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作者: 雪歌 (総ページ数: 8ページ)
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高校3年の秋。学校から少し出ると、そこには寺の紅葉ライトアップにつられた観光客で賑わっている。歩いていると道を聞かれることもたびたびある。
しかし私たちは、さすがに紅葉などと浮かれていられる時期ではない。教室に入ると一変して、勉強、勉強、とりあえず勉強。空気はほぼいつも緊張している。ただ、そんな状況で支えあえるのも友達という存在だけだ。休み時間は思う存分に友達とあれこれくだらない話をして、そんな時間が何よりも支えになっている。
「ハル、その新作のミルクティーおいしい?買おうと思って迷ってた」
「うん。わりと」
「ふーん…じゃあCMしてよ。はいっアクションっ」
「『とろける甘さがあなたを包み込む ○○○(商品名) あなたも絶対クセになる』」
「…そんなフレーズよく思いつくなあ」
「美香がやれって言ったんだよ」
私、高見 春にとってももちろん親友とこんなふうに過ごせるのが一番のくつろぎの時間で、これがあるから受験勉強にもなんとか耐えているという感じだ。勉強が嫌いという訳ではないけれど、やっぱりしんどいものはしんどい。
「そういえばさ。ハルっていっつも学校の帰りに塾行ってるけど、それって授業とかなの?」
「ん?どういうこと?」
「いや。普通に授業だったら、受験勉強もあるのに大変だなって。宿題とかもでそうだし」
「ああ。授業に行ってるのは週に一回だけ。他の日は自習しに行ってる。まあうちは個別だから、多分言えば授業時間内も自習にしてくれるだろうけど。」
「毎日自習しに行ってんの?」
「家で出来ないから。なんかダラけて」
美香が、それ分かるわーといいながら机に突っ伏した。それを見ながら、私は心の中で少し付け足した。本当は他にも理由があるけどね。誰にも言えないし、自分でもそれがよく分かっていない。だからあまり考えないようにしている。チャイムの音が鳴って、心でつぶやいた声を掻き消してくれたようで、安心した。