子はきょとんとして超子を見上げる。本当にいいの?と言いたげに。その顔に超子は、にんまりとわらっていいのいいのと言う。それと同時に、扉がノックされる。丁寧に3回。超子はいらっしゃいと声をかけて、扉の向こうの彼に入ってくるように促した。そして扉が開かれ、中に入ってきたのは勿論

「……歌子、さん?」
「し、時雨くん、さ、さっきぶり……」

なんだかそわそわと落ち着かない様子の時雨だった。時雨は中に入り、そこにいた歌子を認識するなりさらに落ち着かなくなる。歌子も先ほどとは打って変わって、言葉がどもり始める。その様子を超子は、「いやー甘酸っぱいわー」とまるで他人事のように呟いた。そして「あたしお邪魔みたいになっちゃうから隣の部屋行くわ!じゃ!」と言い残して、さっさと別室へ移ってしまった。
残された2人はもちろんのこと、とてもぎこちない空気の中、お互いに黙り込んでしまう。

「(なんでここでいなくなるの超子ちゃん!助けて……)」
「(姉上、その気遣いは余計です……!)」

微妙な空気があたりいっぱいに充満する。先程の雑煮の良い匂いが嘘のようだ。なんというか、息苦しくも感じる。
そうして時間たっぷりに溜め込んだあと、どちらからか息を吸う音が聞こえたと同時に

「あ、あの!」
「す、すみませんでした!」

と、言葉は違うが双方から声があがる。

「へ?」
「え」

お互いにぽかんとした顔になり(否、時雨は顔を隠しているので雰囲気だけだが)、顔を上げる。

「し、時雨くん?」
「あの……歌子さん。すみません僕からいいですか?」
「え、あ、どうぞ……」

時雨の少し真剣な言葉に、歌子はつい敬語になってしまう。そして時雨の次の言葉を待つ。

「その。すみませんでした」
「えっ」
「今朝……というかつい1時間程前の、あの物言い。本当にすみませんでした」
「……あっ、あれ?」
「はい。情けないことに、報告会が終わったあと咎められまして。あの言葉で歌子さんを傷つけてしまいました」
「時雨くん、その」
「だから謝らせてください。たとえ遅くても貴方が僕の言葉を非常に嫌がっていたとしても、言わせてください。本当に」
「ま、待って!」

すみませんでした、と言いかけたところで、時雨の口の部分であろう場所に、歌子の手が重ねられる。恐る恐る歌子は口を開く。

「わ、私もごめんね。その、心配かけちゃった……というか、あからさまな態度とっちゃって。時雨くんに悪いことしたよなって、報告会の時も思ってて、変な後悔もあって、その、上手く言えないんだけど……!時雨くん、ほんとごめん。とっても心配かけちゃったりとか。ああもう上手く言葉が出てこないったら!」

矢継ぎ早に出される歌子の声に、時雨は半ば呆然とする。と、同時にそこまで彼女を傷つけてしまったのかとさえ思う。そしてお互いに傷付き合っていたのだとさえ。時雨は口元を押さえている歌子の手を、とんとんと叩いて離すように促す。なんだかこの行為、今日で2回目だなと余計なことが頭に浮かぶ。

「え、あ、ごめんっ!苦しかった?」
「いえ……その。なんと言いますか。お互いに……傷つけて傷つきあって、みたいになっていたんですね」
「あ……」
「これ以上謝罪しても、また謝罪し合うだけでしょうし、ね」
「……じゃあ、時雨くん。一緒にごめんなさいって言って、終わりにしよう?」
「そうですね」
「それじゃ、せーの」

「ごめんなさい」
「すみませんでした」

時雨と歌子は同時に頭を下げ、謝罪の言葉を言い合う。が、

「ちょっと時雨くん!一緒に『ごめんなさい』って言おうって言ったじゃん!」
「え、あ、す、すみません!?」
「もー!そこはごめんなさいでしょ!」
「ご、ごめんなさい!」

そんなことで喧嘩とも呼べないような喧嘩が始まったのは、別の話である。



続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.6 )

日時: 2018/03/22 17:01
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

調理室で時雨と歌子がなんやかんや和解した少し後のこと。
調理室とは違う場所では、あるカードを用いてカードバトルが行われていた。対戦するのは2人の少年、そしてそれを観戦する1人の少女。

「ここで!俺のサイキョーカード、機械仕掛ケノ神(デウスエクスマキナ)を召喚する!」
「え、ずるい!」
「ちゃんとした公式カードだっつの!」

『俺のサイキョーカード』なるものを召喚した少年は、勝利を確信した笑みを浮かべる。対する別の、アオザイを着た少年はただおろおろするばかり。何の手も与えられないでいた。

「そんでー…くらえ!これがトドメだ!『 終焉を告げし歯車(ワールドブレイカー) 』!」
「ってちょっと待った!」
「あ?なんだよ折角いい感じでトドメさせると思ったのによー」

アオザイを着た少年が、今まさに勝ちをもらおうとした少年に待ったをかける。それに対し止められた少年は不服そうに、待ったをかけた少年のほうへ向きなおす。

「あのさ。そのターンに召喚されたキャスト(クリーチャー)は…そのターン時攻撃できないよ?」
「……しまったああああ!!」

その部屋いっぱいに、少年の魂の叫びがこだました。



「ね、熱中しちゃうとどうしても基本のこと、忘れちゃうよね…」
「うるせえ…」

 いったんゲームを中断して少し後。いくらか落ち着くだろうと思っていたが、そうでもないようだ。体育座りで隅のほうで、まるでしばらく前の時雨のようにへこんでいる少年───ヰ吊戯(いつるぎ) 遊喜(ゆうき)───を、アオザイを着た少年───月紫(つくし) 泥(なずみ)───は必死に励ましていた。だがその努力はむなしく、まるで右から左へと流されていく。何を言っても元に戻る気がしない。それでも泥は元気を出してもらおうと、考えて考えて言葉を贈る。

「ほら、ま、またやろう?『デルタ・リザレクション』。僕『失墜のゼノ・フラゥア』デッキでいくから」
「俺が立ち直るまでヤダっつーかそれ現環境での最強デッキじゃねーか」
「ええ〜…」

泥はどうあっても立ち直ってくれない遊喜に、肩を落とした。ますます機嫌を損ねる理由が、先ほどのデッキだとはいざ知らず。
 ───デルタ・リザレクション。今全国で最も流行しているトレーディングカードゲームである。キャストと呼ばれるクリーチャーを召喚し戦わさせ、時にはスペルカードと呼ばれる、いわゆる罠カードを発動させてゲームに様々な影響を出させたりする。どこにでもあるようなカードゲームの一種だ。だがこのカードゲームには、ほかのカードゲームと違って進化というルールがない。代わりにあるのが『アクセサリールール』である。呼びだしたキャストに、装飾品と呼ばれるような『アクセサリー』カードを付け、スキルを付与したり、元から持っているスキルを強化したり、自らにバフを持ったり、様々なことができる。ものによっては呪いがついていたりするが、その呪いをいかに利用できるかも、プレイヤー、否『ウィザード』の実力がものをいうところである。
 そのデルタ・リザレクション。マグノリアでも流行の波は来ているようで、時々大会が開かれることがある。そしてその大会において、必ずと言っていいほど優勝をかっさらっていくのが、彼、ヰ吊戯 遊喜である。その彼が野戦とはいえ、初歩的なミスをするということは、彼にとってどれだけ屈辱的なものだろうか。

「あ、そうだ。双六(すごろく)さんもやらない?」

いつまでも立ち直らない彼にしびれをきかせたのか、泥は他人事のように観戦してた少女───双六(すごろく) 玖音(くおん)───に声をかける。

「私の基本デッキ、『悠久に続くチルナノグ』なんだけど」
「じゃあ僕は『冥府イザナミ・幾千の呪言』デッキでいくね」
「あんたほんとに闇の深いデッキ使うね」
「それじゃ先攻後攻を決めよっか。ダイスの準備はオッケー?」

もちろん、と玖音がうなずくと、互いにダイスを上へ向けて放る。それが場に落ちてくると、コロコロと転がった後にダイスがそこで止まり、目が出る。『出た目の数が若いほう』が先攻となる。泥のダイスは2、玖音のダイスは4を示した。

「僕が先だね。それじゃはじめ」
「その前にお仕事ですよ、皆様方」

 ようか、と泥が言いかけたところで、玖音や遊喜とは違う、別の誰かの声がかかる。
声がした先にいたのは、所々を不似合いな甲冑で覆った、メイド服姿の少女。常に糸目なのか、笑顔がやけに目立つ。

「あれ、銃筒(じゅうとう)さん?仕事って」
「フォルテッシモに乗らないほうの、見回りですよ。今日は偶然にもお三方のようでしたので。お声をかけさせていただきました」

少女───銃筒(じゅうとう) 真巳(まなみ)───はうやうやしく頭を下げると、「さて、あの坊ちゃんは宿題を置いてどこに逃げたのでしょうね」と、軽く拳をポキポキと鳴らしながら去っていった。彼女が坊ちゃんと呼び、付き従う同年代の彼に、形だけでもエイメンとフリで十字を切ると、泥は玖音に声をかけ、そして部屋の隅でまだ丸まってる彼、遊喜の腕を引っ張って、部屋を後にし、『単身出撃室』へと向かうことにした。





 単身出撃室。ここだけは異様に部屋が広い。そして中に入れば、まるでホルマリン漬けの容器がずらりと並んでいて、この光景を始めてみた者は必ずと言っていいほど、『不気味だ』という感想を抱くであろう。3人はその単身出撃室の中へと入り、入口付近にある、ディスプレイがついたロッカーから、インカムのようなものを取り出し、それを自らの耳へセットする。一見それはブルートゥースイヤフォンのように見えた。
 そこから音声が耳の中から、頭の中へと響き渡る。

『指令室より、連絡。返答望みます』
「はい、月紫 泥」
「同じく双六 玖音」
「同じくヰ吊戯 遊喜…」
『指令室。ヰ吊戯の様子が落ちているが、何かありましたか』
「お気になさらず。そのうち戻ります」
『了解。それでは出撃ポッドへ入ってください。今回の転送場所は浅草、仲見世通り。そこでグローリアを発見次第、戦闘、そして拘束または抹殺をしてください』
「毎度思うんだけどなんで関東圏限定なのか」
『各地に支部が点在していますので』
「あとなんでわざわざこっから出撃…」
『はい面倒なことはあとで言ってください。それでは御武運をー』
「ものっすごい適当だ…!」

 次の文句を言う暇もなく、彼らは強制的に転送された。

「……『ルール』に反しちゃだめでしょ?マグノリアも、グローリアもね」

最後に謎の声が響いたと思ったが、その声は誰の頭にも残らずに霧散した。





 転送先の、浅草仲見世通り。そこで、彼らは立ち尽くしていた。ただ何をするわけでもなく、ぼうっと。

「…ついたね」
「ああ」
「…どうしよっか」
「グローリア探すにも見回るにも、この人だかりじゃね」

 ここは浅草。仲見世通り。平日でも観光客がわんさと集まる場所だ。ひどいときには身動きすらできない時だってある。そんな場所に彼らは、今日の仕事としてここで見回りをし、グローリアを捜索し、発見次第戦闘、拘束または抹殺するために転送された。しかもわざわざ転送機を使って。

「直接行きゃいいじゃんか」
「迷うからかな…って、そういえば遊喜くんは?」
「え?一緒にいるんじゃ?」

 そういえば先ほどから遊喜の反応がない。というか気配そのものがない。気になって周りを見回してみるも、彼らしき人物がいない。いったいどこに行ってしまったというのか。慌ててインカムで本部の指令室に連絡を入れる。

「もし!月紫です。聞きたいことが」
『緊急事態です、月紫、双六』
「やっぱりー」

指令室の焦るような声からして、もしかしてと思う双六はついそんなことを漏らしてしまう。

『ヰ吊戯の転送にエラーが発生し、本来なら転送するはずのない場所へと転送してしまいました』
「だろうと思いました…場所は?」

そして入って来た場所の名前に、2人は顔をさっと青ざめた。



『───グローリア茨城支部、茨城県庁倉庫内です』



続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.7 )

日時: 2018/03/24 08:26
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「ってて…ここどこだ?」

 遊喜は半ば落ちるような形である場所に到着した。尻から落ちたためか、そこに強い衝撃が走り、びりびりと尻が傷む。痛みが治まらない尻をさすりながら、遊喜は今いる場所を見渡す。
 今遊喜がいる場所は薄暗く、軽く照らす照明すらない。窓もない。一緒にいるはずの泥と玖音もいない。あるのは大量の書物と、書類と思われる紙の束があることくらいだ。明らかにここは浅草の仲見世通りと呼べるような場所ではない。こんなところが、浅草にあっただろうか。

「明らかこれ転送エラーだよな…」

 遊喜はへこんだ。さらに落ち込んだ。さっきの初歩的なミスと言い、今起きた転送エラーといい、今日はとことんついていない。なんでこんなことが立て続けに起こるんだ。遊喜はため息をついて肩を落とした。そんなときである。

『ヰ吊戯、聞こえますか。指令室』
「えっ、あ、はい?」

 突然インカムから、先ほど転送したはずの指令室から通信が入った。遊喜はあわてて返事をする。

『転送エラーが発生しました。あなたがいる場所は本来転送するべきでない場所です』
「たはー…ですよねー…で、どこ?」
『落ち着いて聞いてください。あなたのいる場所は───』

 後に続く言葉はなかった。なぜならば

「いたぞ!侵入者だ!マグノリアのフォルトゥナだ!」

突如としてその場所の扉が開かれ、遊喜たちにとっての『敵』───グローリアの連中が乱入してきたからだ。





「な、なんてところに飛ばしてるんですか!」
『原因は不明。現在調査中です』
「そんなマニュアル通りの返答しないでください!」

 同時刻、浅草。予定通りに転送された泥と玖音は、インカムの向こうでいくらか落ち着きを取り戻し、通常業務に戻ろうとしている指令室のオペレーターに、口々に文句を言っていた。やれなんでエラーを起こしただの、やれなんで局地的なエラーだのなんだのと問い詰めるが、指令室のオペレーターはマニュアルにある通りの答えを返すだけ。まるでどうでもいいからさっさと与えた任務をこなせ、そして帰ってこい、あとは知らんと言わんばかりである。普段は温厚な泥も、これにはだんだんといら立ってくる。それは玖音も同じ。

「早く原因を解明しないと帰った後アンタらの頭部に風穴開けんぞクソ役立たず野郎」

玖音が怒気たっぷりにそういうと、オペレーターは言葉を動揺しながらも強めた。

『…その言葉、撤回しなさい』
「いやだね。勝手な都合で後回しにするアンタらに文句言われる覚えはないよ。それとも何?向こうでもし、遊喜が殺されたとしたら…『指令室(バカども)のせいで遊喜が死にました』って『リーダー(あの人)』に言われたい訳?」

紡がれた言葉に、オペレーターは一気にだんまりを決め込んだ。よほど嫌なのか、返答をあきらめたのか。どちらともわからないなか、玖音は続ける。

「わかったらさっさと対応しろ。そんで遊喜を引き上げろ。たとえ『同年代』でも───容赦はしない。覚えておけ」

それを最後に、玖音は通信を一方的に切る。これ以上は言っても無駄だと結論付けたのだろう。泥も同様だった。

「そんじゃ早く終わらせようか」
「そうだね───隠れてないで出てきたらどうだい?そこのお二方」

玖音が持っていたスナイパーライフルを構え、泥が声をいくらか張って言うと、物陰から怪しげな人物が2人出てくる。すでに周囲はデジタルデータへと変換されていたのか、いつのまにやら人はいない。おそらくその2人───グローリアの構成員がしておいたのだろう。1人は男で黒のスーツ、もう1人はやはり男でベージュのトレンチコート。お互い様だがとても、この浅草の、それも仲見世通りに似合う服装ではない。

「気づいていたか」
「まあとっくに。僕たちは『周囲変換』をしてないからね。それに見え見えなんだよ…その殺意。気持ち悪い」
「フン、マグノリアのガキ共にしちゃいい鼻をもってやがる」
「ガキに気づかれる殺意ぷんぷんにおわせるほど雑魚ってことだよ言わせんないい大人が」
「…いっちょまえに挑発しやがって。しってっか?目上には敬意を───」
「知らないね」

 その言葉を言い終える前に、玖音はライフルから放たれた弾丸で、『確実に』トレンチコートの男の肩を打ち抜いた。
それなりに近い距離にいたせいか、打ち抜かれた肩、そして腕は見事に吹っ飛んだ。トレンチコートの男はワンテンポ遅れて絶叫する。痛みによって、つながっていた腕がなくなったことによって。とんだ腕はいくらか遠い場所に落ちる。ぼとりと。

「こ、このクソガキ共!」
「なんだ。結構もろいようにできてんな。ってかオリジナルの弾丸作ってもらったんだっけ、そりゃ飛ぶわ」
「誰に頼んだの…?」
「坊ちゃん」
「ああ、彼か」

 どうやら弾丸は『特別製』だったらしい。確実に腕が飛ぶようなものを作ってくれと、玖音は『坊ちゃん』に頼んだようで。それを今、玖音はふと思い出した。そしてうっすらと口角を上げる。

「さてと泥。さっさと終わらせるよ」
「わかってるよ!」

 浅草、仲見世通り。2つの組織による『戦闘』が、人知れず始まりを告げた。





「どええええ!?」
「なんだ1人か。なら捕まえて『バックアップ』にしてやらあ!」
「は!?バックアップ!?」
「オラオラ捕まえろ!!相手はフォルトゥナといえどクソガキ1人だ!」
「うわこっちくんな!っつーかこいつらグローリアかよ!!」

 突如現れた3人組のグローリア構成員に、遊喜は倉庫内を逃げ回るばかり。外に出ようとしても構成員の1人が、周囲をデジタルデータにさせて空間を切り離しているため、脱出はほぼ不可能。いつもの転送先から帰る方法をしても、空間が切り離されているために、『本部からなにも来ない限り』、外に出てもどこかの空間へ放り出され、迷子になるだけだ。そうなったら帰還方法はまずない。絶体絶命のピンチである。通信を取ろうと思っても、なぜか本部とつながらない。

「こんの、逃げ足早いなコイツ!」
「おいフォルテ使って捕まえりゃいいだろうが!」
「そうだフォルテ…!えっとたしかここに…あった!」

 逃げ惑う中、構成員の一言にハッと気づき、遊喜は腰につけていたポシェットからカードを取り出す。そしてカードを高く掲げ、叫んだ。

「こい!俺のサイキョーカード!『 機械仕掛神(デウスエクスマキナ) 』!」

その時、カッとカードが光り輝く。風は巻き起こり、その光はどんどん増していく。思わず目をつぶらなければ耐えられないほど。それまで強気だった3人組は、腕で顔を覆い、目をぎゅっと閉じる。
光と風がやんだ後、視界を開かせたその先にいたのは、『歯車がぎっしりと詰め込まれ、所々から蒸気が噴出している機械でできた人型のようなモノ』であった。背後には様々なパーツを寄せ集めてできた羽が六枚あり、その相貌は見事に『機械仕掛けの神』。遊喜は先ほどまでの落ち込みようはすでになく、自信に満ち溢れた笑顔を浮かべている。
 ───フォルテ、『デュエリスト』。カードゲームのキャラクターや呪文、罠を、そのカードさえあれば召喚し使役できるという夢のようなフォルテ。それが彼、ヰ吊戯 遊喜が手にした『異能力』であった。

「さあ、始めようぜ!『リザレクション』!」

 今ここに戦場(ワールド)は敷かれ、戦闘開始(リザレクション)の鐘は鳴る。





「まさか直接連れてくるとはねえ」

 場所は戻り、浅草。序盤のほうまではよかったものの、グローリアはあろうことかフォルテで『穴』を開き、『絶対治癒』を持つフォルトゥナと、ほかにも戦闘要員のフォルトゥナを4人引っ張り出してきた。『穴』は彼らの拠点とつながっているのか、泥や玖音が倒しても倒しても戦闘要員はそこから出てくるし、傷を治癒してくる。これではキリがない。

「ちょっとこれは…」
「泥、体力は」
「少し疲れてきたかな…『制御装置』をはずしても、保つかどうか。双六さんは」
「弾丸がギリギリだねえ。普通のも持ってきたけど、こりゃ無理だ」
「本部と通信が取れたらいいんだけど」

こちらでも同様、なぜか本部と通信が取れなくなっていた。なぜそうなったのかはわからない。
人数は圧倒的に不利に陥っていた。こちらが2人、相手は合計8人。しかもこの後もまた誰か来るのだと思うと、2人でこの場を鎮静化させるのは無理があった。

「どうする?」
「泥、首のほうの制御装置で何パー抑えてるっけ」
「80%だけど」
「外して」
「え」
「80%ならギリ人格壊れないっしょ。残りの20%で抑えてるんだから」
「…わかった。もしもの時があったら、よろしく」
「ん」

 ニヤニヤとこちらを見てくるグローリアに、泥は心の中で舌打ちをして、首につけている首輪にも似たソレ───制御装置に手をかける。特定の位置にあるボタンを押して、外そうとしたその時である。

「制御装置から手を放してください。その行為は必要ありません。…ようやく来れました」
「フン、僕たちに感謝することだな。いち早く気づいてやったんだぞ」
「坊ちゃんは後ろに隠れててくださいね?弾丸作ってくれるだけで大丈夫ですから」
「むっ、真巳!僕だってなあ」
「だったらいい加減私から1本とってくださいまし?」
「ぐぬぬ」
「おしゃべりはそこまでだ。早く終わらせてヰ吊戯のもとへいくぞ」
「おまえも偉そうにっ!」

突如としてにぎやかになる。泥の肩にはみなれた白い手が置かれていた。背後には甲冑を付けたメイド、銃筒 真巳と、いかにもな貴族服を着て、やはり甲冑を身に付けた少年───薬莢(やくさや) 生真(いくま)───がいた。
そしてその白い手の主は───

「───時雨!」
「あとは僕たちがやろう。任せておけ」

時雨はそういうと、手にしている錫杖を構える。


「ただ食われるだけの───クソガキだと思うなよ」


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.8 )

日時: 2018/03/26 23:22
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 まず誰よりも行動が早かったのは真巳。ホルターから装填済みの銃を2丁取り出すとそれぞれ相手方2人に向けて発砲する。弾丸はヂッと軽くかすめた程度。相手方のフォルテの効果なのか、たいして物理的なダメージはないようだ。だがそれでいい。かすめたくらいでいいのだ。相手方を揺らせればそれでいい。これは開始の合図でしかないのだ。すかさず玖音が次の狙いを定め、治癒のフォルテを持つ構成員に弾丸を放つ。確実に、『肝臓』を。
 ───フォルテ、『ロックオン』。自らの攻撃が『必ず』、『絶対に』、命中するフォルテ。たとえあまりにも離れた距離から投げられたナイフでも、至近距離から放たれる拳でも。『どんなものでも』必ず『狙った部位』に命中する。それが玖音がが手にしたフォルテであった。
 そのフォルテで見事に弾丸は、治癒のフォルテを持つ構成員の、肝臓のある部位に命中する。特別製の弾丸であることも手伝ってか、撃たれた構成員のその部位は見事に肉片と赤い液体をあたりに散らしながら吹っ飛んだ。なんとも気持ち悪い光景だ。玖音はそれでも2発目を素早く装填し、再び構成員に向けて撃つ。今度は頭の、眉間を狙って。弾丸はそのまま眉間を貫き、すでに肉塊と化していた『それ』はさらに見るも無残な姿へと変わり果てた。その光景を間近で見たグローリアの他の構成員は震えた声でつぶやく。

「あ、悪魔…!狂ってる…!こんな…ッことを平気なツラしやがって…ッ!」

だが玖音はそれに対し、淡々と返す。

「子供連れ去って実験台にして、あまつさえフォルテッシモに組み込むような連中のどこが悪魔じゃないと?」

 言外に玖音は、『それに比べて自分らは、ただ殺してるだけ。たったそれだけのことだ』という自らの感想をのせる。玖音からしてみればただそれだけのことだった。連中に比べればまだマシだと。眉も、口角も、目の色も変えずに、無表情で。

「せいぜい殺されないように頑張るんだね、グローリア『様』」

 それだけ言うと、玖音は最後の『特別製の弾丸』を装填した。





「俺のターン!スペルカード、『捕縛の鎖』発動!」

 同時刻。遊喜はポシェットに付けたカードホルターにある山札から1枚のカードをドローし、そのカードを発動させる。あたりから幾本もの鎖が地を貫き、構成員3人をまとめて捕縛した。鎖は見事に構成員の体を、壊れんばかりの力で締め上げる。ときどきミシミシと耳障りな音が鳴るのは、気のせいではないだろう。ゴリゴリとも音がする。

「さらにスペルカード重ね掛け!『彷徨う亡霊』発動!」

また新たなカードをドローし、構成員の周りにあたかも『呪ってやる』と言わんばかりの亡霊が、数体出現する。これは元のルールでは『相手に状態異常:呪い(出たダイスの目ターン分行動不能)を付与する』という効果をもっている。それに従い、遊喜はズボンのポケットに押し込んでいた6面ダイスを取り出し、放り投げた。コロコロと転がっていき、ダイスの目が示される。ダイスは6を上にして止まった。そのとたんに亡霊は構成員にしがみつき、聞くに堪えないうめき声を耳元であげる。みるみるうちに相手方の顔色はどんどん悪くなり、おなじようなうめき声を出し始めた。まるで地獄絵図だ。

「やっりぃ!『ずっと俺のターン』だ!よっしゃいくぜ!!」

その光景に引くわけでもなく、怖がるわけでもなく。遊喜はただ嬉しそうにまた新たなカードをドローする。

「スペルカード!『幾億の幻影』を発動させて!デウスエクスマキナをダイス分だけ出現させる!」

遊喜は輝かしい笑顔で、ダイスを再び降る。今度のダイスは2を上にして止まる。そのとたん、デウスエクスマキナは2体の幻影を作り出し、計3体のデウスエクスマキナが出現する。ちょうど相手方の人数と同じ数だ。都合がいい。大きさも相まって、ただただ威圧感が増す。そして遊喜は手を高く上げ、そして勢いよく振り下ろし、叫ぶ。

「いっけえええ!『 終焉を告げし歯車(ワールドブレイカー) 』!!」

 その瞬間、デウスエクスマキナ達はまばゆく輝きだし、高く飛んだと思ったらそれぞれが、体内の歯車を動かして、最終的には『真っ赤に染まったコア』がさらけ出される。そのコアに高エネルギーが集まり始め、限界まで集まったド同時に一瞬コアがキラリと輝く。その直後、3体のデウスエクスマキナから、巨大なレーザービームにも似た『何か』を放出する。捕縛の鎖や彷徨う亡霊の効果もあってそこから動くことなく、構成員3人はモロに『ソレ』を食らう。やけに耳障りな音を立て、思わず鼻をつまむくらいの焦げ臭いにおいとともに、跡形もなく消え去った。それと同時に役割を終えたデウスエクスマキナはいずこへと消えていった。
遊喜は疲れによるものか、それともほっとしたことによるのか、全身の力が抜けてその場に座り込む。

「…案外あっさり終わったぁ」
『聞こえますか、ヰ吊戯』
「どぅわ!?」

 突如としてインカムから声が響く。あまりに突然のことだったので、遊喜は驚いて思わず後ろにのけぞってしまう。

『通信回復を確認。それと同時に戦闘終了を確認。ご苦労でした』
「(なんだコイツ偉そうに)」
『転送システムの回復が確認されました。これよりヰ吊戯を、本来の転送場所である浅草、仲見世通りに転送します』
「え、さっきまで戦闘してたのにもうかよ」
『本体の任務はそちらです。今回のはエラーに伴って行われたものにしかすぎません。本来の任務を忘れないように』
「お前ふざけてんの?頭オカシーの?フォルテ使う戦闘は、フォルトゥナに精神的ヒローと肉体的負担をかける。さっくり終わったからまたすぐに戦闘できるかっつったらちげーんだよわかってんの?ってわかるわけねーか。お前らただシレイシツで戦闘だらだら見てたまになんか文句言うだけの簡単なオシゴトしてるだけだもんな。前線で戦わねーからわかるわけねーか。あー忘れてタワー。まさか俺よりバカがいるとはなー。びっくりしちゃうなー。リーダーにいいつけてやろ!」
『……私語を慎みなさい』
「いやだね!これだから『非戦闘員』の『指示だしステーション』は困るんだよー。もしかして俺たちに『カロウシ』だっけ?してほしいの?俺ら死んだら困るのはお前らだぞ。ロクにたたかえねーで文句言うんじゃねーよエラソーな態度しちゃってさ!リーダーに報告するから」
『やめなさい、余計な一言は身を滅ぼします』
「誰に言ってんだか。リーダーに今回のこと報告されなかったらさっさと本部に戻せや『頭でっかち』の『オエライサマ』!」
『……了解。本部に転送します』

 震えた声でオペレーターが言うと、通信は一方的に切れる。遊喜はインカムを荒っぽく取り外し、それを投げ捨て踏みつけて壊す。よほど頭に来たらしい。

「これだから『大人ぶった子供』は嫌いなんだよ。あいつらグローリアとグルじゃねーの?」

苦々しく吐き捨てると、転送が開始されたのか、彼の体は次第に光の粒子となって、最後には消え去る。
 周囲変換が解かれたその場所には、壊されたインカムも、何も残っていなかった。





「『弾き飛べ』!」

 浅草。遊喜が戦闘をあっさり終わらせた頃。こちらはまだ激しい戦闘が行われていた。時雨が力を込めて叫ぶと、残りの構成員はみごとに『文字通り』、『その通り』に弾け飛んだ。それぞれが建物の壁にめり込んだり、ぶつかった衝撃で建物を構成していた素材が崩れ、その者の上に落ちてくる。
 ───フォルテ、『言霊』。念を込めて口に出した言葉が、その言葉の通りに『具現化』するというフォルテ。例えば、『燃えろ』と1本の木に念を込めていったとする。するとどうだろう。その言葉を浴びせられた木は『文字通り』燃える。ごうごうと、盛んに。『崩れろ』とがれきの山に言うとする。そのがれきの山は瞬く間に崩れ落ちる。『風よ吹き荒れろ』といったとする。その瞬間に穏やかな風は一気に暴風と化し、あたりの人や物を飛ばしていく。それが時雨に与えられたフォルテだった。
 時雨は手にしていた錫杖の『首の部分』を握りしめ、そのまま上へと引き上げる。すると見事な細身の刀がすらりと姿を現した。それを弾き飛ばされても性懲りもなく襲い掛かってくる相手に向け、そのままぐさりと刺す。刺した向こう側の刀身には、赤い液体がこびりつく。それを時雨はいっきに引き抜く。刺された相手はそのまま地に落ちた。

「この程度か」
『通信回復確認』
「む」

 突如として全員のインカムから声が響く。若干若い女の声だった。

『よーっす。オレだ』

その声に、しゃべり口調に、時雨はある『言葉』をつぶやく。

「…『ナナシ』か?」
『おうよ。ずいぶんと手間ァかかってるみてえじゃねえか』
「そうでもない。治癒を持つフォルトゥナは双六さんが始末した」
『穴は閉じたのかよ』
「ぬ…そういえばあったな」
『お前鈍感すぎんだろ』

そう、指摘されていた通り、グローリアが作った穴は、まだ閉じてすらいなかった。気づいた時にはその穴から、また新たな構成員が出てくる。今度は4人。それまで始末した構成員と今現れた構成員を足し引きすると、合計7人になる。時雨は布の向こう側で眉をしかめる。

「増えたな」
『だから───オレが手伝ってやる』
「は?」

 その瞬間に通信は切れて、いつの間にか時雨の隣には、白い刀を携えた少女が立っている。その少女は相手をぐるりと見てニヤリと笑う。


「あまりにも暇だったんでな。来てやったぞ」


続く

メンテ

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.9 )

日時: 2018/03/29 08:52
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: https://m.youtube.com/watch?v=-kxUFola5YI

「おい…暇って」
「シレイシツの奴らがうるせーんで来てみた。なるほどおもしれえことになってやがる」

突然に現れた少女、『ナナシ』は時雨を見て、にやりと笑う。この状況を、心から楽しんでいます、というように。
 彼女───ナナシは名前がなかった。それどころか生年月日、過去経歴が一切【ない】、もしくは【不明】という謎の多い少女である。片手には白く輝く刀『白狼丸』を手にし、いつも棒のついた飴を食べている。そして口調、態度ともにこれでもかと言わんばかりに悪い、ということだけが彼女を形作るものだった。ナナシはケッと悪態づく。

「ホントはオレだけ来る予定だったんだがな。コイツもついてきやがった」
「え」
「ナナシちゃんが行くなら私も行くもん!」
「じゃぁかしい善人」

 ナナシが苦々しい顔で背後をちらりと見やると、そこからひょっこりと別の少女が顔を出す。その少女は片手に『ピコピコハンマー』を手にしており、ナナシはふざけてんのかとひとり呟く。
 ピコピコハンマーを手にしている彼女───善澄(よしずみ) 善佳(よしか)───は、ナナシの隣にたち、ふんすと胸を張る。邪魔だとナナシがいやそうに言っても、彼女は話を聞いていないのか、私はナナシちゃんのお友達だからね!とさらに誇らしげに顔を輝かせる。2人のその様子に、時雨はますます毒気が抜かれるばかりだ。

「お前らなにさぼってるんだよ早く終わらせろよ!」
「坊ちゃん早く弾丸を」
「弾丸くれ」
「お前ら2人は消費が激しすぎる!ほら!」

 そんな中、生真が状況を無視して談笑していた3人に向けて大声をあげる。その生真に対し、問答無用で次々と真巳と玖音は弾丸を要求する。すぐにできるわけじゃないんだぞ!と文句を言いながらも、2人に早急に作った弾丸を放り投げる。時雨はこうしちゃいられないと、また錫杖の首の部分を握り直し、宙を舞う構成員に向けて突き刺した。
 ───フォルテ、『バレッター』。弾丸、薬莢(やっきょう)を無限に生成するフォルテ。それ以外のことは一切できない。ほかにできることと言えば、通常では作れないような『特別製』の弾丸を生成できることくらいか。それでも銃をメインにして戦闘する真巳と玖音にとってはありがたい存在だ。それが生真のフォルテである。生真はまたきっとすぐに弾丸を要求されるんだろうなと思いつつ、生成する。その間、前線に出て戦闘する彼の付き人である真巳に変わり、泥が彼の護衛を任されている。次々に襲い掛かるグローリア相手に、泥は遠慮なく豪拳を叩き込む。あっけなく吹っ飛ばされるが、なかなかしぶといようで起き上がってはまたやってくる。それの繰り返しでそろそろ泥自身、飽きてきたところだ。

「はあ…」
「にしてもやけに回復早くないか向こうさん」
「穴も相変わらず開きっぱなしだし、そのフォルテを持つフォルトゥナはもう倒したの?」
「先ほど弾き飛ばしたて気絶させたが…どうやら『フォルテの効果を永続させるフォルトゥナ』がいるらしくてな。閉じようにもそいつもなかなかしぶとい。腹を斬ったがすぐに再生した」
「で、その間にもわらわら出てきやがる、と」

 ナナシがそういうと、それに呼応するかのようにまた穴から3人ほど出てくる。これで相手は10人になった。力で無理なら数で押しと通ろうということだろうか。さすがにいらだちが沸き上がる。しかもいくら倒そうとしても次の瞬間にはつけたはずの傷が再生されるいう始末。おそらく相手のうちの誰かが『そういうフォルテ』を相手全体にかけたのだろう。余計なことをしてくれる。

「───なら。フォルテがきかねーくらいにボコればいいだけだろ」

 そしてひとつの結論を、ナナシはニヤリと笑いながら、あえて向こうにも聞こえるように言う。

「ナナシちゃん賢い!賢いポイントひとつあげるよ!」
「いらねーよ」
「そんな無茶な…!」
「泥、その首の制御装置はずせ」

 瞬間、泥の動きが止まる。

「おいナナシお前───」
「時雨。オメーはフォルテ使って穴閉じろ。メイドとスナイパーは撃ちまくれ。んで坊ちゃんは弾丸作ってろ。善人、オメーはもぐらたたきしてろ」

 時雨が反論する暇も与えずに、ナナシは間髪入れずにほかのメンバーに指示を出す。最後に彼女は時雨を見てこう言った。

「アイツらを跡形もなくボコんなら、全部出すんだよ。どうせ殺しちまうんだから」

 そういうとナナシは単身で突っ込んできた相手の顔面に、遠慮なく蹴りをかました。刀は使わずに。自らの足で相手を落とした。その場でもがくそいつに、ナナシはまた頭部をサッカーボールのように蹴り上げた。かなり力を入れてやったようで、彼女の靴には血のようなものが少しばかり付着していた。

「あとさ、脳みそやられたら、いくらフォルテかかってたって関係ねえよなァ?」

事実頭部を蹴り上げられたそいつは、よほど痛むのだろうその部分を、手で覆いながら苦しんでいた。聞くに堪えないうめき声があたりに響く。仲間のその無様なその様を見た相手方はすっかり引き腰になっている。どれだけ傷をつけられようともフォルテのおかげで痛みもないし、傷もすぐにふさがれていたはずなのに、脳みそが詰まっているその部分をやられただけであっさりと沈むなんて。そう思っているのだろう。ナナシはますます笑みを深めた。

「わかったらとっととやんだよ。死にたくねえだろ」
「ナナシちゃん、私は?」
「いいか、あいつらは全員モグラだ。もぐらたたきするとき、モグラのどこをたたけばいいか知ってるだろ」
「頭だね!」
「いまからやるのはもぐらたたきだ。そのインチキハンマーでぶったたいてやれ」
「はーい!」

 ナナシのその一言に笑顔で答えると、善佳は向こうへ走っていき、たまたま目についたフォルトゥナの頭部めがけてピコハンを思いっきりたたきつけた。するとどうだろうか、ピコンとかわいらしい音が聞こえたと思ったら、瞬間たたきつけられた頭部は、まるで道路に落ちて車に轢かれたザクロのように、無残に飛び散った。脳漿や血液をあたり一面に飛ばしながら。これには時雨たちも、グローリアも、目を見張り呆然とする。ただ1人、真巳はこんな光景を主人に見せるわけにはいかないということからか、生真の目を素早くふさぐ。
 いったいあのピコハンにどれだけの威力が備わっていたというのか。それとも張本人の力が強すぎるのかフォルテの影響なのか。肝心の善佳はその光景を見る前に、ナナシのもとへと戻ってきていた。自分の先ほどの行為で何が起こったかも知らずに。

「おけ?」
「よーしいいぞお前はもう下がってろ」
「え?うんわかった!」

 どうやら彼女は言われたことを真に受けるタイプの人間なのか、ナナシがそういうと素直に従った。ナナシはいまだ呆然とする時雨たちに「何やってんだよ早くしろよ」と文句を言う。その言葉にハッとしたのか、真っ先に玖音が動く。すでに装填済みの弾丸を、すっかり腰を抜かしてしまった相手の1人の頭部に向けて放つ。結果は想像通り。頭部を、しかも眉間を確実に打ち抜かれたそのものは一部がはじけ飛び、物言わぬ肉塊と化した。それを皮切りにして、止まっていた戦闘が再び始まった。グローリアの残りの7人は、狂ったように時雨たちに襲い掛かる。その顔は恐怖か否か。とてつもない形相をしているのは確かだ。だが狙いはほとんど定まっていないようで、まったくの虚空にむけて刃物を振り回していたり、たとえ届いたとしてもかるくはじかれる。いったい何がしたいのか、本人たちですら判断が危うくなっているようだ。その間に泥は素早く首につけられていた『制御装置』を解除し、ゴトンと重々しい音を立てながらそれは重力に従って下に落ちる。瞬間泥の髪色はそれまで何物にも染めれれていないかのように真っ白だったものから、途端にどす黒く染まる。髪の毛もぶわっと一気に量が増えて地につくくらい長くなる。そしてラベンダーを思わせるような紫の瞳の片方は、血のように真っ赤に染まる。そして赤く染まった目の周りには、血管にも似た何かが走る。
 これこそが泥が授かったフォルテ、『狂化(バーサーカー)』である。自我を失い、最終的には人格が壊れる代わりに、驚異的な力を手に入れるフォルテ。だがそれは、制御装置をすべて外し、100%解放した時の話である。普段は両手首両足首でそれぞれ5%ずつ、首で残りの80%を制御しているため、『すべて外さない限り』、あるいは『両手首両足のみの制御装置の解除』または『首の制御装置の解除』ならば、自我は保たれる。それでも本人にはかなりの精神的、および肉体的疲労がかかる。だから、そんなフォルテが、泥は何よりも嫌だった。それでも。それでも友のため、仲間のため、彼はこのフォルテを使い続ける。

「めんどうだから…一気に蹴散らそうか」

 普段よりいくらかトーンを低くしてそうつぶやくと、腕を上げた次の瞬間には、7人のうち5人の頭部が吹っ飛んでいた、否、消し飛んでいた。それによるものか、穴は急速にしまっていき、最終的には消え去った。もう増援が来ることはないだろう。
 それに続くように真巳も笑顔で愛用の、1つだけ弾が入れられたリボルバー式の銃を、ゆっくりと1人の頭部へ向ける。だが生真は前に出て彼女を止めようとしたのか大声で名前を呼ぶ。その顔は悲壮か後悔か。

「ま、真巳!」
「坊ちゃん、お静かに。残していただき…ありがとうございます」

 ぼそりというと、その銃から発砲音とともに放たれた弾丸は確かに頭を貫いた。生真はその光景を見るまいとして、目をぎゅっと閉じる。残すはただ1人のみ。素早く時雨は地面を蹴り上げて真正面からそいつに近づくと、刃先を眉間に向けてピタリとくっつける。なぜだろう。自然と口角があがってしまう。なぜそうなるかはわからない。もしかしたら僕はとうに『おかしくなって』いるのかもしれない。でもどうでもいい。そんなものはなにもかも、どうでもいい。

「結局あなたも…そしていずれは僕も死ぬんです。ただあなたは僕よりも先に、そして僕に殺されるだけ。そこに違いはないでしょう?」

 嬉しそうに、楽しそうに、『弔いの言葉』を贈ると、思いっきり刺し貫いた。





「お帰り。よーがんばったな」

 戦闘が終了し本部へ帰ってきて、各々は散り散りになる。その中で時雨は医療室でバイタルチェックを受けてそれが終わり、自室へ戻ろうとすると、煙草をふかして白衣を着た男がのんきに現れた。目元がなにか特殊なマスクで隠されているからなのか、表情はあまり読み取れないが、口角を上げてせせら笑っていることから、きっと楽しんでいるのだろう。何に?わからない。

「リーダー、見ていたのですか」
「そりゃーマグノリアのリーダーだぞ?見てねーわけねーよ」

時雨が聊か不機嫌そうに言うと、リーダーと呼ばれたその男は笑いながらガシガシと時雨の頭を乱暴に撫でる。そのせいで時雨の髪の毛はぐちゃぐちゃになる。
 いかにも悪事に手を染めています、といような格好のこの男こそが、マグノリア創設者にしてリーダー、葛狭(かさま) 狂示(きょうじ)である。未成年のフォルトゥナでまとめられているこのマグノリアで、唯一の成人が彼である。今年22歳を迎えたらしい。本人は素性を良くも悪くも語ろうとせず、また表立って出ることがあまりに少ないため、『とりあえず煙草吸ってるのがリーダー』という認識がマグノリアの中で定着している。
 彼は新たな煙草に火をつけながら時雨に対し、「お前ら暫く休暇な」と言い渡した。

「え、そ、そんな突然に!?」
「泥は制御装置取ったからしばらく動けねーだろうし、ナナシと善佳は無許可転送で形だけだが説教と反省文&外出禁止、そんで生真は精神的カウンセリングで真巳はそれにつきっきり、玖音は休暇届出してきたし、お前も俺が休暇届出しといたから」
「だ、出しといたってそんな勝手な…」
「リーダーからのありがた〜いプレゼントだと思え。フォルテを使う戦闘は精神的、肉体的疲労が尋常じゃねえからな」

んじゃな、と手をひらひらさせながら去ろうとする狂示に対し、時雨は待ったをかける。

「どした」
「今日、転送エラーが起き、ヰ吊戯がそれに巻き込まれたと聞きましたが、どうなったので?」
「ああ。グローリアの構成員3人に絡まれたらしいが、全員跡形もなく消したってよ。その後本部に直帰。ケガはねえって」
「そうですか…」
「ま、オペレーターからお前らの場所にそのまま転送されそうになったらしいがな。キレて説教してやったらしいぞー」
「なんでそんな楽しそうなんですか…」
「いやああのオペレーター共、今日付けで前線送りにしてやったからな」
「特権の乱用ですね」

時雨はかんらかんらと笑う狂示に、あきれたような視線を形だけでも送る。だが当の本人はそれを無視して「休んどけよー」と言い残して今度こそ去っていった。
 残された時雨はこれ以上ここにいても時間の無駄だと踏み、深いため息をついて自室へと戻っていった。



第1話【Magnolia】 終

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