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*6*
今日は、快晴だった。
曇りなんかじゃない空を見つめる男性――父にわたしは話しかける。
父は――またも寂しげな笑みを浮かべていた。
なんだか嫌な予感がした。
まるで、離れてしまうような――。
「……っ。お父さん!」
呼んだことないくせに。父はそう言った。
その通りなものだから、わたしは苦笑してしまう。
「実里」
「……!」
「空って綺麗かな?」
今日の空は――快晴。綺麗な空だ。
「うん、綺麗」
「そうだね、綺麗だ。紀子と出逢ったときの空ではないけれど、これで心配なく行ける」
「…………!」
聞きたくない。乃愛へと向けた嫉妬心で生まれた言葉と同じ音で、再びそれは聞こえてくる。
やだ、やだよ。聞きたくない――。
――でも、父はもう。
わかって、しまうから。
わかって、あげるから。
わからなきゃいけない。
「……じゃあ、早く行ってきたらどう。その――上まで」
「そうだね。だから、行くことにするよ――」
みのり、と。呼ばれた気がした。
だから快晴の空を見つめた。なにもない。あったけれど、白い雲と建物だけ。
でも、いるんだ。
「お父さん、上では寒いこと、言わないでね?」
「言わないよ、絶対」
ふわりと空気が軽くなる。――行ったんだ。
事実を認めたとたん、わたしは泣きだした。これ以上ないぐらい、涙を流した。
けど、わたしのココロはいい意味で空っぽで。
わたしは泣いた。思う存分泣いてから、さあ、現実に戻ろう。
――ありがとう、お父さん。
「空って、綺麗かな」
「え……? 綺麗だと思うよ、なんで?」
香織がきょとんと首を傾(かし)げる。子犬みたいで可愛いな。
「ううん、なんでもないよ。ただね――」
ただね、わたしね。
お父さんが見た「空」を、もう一度見たいと思うんだ――。
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