SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

閉じ込められ体質 ( No.37 )

日時: 2018/09/27 02:38
名前: 斎藤メロン

小さい頃から良く色々な所に閉じ込められた。
最初は小学生の時。
物置にしまっている自転車を出そうとし時に独りでに扉が閉まり、開かなくなった。

中学生の時は、コンビニに強盗が入り、外に出られなくなった。

高校の時は登山の途中道に迷い、下山できなくなった。

全て僕にとっては思い出したくない過去だ。

そして今日、僕はエレベーターの中に閉じ込められている。

どうやら、エレベーターが階と階の間で止まってしまった様だ。

僕はまたか。と顔を覆う。

エレベーターの中には僕以外に二人の同乗者がいた。
ひとりは、高校生くらいの髪の長い女の子。女性は僕が顔を覆っている姿を少し不思議そうに見つめていた。

もうひとりは酔いつぶれて倒れている中年男性。なぜ酔いつぶれているのかわからない。
僕が乗った時にはすでにエレベーター内で酔いつぶれて眠っていた。


「えっ、止まってますよね。これ」女性が少し焦っている様だった。

「えぇ、完全に止まってますね。」

女性はボタンの前に行き、何度もボタンを押す。
しかし、当然エレベーターは動かない。

女性はそれでもボタンを押し続ける。

「あの、落ち着いて。とりあえず緊急時のインターホンを押してみたらどうかな?」

女性はこちらを見て、はっとした顔をする。
僕は女性の横に立ち、緊急インターホンを押す。

「どうしましたか?」

「あのー、エレベーターが突然止まったみたいなんですけど。」

「えっ、わかりました。原因を調べますので少々お待ちを」

「はい、お願いします。」

女性は安堵したのか、二、三歩後ろに下がり、床に座り込んだ。

「ごめんなさい。私動揺していたみたいですね。」

「大丈夫?」

「はい、ありがとうございます。私エレベーターは少し苦手で…」

「無理もないよ。こんな経験滅多にしないんだから。」

「お兄さんはなんだか慣れているみたいですね。前にも同じような経験があるんですか?」

「えっ、あぁ、まぁ…似たような経験なら。」

自分の体質を容易に話したら変人に思われる。そんな考えが頭をよぎり返答がきごちなくなってしまった。

それにこの女性、鼻筋が通っていてホリの深く、瞳はまるでツルツルの栗のように大きく、栗を覆う棘のようにはっきりとしたまつ毛をしている。彼女が動くたびに長い髪の毛からいい匂いがした。

そんな女性と話す機会なんてこの人生訪れなかったのだから、それも相まって言葉がうまく喋れなかった。

そんなことを考えていると再度インターホン越しに男性から応答があった。

「お待たせしました。おそらく電気系統のトラブルだと思います。今から修理しますのでもう少々お待ち下さい。」

女性はすぐに立ち上がり、インターホンに返答する。

「あの、どれくらいかかりますか?」

「それはなんとも…とにかく急いで復旧するようにしますので、すいません。」

と、一方的に切られてしまった。

女性は再度、床に座り込んで、「最悪。」と呟いた。

僕はなんといっていいかわからなかったがこの静寂に耐えきれず、彼女を励ますことにした。

「えっと、きっとすぐ復旧するよ。死ぬ訳じゃないし、気長に待とう。」

僕は彼女に近寄り、微妙な間隔を空けながら床に座る。

彼女はこちらを見る。それはまるで吸い込まれそうな瞳で、僕は慌てて目を逸らす。

「ありがとうございます。そうですよね。きっとすぐ動き出しますよね。」

「多分。…でも、過去に2日間開かなかったなんて話も聞いたことはあるよ。」

彼女の表情が一瞬で曇る。
しまった…。僕はすぐに自分の失態に気付く。
ばかたれ僕、安心させるためなのに、不安を煽ってどうする。
自分の無駄な知識を披露しようという気待ちが先行して、口が滑ってしまった。

すぐに挽回したが、すでに遅かった。

「なんだか、デリカシーのない人ですね。」

「あ、いや…ごめん。」

謝ることしかできなかった。

それから数分間彼女は携帯とにらめっこしたり、誰かに連絡を取ったりしていた。

一方、中年男性は未だ深い眠りの中だった。
この雰囲気を打破しなくてはと思いながらも心は重い腰をあげようとせず、僕ただただ時間が経つのを黙って待っていた。
険悪なムードを断ち切ったのは意外にも彼女の方からだった。

電源が切れたのか、彼女は携帯をカバンにしまうとこちらを向く。

「何か話しません?」

「へ?」

「ほら、後どれくらいで出られるかわからないし、こうやってただ座ってるだけもつまらないじゃないですか。だから、少し暇つぶしじゃないけれど、時間を有効に使うというか。何か話して気を紛らわせませんか?」

「えっと、いいけど。話って言ってもなぁ。」

「じゃあ、私から質問しても良いですか?さっきから気になってたんですよ。ほらさっき言ってたじゃないですか。似たような経験をしたことがあるって。前にはどんな経験を?」

彼女が興味深々でこちらを見つめてくる。
ブラックホールのようなその瞳に、僕は本当に吸い込まれそうだった。

そんな彼女の眼力に負けたか、気づけば僕は話始めていた。

「…最初は、小学生低学年の時。しょっちゅう色んなところに閉じ込められていたんだ。倉庫だったり、車の中だったり。トイレだったり。」

「えっ、いじめ?」

「人に何かをされた訳じゃないよ。ただ、超自然的に、何かの力が働いてっていうのかな。そこから出られなくなるんだ。」

「なにそれ…。」

彼女が眉をひそめる。
引かれたかな。そう思ったが彼女は逆に笑い出してしまった。

「なにそれ、面白い!他にもあるの?」

意図しなかった彼女の反応に気を良くしたのか僕の口はさらに饒舌になった。

「…あるよ。他にも教室とか、学校の屋上、地下室とかもね。中学生の時にはふらっと立ち寄ったコンビニに強盗が入ってきて、出られなくなった。とにかくたくさん閉じ込められた。」

「すごい、どれくらい閉じ込められたんですか?」

「数えたことはないけど、月に1回か2回、多い時で5.6回は閉じ込められたよ。」

彼女は露骨に驚いてみせた。

「でも、そんなに閉じ込められる体質ならどうして今日エレベーターなんかに乗ったんですか。」

痛いところを突いてくる。僕もわかっていたさ、乗る時に嫌な予感は少ししたんだ。

「それが、最近はめっきりその回数が減ってね。油断していたという所かな。それにこの建物とても高いだろう。とても階段で登る気分じゃなかったというか、確実に疲弊して目的の場所にたどり着くよりも、多少閉じ込められるリスクはあっても楽な方を取ってしまったっていうのが本音かな。」

「なるほど。」

「何度も言うけど、最近はめっきり閉じ込められなくなっていたからね。」

「ふーん。すごい人生を歩んでいるんですね。でもこんな状況でも平気そうだったので、納得しました。」

「まぁ、こんだけ閉じ込められていたら慣れたくなくても慣れるものだよ。それに最近気づいたんだけど、この現象にはある法則があるんだ。」

「法則?」

その時は、今まで酔いつぶれていた中年男性がむくっと起き上がる。

「うふぁ…あれ?このエレベータァなんで止まってるぅ、の?」

事の発端を何も知らないこの中年男性は自分の置かれている状況はまだ把握していないようだった。

中年男性はまだ酔いが残っている様子で、ろれつが回っていなく足元も千鳥足で定まっていなかった。

僕たちは事の顛末を出来るだけわかりやすく説明した。

「困ったなー。い、急いでいるのに。」

ここはとある有名一流企業の中だぞ、こんな酔っ払いに一体何の用事があるって言うんだ。

僕も人のことは言えないが、髪もボサボサのいかにも冴えない中年男性が来る様なところではない。

「うっ、き、君たちは?」

「僕はちょっと野暮用で…。でもこの様子なら多分間に合わないんですけどね。」

「私は父に会いに来ました。」

「父?君ぃ。名前は何て言うの?」

なんだか、ぶっきら棒な人だな。人に名前を聞く時はまず自分から名乗るべきだろう。

「えっと、妻木かなえ(さいき かなえ)です。」

その、名前を聞いた時、中年男性の表情が一変した。
眉間にシワが寄り、目は血走り、口元がぎゅっと閉まる。その感情は明らかな怒りだった。

「さ、妻木だとぉ〜!」

そういうと中年男性はポケットに忍ばせていた小型のナイフを手に取り、女性に向ける。

「俺はなぁ!!お前ぉのお、親父に人生をめちゃくちゃにされぇ、たんだ!!この会社の社長ぉ、妻木誠になぁ!」

エレベーター内に怒号が響き渡る。
彼女は恐怖のあまり「キャァ!」と叫び、その場に崩れ落ちる。





その瞬間、僕は全てを理解した。
どうして僕がエレベーターに閉じ込められたのか。

…そう、この現象には法則がある。

中学生の時にコンビニ強盗に遭遇した時は、筋肉隆々のサラリーマンが強盗を取り押さえたら外に出られた。その時に僕は持っていたコミックをとっさに強盗に投げつけ、強盗の隙を作ったからサラリーマンは強盗を取り押さえることができた。

高校の時、登山の途中帰り道がわからなくなった時には他にもクラスメイトがその場に二人いて、二人はカップルだったが、喧嘩真っ最中だった。その時も二人の間を取り持つと自然と帰り道がわかり下山する事が出来た。

小学生の時、物置に閉じ込められたの時には、泣いて叫んでも誰も助けには来なかった。だけど母がよく言っていた「良い行いをすればそれは自分に返ってくる」という言葉を思い出し、物置に隠しておいた母親の貯金箱から盗んだ500円玉を返そうと決心すると、扉はいつのまにか開いていた。

そう。その法則とは、閉じ込められている間に起こる問題を解決しなければならないという事。
そしてそれを解決すれば独りでにこの現象から解放されるという事だ。


そして、今回の問題とはきっとこの事なのだろう。



僕はどうやらこの中年男性から妻木かなえが襲われるという問題を解決しなければならない様だ。

とんでもないことに巻き込まれてしまった。油断していたとはいえ、不覚だった。

わかっていたんだ。この中年男性がエレベーターで酔いつぶれていた時から、嫌な予感はしていた。
そして、エレベーターが止まった時にも…。
ただ心の中でそんなこと起こるわけはない。と高を括っていた。

だけど、それがそもそも間違いだった。

「おい、変な真似はよせ!」

僕はとっさにそう叫んでいた。
中年男性は、僕の方を睨むと妻木を自分の前に強引に引き寄せ彼女の首にナイフを突きつけた。

「動くんじゃ、ぅねぇ!この女が死んでもぃ良いのか!?」

中年男性の声が裏返り、ろれつが回っていない。未だ酔っている様子だ。
フラフラしながらも、人生を返せだな、社長を出せだとと大声を張り上げる。
その度に妻木の身体が小刻みに震えた。

まるでドラマの様な展開だなと冷静に現状を分析しても、置かれている状況は未だ最悪だった。

何か打開策を考えなくては…。

しかしなんか策も思いつかない。こんな時自分の引き出しの無さに心底嫌気が差す。

そして何を血迷ったのか、追い詰められた僕は次の様に叫んだ。



「おっさん!!あんたの手、おっぱい鷲掴みじゃないか!このセクハラおやじ!」


「ひえっ?」

中年男性が一瞬、照れた様に妻木をつかんでいた手を離す。

ここしかない。

僕はその隙をついて、思いっきり中年男性に体当たりした。

中年男性は彼女の首に突き立てていたナイフをこちらに向けようとしたが、それよりも早く僕の体当たりが男性の芯を捉える。

男性はエレベーターの壁に頭を強打し、その場に崩れ落ちる。



今日は最悪な日だ。
なんで僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。
閉じ込められた中でも今日は本当に面倒くさい1日だ。
しかしこんなに上手くいくとは…。下手したら逆上して彼女は刺されていたかもしれない。無論、自分の命もなかったもしれない。
相手が酔っ払いでよかった…。


僕は中年男性が気絶して動けなくなったのを見ると、急に足が震え、立っていられなくなった。

程なくしてエレベーターが動き出し、インターホンから声がする。

「おまたせしました。エレベーター復旧しました。大変ご迷惑をおかけしました。」

エレベーターはすぐ上の階で止まり、扉が開くと扉の前には人集りが出来ていた。

その中には妻木かなえの父親らしき人物もいた様で、彼女はその男性に抱きつき泣きじゃくっていた。





そのあと色々と事情聴取を受け、会社から出られたのは夕方ごろだった。
後から聞いた話だが、あの中年男性はこの会社の、面接に行き呆気なく玉砕。その腹いせに社長を襲おうと企てていたらしい。

…こんな危険な人物をすんなり通すなんてこの会社どんなセキュリティをしているんだ…。

僕は階段で一階に降りるとそそくさと会社を後にした。

外に備え付けられている喫煙所でタバコに火を着ける。
まだ手が震えている様でうまく火がつかない。
やっとタバコに火がついたところで、後ろから誰かが話しかけてきた。

「おっぱい鷲掴みはどうかと思いますよ。」

僕は驚いて振り返る。
妻木かなえだ。

「びっくりしたー。」

「こっちのセリフです。あんなこと言って内心ドン引きでした。」

「仕方ないだろう。あれが一番いいと思ったんだ。」

「でもありがとうございました。助けれくれたのでそれでチャラにしてあげます。」

「なんだよ、その言い方。」

「ふふ、それだけです。私はこれで失礼します。あ、今度また会えると良いですね。今度は、閉じ込められない場所で。
…じゃあまた、さようなら!」

そういうと彼女は走って去って言ってしまった。遠くに父親らしき人がいるのが見える。

今日の状況は今まででも類を見ないほど最悪だったけど、何故だろう、不思議と気分は悪くなかった。




僕はふと腕時計を眺める。



「約40分か、上出来だな。」






閉鎖空間滞在時間:14:42〜15:19







































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