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7月20日 晴れ
何か見えるんですか?
そう、言われることが多くなった。
どこか遠い目をしてぼんやりしているからだそうだ。
それも、やたらと空ばかりを眺めているとか。
私がそうなってしまうのは、夏が来たからだろう。
夏の訪れを感じると、私はいつだって、こうなってしまう。
何か見えるのか言えば、特にそういうわけでもなく。
言われるたび、私は照れ隠しに笑ってごまかしている。
本当は、空を見ているのではない。
私は、空の向こうの、ずっと遠くにある存在を見ていた。
もちろん見えるのは、空と雲ばかりなのだけれど。
それでも、確かに、この星をとりまく広い宇宙のどこかに。
私は、私の友人がいることを知っていた。
目を閉じると、君と過ごした穏やかな日々が、今でも浮かんでくる。
繁る木々の緑が鮮やかだったこと
木漏れ日がきらきらと私達に降り注いでいたこと
蝉がしきりに鳴いていたこと
見上げた夜空の花火が美しかったこと
初めて一緒に食べたお菓子
大粒の汗を浮かべながらたくさん遊んで
共に声を上げて、笑ったことも――。
ずっと昔の、懐かしい思い出。
君も、私のように思い返したりするのだろうか。
それとも、もう忘れてしまっただろうか。
またいつか、会えることを夢見て
今日も私は、空を眺めている。
――地球のとある老人の日記
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