SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

記憶 ( No.67 )

日時: 2020/04/20 15:10
名前: 新米ハンター

夜、湖のほとりにある別荘に金持ちのA氏が妻と2人の子供と共にやって来た。夏に休暇がとれたので、やって来たのだ。
空には都会ではまず見られないような、鮮やかで、無数の星がちりばめられた銀河。その美しい光景に、子供たちは見とれていた。
「子供たち。おいで。夕御飯でも食べよう。来る途中に渋滞に巻き込まれて予定よりも到着が遅くなったからね。
お腹が空いただろう。」確かに子供たちはお腹が空いていた。しかし、食事をとりたいわけでもなかった。
「しばらくしたら食べるでしょう。放っておきましょう。」妻が言った。「それもそうだな。そこのジャムを取ってくれ。」
妻は、よく手入れがされた色白い手をジャムに伸ばし、それを夫に渡した。ジャムはパンの上で広げられ、
A氏の口の中に入っていった。A氏はしばらく咀嚼を続け、パンを飲み込むと、牛乳が入ったコップを手に取り、
一気に飲み干した。牛乳が口を通り、食道を通る音が妻にも聞こえた。「ごちそうさま。」A氏はそう言うと、
食器とコップを台所まで持ってゆき、スポンジで念入りに洗い始めた。靴磨きのような感じだなとA氏は思った。

「これがA氏の記憶です。」白髪の老人がビデオテープを客に渡した。客は財布からお金を取りだし、
支払いをした。「ではまた....。大事に使わせてもらうよ。」客はビデオテープを、爆弾でも取り扱うかのように
慎重に入れ、店を出ていった。
「Aさん。あなたの記憶、高く売れましたよ。」 「本当ですか?良かった。あの記憶の中には、私が
殺人を犯したときの記憶があったのです。助かった。」

人の記憶を読み取る捜査方法が確立された世界。捜査から逃れるため、自分の記憶の一部を売る。
そんな犯罪者が後を絶たない。売った方は捜査から逃れられるし、買った方は犯行の様子が
楽しめるし、そして何よりも次に自分が犯行を犯すときの手助けになる。

「やめて.....。その包丁を置いて...。」 「お前が今まで俺にどんな仕打ちをしたのか覚えていないのか。」
「それは過去の話....。止めて....。」

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