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空【完結】
作者: 冬野悠乃 ◆P8WiDJ.XsE  (総ページ数: 8ページ)
関連タグ: 短編 複雑・ファジー 複ファ 
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*6*

 今日は、快晴だった。
 曇りなんかじゃない空を見つめる男性――父にわたしは話しかける。
 父は――またも寂しげな笑みを浮かべていた。
 なんだか嫌な予感がした。
 まるで、離れてしまうような――。
「……っ。お父さん!」
 呼んだことないくせに。父はそう言った。
 その通りなものだから、わたしは苦笑してしまう。
「実里」
「……!」
「空って綺麗かな?」
 今日の空は――快晴。綺麗な空だ。
「うん、綺麗」
「そうだね、綺麗だ。紀子と出逢ったときの空ではないけれど、これで心配なく行ける」
「…………!」
 聞きたくない。乃愛へと向けた嫉妬心で生まれた言葉と同じ音で、再びそれは聞こえてくる。
 やだ、やだよ。聞きたくない――。
 ――でも、父はもう。
 わかって、しまうから。
 わかって、あげるから。
 わからなきゃいけない。
「……じゃあ、早く行ってきたらどう。その――上まで」
「そうだね。だから、行くことにするよ――」
 みのり、と。呼ばれた気がした。
 だから快晴の空を見つめた。なにもない。あったけれど、白い雲と建物だけ。
 でも、いるんだ。
「お父さん、上では寒いこと、言わないでね?」
「言わないよ、絶対」
 ふわりと空気が軽くなる。――行ったんだ。
 事実を認めたとたん、わたしは泣きだした。これ以上ないぐらい、涙を流した。
 けど、わたしのココロはいい意味で空っぽで。
 わたしは泣いた。思う存分泣いてから、さあ、現実に戻ろう。
 ――ありがとう、お父さん。


「空って、綺麗かな」
「え……? 綺麗だと思うよ、なんで?」
 香織がきょとんと首を傾(かし)げる。子犬みたいで可愛いな。
「ううん、なんでもないよ。ただね――」
 ただね、わたしね。
 お父さんが見た「空」を、もう一度見たいと思うんだ――。

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