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願い
作者: 綾 (総ページ数: 1ページ)
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*紹介文/目次*
たった一つ 願いを――
わがままな姫様。
「ずっとそばにいて」
あの頃はそう言っていたのに…
「新しい魔法使いがほしいの」
だから、あなたはいらない。
そういって笑うあなたは、
誰よりも残酷だ。
あなたのお願いを叶えていたのは
たった一人を望んでほしかったから。
あの頃のように、なにもいらないと、
あなたがいればいいと。
私から手を伸ばすことは出来なかった。
だから、選んでほしかった。
たった一つ、私の思いに、
気づいてほしかっただけ。
どこまでも無邪気なまま、
白薔薇のような君。
傷つけたことにさえ気づかないのだろう。
「――火事だー!」
「姫様の部屋が燃えてるぞ!」
あれから5年。
新しい魔法使いが燃やした城は、すっかり元に戻っている。
――だけどもう、あの人は帰らない。
足元に白い薔薇を置く。
「すみません。ずいぶんと遅くなってしまいました」
彼女の庭に咲いていたものと同じ種類の薔薇だ。
「咲かせるのに時間がかかってしまって…」
魔法は使わなかった。あなたが、一番好きな花だから。
焼け落ちた城の姫様の部屋から、一つの箱が見つかった。
中には、六冊の日記と、薔薇の種、そして、
たくさんの恋文が入っていた。
魔法使いへの。
「…好きでしたよ、俺も」
手の中には小さなびん。中身は、毒だ。
溢れてしまう想いと一緒に、一息で飲み込んだ。
紅い薔薇が、白い薔薇に寄り添うように風に揺れた。