複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.7 )

日時: 2018/03/24 08:26
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

「ってて…ここどこだ?」

 遊喜は半ば落ちるような形である場所に到着した。尻から落ちたためか、そこに強い衝撃が走り、びりびりと尻が傷む。痛みが治まらない尻をさすりながら、遊喜は今いる場所を見渡す。
 今遊喜がいる場所は薄暗く、軽く照らす照明すらない。窓もない。一緒にいるはずの泥と玖音もいない。あるのは大量の書物と、書類と思われる紙の束があることくらいだ。明らかにここは浅草の仲見世通りと呼べるような場所ではない。こんなところが、浅草にあっただろうか。

「明らかこれ転送エラーだよな…」

 遊喜はへこんだ。さらに落ち込んだ。さっきの初歩的なミスと言い、今起きた転送エラーといい、今日はとことんついていない。なんでこんなことが立て続けに起こるんだ。遊喜はため息をついて肩を落とした。そんなときである。

『ヰ吊戯、聞こえますか。指令室』
「えっ、あ、はい?」

 突然インカムから、先ほど転送したはずの指令室から通信が入った。遊喜はあわてて返事をする。

『転送エラーが発生しました。あなたがいる場所は本来転送するべきでない場所です』
「たはー…ですよねー…で、どこ?」
『落ち着いて聞いてください。あなたのいる場所は───』

 後に続く言葉はなかった。なぜならば

「いたぞ!侵入者だ!マグノリアのフォルトゥナだ!」

突如としてその場所の扉が開かれ、遊喜たちにとっての『敵』───グローリアの連中が乱入してきたからだ。





「な、なんてところに飛ばしてるんですか!」
『原因は不明。現在調査中です』
「そんなマニュアル通りの返答しないでください!」

 同時刻、浅草。予定通りに転送された泥と玖音は、インカムの向こうでいくらか落ち着きを取り戻し、通常業務に戻ろうとしている指令室のオペレーターに、口々に文句を言っていた。やれなんでエラーを起こしただの、やれなんで局地的なエラーだのなんだのと問い詰めるが、指令室のオペレーターはマニュアルにある通りの答えを返すだけ。まるでどうでもいいからさっさと与えた任務をこなせ、そして帰ってこい、あとは知らんと言わんばかりである。普段は温厚な泥も、これにはだんだんといら立ってくる。それは玖音も同じ。

「早く原因を解明しないと帰った後アンタらの頭部に風穴開けんぞクソ役立たず野郎」

玖音が怒気たっぷりにそういうと、オペレーターは言葉を動揺しながらも強めた。

『…その言葉、撤回しなさい』
「いやだね。勝手な都合で後回しにするアンタらに文句言われる覚えはないよ。それとも何?向こうでもし、遊喜が殺されたとしたら…『指令室(バカども)のせいで遊喜が死にました』って『リーダー(あの人)』に言われたい訳?」

紡がれた言葉に、オペレーターは一気にだんまりを決め込んだ。よほど嫌なのか、返答をあきらめたのか。どちらともわからないなか、玖音は続ける。

「わかったらさっさと対応しろ。そんで遊喜を引き上げろ。たとえ『同年代』でも───容赦はしない。覚えておけ」

それを最後に、玖音は通信を一方的に切る。これ以上は言っても無駄だと結論付けたのだろう。泥も同様だった。

「そんじゃ早く終わらせようか」
「そうだね───隠れてないで出てきたらどうだい?そこのお二方」

玖音が持っていたスナイパーライフルを構え、泥が声をいくらか張って言うと、物陰から怪しげな人物が2人出てくる。すでに周囲はデジタルデータへと変換されていたのか、いつのまにやら人はいない。おそらくその2人───グローリアの構成員がしておいたのだろう。1人は男で黒のスーツ、もう1人はやはり男でベージュのトレンチコート。お互い様だがとても、この浅草の、それも仲見世通りに似合う服装ではない。

「気づいていたか」
「まあとっくに。僕たちは『周囲変換』をしてないからね。それに見え見えなんだよ…その殺意。気持ち悪い」
「フン、マグノリアのガキ共にしちゃいい鼻をもってやがる」
「ガキに気づかれる殺意ぷんぷんにおわせるほど雑魚ってことだよ言わせんないい大人が」
「…いっちょまえに挑発しやがって。しってっか?目上には敬意を───」
「知らないね」

 その言葉を言い終える前に、玖音はライフルから放たれた弾丸で、『確実に』トレンチコートの男の肩を打ち抜いた。
それなりに近い距離にいたせいか、打ち抜かれた肩、そして腕は見事に吹っ飛んだ。トレンチコートの男はワンテンポ遅れて絶叫する。痛みによって、つながっていた腕がなくなったことによって。とんだ腕はいくらか遠い場所に落ちる。ぼとりと。

「こ、このクソガキ共!」
「なんだ。結構もろいようにできてんな。ってかオリジナルの弾丸作ってもらったんだっけ、そりゃ飛ぶわ」
「誰に頼んだの…?」
「坊ちゃん」
「ああ、彼か」

 どうやら弾丸は『特別製』だったらしい。確実に腕が飛ぶようなものを作ってくれと、玖音は『坊ちゃん』に頼んだようで。それを今、玖音はふと思い出した。そしてうっすらと口角を上げる。

「さてと泥。さっさと終わらせるよ」
「わかってるよ!」

 浅草、仲見世通り。2つの組織による『戦闘』が、人知れず始まりを告げた。





「どええええ!?」
「なんだ1人か。なら捕まえて『バックアップ』にしてやらあ!」
「は!?バックアップ!?」
「オラオラ捕まえろ!!相手はフォルトゥナといえどクソガキ1人だ!」
「うわこっちくんな!っつーかこいつらグローリアかよ!!」

 突如現れた3人組のグローリア構成員に、遊喜は倉庫内を逃げ回るばかり。外に出ようとしても構成員の1人が、周囲をデジタルデータにさせて空間を切り離しているため、脱出はほぼ不可能。いつもの転送先から帰る方法をしても、空間が切り離されているために、『本部からなにも来ない限り』、外に出てもどこかの空間へ放り出され、迷子になるだけだ。そうなったら帰還方法はまずない。絶体絶命のピンチである。通信を取ろうと思っても、なぜか本部とつながらない。

「こんの、逃げ足早いなコイツ!」
「おいフォルテ使って捕まえりゃいいだろうが!」
「そうだフォルテ…!えっとたしかここに…あった!」

 逃げ惑う中、構成員の一言にハッと気づき、遊喜は腰につけていたポシェットからカードを取り出す。そしてカードを高く掲げ、叫んだ。

「こい!俺のサイキョーカード!『 機械仕掛神(デウスエクスマキナ) 』!」

その時、カッとカードが光り輝く。風は巻き起こり、その光はどんどん増していく。思わず目をつぶらなければ耐えられないほど。それまで強気だった3人組は、腕で顔を覆い、目をぎゅっと閉じる。
光と風がやんだ後、視界を開かせたその先にいたのは、『歯車がぎっしりと詰め込まれ、所々から蒸気が噴出している機械でできた人型のようなモノ』であった。背後には様々なパーツを寄せ集めてできた羽が六枚あり、その相貌は見事に『機械仕掛けの神』。遊喜は先ほどまでの落ち込みようはすでになく、自信に満ち溢れた笑顔を浮かべている。
 ───フォルテ、『デュエリスト』。カードゲームのキャラクターや呪文、罠を、そのカードさえあれば召喚し使役できるという夢のようなフォルテ。それが彼、ヰ吊戯 遊喜が手にした『異能力』であった。

「さあ、始めようぜ!『リザレクション』!」

 今ここに戦場(ワールド)は敷かれ、戦闘開始(リザレクション)の鐘は鳴る。





「まさか直接連れてくるとはねえ」

 場所は戻り、浅草。序盤のほうまではよかったものの、グローリアはあろうことかフォルテで『穴』を開き、『絶対治癒』を持つフォルトゥナと、ほかにも戦闘要員のフォルトゥナを4人引っ張り出してきた。『穴』は彼らの拠点とつながっているのか、泥や玖音が倒しても倒しても戦闘要員はそこから出てくるし、傷を治癒してくる。これではキリがない。

「ちょっとこれは…」
「泥、体力は」
「少し疲れてきたかな…『制御装置』をはずしても、保つかどうか。双六さんは」
「弾丸がギリギリだねえ。普通のも持ってきたけど、こりゃ無理だ」
「本部と通信が取れたらいいんだけど」

こちらでも同様、なぜか本部と通信が取れなくなっていた。なぜそうなったのかはわからない。
人数は圧倒的に不利に陥っていた。こちらが2人、相手は合計8人。しかもこの後もまた誰か来るのだと思うと、2人でこの場を鎮静化させるのは無理があった。

「どうする?」
「泥、首のほうの制御装置で何パー抑えてるっけ」
「80%だけど」
「外して」
「え」
「80%ならギリ人格壊れないっしょ。残りの20%で抑えてるんだから」
「…わかった。もしもの時があったら、よろしく」
「ん」

 ニヤニヤとこちらを見てくるグローリアに、泥は心の中で舌打ちをして、首につけている首輪にも似たソレ───制御装置に手をかける。特定の位置にあるボタンを押して、外そうとしたその時である。

「制御装置から手を放してください。その行為は必要ありません。…ようやく来れました」
「フン、僕たちに感謝することだな。いち早く気づいてやったんだぞ」
「坊ちゃんは後ろに隠れててくださいね?弾丸作ってくれるだけで大丈夫ですから」
「むっ、真巳!僕だってなあ」
「だったらいい加減私から1本とってくださいまし?」
「ぐぬぬ」
「おしゃべりはそこまでだ。早く終わらせてヰ吊戯のもとへいくぞ」
「おまえも偉そうにっ!」

突如としてにぎやかになる。泥の肩にはみなれた白い手が置かれていた。背後には甲冑を付けたメイド、銃筒 真巳と、いかにもな貴族服を着て、やはり甲冑を身に付けた少年───薬莢(やくさや) 生真(いくま)───がいた。
そしてその白い手の主は───

「───時雨!」
「あとは僕たちがやろう。任せておけ」

時雨はそういうと、手にしている錫杖を構える。


「ただ食われるだけの───クソガキだと思うなよ」


続く

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