SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

昼下がり、出会いは唐突に。 ( No.12 )

日時: 2017/10/25 17:29
名前: おそら

 それは、夏手前の暑い日のこと。私は、屋上で彼女に出会った。

とある昼下がり、彼女はそこに立っていた。

父は大手企業の社長、母は由緒ある家の長女。そんな家に生まれた、所謂お嬢様の私は、授業を受けずともテストで1位を取れる成績にいた。
だから今日も、こうして_

「秀才お嬢様は、授業サボってもいいのかい?」

後ろから声がする。振り向くと、黒髪の彼女がいた。

「あら、初めまして。…成績が良いのですから、教師も何も言いませんわ。もっとも、私の父母が怖いのでしょうけど。そして、お嬢様と呼ばれるのは、あまり好ましくありませんわ。」

「そう、すまないね。それに、サボっても成績がいいなんて、皮肉なものだ。」

「そうかもしれないわね。」

「ああ」

立場上、あまり人に話しかけられることのない私は、案外普通に話しかけられて少し驚いた。
それに、彼女の出す独特の雰囲気には、どこか覚えがある気がした。

彼女はこれ以上話しかけず、空を見上げた。名前は聞かなかった。
入道雲が、大きく広がっていた。



風になびく彼女の髪を見つめながら、私は訪ねる。

「ねぇ、貴方は、他人と関わるのがお嫌い?」

「他人?そうだね、嫌いでは無いけど、好きでもないな。僕はグループでおそろい、とか、そういうのが嫌いだ。」

少し遠くを見つめて、彼女は続ける。

「いつかいじめになるかも知れない。」

「いじめは許せない人ですの?」

「許せない、は違うかな。僕は他人を下げることでしか自分をあげられない価値の無い人間は嫌いだ。」

「あら、それは私も同感ですわ。」

彼女は視線を変えないまま、呟く。

「君は、いじめに関わったことがあるかい?」

「僕はね、昔関わっていた。毎日うんざりだったよ。」

彼女は笑う。いじめられていたのだろうか、傍観者だったのだろうか。


それとも。


「私もありましたわ。あの頃は、いじめられていた人間を嫌っていました。」

「そうだったのか。」

「ええ、当時の私は愚かでしたわ。」

「愚かだと思える人間は、愚かじゃないさ。」

「そうでしょうか。」





__少し、昔話をしよう。

ある小学校に、裕福な家庭に生まれた女の子がいました。
お嬢様だった6年生の彼女は、とてもプライドが高く、クラスで一番にいないと気がすみませんでした。
彼女は完全に独裁者で、逆らえる人はいません。それは、担任にしても、です。

そんなとき、クラスに転校生が現れました。明るく気さくな少女で、瞬く間に人気者になりました。
少女は、紫苑という名前でした。そんな少女を、彼女は深く恨みました。

だから、いじめて、いじめて、ひたすらいじめました。そんな彼女を止められる者はおらず、少女は
卒業までひどい仕打ちを受けました。

中学はだいたいみんな同じところで、少女だけが別の学校に進学しました。

進学を機に、彼女は自分の愚かさを知りました。でも、少女への恨み_妬みは変わりませんでした。




それが、私。人をいじめた、最低な人間。愚かじゃないなんて、言えない。

私は唇をかみしめる。でもこれは、私の中だけの秘密。


そして彼女に尋ねる。

「ねぇ、貴方は、かつていじめていた人間をまだ恨んでいますの?」

これは単に気になっただけだった。もしかしたら、なんて思った。

「あぁ、もちろん。来世まで恨んでいるよ。」

「君は?いじめられていた人を恨むなんて変な話だけれど、まだ嫌っているのかい?」

「__ええ。とってもとっても、嫌い_大っ嫌いよ。」

口調を変え、吐き捨てるように言う。これは本心だ、と知らせるために。

すると彼女は、やっと私の方を見て、笑った。微かだけど、笑った。

私も笑った。彼女も分かっている、と分かっていた。きっとこれは、心からの笑いだ。

「君は面白いな」

「そうですの?」

「ああ。」

彼女__紫苑は、それじゃ、と短くあいさつし、去ろうとした。

「待って。一言言わせて。」

「なんだい?」



「___紫苑、私、あなたのこと大っ嫌い。死ねばいいと思ってる。」



思いっきり睨んで言う。すると彼女も言った。



「そう。僕も、君ほど最低なやつはいないと思う。」



「じゃあね、最低な四葉ちゃん。」



紫苑はそう言って居なくなった。

四葉。そうか、私の名前。自分の名前を、久しぶりに呼ばれた気がした。
紫苑が何を伝えたかったのかは分からない。でも、それでいいと思った。

「やっぱり、紫苑は嫌いだ。」

_自分が、惨めになる。








これは、夏手前の、暑い日の、いじめっ子といじめられっ子との、再会と別れのおはなし。








昼下がり、それは入道雲の大きな日だった。出会いと別れは、唐突に訪れる。

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