SS小説(ショートストーリー) 大会【平日イベント】

百鬼夜行 ( No.5 )

日時: 2020/07/16 16:33
名前: 夢兎



 ゴーン
 ゴーン
 ゴーン
 

 寺の鐘が鳴り響くのと同時期、そのやけに低い重低音で目が覚めてしまった私は、もぞもぞとベッドから起き上がりました。

 今は七月。
 ガンガンにクーラーをかけていたのにタイマーのセットを忘れていて、エアコンの口はしっかりとしまっていました。
 湿気と埃にむせた私は、水を飲もうと一階に降りることにしました。

 外は真っ暗、当たり前です。今は夜なのですから。
 でも、小学五年生である私は夜の九時以降に起きたことなど全くなかったので、夜の新鮮な空気にすっかり興奮していました。

 そして幼稚だと思われるかもしれませんが、その時はまだお化けという不可解な存在も信じていたので、『お化けに見つからないように』となるべく急ぎ足で階段を降ります。

 キッチンでコップにお茶を注ぎ、喉を満たします。
 そしてこれからもう一度布団に戻ろうか、それともちょっと夜更かしをしてみようか迷いました。
 ママに見つからなければ、こっそりテレビを見ても漫画を読んでもいい。
 だって、夜はまだまだ始まったばかり。こんなに楽しい事って他にない!



 ですが私の目論見は外れます。
 ぺた、ぺたと足音を立てて、誰かがキッチンに乱入してきたのです。
 大人はいつも遅く練る癖に、起きるのは無駄に早いのだから困ったものですね。
 しかし、私の目の前に姿を現した人はママやパパではありませんでした。



 「ッ!? ママァァァァァーーーーーーーーッ!!!」
 「ちょ、ちょ、しーッ!」


 突然私の腕を掴んできた、謎の人物の行動にびっくりして声を上げると、そいつはギョッとしたように目を見開き、私の口を塞ぎました。
 こっちがモゴモゴしていると、謎の人物は軽く肩をすくめます。


 「いいかい? 大人って怖いんだぜ。もし呼んでたら俺はあっというまにピチャンだ」
 「………ピチャンって?」
 「消滅するかもしれないね」
 「しょうめつ!? ご、ごめんなさい、モモそんなことしないわ!」


 小学生の私には、「消滅」という漢字はまだ書けませんでしたが、意味は知っていました。
 なので、この不思議な人物を消さないでよかったと心から思いました。
 


 「あなたはだあれ? 私、花鶏モモっていうの。花に、ニワトリって書いて、あとりよ」
 「俺? 俺の名前は『ももき』さ」
 「どういう字を書くの?」
 「『百』に『鬼』って書いて百鬼だよ。君はアトリって言うんだね」
 「そうよ。珍しい苗字ってクラスで話題になったもの。モモキくんはどこの学校なの?」


 
 「……うーん。夜の、定時制の学校だよ」
 「ていじせい? それはなに?」
 「ある時間だけ開いている学校さ。俺の場合は夜」
 「難しいのね。もしかして中学生?」
 「うん、一応…生前は」
 「じゃあ先輩ね!」


 百鬼くんのお話は、今となって考えてみれば追及するべき点はいくつもあったのですが、当時小学生だった私はそんなことどうでもよく、彼のことはただの不思議な男の子としか思ってませんでした。
 不思議、その単語が小さかった私にはどんなに刺激的だったか、今でもよく覚えています。


 「ねえ、モモキくんのその名前は苗字なの?」
 「苗字だよ」
 「名前は何て言うの?」
 「名前はないよ」
 「変ねえ」
 

 「……アトリは幽霊とか妖怪って信じる?」
 「信じるわ。だから怖くなるし不思議にも思うもの」
 「その考えは素敵だと思うよ」
 「なら嬉しいわ!」


 
 たくさん、たくさん楽しい話をしました。百鬼君は本当に不思議な子でした。
 例えば、一緒に『ゆびすま』をやろうとしても請け負ってくれないのです。握手もしたくないようでした。潔癖症の子はいくらでもいます、無理強いはしません。





 百鬼くんは次の夜も、その次の夜も家に来ました。
 私たちは沢山のお話をし、沢山の喜びを共有し、沢山の不思議を学びました。
 でも、どれだけ会話を交わしても、百鬼くんのことについては全く分かりませんでした。


 「ねえモモキくん。モモキくんは、一体何者なの?」
 「ただの中学生だよ」
 「中学生だったら夜遅くにこんなところに来たりしないわ」
 「来ちゃいけなかった?」
 「そんなこと言ってないじゃない」



 「………中学生って不思議ね」
 「大人にも子供にも不思議なところはあるよ」
 「そういえば私の学校に七不思議があるのよ。とっても不思議なお話なの」





 「まず一つ目。校庭で死んだ男の子の霊がいる」
 

 

 「二つ目、音楽室のピアノが鳴る」




  百鬼くんは、何も言いません。



 「三つ目、放送室から聞こえる謎の声」





 「四つ目。アカシックレコード…っていうものがあるらしいわ」





 「五つ目、校長先生は不老不死」





 「六つ目、繁殖池にはネッシーがいる」







 「七つ目」




















 「数十年前、一人の生徒がクラスメイト全員を殺害した…」







 






 「……………」
 「ただの噂よ。低学年のうちはまた信じてたけど、さすがに今はどうかなって疑ってるの」
 「………」
 「確かあだ名はモモ。多分女の子よね。どういう理由で殺害したのか、私は分からないけど」






 「…………女の子って、どうしてわかるの?」



 「だってモモよ。女の子よ絶対」
 


 「………………その子は、…………だよ」


 「何て?」





 百鬼くんは、質問には答えてくれませんでした。
 ただただ悲しそうな瞳で、じっと私の顔を見つめるだけでした。
 どんな言葉をかければいいのか、その時の私には分かりませんでした。


 


 百鬼くんには、それから一度もあっていません。
 私が大人になった今も、彼の姿を見ることはありませんでしたが、彼が何者だったのか、今となってようやく分かりました。


 もしかしたら、彼と会えるのは子供の時だけなのかもしれません。
 みなさんも、彼に会えることがあるかもしれない。
 そんな時は、ただ黙って彼の話を聞いてあげてほしいと思います。









 例えその人が、人殺しだったとしても。
 

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