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+*記憶ノ眼鏡*+【完結しました*^ω^*】 
作者: ☆RETAS☆  (総ページ数: 12ページ)
関連タグ: 死にネタ 爽やか小説が此処にある シリーズ物・・・を目指す作品 
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10~

*1*

「・・・暇」

心がつぶやいた。声には出せない。だって今、テスト中だもの。
黒板にはいつ終わるか書いてあるのだろうけど、ウチは目が悪い。こっからじゃ見えん。
とりあえずテスト終了の声を待つしかないか。もう一度、心のツイッタ―は【暇なう】と、つぶやいた。



…………………………。



「テスト終わりー、解答用紙前の奴に回せ―」

先生のやたら語尾がのびた声で我に帰る。解答用紙を前の人に渡した。とりあえず今日はこの後は退屈しない。

今日はメガネを買う日。ここ最近、なぜかどんどん視力が悪くなっていって、とうとう0,3ぐらいに。
母さんは「あんたが暗闇で絵描いたりしてるからよっ!」と言っていたが、ウチにはそんなに暗く感じない。もう慣れてしまったのだろうか。

【暇率50%】
                本日三回目のつぶやきだった。



「あっ、これかわいいじゃない!ねえねえ、これにしなさいよ」

「うるさい。もっと静かにできないの?」

現在地点。メガネ屋。入った瞬間沢山のメガネたちが光り、こっちを見る。青色や緑に、光を受けて、てかってる。ただでさえ黒すぎて黒光りしてるのに更にレンズが光ってる。「うっ」と思わず声が出た。
目がちかちかする。まあ、暇しないからまだましか。

結局、欲しいメガネが見つからず、ここら辺にあるメガネ屋で一番古そうな店に入った。古いとはいえ、すごくきれいな店。
アンティークの小物や時計が置いてあって、落ち着いた雰囲気だった。
ここは居心地がいい。純喫茶もあるよう。紅茶手柄に
またこようかな、そう思った時、ふと、目に入ったメガネに顔を近づけた。縁は目の覚めるような茜色。
なぜかレンズを見てもちかちかしない。目が痛くない。

不思議な気持ちだった。


キラキラしたものも付いていない。かわいいプリントもされてない。
けれど、どんなアクセサリーよりもきれいに見えた。

「わぁ……」

いつまで見てても飽きない。ウチがおかしいのかな?
今までで感じたことのないような感覚だった。

「母さん、先に帰ってて」

「は、はぁ?あんたメガネはどうすんのよ!」

「いつでもいいでしょ?良いから帰って」

「もうっ、勝手にしなさい!!」

これで落ち着いて見れる。買うならこういうメガネがいい。

「そのメガネが気に入りましたか」

声のした方を振り向くと不思議な雰囲気のおじいさんが立っていた。

「きれいですね、このメガネ。見ててドキドキしちゃいました」

「そのメガネでお決まりですか」

「でもお金がないですし・・・」

「さしあげます」

「はい?」

今このおじいさん、なんつった…。

「もう一度。」

「ただでこのメガネを差し上げますと言っているのです」

「でっでも、タダより高いものはないって良く言うじゃないですか!」

おじいさんは笑顔でこう続ける。

「かけてごらんなさい」

まだ買うと決めたわけじゃないが確かに、このメガネをまだかけてみていない。サイズが合わなかったらこのメガネは買えないのか…。

「サイズも度もあなたにピッタリのはずです」

さっきから何を言っているのだろう、このおじいさんは。
半信半疑でかけてみる。

「……っ!!」

かけて見ると驚いた。かけていても、なにもかけていないような感覚だ。度も今まで自分が見ていた世界なのかと思うほどきれいに見える。

「嘘…」

「ほら、言ったとおりでしょう?」

胸の鼓動が速くなってゆく。おじいさんにも聞こえてるんじゃないかと思う位に鼓動が大きい。

「すごい…」

「あなたがメガネを選んだのではありません。メガネがあなたを選んだのです。」

「これ、本当にもらっていいんですか!?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます!」

「…あなたは、まるで炭酸の様な方だ」

「え?」

「では、ここにあなたのお名前をご記入ください」

おじいさんに紙を渡される。名前の記入欄があった。

一緒に手渡された羽根ペンで名前を書く。


【名前 野下 哩 読み仮名 ノモト マイル】



紙を渡すと、おじいさんはニッコリ笑って一度、会釈をしてこう続けた。


「またいつでもどうぞ。あなたの事をお待ちしております」

最後のあの言葉はどう意味だろう。そう思いながら、私は店を後にした。



「ああっ!メガネケースがないっ」

と、家に帰ってから気がついたが、遅かった。
とりあえず母さんが昔使っていたメガネケースをもらった。

勿論あの後、母さんにはメガネの事をさんざん言われた。
やれ、詐欺かもしれないじゃないの!やれ、後でお金払ってきなさい!だのとうるさい。

あの、おじいさんは詐欺師には見えない。けど、お金はちゃんと払うつもりだ。払わないのはさすがに気が引ける。

しかし、このメガネケースは見ていて嫌な気分がする。
派手な濃いピンクにヒョウ柄。こういうデザインが落ち着いていないものは嫌いだ。なんだろう、こう、見ていると頭の中や胸の奥にペンで描いたぐしゃぐしゃがある感じだ。さらに見続けるとそのぐしゃぐしゃは暴れだす。
「うげぇー」と思いながらメガネケースにメガネを入れた。なんだか、さっきまで光って見えたメガネの光が、弱まった気がした。やっぱ、メガネケースのデザインは大事だな。

【母さんのメガネケース、見てて吐き気がする】

本日、四回目のつぶやきにして、本日最後のつぶやきだった。
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次の日学校ではみんなが周りに集まってきた。

「うおっ、なにこれダセぇ」

「これが哩の趣味かあ・・・」

言いたい事好き勝手言いやがって。
正直泣きたい。今日、あの店に行ってケース買ってこなくちゃ。
こんな学校生活が続くなんて嫌だ。もう今日は地獄だ。
全身に「人生オワタ」オーラをまといながら授業が始まった。

はあ、このケースが爆発すればいいのに。
そしてメガネだけ無事ならいいのに。

無論、メガネケースにダイナマイトが仕掛けられているはずもなく、長い先生の話は右耳に入ってゆき、左耳から抜けていった。

先生の話はほとんど聞こえていない。それどころか全然聞こえていない。多分もう、先生の話を受け流すのに慣れちゃったんだろう。

― る…いる…! ―

「哩!」

先生の言葉で我に帰る。

「お前、ちゃんと授業を聞いているのか?」

「はい」

適当に応えておけばその後は何も言われない。

今日は見事な快晴だ。雲ひとつない。こういうときは胸が少し高鳴る。
授業終了のチャイムが鳴る。

母さんの、恥ずかしいメガネケースを隠すようにして教室を後にした。



帰り道。
周りの女子はきゃあきゃあ言いながら喋っている。
まったく、何がそんなに楽しいのか。
うるさい女子軍団の横を早足で通り過ぎた。

ふと、メガネをかけて見たくなった。
実は、あの店を出てから一度もメガネをかけていない。
なんか、もったいなかった。
布に包まれているメガネが、宝物に見えた。
汚したくなかった。

けど、目が悪いからメガネを買ったのにかけないのは本物のアホだ。
鞄からメガネを取り出し、すっ、と耳と鬢の間にいれる。


また、世界が変わった。
ただの水だった世界に炭酸が入った。
茜色の額縁にただ一色の絵の具で塗り潰された絵がはめ込まれているようだ。
茜色に水色が映える。あのお店で見た世界よりずっときれいだった。
何事もないような日常風景が、息をしているのかのように生き生きしている。

メガネをはずすと、失笑が漏れた。
メガネが宝物?馬鹿みたいだ。

ほら、こうやって自分に嘘をつく。
さっきの光景は、きれいだったのに、
メガネが輝いて見えたのに、
最終的にその事実を否定する。

本当に、アホらしい。
さっさと帰ってあのお店にケースをもらいに行こう。




チリンチリン……

涼やかな鈴の音と供に、おじいさんが出てきた。

「おや、いらっしゃい。メガネケースだね。ちょっと待ってておくれ」

ふおお……!このおじいさん、読心術でも使えるのか! ?
何でもできるんじゃないか?このおじいさん。
空飛ぶとか、瞬間移動とか。
まさかね。

「おまたせ。はい」

しかし、手渡されたのはメガネケースではなく、あみだくじだった。
なんか下の方に色が書いてあるんですけど。

「……こんな、適当でいいんですか」

「こういうのはよくよく考えるんじゃなくて、適当にやってみるのが一番だよ」

「はぁ……」

とりあえず右から2番目をえらんで線に沿って指を動かす。
線の示していたのは落ち着いた緑だった。

「はい、ちょっと待っててね。そこのカウンターに座ってていいよ」

カウンターの前に座ると、もうすでにお茶が置かれている。
ガラスでできたティーカップの中には淡い黄色の液体が入っており、リンゴの香りがする。飲むとほんのり甘くて、内側からあったかくなるような優しい味。

そこにおじいさんが、メガネケースを7個ほど持ってカウンターの向かい側に座った。
「じゃあ、この中から選んでくれるかい?」

ドット柄のもの、ストライプが入ったもの、形が個性的なもの、色々あったが、また、輝いて見えるものがあった。緑一色のケースだ。
ずいぶん地味だが、これがいい。指をさすと、おじいさんは笑った。

「やはりそれですか」

やっぱり、このおじいさん読心術つかえるんじゃないか?。

「ところで、このお茶って……」

「ハーブティーです。聞いたことがあるでしょう?」

「まあ、少しだけなら」

おじいさんによると、このハーブの名前はカモミールという名前らしい。ジャーマンカモミールを乾燥させたものだそうだ。

「なんか、もやもやが晴れたような気分です」

「カモミールはストレスや不安に有効でね。一袋、君にあげるよ」

「ありがとうございます。なんか色々すいません」

「いいんです。メガネケースのお金も要りませんから」

カモミールティーを飲み干すと、おじいさんに何度もお礼を言って帰った。

不思議な雰囲気の人だな。あのおじいさん。
ふと見上げると、空を覆い隠す雲の中に一筋、裂け目がはいっていた。

天国への裂け目。

不意にそんな声が聞こえて心臓が跳ね上がる。
幻聴……だよね。

歩道の端の誘蛾灯が、ちかちかと点滅してついた。

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