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↑OP vistlip[Edy]
序章 サッカーの浪人
「ねえ、わたしのこと……好きだった?」
女は言った。男は答える。
「……さあな」
それを聞き少女はうつむく。
「くやしいよ。こんな時に泣けないなんて。くやしい、よ……。もう、行って」
「俺もいる。一人にはさせねえ」
「もう行って。正直、あなたには特に見られたくないから」
男は沈黙し、「そうか」と強く目を閉じ言った。
男は女に背を向け歩いた。しばらくして、遥か後方で爆発音がした。
「ロマン、か」
と男はつぶやく。
「たしかにいい言葉だな」
口元は笑っていなかった。
不動明王は高校卒業後、しばらくしてから突然単身海外へ乗り込みサッカー修行に向かった。
この物語は彼がまだ日本にいたころ。海外へ行くまでの間の物語である。
「きのう見た夢に出てきた町・・・・・・ここは、竜巻町か」
不動が看板を見てつぶやいた。看板には、痴漢注意と書かれている。
不動はここに初めて来るのに、なぜか懐かしさを感じていた。
冷たいものが彼の頬をつたっていた。彼はすぐに気づいてそれを服の袖でぬぐった。
「お前なんだろっ! 俺たちの車にラクガキをしやがった奴ぁ!」
「オイラ知らないでやんす!」
近くの公園から騒がしい声がして、不動はちらと見る。小さな男の子を、大の男三人が取り囲み、なにやら揉めているようだった。
「てめー子供だと思って甘く見てたら、痛い目見せるぞ!」
「ふん! お前たちの悪だくみを俺は知ってんでやんすよ!」
男の子は屈強で派手な格好の男たちにも、怯えずしゃべり続ける。
「な、なんだと……」
「お前らは早く、この町から出てけでやんす!」
「このガキ、いい気になんじゃねえぞっ」
男の一人が男の子の胸倉を掴みあげた。
「おいおい…・・・。大のオトナがよってたかって子供をいじめるなんて、あんまり格好いいもんじゃないな」
「な、なんだお前!?」
カバンを肩に引っさげた不動が現れる。
「なあに。ただの通りがかりのお節介野郎さ」
「はっ馬鹿が! 死ね!」
男二人が不動に殴りかかる。一人を不動はかわして腹にパンチを食らわせ、もうひとりには素早く懐に入り込み遠くへ投げ飛ばした。
「日本唯一の貧民街で育ったもんでな。負けやしねえよ。で、お前もやるかい?」
不動が最後のひとりを横目に見ると、男はひっと悲鳴をあげ、仲間を連れて逃げ散った。
男の子が不動に駆け寄ってくる。
「おじちゃんすげーでやんす!」
「おじちゃん……!? ボウズも危ないことに首をつっこむんじゃねーぞ」
「うん! でもオイラはボウズじゃなくて鈴木カンタでやんす!」
「そうかい。ところでカンタ。お兄さんは腹が減ってんだ」
「なら、オイラの家にくるといいでやんす。俺の家はカレー屋でやんす」
「お、カレーか。大好物だ」
「じゃ、ついてくるでやんす!」