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僕は夢の中の君に恋をした【短編】 『完結』 番外編更新
作者: 電波  (総ページ数: 15ページ)
関連タグ:  恋愛 ファンタジー 
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10~

*9*


 「お前が好きだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 
 声の音量を調整する余裕なんてなかった。俺は喉が枯れるくらいの大きさで言うと、膝に手をついて情けなく息切れを起こした。そしてその後から急な脱力感に襲われ、手足の震えが酷くなった。


 「え……?」


 「……」


 向うから戸惑いの声が聞こえてくる。さっきまで無邪気に笑っていた彼女の対応はどこにいったのか、おふざけなしで本気で黙っている。やめてくれ、なんでこの時だけ黙ってるんだよ…そこは少し明るく振舞ってくれよ…。


 懇願するように思うが俺は同時に絶望した。

 ああ…やってしまった…。

 ついにやってしまった…。


 後悔を残さないようにと言った言葉なのに言ったことを逆に後悔してしまった。どうせ明日には忘れるだろうけど、告白というのはやっぱり恥ずかしいし恐い。

 沈黙が恐い…。

 なんか言ってくれ……頼むから……!


 俺はそう願いながら顔を恐る恐る上げた。彼女がどんな表情をしているのか気になったのもあるし、この沈黙にそろそろ耐えられなくなっていたからだ。


 しかし、目の前にあったのは予想外の反応だった。


 「お前……」


 そこにいたのは頬は真っ赤に染めたユメがいた。目には涙を浮かべ、必死にそれを抑えようと表情を引きつらせていた。彼女は俺と視線が合ったことで涙腺が緩み、頬から一つ、また一つと涙が零れていった。


 「や、やだなぁ!汗だよ…汗!涙じゃないよ!」


 彼女は両手いっぱいに抱えた花を片手で抱えながらもう片方の手で涙を拭う。笑ってはいるものの、心に動揺が見られるのが確かだった。片手に抱えた花がぽとぽと落ちていく。


 傷つけちゃったか…。



 なんとなく分かっていた。心のどこかでこの告白は成功しないと察しがついていた。自分なんかでは成功しないと分かっていた。失敗すると思っていた。


 だけど……!

 


 「ありがとう!」



 え…?

 
 今彼女はなんて言ったのだろうか…?



 ありがとうって…。


 そこでちゃんとユメの表情を見てみると、彼女は確かに笑っていた。目の下は涙で腫れていたが、その笑顔はそれまでに何度も見たような笑顔だった。


 「それって…どういう……」


 思考がパンクしかけていた。ユメの言葉の意味がどちらに対しての意味か分からなくなり、真偽を確かめようと俺がそう言いかけた時だった。


 「だ・か・ら」


 ユメはそう言うと、俺にそっと近づいて。






 「私も……ってこと」


 
 

 その言葉を実感する間もなく、俺は彼女に抱きしめられた。優しい手つきで親が子供を撫でるように優しく俺の頭へと手を回し、自分の胸に引き寄せた。俺の顔の横には勝負に使った大量の花があり、少し邪魔くさかったのが印象的だった。彼女の温かな温もりと感触を感じながらユメがさっき言った言葉がようやくどういう意味だったのかを理解したのは一分後ぐらいだった。


 俺の顔に再び熱が灯るのを感じた。でもここである疑問が頭の中で生まれた。


 「なんで…俺のこと…知らないでしょ?」


 彼女は一日経てば俺のことを忘れる。ユメにとっては俺とは初対面のはずだ。なのになんでそんな簡単にオッケーがでるのか分からなかった。


 「知ってるよ。毎日私に声をかけてくれたよね。毎日私と自己紹介してくれたよね。毎日私と遊んでくれたよね」


 「どう……して?」



 驚きだった。


 彼女が俺と会ったことを覚えていた。それは何より嬉しいことだがどうにも解せなかった。なぜ今日に限ってなのか、それともユメ自身に何かあったのか…。そんな心配を吹っ飛ばすようにユメは落ち着いた様子で答えた。


 「私、昔から外に遊びに行けなくてね。いつも部屋の中で外見てるだけだったんだ」


 「……」


 ユメはそのまま言葉をつづけた。


 「唯一外に出かけたとするなら小学校に行った時ぐらい。と言っても一回か二回なんだけどね。その時にとても優しかった男の子がいてね―—――」


 そして、ユメはその後の自分を淡々と語り続けた。学校には仲の良い友達はいなくて困っているときに、クラスメイトの男子が無愛想だが話しかけてくれたり、学校に行けなくなって部屋の中でずっと一人で過ごしていたりと色々と苦労が重なったエピソードだった。


 退屈で何もすることない人生に絶望していたところ、この夢を見た。何不自由のなく伸び伸びと遊んでる中、俺と出会ったそうだ。


 最初はただ興味本位で話しかけたらしいのだが、毎日同じ夢を見たり、必死に思い出させようとする俺に揺れたらしい。そこまで聞いてふと疑問になったことを投げかけた。


 「最初から…覚えていたのか?」

 彼女が言うには俺とは逆で起きている間記憶は保持され、寝ている間は忘れているようだ。

 
 諸々のことを聞いて俺は妙に落ち着いた。彼女も現実を生きてきた。夢だけの存在ではなかった。手の届かない存在ではなかった。


 気づけば、俺は彼女を抱きしめ返していた。


 ずっとこのままでいたい…純粋にそう思った。しかし、夢というのは永遠じゃない。それを告げたのはユメの方だった。


 「もう時間だから……」


 そう言うと、彼女は俺からゆっくりと離れていった。まだこのままでいたかったが彼女はするりと俺の手からすり抜けていく…。


 「また会えるよな!?」


 そんな問いかけに彼女は微笑みながら、


 「また会えるよ!諦めなければ!」


 
 彼女のその言葉がやけに耳に響きながら、視界は白く包まれた。ユメの姿が光に徐々に飲み込まれるのを最後まで見届ける。そこでもユメは最後まで笑っていた。


 ―――――――――――――――――――――――――


 目が覚めると、俺はベッドの上で寝ていた。





 そして今日が、







 始まった。

 



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