SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

飾りの王様 ( No.3 )

日時: 2017/09/21 15:43
名前: 流沢藍蓮






 ――嫌いだったよ。





 姉さんは僕にそう言った。
 そうして。僕と姉さんは訣別した。
 別れたくはなかったのに。


  ◆


 違うんだ、違うんだ。
 姉さんは本当は僕のこと、好きなはずなのに。
 生まれと運命に翻弄されて。バラバラに引き裂かれた双子。
 僕は王の子。姉さんも王の子。
 なのに。
 僕に付いたのは王族派で。姉さんに付いたのは反王族派だった。

 今。姉さんを立てている反王族派は。国に反乱を起こすため、着々と準備を進めている。
 姉さんを、新たな時代の王と立てて。古き王政を打ち砕くため。
 今。僕を立てている王族派は。反王族派を倒すため、各地に連絡を飛ばし着々と準備を進めている。

 仲が良かった双子なのに。気がつけば立場は正反対で。
 殺しあわねばならなくなって。
 戦いたくはなかったのに。こちらの意見、無視されて。
 お飾りにしか過ぎぬ王は。政治に何の口出しもできないで。
 これからも。人形のようにして、生きていくのだろうか。

 憂いの溜め息をついた。僕はこれから、姉さんを倒す。
 姉さんがいなくなってから。すでに三年もの歳月が流れていた。
 あの日以来、会ってはいないけれど。次に会ったときは殺し合う時。
 ……悲しいよ。

「陛下、お時間でございます」
「わかった、すぐ行く」

 執務室の扉を叩いて。そんな声がした。
 ああ、いつも僕に命令ばかりする、宰相だね。
 僕はまだ16歳。成人の儀も終えていないから。
 父上が病で急逝した後。僕の後釜に収まって、いい感じに僕を操っているんだ。
 とはいえ。操り人形の王様に、逆らう方法なんてないんだ。
 僕は大人しく身支度を済ませ。そのまま扉の外に出る。

 こんなときだけ、侍従が身支度の手伝いをしてくれたけれど。
 僕は知っているから。侍従が僕に浮かべるのは、冷笑しかないんだってこと。
 だって、お飾りだからね。仕方ないのさ。心から慕ってくれる者なんていないのさ。
 半ば諦めながらも。僕は部屋を出、城を出て。
 馬に乗って、向かうは決戦場。
 僕は、姉さんを、討つ。


  ◆





 ――大好きだったよ。





 内心で。私は双子の弟に呟いた。
 今日はいよいよ決戦の日。腐りきった王政を正す日。
 向こうのトップには弟がいて。こっちのトップはお飾りの私。
 剣持ち戦う庶民の味方。戦場の戦女神と言って、みんな私を慕うけれど。
 でも、私は知っているんだ。私なんて、求められちゃいないってこと。
 みんなが欲しいのはあくまでも「理由」であって。頂点にいただく者は、誰でも良かった。

 ――私じゃなくても、良かったのに。

 あの狭い王宮で。
 私は剣が上手い戦う乙女で。弟は読書が好きな勉強家で。
 小さいときは。私が騎士のたしなみとして、あの子に剣を教えていたこともあったわ。
 あの子は大変な努力家で。身体が弱いのに、一生懸命練習していた。
 だからその剣の腕は、今や私と並び立つほど。
 とても仲の良い双子だったの。

 なのに。反王族派は私を「庶民的」として持ち上げて。王族派は弟を「貴族的」として持ち上げた。
 確かに。ここの王族の専横は認めるけれど。
 弟が王になれば。あの子ならきっと、それを変えられるって。私、信じてた。

 それなのに。勝手に持ち上げられた私は。今、あの子と戦うさだめ。
 しょっちゅう病気して泣いていたあの子は。今は一国の王となって。反逆者たる私に剣を向けるんだ。
 ……そして「お飾りのトップ」たる私は。この剣で、あの子の首を刈る。

 下らない憎しみからだった。いがみ合っていた上層部。
 それが。その二つの勢力が。「王」という大義名分を得て。戦へと発展した。
 そもそも。私たちは、双子に生まれてはならなかったのだろうか。
 
 私は白銀に輝く剣を掲げ。それでも願った。
 小さな体に秘めた叡智。優しく静かな弟に。


 ――私のことなんてどうでもいいから。お願い、生きて――。


 私みたいな馬鹿が王様になったって。どうせ操られるだけでしょう?
 ならば。そんなになるくらいならば。
 あの子が生きて、王様になった方が。
 よっぽどいいんだ。


  ◆


 開戦のラッパ。翻る旗印。
 王族の証の獅子の旗と。反王族派の血濡れた剣旗。
 嗚呼、戦わなければならないのか。
 僕らの間に、憎しみはないのに。
 ……悲しいよ、ああ。

「先鋒、前へ!」

 騎士団長が指示を飛ばす。彼の言うとおりに軍は動く。
 僕? 僕ならば、何もしない。ただ姉さんを探している。
 お飾りの僕なんて。作戦には不要なんだってさ。
 僕に課せられた使命はただ一つ。
 それは、姉さんを殺すこと。

「戦女神だ!」
「戦女神がいらっしゃるぞ!」
「王族派に未来はない!」

 声が、上がった。
 見れば。剣を持った姉さんが。
 兵士にまぎれて戦っていた。
 否、戦わされたという方が正しいのだろうか。

「陛下、あの戦女神を!」
「……わかってる」

 宰相に言われるまでも無く。
 三年ぶりに見た懐かしい姿に向かって。僕は一気に駆けだした。
 輝かんばかりの金色の髪、明るく光る青の瞳。
 嗚呼、姉さんだ。
 でも、再会の喜びはそのままに。僕は剣を構えたんだ。
 だって、仕方ない。ここで姉さんを殺さなければ。きっと僕こそ「反逆者」になって。上層部から殺されるんだから。
 僕は生きていたいんだ。まだ、死にたくないんだよ。
 やっとまた、会えたのに。王家の双子は、互いに剣を向けるだけ。
 望まぬ運命に翻弄されて。周囲の憎しみにあそばれて。

「……姉さん」
「……××」

 三年ぶりに相まみえた僕らは。
 そう、互いを呼んだ。

「……殺したく、なかったよ」
「あたしだって、そうよ! でも!」

 ゆがんだ愛の形。
 僕らはどこへ漂着するのか。
 悲しみが、言葉を作る。僕の発した言葉は、見事に姉さんのそれと重なった。







「「でも、周りがそれを許さなかったから!」」







 そうさ! だから僕は、あなたを殺すんだッ!
 姉さん、僕は強くなった。だから見てほしい。生まれ変わった僕の剣技をッ!
 生きたい生きたい死にたくないッ! だから許してッ!





「――僕の邪魔をしないでッッッ!」





 血を吐くような思いで振った剣は。
 流石姉さん、神速の剣技で防がれて反撃される。
 しかし。反撃を力に! 僕はそれを受け流して一撃。
 姉さんはすかさず距離を取る。

「……強くなったわね、××」
「姉さんだって。ずっと強いままだね」

 その言葉を聞いて。姉さんは悲しげに笑った。

「当然よ。だって私は……戦女神だもの」

 そう生きることを強いられた。
 僕が「王」として生きることを強いられたのと、同じように。
 でも、決着をつけなければならないから!

「来世でまた会おうよ! 運命を呪おうよ!」
「次に生まれ変わる時は、平凡な姉弟でいたいわねッ!」

 傷つき、血を流してもなお、傷の増え続ける心。
 想いの全てを託して。
 僕と姉さんは、突撃する!

「はぁぁぁぁぁあああああああああッ!」
「そりゃぁぁぁぁぁあああああああッ!」


 ――交差した。


 僕と姉さんの、剣が。










 ――勝負は、一瞬だった。










「…………ッ」
「姉さん!」

 姉さんの身体が、くずおれる。
 僕は慌てて、その身体を支えた。
 姉さんの腹には深い刺し傷があって。一目で致命傷と見て取れた。

 嘘だ。僕は見ていたのに。
 あのまま行けば。双方刺し違えて相討ちとなって死ぬだろうって。
 そうさ。あの太刀筋のままならば。どちらとも死ぬはずだったのに。
 腹に衝撃が来たのを、確かに覚えているのに。
 姉さんの手に目をやれば。

 ――剣が逆さに、なっていた。

 姉さんは剣を逆手に、握っていた。
 姉さんが僕にぶつけたのは。だから剣の刃じゃなくって。
 ……持ち手の、柄の方だったんだ。
 だから僕は、死ななかったんだ。

「……どうして」

 僕の両の眼から涙が溢れる。
 姉さんは僕を殺せたのに。どうして殺さなかったのだろう。
 死にかけの姉さんが言葉を紡ぐ。

「あなたは……いい王様になれるから……」

 生きていて、欲しかったのだ、と。
 あなたなら、きっと今を変えられるから、と。
 身勝手だよ、姉さん。そうやって、後をすべて僕に託して。姉さんは死んでいくんだね?

 死に逝く姉さんは。最高に綺麗な笑顔で、言ったんだ。





「――大好きだったよ」





「……大っ嫌いだ」

 その言葉に。
 僕はそう、返してやった。
 最後までひねくれている奴だよ。
 でも、姉さんは。僕が天邪鬼だって、知っているから。
 優しく笑って、死んでいったんだ。

「戦女神、討たれたり!」

 遠くでそんな声が聞こえた。
 僕にはどうでもいいことだ。
 好きだった、大好きだった。
 それでも僕らは争いあって。僕はその手で姉さんを殺した。
 それが事実、それが真実。
 運命と周囲に弄ばれた僕ら双子の、哀れな末路。
 そして僕は、王になる。

「陛下、ご命令を」

 早くも戦勝ムードに湧き上がる正規軍。
 そこで、軍のトップが僕に言ったんだ。
 だから僕は、命じた。
 この国の王の、権限で。





「じゃあ、死ね」





 あなたたち軍部には死んでもらう。
 そうして一から立て直すんだ。
 狂ってる? おかしいかい? でも。ここは腐りきってる。


 ――換えるなら、根っこから。


 だからあなたたちには、死んでもらうよ。

「軍部丸ごと。下っ端兵士以外は全員死ね。これは国王命令だ。逆らうことは許さない」
「……承知、致しました」

 逆らう権利なんて、ないからね。
 軍のトップは。表情をなくして。
 そのまま僕の前からいなくなった。

 僕はやがて歩き出す。
 さあ、戦勝処理の始まりだ。


  ◆


 ずっと昔、国があったよ。そこの王は姉を殺した。
 あまりにも悲しい運命に翻弄されて。少年はいつしか大人になった。
 彼はこれまでの歴史を変えた。彼は強く誓ったから。


 ――二度と。誰かの意思で、個人の意思が捻じ曲げられるような国を、作らせない。


 手始めに彼は国の上層部を処刑したけれど。
 その後の治世は、非常に優れたものだったらしい……。

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