SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

夏の報告 ( No.36 )

日時: 2018/08/24 10:07
名前: 雪丸 まろ

毎年夏は、あいつに会いに行く。

あいつがいるのは、軽井沢にある山。

今年も約一時間半かけて、電車に乗る。降りると同時にさあっと涼しい風が顔に吹きつける。

「うぁーーー。すずシィィ!!あの野郎、こんないいとこに住みんでやがって。羨ましいな。」

8年前から、必ず来ているこの山。都会のむさ苦しさとは程遠いその清々しさに、俺は一種の感動を抱くのだった。

山の中道に入ると急斜面になる。この日のためにちゃんと新品の運動靴を買って来た。必ず最後には擦り切れて使えなくなるからな。これが長年の知恵ってもんよ。

川がサラサラと流れ、ときどき頬に細かい水滴が飛んでくる。その冷たさ、まるで川が生きてるみたいだ。

軽井沢の山に感嘆しながらどんどん登って行くと、家が見えた。近くに人影もある。

「あら、竹ちゃん。」

旧友の母親だ。

あいつとやんちゃして怪我した俺を叱りながらも、絆創膏を貼ってくれたっけな。

今では、絆創膏を貼ってくれたあの頼もしい、力強い手ではなく、様々なことを経験して来たベテランの手が目に入る。

「竹ちゃん。毎年来てくれるのは嬉しいけれど、あなたも家庭を支えなければいけない時期なんじゃない??
あの子にいつまでもとらわれなくてもいいのよ。」

毎年同じ言葉だ。

「全然苦痛なんかじゃありません。あいつと毎年あってくだらない話とかするのが俺の楽しみでもあるんです。」

俺は、にかっと笑って持って来たスイカを手渡す。

「…ありがとうねぇ。あの子、いつものとこ、山の頂上にいるから。」

すっかり小さくなった背中が家の中に消えるのを見送って、頂上を目指す。

毎年ラストスパートは緊張する。特に今年は。

急に視界がひらけ、風が止み、音がなくなる。



「久しぶり。」



旧友だ。




「悪りぃ。遅くなっちまった。」

「待ちくたびれたゼーーー。」

「お前、こんな特等席みたいなとこに住みやがって。なんなんだよ。」

「ははは。でもお前は都会住みだろ??」

「そうそう。今年は一つ、報告がある。」

「ん??」



「俺、結婚する。」


「え。」

「仕事場で出会ってな。3週間後、結婚式だ。」

「そっか。もうそういう時期だもんな。お前も。」

「…」

沈黙が流れる。




俺は、そんな中で昔のことを思い出していた。




あいつと、花火して、スイカ割りして、種飛ばして、海行って、ゲーセン行って不良に絡まれたり、喧嘩して、バーベキューして、焚き火して、カラオケして、捨て猫育てて。
そして…。



「幸せにな。俺の分まで。」


閉じていた目を開ける。いつのまにか泣いていたようだ。


「あぁ。お前の分まで…。」

もうあの頃には戻れない。

ポタリと涙が地面に落ちる。

ふと視界に、自分が手にしている花が映った。

「絶対、幸せになってやる。そんで、必ず戻ってくるからな。」






俺は、あいつに、あいつの墓に一輪の花を添えた。

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