複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.8 )

日時: 2018/03/26 23:22
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

 まず誰よりも行動が早かったのは真巳。ホルターから装填済みの銃を2丁取り出すとそれぞれ相手方2人に向けて発砲する。弾丸はヂッと軽くかすめた程度。相手方のフォルテの効果なのか、たいして物理的なダメージはないようだ。だがそれでいい。かすめたくらいでいいのだ。相手方を揺らせればそれでいい。これは開始の合図でしかないのだ。すかさず玖音が次の狙いを定め、治癒のフォルテを持つ構成員に弾丸を放つ。確実に、『肝臓』を。
 ───フォルテ、『ロックオン』。自らの攻撃が『必ず』、『絶対に』、命中するフォルテ。たとえあまりにも離れた距離から投げられたナイフでも、至近距離から放たれる拳でも。『どんなものでも』必ず『狙った部位』に命中する。それが玖音がが手にしたフォルテであった。
 そのフォルテで見事に弾丸は、治癒のフォルテを持つ構成員の、肝臓のある部位に命中する。特別製の弾丸であることも手伝ってか、撃たれた構成員のその部位は見事に肉片と赤い液体をあたりに散らしながら吹っ飛んだ。なんとも気持ち悪い光景だ。玖音はそれでも2発目を素早く装填し、再び構成員に向けて撃つ。今度は頭の、眉間を狙って。弾丸はそのまま眉間を貫き、すでに肉塊と化していた『それ』はさらに見るも無残な姿へと変わり果てた。その光景を間近で見たグローリアの他の構成員は震えた声でつぶやく。

「あ、悪魔…!狂ってる…!こんな…ッことを平気なツラしやがって…ッ!」

だが玖音はそれに対し、淡々と返す。

「子供連れ去って実験台にして、あまつさえフォルテッシモに組み込むような連中のどこが悪魔じゃないと?」

 言外に玖音は、『それに比べて自分らは、ただ殺してるだけ。たったそれだけのことだ』という自らの感想をのせる。玖音からしてみればただそれだけのことだった。連中に比べればまだマシだと。眉も、口角も、目の色も変えずに、無表情で。

「せいぜい殺されないように頑張るんだね、グローリア『様』」

 それだけ言うと、玖音は最後の『特別製の弾丸』を装填した。





「俺のターン!スペルカード、『捕縛の鎖』発動!」

 同時刻。遊喜はポシェットに付けたカードホルターにある山札から1枚のカードをドローし、そのカードを発動させる。あたりから幾本もの鎖が地を貫き、構成員3人をまとめて捕縛した。鎖は見事に構成員の体を、壊れんばかりの力で締め上げる。ときどきミシミシと耳障りな音が鳴るのは、気のせいではないだろう。ゴリゴリとも音がする。

「さらにスペルカード重ね掛け!『彷徨う亡霊』発動!」

また新たなカードをドローし、構成員の周りにあたかも『呪ってやる』と言わんばかりの亡霊が、数体出現する。これは元のルールでは『相手に状態異常:呪い(出たダイスの目ターン分行動不能)を付与する』という効果をもっている。それに従い、遊喜はズボンのポケットに押し込んでいた6面ダイスを取り出し、放り投げた。コロコロと転がっていき、ダイスの目が示される。ダイスは6を上にして止まった。そのとたんに亡霊は構成員にしがみつき、聞くに堪えないうめき声を耳元であげる。みるみるうちに相手方の顔色はどんどん悪くなり、おなじようなうめき声を出し始めた。まるで地獄絵図だ。

「やっりぃ!『ずっと俺のターン』だ!よっしゃいくぜ!!」

その光景に引くわけでもなく、怖がるわけでもなく。遊喜はただ嬉しそうにまた新たなカードをドローする。

「スペルカード!『幾億の幻影』を発動させて!デウスエクスマキナをダイス分だけ出現させる!」

遊喜は輝かしい笑顔で、ダイスを再び降る。今度のダイスは2を上にして止まる。そのとたん、デウスエクスマキナは2体の幻影を作り出し、計3体のデウスエクスマキナが出現する。ちょうど相手方の人数と同じ数だ。都合がいい。大きさも相まって、ただただ威圧感が増す。そして遊喜は手を高く上げ、そして勢いよく振り下ろし、叫ぶ。

「いっけえええ!『 終焉を告げし歯車(ワールドブレイカー) 』!!」

 その瞬間、デウスエクスマキナ達はまばゆく輝きだし、高く飛んだと思ったらそれぞれが、体内の歯車を動かして、最終的には『真っ赤に染まったコア』がさらけ出される。そのコアに高エネルギーが集まり始め、限界まで集まったド同時に一瞬コアがキラリと輝く。その直後、3体のデウスエクスマキナから、巨大なレーザービームにも似た『何か』を放出する。捕縛の鎖や彷徨う亡霊の効果もあってそこから動くことなく、構成員3人はモロに『ソレ』を食らう。やけに耳障りな音を立て、思わず鼻をつまむくらいの焦げ臭いにおいとともに、跡形もなく消え去った。それと同時に役割を終えたデウスエクスマキナはいずこへと消えていった。
遊喜は疲れによるものか、それともほっとしたことによるのか、全身の力が抜けてその場に座り込む。

「…案外あっさり終わったぁ」
『聞こえますか、ヰ吊戯』
「どぅわ!?」

 突如としてインカムから声が響く。あまりに突然のことだったので、遊喜は驚いて思わず後ろにのけぞってしまう。

『通信回復を確認。それと同時に戦闘終了を確認。ご苦労でした』
「(なんだコイツ偉そうに)」
『転送システムの回復が確認されました。これよりヰ吊戯を、本来の転送場所である浅草、仲見世通りに転送します』
「え、さっきまで戦闘してたのにもうかよ」
『本体の任務はそちらです。今回のはエラーに伴って行われたものにしかすぎません。本来の任務を忘れないように』
「お前ふざけてんの?頭オカシーの?フォルテ使う戦闘は、フォルトゥナに精神的ヒローと肉体的負担をかける。さっくり終わったからまたすぐに戦闘できるかっつったらちげーんだよわかってんの?ってわかるわけねーか。お前らただシレイシツで戦闘だらだら見てたまになんか文句言うだけの簡単なオシゴトしてるだけだもんな。前線で戦わねーからわかるわけねーか。あー忘れてタワー。まさか俺よりバカがいるとはなー。びっくりしちゃうなー。リーダーにいいつけてやろ!」
『……私語を慎みなさい』
「いやだね!これだから『非戦闘員』の『指示だしステーション』は困るんだよー。もしかして俺たちに『カロウシ』だっけ?してほしいの?俺ら死んだら困るのはお前らだぞ。ロクにたたかえねーで文句言うんじゃねーよエラソーな態度しちゃってさ!リーダーに報告するから」
『やめなさい、余計な一言は身を滅ぼします』
「誰に言ってんだか。リーダーに今回のこと報告されなかったらさっさと本部に戻せや『頭でっかち』の『オエライサマ』!」
『……了解。本部に転送します』

 震えた声でオペレーターが言うと、通信は一方的に切れる。遊喜はインカムを荒っぽく取り外し、それを投げ捨て踏みつけて壊す。よほど頭に来たらしい。

「これだから『大人ぶった子供』は嫌いなんだよ。あいつらグローリアとグルじゃねーの?」

苦々しく吐き捨てると、転送が開始されたのか、彼の体は次第に光の粒子となって、最後には消え去る。
 周囲変換が解かれたその場所には、壊されたインカムも、何も残っていなかった。





「『弾き飛べ』!」

 浅草。遊喜が戦闘をあっさり終わらせた頃。こちらはまだ激しい戦闘が行われていた。時雨が力を込めて叫ぶと、残りの構成員はみごとに『文字通り』、『その通り』に弾け飛んだ。それぞれが建物の壁にめり込んだり、ぶつかった衝撃で建物を構成していた素材が崩れ、その者の上に落ちてくる。
 ───フォルテ、『言霊』。念を込めて口に出した言葉が、その言葉の通りに『具現化』するというフォルテ。例えば、『燃えろ』と1本の木に念を込めていったとする。するとどうだろう。その言葉を浴びせられた木は『文字通り』燃える。ごうごうと、盛んに。『崩れろ』とがれきの山に言うとする。そのがれきの山は瞬く間に崩れ落ちる。『風よ吹き荒れろ』といったとする。その瞬間に穏やかな風は一気に暴風と化し、あたりの人や物を飛ばしていく。それが時雨に与えられたフォルテだった。
 時雨は手にしていた錫杖の『首の部分』を握りしめ、そのまま上へと引き上げる。すると見事な細身の刀がすらりと姿を現した。それを弾き飛ばされても性懲りもなく襲い掛かってくる相手に向け、そのままぐさりと刺す。刺した向こう側の刀身には、赤い液体がこびりつく。それを時雨はいっきに引き抜く。刺された相手はそのまま地に落ちた。

「この程度か」
『通信回復確認』
「む」

 突如として全員のインカムから声が響く。若干若い女の声だった。

『よーっす。オレだ』

その声に、しゃべり口調に、時雨はある『言葉』をつぶやく。

「…『ナナシ』か?」
『おうよ。ずいぶんと手間ァかかってるみてえじゃねえか』
「そうでもない。治癒を持つフォルトゥナは双六さんが始末した」
『穴は閉じたのかよ』
「ぬ…そういえばあったな」
『お前鈍感すぎんだろ』

そう、指摘されていた通り、グローリアが作った穴は、まだ閉じてすらいなかった。気づいた時にはその穴から、また新たな構成員が出てくる。今度は4人。それまで始末した構成員と今現れた構成員を足し引きすると、合計7人になる。時雨は布の向こう側で眉をしかめる。

「増えたな」
『だから───オレが手伝ってやる』
「は?」

 その瞬間に通信は切れて、いつの間にか時雨の隣には、白い刀を携えた少女が立っている。その少女は相手をぐるりと見てニヤリと笑う。


「あまりにも暇だったんでな。来てやったぞ」


続く

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