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作者: 水沢麻莉衣 (総ページ数: 9ページ)
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シーカリスside
「ええ、いいわよ、レイチェル、その調子よ」
「はい、マリア」
「シーカリス、半音上げてちょうだいな」
「はっ、はいっ、ま、マリア!」
カナリアとして立派に振舞わないと…。
わたしはもともと、アルトパートで声が低いし、レイチェルに比べると随分下手なんだもの。
すこしは、頑張らないと。
わたしだってマリアになりたい。
マリアーーーー。
この美世と呼ばれる王国の全てのカナリアより優れたカナリアに贈られる、マリアという呼称。
そう。
わたしの母、ユイティルもかつてはマリアだった。
その娘はわたし。
きっとなれるわ。
そうよ。わたしはマリアになれるわ。
レイチェルにマリアは渡さないーーーー。
森の奥でカナリア達は発声練習をするが、その森の奥に訪ねてくる者はいなかった。
そう。
きょうまでは。
「どなたでしょうか?」
わたしが練習していた場所より少し離れた泉にいる時の事だった。
休憩だったので、わたしは足をすこし泉に入れ、ゆっくりとしていたのだが。
綺麗な黒髪の男性。
とても上品な。どこかの貴族かなにかだろう。
わたしとは比べ物にならないくらい、いい生活しているんでしょうね。
ふふ。
なんて嫌なことを考えていると、
「迷ってしまったんです。ここら辺は土地勘がないと出れないような森らしいですね。ボクは迷ってしまったんです。」
とても上品な、口を聞くのね。
男の人ってレイチェルは苦手だろうから、合わせない方がいいかな。
「ここを真っ直ぐに進むのよ。すると出口があるわ」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「いいえ」
「お礼は後日。」
「へ、お礼!?結構ですよ!大丈夫ですから!!」
「そうですか?ではーー、失礼しますね」
男性が去っていこうとする。
すると、森をパタパタと誰かの走っている足音がするではないか。
「あら・・・、ルーフェス?」
「・・・レイチェル・・・」
え、知り合い?
レイチェルの?
男性が苦手そうなレイチェルの?!
レイチェルはとても優しい顔をしている。
打ち解けているようだ。
「この方はルーフェス。わたしの、知り合いなの」
「まさか、君がレイチェルのご友人なんて」
「え、はい。まぁレイチェルの知り合いですけど・・・」
男性は私を見て会釈した。
そして何かをレイチェルと話し、去っていった。