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作者: nagi (総ページ数: 8ページ)
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*7*
『いや、それは言えないよー。』
見た目とは逆に、とてもゆるいしゃべり方をする。
『なんでよ!』
『国王からの伝言だなんて、口が裂けてもいえないなー。』
男はにんまりと笑いながら言った。
この男、いけ好かない。
どうやらニーナの嫌いなタイプの人間のようだ。
っていうかえ??
今国王って言った??
この国の国王は5ヶ月も前に亡くなったではないか。
『誰が後を引き継いだの?まだ発表されてないわよね?』
『ん〜とね。国王の奥さんの弟だったかな?』
かな?って・・・
『確か4人子どもがいて、第一王子のレイ様はもう成人しているはずよね?どうして跡取りがレイ様じゃないの』
ニーナは捲くし立てた。
これが本当なら、国民全員が疑問に思うことだろう。
『まぁ王族にもいろいろあってさー。』
『例えば何よ!あなたは王族の何を知ってるっていうのよ。』
『第二王子のエレファーと第一王女のミリアは、国王の浮気相手の子だとか。』
この国は、一夫多妻制をもう何十年も前に廃止した。
だからこの男は「浮気」と言った。
少しでも汚く、ふしだらな関係を表すように。
浮気がダメとかそうじゃないとかではなく
やはり王族にもなると「世間体」というものがある。
『ま、そゆわけでギルヴァ君のとこつれってって。』
仕方がないので、ニーナは男をギルヴァのところへ連れて行く事にした。
いつまでも家の前にいられてはこちらが迷惑だ。
『ところで、お名前を聞いてなかったね。』
胡散臭い笑顔で男が言った。
『ニーナよ。』
そう言うと男は少し微笑んだ。
それは楽しそうに。
しかしニーナは気がついていなかった。
その笑顔にどんな意味があるのか、気がつく事はなかった。
『そうか、僕はルートだ。よろしくね、ニーナちゃん』
...やっぱりこの男を、ニーナは好きになれないと感じた。
その事がわかったのか、ルートはまた微笑んだ。
目は笑ってなんかいなかった。
道中、ニーナはルートといろいろ話した。
ルートは国に使えているわけではなく、ある組織に加わっていることや
出身は隣の国の「桃の国」であること。
『桃の国はどんなところなの?』
すっかり警戒心の解けたニーナがルートに聞いた。
『とてもいいところさ。遊牧が盛んでね、うちでは羊をたくさん飼っていたな...。』
遠くでも見るかの様に、目を細めながら言った。
きっとニーナは無自覚だった。
ニーナはルートを信用してしまった。
自分の過去を語っただけでは?
しかしその行為がニーナと会ってからルートが初めて気を許した様な気がしたという…
2〜30分歩いたところでギルヴァの家が見えてきた。
『ここがギルヴァの家よ。』
ニーナがルートにギルヴァの家を紹介する間、ルートは細く微笑んだ。
『さっそくギルヴァ君を紹介してもらえないかな?』
『わかってるわ!』
ニーナはギルヴァの家の扉をノックした。
コンコンコン…コンコンコン
『ギルヴァー!あなたに会いたいってひとがっ…』
突然ドアが開くと、瞬く間に家の中に引きづりこまれた。
ギルヴァが中から引っ張ったのだ。
バンッ!!
閉まったドアで、見ることは叶わなかったが
そのときのルートはまるで心がない人形のような顔だった。
『いった〜…』
『誰だ!誰を連れてきたんだ!!』
ニーナを引っ張ったのはギルヴァだった。
引っ張られたときにぶつけた肘をさすりながら
『ルートというの。国王?からの伝言があるらしいわ。』
ギルヴァの怒った顔を久しぶりに見た。
『何でそんなやつ連れてきたんだよ!!』
ギルヴァは激しく怒っていた。
穏やかそうな顔に似合わず、目を吊り上げ鼻の穴を開き少し充血した目でニーナに詰め寄った。
『いけなかったの?』
ニーナにはギルヴァが怒っている理由がわからなかった。
『取り敢えず中に彼を入れましょう!』
そう言ってドアを開けようとした。
『ダメだっっっっ!!』
そんなギルヴァの声も虚しくドアは開いてしまった。
『きゃっ…』
ドアが開いてすぐニーナの短い悲鳴が聞こえた。
『この子に俺が手をあげる前に出て来た方がいいよ?ギルヴァ君。』
ニーナがドアを開けた瞬間、ルートがニーナの首に手を回し自分へと引き寄せた。
ニーナは訳がわからずただ驚いていたが、やがて自分の状況が掴めたのか
『離しなさいよ!どういうつもり!?』
ルートの腕の中ひたすら暴れていたが、流石に成人した男相手には手も足も出なかった。
『ニーナを離せよ。卑怯だろ。』
静かではあったが、その場を緊張の空気に包むのには十分な、威嚇をハッキリと表したギルヴァの声がした。
しかしそこにはギルヴァはいなかった。
そこにいるのはギルヴァであり、ギルヴァでなかった。
『ギ…ルヴァ…なの』
目の前にあるモノの正体がギルヴァだなんて信じたくはなかった。
だが、どこかでしっかりとわかっていた。
勘でも何でもない。
確かに証明できるものなんてないが、あれはギルヴァである。
それは…人の形をしていなかった。
少なくとも、今までのギルヴァの形ではなかった。
背は倍になり、肌は黒く光沢が見えまるで鎧を来ているようで
目はとても深い緑をしていた。
『そうだよ。ニーナ、僕だよ。』
目の前のモノは少し困ったような声を出しながら笑って見せた。
しかしそれは優しい笑みなどではなく、大きな口から牙のようなモノが鋭く光るのが見え、恐怖を少しながらも感じさせるものだった。
『どういうこと…?ねぇっ!!どういうことなのよ!!』
大声をあげながらニーナはルートの腕の中でもがいた。
『“異端”だよ。わかるかい?』
ルートは吐き捨てるように言った。
『彼はね、人であり人ではないんだ。知ってるか?異端の歴史を。』
異端は、昔はそれなりの人数がいたらしい。
それでもあまりその正体を知っている人はいない。ニーナもそのうちの1人だ。
理由は、それを人々は「悪魔」と呼んでいただけの話。
『そんな…悪魔だなんて…。』
『嘘じゃないんだ。ニーナ、よく聞いてくれ。悪魔狩りが行われたという言い伝えは知っているよね?僕はそのときに生き残った者の子孫なんだ。』
ギルヴァは泣きそうな顔で言った。
『ニーナには知られたくなかったな…』
そんな中いきなりルートが声を荒げながら
『この国は異端だらけだ!!!国王もその子供も母も友人も!なぜこの国が大きな争いもなくここまで繁栄してるかしってるか?!異端のやつらが邪魔な相手の国の王を次々に殺したからだよ!!!!』
目は血走り、荒げたせいでかすれた声になりながらも叫び続けた。
『国王からの伝言なんて嘘だよ!まぁ国王の浮気の話は嘘じゃないけどな。
俺たちはお前ら異端を殺しに来たんだよ!!』
そう叫び終わるやいなや、ニーナを地面に叩きつけ
『やれぇぇぇっー!!!!』
ルートの言葉を合図に、どこに隠れていたのか次々に武装した人が現れ、ギルヴァを押さえつけた。
それからは本当に一瞬だった。
遠くでサイレンの音が聞こえ、国のいたるところから火が上がり
みんなの泣き叫ぶ声や、殴られる音、何かが壊れる音。
たくさんの音が耳をかすめて行った。
ニーナはしばらく呆然とギルヴァの家の前で座り込んでいたが、ルートの合図で出てきた1人の兵に取り押さえられそうになり、慌てて近くの森の中へ駆け込んだ。
…ギルヴァを見捨ててしまった。
どうしよう。きっとギルヴァは殺される。
しかし焦っていて、何も考える事なんてできなかった。
森の中でギルヴァの姿を思い出してみた。
大きくて内側に半円を描いたような角に、銀色の長い髪がなびいていた。
その姿に恐怖心を、少なからず抱いていた自分に悲しくなった。