SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

第14回 SS小説大会 開催!〜 お題:争い、憎しみ 〜
日時: 2017/09/09 19:00
名前: 管理人 ◆cU6R.QLFmM

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【日程】

■ 第14回
(2017年9月2日(土)〜11月30日(木)23:59)

※ルールは随時修正追加予定です
※風死様によるスレッド「SS大会」を継続した企画となりますので、回数は第11回からとしました。風死様、ありがとうございます!
http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?mode=view&no=10058&word=%e9%a2%a8


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【第14回 SS小説大会 参加ルール】

■目的
基本的には平日限定の企画です
(投稿は休日に行ってもOKです)
夏・冬の小説本大会の合間の息抜きイベントとしてご利用ください

■投稿場所
毎大会ごとに新スレッドを管理者が作成し、ご参加者方皆で共有使用していきます(※未定)
新スレッドは管理者がご用意しますので、ご利用者様方で作成する必要はありません

■投票方法
スレッド内の各レス(子記事)に投票用ボタンがありますのでそちらをクリックして押していただければOKです
⇒投票回数に特に制限は設けませんが、明らかに不当な投票行為があった場合にはカウント無効とし除外します

■投稿文字数
200文字以上〜1万字前後まで((スペース含む)1記事約4000文字上限×3記事以内)
⇒この規定外になりそうな場合はご相談ください(この掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」にて)

■投稿ジャンル
SS小説、詩、散文、いずれでもOKです。ノンジャンル。お題は当面ありません
⇒禁止ジャンル
R18系、(一般サイトとして通常許容できないレベルの)具体的な暴力グロ描写、実在人物・法人等を題材にしたもの、二次小説

■投稿ニックネーム、作品数
1大会中に10を超える、ほぼ差異のない投稿は禁止です。無効投稿とみなし作者様に予告なく管理者削除することがあります
ニックネームの複数使用は悪気のない限り自由です

■発表日時
2017年12月3日(日)12:00(予定)

■賞品等
1位入賞者には500円分のクオカードを郵便にてお送りします
(ただし、管理者宛てメールにて希望依頼される場合にのみ発送します。こちらから住所氏名などをお伺いすることはございませんので、不要な場合は入賞賞品発送依頼をしなければOKです。メールのあて先は mori.kanri@gmail.com あてに、■住所■氏名 をご記入の上小説カキコ管理人あてに送信してください)

■その他
ご不明な点はこの掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」までお問い合わせください
http://www.kakiko.cc/novel/novel_ss/index.cgi?mode=view&no=10001

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平日電車やバスなどの移動時間や、ちょっとした待ち時間など。
お暇なひとときに短いショートストーリーを描いてみては。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

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歪な世界で ( No.35 )
日時: 2018/10/17 13:57
名前: 片岡彗

「私…もうここにはいられないの。」

彼女はいつも唐突だった。
出逢いだって、「好き」だと告げるのだって、いつだって唐突で。
「な…に言ってるんだ…?」
ぽつり、と溢れた自分の声は、それはそれは弱々しい。
君の小さな手を握る手が震える。

別れを告げるのさえ唐突なんて、そんなの絶対許さない。

「私はね、ここにいちゃダメな人間なんだよ。禁忌を犯したの。」
『禁忌』。
その言葉にそぐわないほどの美しい笑顔で彼女はそう言った。
「今から言うこと、真剣に聞いてほしい。」
そう前置きをして、彼女はほんの一瞬瞳を伏せた。
「私は……今から10年後の未来から来たの。」
「………………え?」
思わず肩の力が抜ける。
なんて馬鹿げた、ファンタジーな話を彼女は真面目な顔でするんだろう。
「信じてもらえなくていいよ。だから、一つの不幸な少女の物語として聞いてほしい。」
彼女の瞳が不安と、切なさ、それから苦しみ、たくさんの感情で揺れる。
信じられる訳ない、という思いと、何処かで納得しかけている矛盾だらけの自分。
そんな顔で見られたら、頷くしかないじゃないか。
俺の無言を肯定と捉えたのか、彼女はぽつりぽつりと語りだした。



私のいる世界…10年後の未来は、科学が進み、人間がとうとう時間を操れるようになっていた。
時間が操れる…つまり、自由に過去や未来を行き来したり、時を止めることができるようになったのだ。
どう?素敵だと思う?
そう。"最初は"素敵なことだと思われていた。
でも、それが当たり前になったとき、良からぬことを考える人が出てきた。
始まりは小さなこと。
少し未来に行って、テストの内容をカンニングする。
同じ手口で、宝くじを当てるとかね。
それがどんどんエスカレートして、人生を意のままにする人が出てきた。
自分の思い通りにならないこと、気にくわないことがあれば、安易に過去を変えだしたのだ。
『過去を変える』ことは犯罪だった。
でも"本当の"過去なんて、本人以外は誰も知らない。
警察も取り締まることは容易ではなかった。だから、見過ごされてきた。
暗黙の了解となっていた部分は少なからずあると思う。
たくさんの人が、同時に自分本意に過去を変えれば、それはもちろん混乱が起こる。
だって、万人が望む人生なんて、存在しないのだから。
誰かの人生を尊重することは、同時に誰かの人生を犠牲にすることと繋がっている。
そうして、私のいる世界は瞬く間に壊れていった。
全員が自分が一番だと提唱する姿はそれはそれは醜かった。
ここまでの状態になって、やっと世界は『時を自由に操ること』を禁止した。
明らかに遅かった。
みんなもう、それなしでは生きられないほど、馬鹿になってしまっていたのに。
世界各地でデモが起こった。
そんなニュースばかりが毎日のように取りざたされた。
それを見るたびに、私は凄まじい吐き気と、頭痛に襲われた。
私は、当初から、この『時を行き来する』ということがいかに恐ろしく、気持ち悪いことか、16歳ながらに理解していたから。
だから、一度たりとも時空を飛び越えたりはしなかったし、それを当たり前のごとくする人たちに、説得だってしてきた。
でも、誰一人として私の声には耳を傾けてはくれない。
むしろ、理不尽な罵声をたくさん浴びせられた。
あの世界に、私の味方はいなかった。
そんなときだった。彼に出逢ったのは。
彼は、私と同じ考えだった。
彼は私よりも10も年上だったけれど、好意を抱くのにそう時間は掛からなかった。
すぐに大好きになって、私の居場所は彼だけになった。
でも…彼にとっての居場所は、私ではなかった。
彼にはもう、結婚している人も、子供もいたのだ。
彼は私のことを妹のように可愛がり、「君みたいな考え方の子が好きだよ。」なんて、残酷なことを何度も言った。
酷い話だ。
だって、彼が結婚しているあの人は、簡単に過去を変える、あっち側の人間なのだ。
彼の言葉は嘘ばかりで、その場かぎりなものばかりだった。
もしかすると、私の好意にも気付いていたのかもしれない。否、きっとそうだろう。
気付いた上で、その好意を決して受け取らず、私に期待をさせるようなことばかりを言っていたのだ。
何度嫌いになろうとしたか。
最早数えられない。
それでも、好きで好きでどうしようもなくて、奥さんと子供を連れて幸せそうに笑う彼を見つめていることしかできなかった。
だから…
そんなことを、ずっとしてきたから、魔が差してしまったのだ。
結婚をしていない、あの人とまだ出逢っていない、彼に会いたい、彼と同じ年で、同じ目線で会話したい、なんて…そんなことを思ってしまったのだ。
今までずっと忌み嫌っていたものに、すがろうとしてまで自分の思いを叶えたいというはじめての欲求。
ああ、みんなこんなひりつくような想いで、過去を変えていたのだろうか。
なんて自分勝手。
あんなに批判していたのに。あんなにたくさんの人を蔑んできたのに。
もういっそ、死んでしまってもいい。
どす黒いほどの重い『好き』は、私を禁忌へと誘った。

『見るだけ』、から『声をかけるだけ』、『想いを告げるだけ』そうやってどんどん行動はエスカレートして、もう後戻りできないところまで来てしまった。

結局、私は、自分が可愛くて仕方のない、最低の人間だった。




彼女の語った内容は、余りに暗く、辛いものだった。
「……猶予は、50日間なんだって。いくら科学が進んだって言っても、それ以上は無理みたい。強制的に向こうの世界に戻されるんだって。それがね、今日なの。」
自嘲気味に笑う彼女に、僕は何も言えなくなって俯く。
「私は………未来の貴方が好き。でも、ここに来て、それ以上に貴方が好きになった。本当…最低だよね。自分だけ幸せになって、貴方を放って行くなんて。」
幻滅したでしょ?と消え入りそうなほど小さな声で彼女は囁く。
背景に溶け入ってしまいそうなほど真っ白な肌を、透明な雫がそっと伝う。
ああ、なんて…
「(綺麗なんだろう。)」
このタイミングでそんなことを考えるとか、不謹慎だって分かってる。
さっきまで、信じられるわけないと思っていた自分が嘘みたいに、腑に落ちている自分がいた。
法を犯してまで僕を追いかけてきた彼女のように、僕もきっと_
「僕は、ちゃんと君が好きだ。君の未来にいるその男と、僕は違う。僕は、出逢ってから今までずっと、君だけが特別で、愛してる。だから…」
彼女の華奢な体を引き寄せ、優しく抱き締める。
「自分を責めないで。」
なんて、歪な言葉。
16歳に、恋も愛もわかるはずなんてないのに。
この脆すぎる想いにすがって、彼女の肩に顔を埋める。
「貴方は……私があっちに帰ったら、私のことはすぐに忘れちゃうの。だって、本来、私たちは出逢うはずがなかったんだから。」
彼女の俺を抱き締め返す手がほのかに震える。
「………僕が忘れたら、君が思い出させてよ。」
綺麗事だって分かってる。それでも、それくらいしか彼女を安心させられる方法を僕は知らない。
「貴方は…私に甘過ぎるよ。」
彼女は困ったようにはにかんだ。
愛しくて愛しくて。
僕が彼女の柔らかな黒髪をふわりと撫でたとき。
彼女の体は真っ白な光に包まれた。
「ごめんね……もう…駄目みたい……。」
「……うん。」
「大好き。大好きよ。」
「…知ってるから。」
ボロボロと涙を流しながら、彼女は笑っていた。
本当、勝手だよ。
僕の心には、もう君が住み着いていて、君無しじゃ生きられないのに。
本当は、
この体を離したくない。
君の声を香りを笑顔を、思い出を忘れたくない。
でも、それは無理なんでしょ?
なら、僕にはこう言うしかないよ。
「僕も共犯だ。だから、未来を変えるよ。僕のとなりで、君が笑っている未来を、実現して見せるよ。」
堕ちるなら、僕も一緒に。
君となら何処まででも落ちていい。
短い間でも、君へのこの曲がった思いは、誰にも否定させないから。
僕の言葉に、彼女は目を見開いて、それから、懇願するように、僕の服を強く掴んだ。
「_____……!!」
彼女の姿は完全に溶けて、空に消えていった。
それはそれは、幻想的で、美しいものだった。



10年後。

出逢った。
この狂った、歪な世界で、僕は柄にもなく、一目惚れをした。
それも女子高生。もう、26になる大人なのに。犯罪の他、何でもない。
でも、声をかけないと絶対に後悔する、と僕の中の誰かが叫んだのだ。
艶やかな黒髪をなびかせる彼女の真っ白な手を掴む。
掴まれた彼女は驚いたように振り向いた。
「……迎えに…来た!!」
本能的に出た、意味不明な言葉。

_な、なに言ってるんだ僕は!!

自分で自分の言葉に焦る。
なんとか弁解しないと、そう考えていた矢先。
「……!……はいっ!!」
彼女は瞳に涙を浮かべ、嬉しそうに微笑んだ。
どき_…。
初めて逢ったはずなのに、そう感じない、懐かしい想いが僕の中に沸き上がった。
「ずっと、貴方を待っていました…!!」


…end.

夏の報告 ( No.36 )
日時: 2018/08/24 10:07
名前: 雪丸 まろ

毎年夏は、あいつに会いに行く。

あいつがいるのは、軽井沢にある山。

今年も約一時間半かけて、電車に乗る。降りると同時にさあっと涼しい風が顔に吹きつける。

「うぁーーー。すずシィィ!!あの野郎、こんないいとこに住みんでやがって。羨ましいな。」

8年前から、必ず来ているこの山。都会のむさ苦しさとは程遠いその清々しさに、俺は一種の感動を抱くのだった。

山の中道に入ると急斜面になる。この日のためにちゃんと新品の運動靴を買って来た。必ず最後には擦り切れて使えなくなるからな。これが長年の知恵ってもんよ。

川がサラサラと流れ、ときどき頬に細かい水滴が飛んでくる。その冷たさ、まるで川が生きてるみたいだ。

軽井沢の山に感嘆しながらどんどん登って行くと、家が見えた。近くに人影もある。

「あら、竹ちゃん。」

旧友の母親だ。

あいつとやんちゃして怪我した俺を叱りながらも、絆創膏を貼ってくれたっけな。

今では、絆創膏を貼ってくれたあの頼もしい、力強い手ではなく、様々なことを経験して来たベテランの手が目に入る。

「竹ちゃん。毎年来てくれるのは嬉しいけれど、あなたも家庭を支えなければいけない時期なんじゃない??
あの子にいつまでもとらわれなくてもいいのよ。」

毎年同じ言葉だ。

「全然苦痛なんかじゃありません。あいつと毎年あってくだらない話とかするのが俺の楽しみでもあるんです。」

俺は、にかっと笑って持って来たスイカを手渡す。

「…ありがとうねぇ。あの子、いつものとこ、山の頂上にいるから。」

すっかり小さくなった背中が家の中に消えるのを見送って、頂上を目指す。

毎年ラストスパートは緊張する。特に今年は。

急に視界がひらけ、風が止み、音がなくなる。



「久しぶり。」



旧友だ。




「悪りぃ。遅くなっちまった。」

「待ちくたびれたゼーーー。」

「お前、こんな特等席みたいなとこに住みやがって。なんなんだよ。」

「ははは。でもお前は都会住みだろ??」

「そうそう。今年は一つ、報告がある。」

「ん??」



「俺、結婚する。」


「え。」

「仕事場で出会ってな。3週間後、結婚式だ。」

「そっか。もうそういう時期だもんな。お前も。」

「…」

沈黙が流れる。




俺は、そんな中で昔のことを思い出していた。




あいつと、花火して、スイカ割りして、種飛ばして、海行って、ゲーセン行って不良に絡まれたり、喧嘩して、バーベキューして、焚き火して、カラオケして、捨て猫育てて。
そして…。



「幸せにな。俺の分まで。」


閉じていた目を開ける。いつのまにか泣いていたようだ。


「あぁ。お前の分まで…。」

もうあの頃には戻れない。

ポタリと涙が地面に落ちる。

ふと視界に、自分が手にしている花が映った。

「絶対、幸せになってやる。そんで、必ず戻ってくるからな。」






俺は、あいつに、あいつの墓に一輪の花を添えた。

閉じ込められ体質 ( No.37 )
日時: 2018/09/27 02:38
名前: 斎藤メロン

小さい頃から良く色々な所に閉じ込められた。
最初は小学生の時。
物置にしまっている自転車を出そうとし時に独りでに扉が閉まり、開かなくなった。

中学生の時は、コンビニに強盗が入り、外に出られなくなった。

高校の時は登山の途中道に迷い、下山できなくなった。

全て僕にとっては思い出したくない過去だ。

そして今日、僕はエレベーターの中に閉じ込められている。

どうやら、エレベーターが階と階の間で止まってしまった様だ。

僕はまたか。と顔を覆う。

エレベーターの中には僕以外に二人の同乗者がいた。
ひとりは、高校生くらいの髪の長い女の子。女性は僕が顔を覆っている姿を少し不思議そうに見つめていた。

もうひとりは酔いつぶれて倒れている中年男性。なぜ酔いつぶれているのかわからない。
僕が乗った時にはすでにエレベーター内で酔いつぶれて眠っていた。


「えっ、止まってますよね。これ」女性が少し焦っている様だった。

「えぇ、完全に止まってますね。」

女性はボタンの前に行き、何度もボタンを押す。
しかし、当然エレベーターは動かない。

女性はそれでもボタンを押し続ける。

「あの、落ち着いて。とりあえず緊急時のインターホンを押してみたらどうかな?」

女性はこちらを見て、はっとした顔をする。
僕は女性の横に立ち、緊急インターホンを押す。

「どうしましたか?」

「あのー、エレベーターが突然止まったみたいなんですけど。」

「えっ、わかりました。原因を調べますので少々お待ちを」

「はい、お願いします。」

女性は安堵したのか、二、三歩後ろに下がり、床に座り込んだ。

「ごめんなさい。私動揺していたみたいですね。」

「大丈夫?」

「はい、ありがとうございます。私エレベーターは少し苦手で…」

「無理もないよ。こんな経験滅多にしないんだから。」

「お兄さんはなんだか慣れているみたいですね。前にも同じような経験があるんですか?」

「えっ、あぁ、まぁ…似たような経験なら。」

自分の体質を容易に話したら変人に思われる。そんな考えが頭をよぎり返答がきごちなくなってしまった。

それにこの女性、鼻筋が通っていてホリの深く、瞳はまるでツルツルの栗のように大きく、栗を覆う棘のようにはっきりとしたまつ毛をしている。彼女が動くたびに長い髪の毛からいい匂いがした。

そんな女性と話す機会なんてこの人生訪れなかったのだから、それも相まって言葉がうまく喋れなかった。

そんなことを考えていると再度インターホン越しに男性から応答があった。

「お待たせしました。おそらく電気系統のトラブルだと思います。今から修理しますのでもう少々お待ち下さい。」

女性はすぐに立ち上がり、インターホンに返答する。

「あの、どれくらいかかりますか?」

「それはなんとも…とにかく急いで復旧するようにしますので、すいません。」

と、一方的に切られてしまった。

女性は再度、床に座り込んで、「最悪。」と呟いた。

僕はなんといっていいかわからなかったがこの静寂に耐えきれず、彼女を励ますことにした。

「えっと、きっとすぐ復旧するよ。死ぬ訳じゃないし、気長に待とう。」

僕は彼女に近寄り、微妙な間隔を空けながら床に座る。

彼女はこちらを見る。それはまるで吸い込まれそうな瞳で、僕は慌てて目を逸らす。

「ありがとうございます。そうですよね。きっとすぐ動き出しますよね。」

「多分。…でも、過去に2日間開かなかったなんて話も聞いたことはあるよ。」

彼女の表情が一瞬で曇る。
しまった…。僕はすぐに自分の失態に気付く。
ばかたれ僕、安心させるためなのに、不安を煽ってどうする。
自分の無駄な知識を披露しようという気待ちが先行して、口が滑ってしまった。

すぐに挽回したが、すでに遅かった。

「なんだか、デリカシーのない人ですね。」

「あ、いや…ごめん。」

謝ることしかできなかった。

それから数分間彼女は携帯とにらめっこしたり、誰かに連絡を取ったりしていた。

一方、中年男性は未だ深い眠りの中だった。
この雰囲気を打破しなくてはと思いながらも心は重い腰をあげようとせず、僕ただただ時間が経つのを黙って待っていた。
険悪なムードを断ち切ったのは意外にも彼女の方からだった。

電源が切れたのか、彼女は携帯をカバンにしまうとこちらを向く。

「何か話しません?」

「へ?」

「ほら、後どれくらいで出られるかわからないし、こうやってただ座ってるだけもつまらないじゃないですか。だから、少し暇つぶしじゃないけれど、時間を有効に使うというか。何か話して気を紛らわせませんか?」

「えっと、いいけど。話って言ってもなぁ。」

「じゃあ、私から質問しても良いですか?さっきから気になってたんですよ。ほらさっき言ってたじゃないですか。似たような経験をしたことがあるって。前にはどんな経験を?」

彼女が興味深々でこちらを見つめてくる。
ブラックホールのようなその瞳に、僕は本当に吸い込まれそうだった。

そんな彼女の眼力に負けたか、気づけば僕は話始めていた。

「…最初は、小学生低学年の時。しょっちゅう色んなところに閉じ込められていたんだ。倉庫だったり、車の中だったり。トイレだったり。」

「えっ、いじめ?」

「人に何かをされた訳じゃないよ。ただ、超自然的に、何かの力が働いてっていうのかな。そこから出られなくなるんだ。」

「なにそれ…。」

彼女が眉をひそめる。
引かれたかな。そう思ったが彼女は逆に笑い出してしまった。

「なにそれ、面白い!他にもあるの?」

意図しなかった彼女の反応に気を良くしたのか僕の口はさらに饒舌になった。

「…あるよ。他にも教室とか、学校の屋上、地下室とかもね。中学生の時にはふらっと立ち寄ったコンビニに強盗が入ってきて、出られなくなった。とにかくたくさん閉じ込められた。」

「すごい、どれくらい閉じ込められたんですか?」

「数えたことはないけど、月に1回か2回、多い時で5.6回は閉じ込められたよ。」

彼女は露骨に驚いてみせた。

「でも、そんなに閉じ込められる体質ならどうして今日エレベーターなんかに乗ったんですか。」

痛いところを突いてくる。僕もわかっていたさ、乗る時に嫌な予感は少ししたんだ。

「それが、最近はめっきりその回数が減ってね。油断していたという所かな。それにこの建物とても高いだろう。とても階段で登る気分じゃなかったというか、確実に疲弊して目的の場所にたどり着くよりも、多少閉じ込められるリスクはあっても楽な方を取ってしまったっていうのが本音かな。」

「なるほど。」

「何度も言うけど、最近はめっきり閉じ込められなくなっていたからね。」

「ふーん。すごい人生を歩んでいるんですね。でもこんな状況でも平気そうだったので、納得しました。」

「まぁ、こんだけ閉じ込められていたら慣れたくなくても慣れるものだよ。それに最近気づいたんだけど、この現象にはある法則があるんだ。」

「法則?」

その時は、今まで酔いつぶれていた中年男性がむくっと起き上がる。

「うふぁ…あれ?このエレベータァなんで止まってるぅ、の?」

事の発端を何も知らないこの中年男性は自分の置かれている状況はまだ把握していないようだった。

中年男性はまだ酔いが残っている様子で、ろれつが回っていなく足元も千鳥足で定まっていなかった。

僕たちは事の顛末を出来るだけわかりやすく説明した。

「困ったなー。い、急いでいるのに。」

ここはとある有名一流企業の中だぞ、こんな酔っ払いに一体何の用事があるって言うんだ。

僕も人のことは言えないが、髪もボサボサのいかにも冴えない中年男性が来る様なところではない。

「うっ、き、君たちは?」

「僕はちょっと野暮用で…。でもこの様子なら多分間に合わないんですけどね。」

「私は父に会いに来ました。」

「父?君ぃ。名前は何て言うの?」

なんだか、ぶっきら棒な人だな。人に名前を聞く時はまず自分から名乗るべきだろう。

「えっと、妻木かなえ(さいき かなえ)です。」

その、名前を聞いた時、中年男性の表情が一変した。
眉間にシワが寄り、目は血走り、口元がぎゅっと閉まる。その感情は明らかな怒りだった。

「さ、妻木だとぉ〜!」

そういうと中年男性はポケットに忍ばせていた小型のナイフを手に取り、女性に向ける。

「俺はなぁ!!お前ぉのお、親父に人生をめちゃくちゃにされぇ、たんだ!!この会社の社長ぉ、妻木誠になぁ!」

エレベーター内に怒号が響き渡る。
彼女は恐怖のあまり「キャァ!」と叫び、その場に崩れ落ちる。





その瞬間、僕は全てを理解した。
どうして僕がエレベーターに閉じ込められたのか。

…そう、この現象には法則がある。

中学生の時にコンビニ強盗に遭遇した時は、筋肉隆々のサラリーマンが強盗を取り押さえたら外に出られた。その時に僕は持っていたコミックをとっさに強盗に投げつけ、強盗の隙を作ったからサラリーマンは強盗を取り押さえることができた。

高校の時、登山の途中帰り道がわからなくなった時には他にもクラスメイトがその場に二人いて、二人はカップルだったが、喧嘩真っ最中だった。その時も二人の間を取り持つと自然と帰り道がわかり下山する事が出来た。

小学生の時、物置に閉じ込められたの時には、泣いて叫んでも誰も助けには来なかった。だけど母がよく言っていた「良い行いをすればそれは自分に返ってくる」という言葉を思い出し、物置に隠しておいた母親の貯金箱から盗んだ500円玉を返そうと決心すると、扉はいつのまにか開いていた。

そう。その法則とは、閉じ込められている間に起こる問題を解決しなければならないという事。
そしてそれを解決すれば独りでにこの現象から解放されるという事だ。


そして、今回の問題とはきっとこの事なのだろう。



僕はどうやらこの中年男性から妻木かなえが襲われるという問題を解決しなければならない様だ。

とんでもないことに巻き込まれてしまった。油断していたとはいえ、不覚だった。

わかっていたんだ。この中年男性がエレベーターで酔いつぶれていた時から、嫌な予感はしていた。
そして、エレベーターが止まった時にも…。
ただ心の中でそんなこと起こるわけはない。と高を括っていた。

だけど、それがそもそも間違いだった。

「おい、変な真似はよせ!」

僕はとっさにそう叫んでいた。
中年男性は、僕の方を睨むと妻木を自分の前に強引に引き寄せ彼女の首にナイフを突きつけた。

「動くんじゃ、ぅねぇ!この女が死んでもぃ良いのか!?」

中年男性の声が裏返り、ろれつが回っていない。未だ酔っている様子だ。
フラフラしながらも、人生を返せだな、社長を出せだとと大声を張り上げる。
その度に妻木の身体が小刻みに震えた。

まるでドラマの様な展開だなと冷静に現状を分析しても、置かれている状況は未だ最悪だった。

何か打開策を考えなくては…。

しかしなんか策も思いつかない。こんな時自分の引き出しの無さに心底嫌気が差す。

そして何を血迷ったのか、追い詰められた僕は次の様に叫んだ。



「おっさん!!あんたの手、おっぱい鷲掴みじゃないか!このセクハラおやじ!」


「ひえっ?」

中年男性が一瞬、照れた様に妻木をつかんでいた手を離す。

ここしかない。

僕はその隙をついて、思いっきり中年男性に体当たりした。

中年男性は彼女の首に突き立てていたナイフをこちらに向けようとしたが、それよりも早く僕の体当たりが男性の芯を捉える。

男性はエレベーターの壁に頭を強打し、その場に崩れ落ちる。



今日は最悪な日だ。
なんで僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。
閉じ込められた中でも今日は本当に面倒くさい1日だ。
しかしこんなに上手くいくとは…。下手したら逆上して彼女は刺されていたかもしれない。無論、自分の命もなかったもしれない。
相手が酔っ払いでよかった…。


僕は中年男性が気絶して動けなくなったのを見ると、急に足が震え、立っていられなくなった。

程なくしてエレベーターが動き出し、インターホンから声がする。

「おまたせしました。エレベーター復旧しました。大変ご迷惑をおかけしました。」

エレベーターはすぐ上の階で止まり、扉が開くと扉の前には人集りが出来ていた。

その中には妻木かなえの父親らしき人物もいた様で、彼女はその男性に抱きつき泣きじゃくっていた。





そのあと色々と事情聴取を受け、会社から出られたのは夕方ごろだった。
後から聞いた話だが、あの中年男性はこの会社の、面接に行き呆気なく玉砕。その腹いせに社長を襲おうと企てていたらしい。

…こんな危険な人物をすんなり通すなんてこの会社どんなセキュリティをしているんだ…。

僕は階段で一階に降りるとそそくさと会社を後にした。

外に備え付けられている喫煙所でタバコに火を着ける。
まだ手が震えている様でうまく火がつかない。
やっとタバコに火がついたところで、後ろから誰かが話しかけてきた。

「おっぱい鷲掴みはどうかと思いますよ。」

僕は驚いて振り返る。
妻木かなえだ。

「びっくりしたー。」

「こっちのセリフです。あんなこと言って内心ドン引きでした。」

「仕方ないだろう。あれが一番いいと思ったんだ。」

「でもありがとうございました。助けれくれたのでそれでチャラにしてあげます。」

「なんだよ、その言い方。」

「ふふ、それだけです。私はこれで失礼します。あ、今度また会えると良いですね。今度は、閉じ込められない場所で。
…じゃあまた、さようなら!」

そういうと彼女は走って去って言ってしまった。遠くに父親らしき人がいるのが見える。

今日の状況は今まででも類を見ないほど最悪だったけど、何故だろう、不思議と気分は悪くなかった。




僕はふと腕時計を眺める。



「約40分か、上出来だな。」






閉鎖空間滞在時間:14:42〜15:19







































30年後の後悔 ( No.38 )
日時: 2018/10/04 18:55
名前: 清水なごみ

「やってられるかぁっ!」
そう言って私はベッドに教科書、ノート、資料集、塾のワークを投げつけた。
けれど今日干したばかりの掛け布団はふかふかで、ボサッっという冴えない音しか立たなかった。
部屋を見回してまたイライラとする。

父のために幼稚園の時に始めたピアノ。
ここ一年塾と学校のため一回も触っていない。だから練習をせずに先生の家へ行く。
それでうまくなるはずがない。ろくに練習する暇もないのに、父は異常な位に期待するから、余計にやる気をなくす。コンクールでいい結果になっても「お前ならもっと上へ行けるはずだ!ここで満足するな!」と言うし、前回よりも悪いと、「金の無駄だからさっさとやめろ。」と言う。
自分からやりたかったわけじゃない。やめたいと思っていたのはこっちの方だ。
だから「ピアノやめる」と言った。すると、「10年以上続けてきたのをやめる?ふざけたことを言うな!」。
わけわからない。
ホコリをかぶっているアップライトピアノを蹴る。


本棚にぎっちりとつまったたくさんの本。
母が、子供のうちは本をたくさん読むべきだと言って、買ってきた本。漫画なんか一冊もない。
シェイクスピアだとか栄華物語だとか。読む気がしない。
古本屋で売ればいいのに。私みたいな読む気なしの人が持ってても意味がない。
けれど、そんなことを言ったところで母は聞くわけがない。
私は本棚も蹴った。


両親にいつも言いたくなる。
「じゃあ、あんたらは今の私よりも優秀だったんですか?」
私は知っている。
父は子供の頃、何度も校長から呼び出されていたことを。
塾のワークの一番上と一番下だけをやって提出していたことを。
家を一度火事にしかけたことを。


私は知っている。
母がいつもテストで最下位だったことを。
毎回再試祭りだったことを。
県の最下位の高校に行っていたことを。


できる両親を演じているけれど、中身はすっからかんだ。


岩手に住むいとこに会った。
最近のこと、両親のことを話した。
「じゃあさ、」
いとこは悪そうな顔をして、
「こっちに来ればいいじゃない。」
と言った。
「こっちに来れば、うるさい人はいないし、ピアノ教室も、でかい本屋もないから。」
目の前が明るくなった気がした。
どうして思いつかなかったんだろう。ここが嫌なら逃げればよかったんだ。


家に帰り、逃げる計画を立てた。
ただ逃げるのはつまらない。
高校をいい成績で卒業し、いい大学に行くと思わせて逃げればいい。
いままで両親のために頑張ってきたけど、もうそんなことはしない。
本だって勝手に売ってやる。
それで最後の最後にこう言ってやるんだ。
「いままでありがとうございました。おかげで最低の両親と最低な暮らしを楽しむことができました。」














あれから30年が経った。
あの時の計画を実行し、私はいとこの住む村で暮らしている。けれど、全然よくなかった。
畑仕事はちっとも慣れないし、夫は車で毎日秋田の仕事場に通って、遅くまで帰ってこないし、
田舎なので情報を集めるのも、買い物も大変だし、
おまけに上の娘は受験に失敗し、下の娘は昭和からタイムスリップしてきたわんぱく小僧のようだった。
ああ、あの時、我慢すればもっといい生活ができただろうか。


私はバカだ。30年経って、やっと気づいた。
後悔しても、もう遅い。

竈の森 ( No.39 )
日時: 2018/10/09 14:02
名前: イチ


森の声を聞け

あの竈の森の声を聴け

彼女は大きなうなり声をあげ、もう、じきに私たちを押しつぶしてしまうだろう。

そうならないように

人間よ、聞け

あの森が、あなた方に何を与えたか

その賢い瞳で見よ、そして想起せよ

あなた方は太古の昔から、そうやって生きてきた

耳をふさぎながら生きてきた

どうどうと森の嘆きが聞こえる

あなた方には聞こえないのか

その指の間から、僅かばかりの森の涙を

どうか通して捕まえて

森の声を聴け

竈の森は焼き尽くす

あの悪しき女の体のように

おまえの心も焼き尽くす

焼かれたならば痛いだろう

火は涙では消えぬだろう

それでも竈は焼き尽くす

おまえの心を焼き尽くす

森の声を聴け

あの双生の姉弟のように

森の声を聴け

どうどう どうどう だらり だらり

来た

竈の森が迫ってきた

どうどう どうどう だらり だらり

もう待ちきれぬと迫っていた

森はお前らを焼き尽くす

幾多の時を超えて

お前の町を焼き尽くす

そこはかつての

森の故郷だから

森の声を聴け

森は我が子を失い泣いている

焼き場はそこにある

竈の中に


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