複雑・ファジー小説

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.9 )

日時: 2018/03/29 08:52
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM
参照: https://m.youtube.com/watch?v=-kxUFola5YI

「おい…暇って」
「シレイシツの奴らがうるせーんで来てみた。なるほどおもしれえことになってやがる」

突然に現れた少女、『ナナシ』は時雨を見て、にやりと笑う。この状況を、心から楽しんでいます、というように。
 彼女───ナナシは名前がなかった。それどころか生年月日、過去経歴が一切【ない】、もしくは【不明】という謎の多い少女である。片手には白く輝く刀『白狼丸』を手にし、いつも棒のついた飴を食べている。そして口調、態度ともにこれでもかと言わんばかりに悪い、ということだけが彼女を形作るものだった。ナナシはケッと悪態づく。

「ホントはオレだけ来る予定だったんだがな。コイツもついてきやがった」
「え」
「ナナシちゃんが行くなら私も行くもん!」
「じゃぁかしい善人」

 ナナシが苦々しい顔で背後をちらりと見やると、そこからひょっこりと別の少女が顔を出す。その少女は片手に『ピコピコハンマー』を手にしており、ナナシはふざけてんのかとひとり呟く。
 ピコピコハンマーを手にしている彼女───善澄(よしずみ) 善佳(よしか)───は、ナナシの隣にたち、ふんすと胸を張る。邪魔だとナナシがいやそうに言っても、彼女は話を聞いていないのか、私はナナシちゃんのお友達だからね!とさらに誇らしげに顔を輝かせる。2人のその様子に、時雨はますます毒気が抜かれるばかりだ。

「お前らなにさぼってるんだよ早く終わらせろよ!」
「坊ちゃん早く弾丸を」
「弾丸くれ」
「お前ら2人は消費が激しすぎる!ほら!」

 そんな中、生真が状況を無視して談笑していた3人に向けて大声をあげる。その生真に対し、問答無用で次々と真巳と玖音は弾丸を要求する。すぐにできるわけじゃないんだぞ!と文句を言いながらも、2人に早急に作った弾丸を放り投げる。時雨はこうしちゃいられないと、また錫杖の首の部分を握り直し、宙を舞う構成員に向けて突き刺した。
 ───フォルテ、『バレッター』。弾丸、薬莢(やっきょう)を無限に生成するフォルテ。それ以外のことは一切できない。ほかにできることと言えば、通常では作れないような『特別製』の弾丸を生成できることくらいか。それでも銃をメインにして戦闘する真巳と玖音にとってはありがたい存在だ。それが生真のフォルテである。生真はまたきっとすぐに弾丸を要求されるんだろうなと思いつつ、生成する。その間、前線に出て戦闘する彼の付き人である真巳に変わり、泥が彼の護衛を任されている。次々に襲い掛かるグローリア相手に、泥は遠慮なく豪拳を叩き込む。あっけなく吹っ飛ばされるが、なかなかしぶといようで起き上がってはまたやってくる。それの繰り返しでそろそろ泥自身、飽きてきたところだ。

「はあ…」
「にしてもやけに回復早くないか向こうさん」
「穴も相変わらず開きっぱなしだし、そのフォルテを持つフォルトゥナはもう倒したの?」
「先ほど弾き飛ばしたて気絶させたが…どうやら『フォルテの効果を永続させるフォルトゥナ』がいるらしくてな。閉じようにもそいつもなかなかしぶとい。腹を斬ったがすぐに再生した」
「で、その間にもわらわら出てきやがる、と」

 ナナシがそういうと、それに呼応するかのようにまた穴から3人ほど出てくる。これで相手は10人になった。力で無理なら数で押しと通ろうということだろうか。さすがにいらだちが沸き上がる。しかもいくら倒そうとしても次の瞬間にはつけたはずの傷が再生されるいう始末。おそらく相手のうちの誰かが『そういうフォルテ』を相手全体にかけたのだろう。余計なことをしてくれる。

「───なら。フォルテがきかねーくらいにボコればいいだけだろ」

 そしてひとつの結論を、ナナシはニヤリと笑いながら、あえて向こうにも聞こえるように言う。

「ナナシちゃん賢い!賢いポイントひとつあげるよ!」
「いらねーよ」
「そんな無茶な…!」
「泥、その首の制御装置はずせ」

 瞬間、泥の動きが止まる。

「おいナナシお前───」
「時雨。オメーはフォルテ使って穴閉じろ。メイドとスナイパーは撃ちまくれ。んで坊ちゃんは弾丸作ってろ。善人、オメーはもぐらたたきしてろ」

 時雨が反論する暇も与えずに、ナナシは間髪入れずにほかのメンバーに指示を出す。最後に彼女は時雨を見てこう言った。

「アイツらを跡形もなくボコんなら、全部出すんだよ。どうせ殺しちまうんだから」

 そういうとナナシは単身で突っ込んできた相手の顔面に、遠慮なく蹴りをかました。刀は使わずに。自らの足で相手を落とした。その場でもがくそいつに、ナナシはまた頭部をサッカーボールのように蹴り上げた。かなり力を入れてやったようで、彼女の靴には血のようなものが少しばかり付着していた。

「あとさ、脳みそやられたら、いくらフォルテかかってたって関係ねえよなァ?」

事実頭部を蹴り上げられたそいつは、よほど痛むのだろうその部分を、手で覆いながら苦しんでいた。聞くに堪えないうめき声があたりに響く。仲間のその無様なその様を見た相手方はすっかり引き腰になっている。どれだけ傷をつけられようともフォルテのおかげで痛みもないし、傷もすぐにふさがれていたはずなのに、脳みそが詰まっているその部分をやられただけであっさりと沈むなんて。そう思っているのだろう。ナナシはますます笑みを深めた。

「わかったらとっととやんだよ。死にたくねえだろ」
「ナナシちゃん、私は?」
「いいか、あいつらは全員モグラだ。もぐらたたきするとき、モグラのどこをたたけばいいか知ってるだろ」
「頭だね!」
「いまからやるのはもぐらたたきだ。そのインチキハンマーでぶったたいてやれ」
「はーい!」

 ナナシのその一言に笑顔で答えると、善佳は向こうへ走っていき、たまたま目についたフォルトゥナの頭部めがけてピコハンを思いっきりたたきつけた。するとどうだろうか、ピコンとかわいらしい音が聞こえたと思ったら、瞬間たたきつけられた頭部は、まるで道路に落ちて車に轢かれたザクロのように、無残に飛び散った。脳漿や血液をあたり一面に飛ばしながら。これには時雨たちも、グローリアも、目を見張り呆然とする。ただ1人、真巳はこんな光景を主人に見せるわけにはいかないということからか、生真の目を素早くふさぐ。
 いったいあのピコハンにどれだけの威力が備わっていたというのか。それとも張本人の力が強すぎるのかフォルテの影響なのか。肝心の善佳はその光景を見る前に、ナナシのもとへと戻ってきていた。自分の先ほどの行為で何が起こったかも知らずに。

「おけ?」
「よーしいいぞお前はもう下がってろ」
「え?うんわかった!」

 どうやら彼女は言われたことを真に受けるタイプの人間なのか、ナナシがそういうと素直に従った。ナナシはいまだ呆然とする時雨たちに「何やってんだよ早くしろよ」と文句を言う。その言葉にハッとしたのか、真っ先に玖音が動く。すでに装填済みの弾丸を、すっかり腰を抜かしてしまった相手の1人の頭部に向けて放つ。結果は想像通り。頭部を、しかも眉間を確実に打ち抜かれたそのものは一部がはじけ飛び、物言わぬ肉塊と化した。それを皮切りにして、止まっていた戦闘が再び始まった。グローリアの残りの7人は、狂ったように時雨たちに襲い掛かる。その顔は恐怖か否か。とてつもない形相をしているのは確かだ。だが狙いはほとんど定まっていないようで、まったくの虚空にむけて刃物を振り回していたり、たとえ届いたとしてもかるくはじかれる。いったい何がしたいのか、本人たちですら判断が危うくなっているようだ。その間に泥は素早く首につけられていた『制御装置』を解除し、ゴトンと重々しい音を立てながらそれは重力に従って下に落ちる。瞬間泥の髪色はそれまで何物にも染めれれていないかのように真っ白だったものから、途端にどす黒く染まる。髪の毛もぶわっと一気に量が増えて地につくくらい長くなる。そしてラベンダーを思わせるような紫の瞳の片方は、血のように真っ赤に染まる。そして赤く染まった目の周りには、血管にも似た何かが走る。
 これこそが泥が授かったフォルテ、『狂化(バーサーカー)』である。自我を失い、最終的には人格が壊れる代わりに、驚異的な力を手に入れるフォルテ。だがそれは、制御装置をすべて外し、100%解放した時の話である。普段は両手首両足首でそれぞれ5%ずつ、首で残りの80%を制御しているため、『すべて外さない限り』、あるいは『両手首両足のみの制御装置の解除』または『首の制御装置の解除』ならば、自我は保たれる。それでも本人にはかなりの精神的、および肉体的疲労がかかる。だから、そんなフォルテが、泥は何よりも嫌だった。それでも。それでも友のため、仲間のため、彼はこのフォルテを使い続ける。

「めんどうだから…一気に蹴散らそうか」

 普段よりいくらかトーンを低くしてそうつぶやくと、腕を上げた次の瞬間には、7人のうち5人の頭部が吹っ飛んでいた、否、消し飛んでいた。それによるものか、穴は急速にしまっていき、最終的には消え去った。もう増援が来ることはないだろう。
 それに続くように真巳も笑顔で愛用の、1つだけ弾が入れられたリボルバー式の銃を、ゆっくりと1人の頭部へ向ける。だが生真は前に出て彼女を止めようとしたのか大声で名前を呼ぶ。その顔は悲壮か後悔か。

「ま、真巳!」
「坊ちゃん、お静かに。残していただき…ありがとうございます」

 ぼそりというと、その銃から発砲音とともに放たれた弾丸は確かに頭を貫いた。生真はその光景を見るまいとして、目をぎゅっと閉じる。残すはただ1人のみ。素早く時雨は地面を蹴り上げて真正面からそいつに近づくと、刃先を眉間に向けてピタリとくっつける。なぜだろう。自然と口角があがってしまう。なぜそうなるかはわからない。もしかしたら僕はとうに『おかしくなって』いるのかもしれない。でもどうでもいい。そんなものはなにもかも、どうでもいい。

「結局あなたも…そしていずれは僕も死ぬんです。ただあなたは僕よりも先に、そして僕に殺されるだけ。そこに違いはないでしょう?」

 嬉しそうに、楽しそうに、『弔いの言葉』を贈ると、思いっきり刺し貫いた。





「お帰り。よーがんばったな」

 戦闘が終了し本部へ帰ってきて、各々は散り散りになる。その中で時雨は医療室でバイタルチェックを受けてそれが終わり、自室へ戻ろうとすると、煙草をふかして白衣を着た男がのんきに現れた。目元がなにか特殊なマスクで隠されているからなのか、表情はあまり読み取れないが、口角を上げてせせら笑っていることから、きっと楽しんでいるのだろう。何に?わからない。

「リーダー、見ていたのですか」
「そりゃーマグノリアのリーダーだぞ?見てねーわけねーよ」

時雨が聊か不機嫌そうに言うと、リーダーと呼ばれたその男は笑いながらガシガシと時雨の頭を乱暴に撫でる。そのせいで時雨の髪の毛はぐちゃぐちゃになる。
 いかにも悪事に手を染めています、といような格好のこの男こそが、マグノリア創設者にしてリーダー、葛狭(かさま) 狂示(きょうじ)である。未成年のフォルトゥナでまとめられているこのマグノリアで、唯一の成人が彼である。今年22歳を迎えたらしい。本人は素性を良くも悪くも語ろうとせず、また表立って出ることがあまりに少ないため、『とりあえず煙草吸ってるのがリーダー』という認識がマグノリアの中で定着している。
 彼は新たな煙草に火をつけながら時雨に対し、「お前ら暫く休暇な」と言い渡した。

「え、そ、そんな突然に!?」
「泥は制御装置取ったからしばらく動けねーだろうし、ナナシと善佳は無許可転送で形だけだが説教と反省文&外出禁止、そんで生真は精神的カウンセリングで真巳はそれにつきっきり、玖音は休暇届出してきたし、お前も俺が休暇届出しといたから」
「だ、出しといたってそんな勝手な…」
「リーダーからのありがた〜いプレゼントだと思え。フォルテを使う戦闘は精神的、肉体的疲労が尋常じゃねえからな」

んじゃな、と手をひらひらさせながら去ろうとする狂示に対し、時雨は待ったをかける。

「どした」
「今日、転送エラーが起き、ヰ吊戯がそれに巻き込まれたと聞きましたが、どうなったので?」
「ああ。グローリアの構成員3人に絡まれたらしいが、全員跡形もなく消したってよ。その後本部に直帰。ケガはねえって」
「そうですか…」
「ま、オペレーターからお前らの場所にそのまま転送されそうになったらしいがな。キレて説教してやったらしいぞー」
「なんでそんな楽しそうなんですか…」
「いやああのオペレーター共、今日付けで前線送りにしてやったからな」
「特権の乱用ですね」

時雨はかんらかんらと笑う狂示に、あきれたような視線を形だけでも送る。だが当の本人はそれを無視して「休んどけよー」と言い残して今度こそ去っていった。
 残された時雨はこれ以上ここにいても時間の無駄だと踏み、深いため息をついて自室へと戻っていった。



第1話【Magnolia】 終

メンテ