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吸血鬼だって恋に落ちるらしい【完結】
作者: 妖狐  (総ページ数: 119ページ)
関連タグ: ファンタジー 吸血鬼 オリジナル 恋愛 
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 弾かれたようにルリィはナイトを見つめた。ナイトは優しく笑うとゆっくりと瞼を閉じる。
 いつの間にかエルアーデは消え、ナイトの胸は鼓動を止めていた。
「ナ、イト……」
 崩れ落ちるようにルリィはナイトを抱きしめたまま地面に座り込む。冷たくなっていくナイトの手を握りしめる。胸の奥からこみあげてくる想いが嗚咽となって漏れた。次から次へと涙がこぼれてくる。
「ナイト、ナイト……」
 何度呼びかけても目の前の彼は起きてはくれない。もう、黒く美しい黒曜石の瞳は見れないのだ。あの低く少し色気に満ちた落ち着くような声は聴けないのだ。もう彼の優しい笑みが自分に降り注ぐことはないのだ。
「私も、私も……――大好きよ……ナイト」
 今更伝えても遅い言葉を小さな声でつぶやいた。涙が首に下げていた月光のグラスに落ちる。
 その瞬間、月光のグラスが音をたてて砕け散った。
 キラキラとグラスの破片がナイトに降り注ぎ銀色の光で包み込んでいく。その光に導かれるようにナイトの瞼が微かに震えた。
「……っ……温かい……?」
 信じられないもので見るように握りしめたナイトの手を見つめる。指がかすかに動いた。
「もしかして……これが月光の雫なの……?」
『愛する者のために流した涙』それが月光のグラスに流れ落ちて、月光の雫に変わったのかもしれない。
 願いを一つだけ、なんでも叶える雫。それは命すらもよみがえらせる。
 ゆっくりとナイトの瞼があがっていき、二度と見れないと思った黒曜石の瞳がルリィを映し出す。
「ルリィ……?」
 かすれる声で呼ぶナイトに返事をするように、伝えたい思いを今度こそは伝えるように、ルリィは思いっきり抱きついた。
「大好きよ、ナイト!」

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