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作者: nagi (総ページ数: 8ページ)
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*1*
カーテンから漏れる温かい日差しで目が覚める。
電子時計にAM11:47と映し出される。
朝というよりは昼に近いな…。
「今日は…」
起きてから今日の予定を思い出そうとする。
「何かあったっけ?…いや、何もないな。」
起き上がりカーテンを開ける。
太陽は寝起きの私に容赦なく突き刺さる。
ベッドから降りてパジャマを着替える。
螺旋階段を下りてリビングへ向かう。
この家は私を育ててくれた、私の大好きなヒトが好んだ
『ちょっと特別』
のかたまりでできている。
だから螺旋階段は少し珍しいんだと思う。
というかできれば珍しいものであってほしい。
じゃないと『特別』にならないと思う。
そんなこの家のリビングには先客がいた。
「やぁ おはよう。菜緒(なお)。」
そういって先客の『空(そら)』は軽く笑う。
空は私の同居人。
まぁ私が居候してるようなものなんだけど…
「おはよう。きょうは仕事休み?」
私は冷蔵庫の中をから卵を出す。
「うん。今日は俺の友達が来るからよろしく〜。」
そう語尾をだらしなく伸ばして言う。
なんだか締まらない話し方。
フライパンに油をなじませて火をつける。
朝ご飯はまぁ、食パンに目玉焼きなんかでいっか。
「私出かけるから。」
あ、空朝ご飯の食器洗ってない。
テーブルの上でコーヒーなんか飲んで。
きっとブラックを飲んでいる。
香りが漂う。
「え?やだやだいてよ。」
あぁ目玉焼き少しこげちゃた。
空は驚いたような声で言う。
「何で?」
空は黒いフレームの眼鏡を人差し指の第二関節あたりで持ちあげる。
空は中学3年の半ばぐらいから眼鏡をかけるようになった。
そのころからの癖。
「だってみんなに菜緒のこと見せたいんだもん。」
まぁ。なんて勝手な理由でしょう。
少し焦げた目玉焼きと、食パンをお皿に乗せてテーブルに乗せる。
「嫌。行きたいところあるから。」
ご飯を食べ始めると空は喋らなくなった。
しばらくするとそのまま自分の部屋へ消えていった。
今日はどこに行こう。
行きたいとこなんてない...。
あえて言うなら人ごみじゃないところ。
とりあえずいつもの薄い生地のタンクトップにスキニーを着た。
青いパーカーを羽織り携帯と財布を持ち部屋を出る。
「行ってきます。」
そう普段と変わらぬ声で誰もいないリビングに声をかける。
空に聞こえていなくてもまぁいいか。
出かけるのを止められたけど気にしない。
空の友達に諂うのはごめんだ。
ガチャ…
家から出て駅へ向かう。
行先はそうだな…
大きな公園にでもしよう。
今日は土曜日だ。
きっと親子で遊びに来ている人たちがいるだろう。
イベントなんかがないと、いい具合に開放感溢れるばしょだ。
道を歩いていると、年配の女性が一人いた。
身なりはそれなりに良く70代ぐらいの人だった。
私がこの女性に興味を抱いたのは
その女性の持ち物と視線が気になったからだ。
女性は真っ赤なバケツをもっていた。
身に着けた洋服は気品の漂う良い雰囲気を与えるようなものなのに
古ぼけて汚い、真っ赤なバケツを大事そうに抱えていた。
視線の先は、私だった。
女性はまっすぐに私を見ていた。
そのせいだ。
私は思わず声をかけた。
「すみません…どうかなさいましたか?」
近づきながら声をかける。
「!」
女性は私の言葉に驚いたようだ。
「いえいえごめんなさい。あまり人をじろじろ見るものじゃないわね。」
そう少し照れた様子で微笑んだ。
「大丈夫です。なにか…あったんですか?」
さすがに赤の他人に身の上話などできないだろう。
そうは思いながらも理由が知りたかった。
私は目立つ方ではないから、なぜ私をあんなに見ていたのか...
「いえ、少しあなたが似ていたから…」
いきなり寂しそうな顔をする。
だからつい...
「もしよければお話聞かせくれませんか?」
つい聞いてしまった。
何事にも無頓着な私がだ。
空が見ていたら絶対驚くな
女性は一瞬驚き、それから微笑んだ。
「ありがとう。」
それから私は女性と近くのベンチに座り話した。
女性の名前は『フミ』という。
今年68歳になるという。
やはり家柄は良く、さっきも言ったように身なりがそれを証明する。
フミさんは私にバケツのことと、私が誰に似てるかを話してくれた。