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数学恋草物語 Chapter3
作者: 恋音飛鳥  (総ページ数: 9ページ)
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*1*

 そして、その時はやってきた。
 やってきた、のだが。
「遅刻だ、遅刻ー!」
 まただ。
 私は着替えなどがすべて入ったキャリーバッグを持つと、朝食のトーストも食べずに家を飛び出した。
 今日からゴールデンウィーク。セミナー。8:00に集合、現時刻7:40、ここから集合場所まで走って15分…。ものすごくギリギリな時間。
 事前に配られた栞は厚く、私は内容を全ては読んでいない。栞の中には、講義のテキストも入っている。
 驚いたのは、参加者全60人(国立中高一貫校中学3年生限定だったので、そこまで多くはない)中、女子3人と言うことだ。やはり少ないのだが、1人じゃないという安心感があった。
 集合場所のビル前の広場に行くと、もうたくさんの人が集まっていた。そのうちの一人を目ざとく見つけて声をかける。
「九石!おはよーっ!」
背後からいきなり声をかけたので驚くかと思いきや、九石は非常にゆっくりと振り返った。…というか、今日は手にガロア理論の本…。
「あぁ、そろそろ来ると思った」
パタン、と本を閉じてこちらに体ごと向き直ると、九石はそう言った。
 九石は清潔感溢れる白のTシャツにチェックの上着をはおり、下はジーパンと言う格好。というか、男子の私服ってなんでこんなにチェック柄が多いんだろう…。
 対しての私は、またもや絶対領域なワンピース。今日は全身真っ赤なので、九石に「目が痛くなる」と小言を言われた。
「で、これバスの席順のプリント。お前の分まで貰っといたから。」
「あ、ありがと」
九石からプリントを受け取って驚く私。
「と、隣、なの…?」
「いや、申し込み順らしいし。」
バスの席、私は九石と隣だった。
――そんな、好きかもしれない人とバスで隣とか
と赤くなった顔を俯かせる私。
「バスもう乗りに行くぞ」
そう言われて初めて我に返り、「う、うん!行こう!」と言えた私だった。
 バスに乗ると、バス特有のにおいを感じた。これから待ちに待ったセミナーなのだと改めて思う。
「私窓側だよね!」
緊張のせいか、いちいちどうでも良いようなことまで確認してしまう。気味悪がられていないだろうか、と恐る恐る隣を見ると、もうガロア理論の本を読んでおり、自分の世界に入っていた。
 はぁ、と小さく呟き、窓の外を眺める。
 いよいよバスはエンジンをかけ始め、小さく揺れた。

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