複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.6 )

日時: 2018/03/22 17:01
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

調理室で時雨と歌子がなんやかんや和解した少し後のこと。
調理室とは違う場所では、あるカードを用いてカードバトルが行われていた。対戦するのは2人の少年、そしてそれを観戦する1人の少女。

「ここで!俺のサイキョーカード、機械仕掛ケノ神(デウスエクスマキナ)を召喚する!」
「え、ずるい!」
「ちゃんとした公式カードだっつの!」

『俺のサイキョーカード』なるものを召喚した少年は、勝利を確信した笑みを浮かべる。対する別の、アオザイを着た少年はただおろおろするばかり。何の手も与えられないでいた。

「そんでー…くらえ!これがトドメだ!『 終焉を告げし歯車(ワールドブレイカー) 』!」
「ってちょっと待った!」
「あ?なんだよ折角いい感じでトドメさせると思ったのによー」

アオザイを着た少年が、今まさに勝ちをもらおうとした少年に待ったをかける。それに対し止められた少年は不服そうに、待ったをかけた少年のほうへ向きなおす。

「あのさ。そのターンに召喚されたキャスト(クリーチャー)は…そのターン時攻撃できないよ?」
「……しまったああああ!!」

その部屋いっぱいに、少年の魂の叫びがこだました。



「ね、熱中しちゃうとどうしても基本のこと、忘れちゃうよね…」
「うるせえ…」

 いったんゲームを中断して少し後。いくらか落ち着くだろうと思っていたが、そうでもないようだ。体育座りで隅のほうで、まるでしばらく前の時雨のようにへこんでいる少年───ヰ吊戯(いつるぎ) 遊喜(ゆうき)───を、アオザイを着た少年───月紫(つくし) 泥(なずみ)───は必死に励ましていた。だがその努力はむなしく、まるで右から左へと流されていく。何を言っても元に戻る気がしない。それでも泥は元気を出してもらおうと、考えて考えて言葉を贈る。

「ほら、ま、またやろう?『デルタ・リザレクション』。僕『失墜のゼノ・フラゥア』デッキでいくから」
「俺が立ち直るまでヤダっつーかそれ現環境での最強デッキじゃねーか」
「ええ〜…」

泥はどうあっても立ち直ってくれない遊喜に、肩を落とした。ますます機嫌を損ねる理由が、先ほどのデッキだとはいざ知らず。
 ───デルタ・リザレクション。今全国で最も流行しているトレーディングカードゲームである。キャストと呼ばれるクリーチャーを召喚し戦わさせ、時にはスペルカードと呼ばれる、いわゆる罠カードを発動させてゲームに様々な影響を出させたりする。どこにでもあるようなカードゲームの一種だ。だがこのカードゲームには、ほかのカードゲームと違って進化というルールがない。代わりにあるのが『アクセサリールール』である。呼びだしたキャストに、装飾品と呼ばれるような『アクセサリー』カードを付け、スキルを付与したり、元から持っているスキルを強化したり、自らにバフを持ったり、様々なことができる。ものによっては呪いがついていたりするが、その呪いをいかに利用できるかも、プレイヤー、否『ウィザード』の実力がものをいうところである。
 そのデルタ・リザレクション。マグノリアでも流行の波は来ているようで、時々大会が開かれることがある。そしてその大会において、必ずと言っていいほど優勝をかっさらっていくのが、彼、ヰ吊戯 遊喜である。その彼が野戦とはいえ、初歩的なミスをするということは、彼にとってどれだけ屈辱的なものだろうか。

「あ、そうだ。双六(すごろく)さんもやらない?」

いつまでも立ち直らない彼にしびれをきかせたのか、泥は他人事のように観戦してた少女───双六(すごろく) 玖音(くおん)───に声をかける。

「私の基本デッキ、『悠久に続くチルナノグ』なんだけど」
「じゃあ僕は『冥府イザナミ・幾千の呪言』デッキでいくね」
「あんたほんとに闇の深いデッキ使うね」
「それじゃ先攻後攻を決めよっか。ダイスの準備はオッケー?」

もちろん、と玖音がうなずくと、互いにダイスを上へ向けて放る。それが場に落ちてくると、コロコロと転がった後にダイスがそこで止まり、目が出る。『出た目の数が若いほう』が先攻となる。泥のダイスは2、玖音のダイスは4を示した。

「僕が先だね。それじゃはじめ」
「その前にお仕事ですよ、皆様方」

 ようか、と泥が言いかけたところで、玖音や遊喜とは違う、別の誰かの声がかかる。
声がした先にいたのは、所々を不似合いな甲冑で覆った、メイド服姿の少女。常に糸目なのか、笑顔がやけに目立つ。

「あれ、銃筒(じゅうとう)さん?仕事って」
「フォルテッシモに乗らないほうの、見回りですよ。今日は偶然にもお三方のようでしたので。お声をかけさせていただきました」

少女───銃筒(じゅうとう) 真巳(まなみ)───はうやうやしく頭を下げると、「さて、あの坊ちゃんは宿題を置いてどこに逃げたのでしょうね」と、軽く拳をポキポキと鳴らしながら去っていった。彼女が坊ちゃんと呼び、付き従う同年代の彼に、形だけでもエイメンとフリで十字を切ると、泥は玖音に声をかけ、そして部屋の隅でまだ丸まってる彼、遊喜の腕を引っ張って、部屋を後にし、『単身出撃室』へと向かうことにした。





 単身出撃室。ここだけは異様に部屋が広い。そして中に入れば、まるでホルマリン漬けの容器がずらりと並んでいて、この光景を始めてみた者は必ずと言っていいほど、『不気味だ』という感想を抱くであろう。3人はその単身出撃室の中へと入り、入口付近にある、ディスプレイがついたロッカーから、インカムのようなものを取り出し、それを自らの耳へセットする。一見それはブルートゥースイヤフォンのように見えた。
 そこから音声が耳の中から、頭の中へと響き渡る。

『指令室より、連絡。返答望みます』
「はい、月紫 泥」
「同じく双六 玖音」
「同じくヰ吊戯 遊喜…」
『指令室。ヰ吊戯の様子が落ちているが、何かありましたか』
「お気になさらず。そのうち戻ります」
『了解。それでは出撃ポッドへ入ってください。今回の転送場所は浅草、仲見世通り。そこでグローリアを発見次第、戦闘、そして拘束または抹殺をしてください』
「毎度思うんだけどなんで関東圏限定なのか」
『各地に支部が点在していますので』
「あとなんでわざわざこっから出撃…」
『はい面倒なことはあとで言ってください。それでは御武運をー』
「ものっすごい適当だ…!」

 次の文句を言う暇もなく、彼らは強制的に転送された。

「……『ルール』に反しちゃだめでしょ?マグノリアも、グローリアもね」

最後に謎の声が響いたと思ったが、その声は誰の頭にも残らずに霧散した。





 転送先の、浅草仲見世通り。そこで、彼らは立ち尽くしていた。ただ何をするわけでもなく、ぼうっと。

「…ついたね」
「ああ」
「…どうしよっか」
「グローリア探すにも見回るにも、この人だかりじゃね」

 ここは浅草。仲見世通り。平日でも観光客がわんさと集まる場所だ。ひどいときには身動きすらできない時だってある。そんな場所に彼らは、今日の仕事としてここで見回りをし、グローリアを捜索し、発見次第戦闘、拘束または抹殺するために転送された。しかもわざわざ転送機を使って。

「直接行きゃいいじゃんか」
「迷うからかな…って、そういえば遊喜くんは?」
「え?一緒にいるんじゃ?」

 そういえば先ほどから遊喜の反応がない。というか気配そのものがない。気になって周りを見回してみるも、彼らしき人物がいない。いったいどこに行ってしまったというのか。慌ててインカムで本部の指令室に連絡を入れる。

「もし!月紫です。聞きたいことが」
『緊急事態です、月紫、双六』
「やっぱりー」

指令室の焦るような声からして、もしかしてと思う双六はついそんなことを漏らしてしまう。

『ヰ吊戯の転送にエラーが発生し、本来なら転送するはずのない場所へと転送してしまいました』
「だろうと思いました…場所は?」

そして入って来た場所の名前に、2人は顔をさっと青ざめた。



『───グローリア茨城支部、茨城県庁倉庫内です』



続く

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