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*26*
その後の男たちの反応はまさに、混乱の極みだった。
「アネモネが自殺した!?馬鹿な、あいつは禁呪を使ったんじゃないのか!?」
「確かめろ!本当に死んでいるか確かめろっ!」
「……死んでいるっ!確かに心臓が止まっているッ!」
「何故だ!ならば禁呪は誰に使われた!?」
そんな怒号が飛び交った。
不意に、男のうちのある一人が僕を指差した。
「……あいつじゃないか?……あいつに、禁呪が使われたんじゃないか!?」
男たちが一斉に僕を見る。おもむろに、男たちのリーダー格が言った。
「……確かめろ」
「「「はッ!」」」
靴の音を立てて男たちは敬礼をした。
「殺しても構わん。どうせ禁呪使用者の仲間だろう。通常の法は適用されんだろうからな」
リーダー格のその言葉に全員が一斉に頷く。そして、ざっと音を立てて僕に向けて銃を構えた。
殺意に満ちたぎらぎらと光る目がどこを見回してもあった。訳が分からずに僕は叫んだ。
「何でっ……、何でだよっ!何で僕が殺されなきゃいけないんだっ!僕が、アネモネが何をしたんだッ!」
はっ、とリーダー格が嘲笑う。
「貴様、何も知らんのか。その女と暮らしていて。____ならば教えてやろう。その女はな、『禁呪』という、命を操る禁じられた呪術を使ったのだ。我らの調べでは二十人ほどの乳幼児を生贄に殺した、悪魔のような女だ」
……理解ができない。何で、何で、アネモネがそんなこと。
脳が理解を拒んだ。理解したくない。そんな、そんなこと。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
だって、もしそうだとしたら、僕は一体今までなんてやつを信じてたんだ。
「やれ」
リーダー格の低い声が聞こえる。気付いた時にはもう遅かった。男たちの引き金が一斉に引かれ、何十もの銃弾が一寸違わず僕を狙う。
____待ってくれ、まだ何も分かってない、何も覚悟できてない____。
耳をつんざくような轟音が響いた。それに一瞬遅れて全身に耐え難い熱さが走った。熱い。赤く熱せられた鉄棒が体中に何本、何十本も刺さったようだ。
ふっと視界が霞んでゆく。死ぬのかな、僕。そう思った。だが____、
水底から這い上がってくるように、すうっと意識が鮮明に戻って行く。熱さが耐え難いものではなくなり、鈍く疼くような、そんなものへとなっていった。
恐る恐る自分の体を見下ろした。そこにあったのは、まるで元からその色のように赤く染まったシャツだった。
確かに撃たれた。そして当たって怪我もしている。なのに、なぜ____?
「死んで、いないだと?ならば本当にこいつは____」
驚いたように、しかしどこか予測していたように男が呟く。リーダー格が氷のように冷徹な声で命令をした。
「禁呪の使用者ではないが、この男も同罪だ。王都へ連行しろ」
「「「はッ!」」」
再び靴を鳴らした敬礼。その直後、何人もの男に囲まれ、肩を掴まれ、引きずられた。
「……何なんだよっ!一体何が起こってるんだよ!何で僕は死ななかったんだよ!何で僕は連行されるんだよ!何で、何で……ッ、説明しろぉッ!」
考えたくない。今は何も、考えたくない。だから僕はただ叫んだ。何も考えないで済むように、ただ叫んだ。
リーダー格は何も説明せず、ただ淡々と、凍えた声で僕に向かって言った。
「あの女の素性を徹底的に調べておいてよかった。ここまで大掛かりなことを行っておいて当の本人が自殺じゃ説明がつかないからな。上には全て貴様の犯行にしておこう。
____アリスティド、だな。貴様を乳幼児二十三人の殺害及び禁呪使用の罪で王都へ連行する。そして『無期懲役』の刑を処す。つまり分かるな?貴様は千年国で飼い殺しだ」
僕は何も考えずに、ただ口の動くままに叫び続けた。考えたら何か、恐ろしくおぞましい真実に突き当たってしまいそうで。
「何だよそれっ!?アリスティドって誰だよ!?僕はそんなことしていないっ!何で僕がそんな目に遭わなきゃいけない!?それに無期懲役なんて、そんなこと、そんな簡単に決められることじゃないだろっ!?それに千年国で飼い殺しって一体何だよ!?何なんだよぉッ!!」
両肩を掴まれ身動きが取れないが、それでも必死に逆らいながら叫んだ。
すると、下腹に衝撃が走った。リーダー格が僕を膝で蹴ったのだ。がっ、と口から空気が漏れる音がした。髪の毛を掴まれ、顔を無理やり上げられる。絶対零度の視線が僕を貫く。
「喚くな化物。貴様の問いはこれから全て、嫌でも知ることになるだろう。
それにな、化物。____そんな簡単に決められるんだよ。禁呪使用者には通常に法は全て適用されない。全て現場の判断に委ねられる。つまり俺の判断だ。俺が無期懲役と決めた、つまり貴様はそれに従う他方法はない。
貴様は人権も何もない化物だ。分かったら喚くな。従え」
その後、僕は嫌というほど己の背負った罪の十字架の大きさを知らされた。