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Stories of Andalsia 創世の絆
作者: 流沢藍蓮  (総ページ数: 5ページ)
関連タグ: ファンタジー 神話 Stories of Andalsia 神々 創世 
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*1*


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
 
 続きです。 


  ★


 ゼクシオール、ヴァイルハイネン、アルヴェンジャ、クルースドラク、イグナバート、ラオルディア、フオルノイス。彼ら七の神をして、闇の七柱神という(内、ゼクシオールとヴァイルハイネンは兄弟神)。
 ところで、「柱」という名称にはとても重要な意味がある。彼らは人柱ならぬ神柱、ネイロンによって創られた、世界の礎として消えるべきもの、詰まるところの人(神?)身御供であったのだ。そういう風に創られた。
 それが発覚したのは、ネイロンが去ってしばらく経ったある日のこと。

  ★

「くっ……。どうして、どうしてうまくいかないのです? 七柱神よ、わたしはうまくやっているでしょう? なのに、どうして……?」

 ネイロンが創り、アンダルシャが発展させた世界、アンダルシア。
 その世界はいまだ不安定で、ちょっとした綻びから全てが崩壊するような事態にあった。
 それに対して、ああ、ついにその時が来ましたか、と七柱が一人、フオルノイスが苦い笑みを浮かべた。

「その時、とは? あなた、まるでこうなることをあらかじめ予想していたみたいではないですか」

 だからあらかじめ予想していたんだっつーの、と投げやりな口調でクルースドラクが口を挟む。

「つーか光の主よ、あんた、知ってんの? 俺たち闇の七柱神の存在意義をさー。俺たちは闇の主やあんたを助けるためだけに生まれたってぇわけじゃあねーんだぜ?」
「……どういうことです」

 その問いは「メンドくせーから」とクルースドラクが丸投げにしてしまったので、(テキトーかつ中途半端な神様だ)仕方なくフオルノイスが代わりに答える。

「光の主よ。そもそも、なぜ僕たちは『柱』なのか、ご存知でしょうか?」
「……なぜ柱なのか、とは」
「別に僕たちを呼ぶ呼称は、何も柱でなくたって良かったんです。もっと探してみれば、柱よりも良い言葉があるでしょう……。なのに現に、僕たちは『柱』です。それはつまり、僕たちに、『柱』そのものになれということに他ならない……。去り際に、闇の主は僕たちに使命を残していきましたよ。それが――」
「……この世界を支えるために、礎に埋まれ、そういうことですか」
「その通りです、光の主」

 闇の七柱神は文字通り柱。世界が不安定さに揺れるとき、その身でもってその不安定さを鎮めなければならない人身御供。


 ――所詮、創世の段階で使い捨てにされる道具。それが闇の七柱神の悲しき正体だった。


「ご命令を、光の主」

 アルヴェンジャがひざまずく。

「我らが身をもってこの世界を鎮めよとの、ご命令を、我らが主」
「――――っ!」

 気がつけば、七神七様、まるで彼女を取り囲むかのようにひざまずいていた。その様はまるで、感情のない人形に取り囲まれているかの様だった。

「嫌です……そんな命令を下したら、わたしは独りになってしまうではないですか。兄上が消えた後、あなたたちこそが私の支えだったのに……! 創世は一人でやるにはあまりにも荷が重い。だから、まだ傍にいて……!」

 アンダルシャはネイロンとは違う。寂しがり屋で我がままで。孤独には耐えられない。そんな甘ちゃんだ。そんな女神だ。
 だから命令を下せない。兄を失っただけであんなにもへこんだ。その上他の神々までも失ったら、アンダルシャは、一体何を頼りにすればいいのだろう? 何を頼りに生きれば良いのだろう?

「命令しろっつーの。つーかよ、このままだったら間違いなく世界が終わるぜ? 闇の主と約束したんじゃねーのかよ。あんたはこれでも構わないってわけかァ?」
「何を恐れておられるのですか。寂しいのならば、他に神を創れば良いのですよ。あなたにはそれだけの力があるし、そうすれば独りではなくなります――勇気をお出しください」
「僕はあなたの一存で世界が終わるなんて嫌だね」

 クルースドラク、フオルノイス、イグナバートに言われても。アンダルシャは決断を下せない。別れたくない、そんな思いが。決断を次々と先送りにする。
 別れたくない、一人は嫌だ! そんなことで駄々をこねる自分がいる。
 こんな状況なのに。


 ――世界が揺れた。空間が歪んだ。これはかなりまずい状況なのに――。


「ご決断を、光の主――!」

 ――と、


「……それには及ばない」

 
 その時、進み出た二つの影があった。

「ゼクシオールにヴァイルハイネン……? どういうことです、これは」

 不審げに問うアンダルシャに、ゼクシオールが答える。

「埒があかない。こちらに残る。我々は柱として沈まない」
「……どういうことです?」

 繰り返されたその問いには、ヴァイルハイネンが答えた。

「つまりゼクはこう言ってる……。自分とヴァイルハイネンが残るから、誰か残ればまだ、お前は決断できるだろう、ってことさ。オレまでいつの間にか巻き込まれてるのはちょっと意外だけどさ……。ゼクは色々考えてたんだな。……いいぜ、光の主。残ってやる。その代わりにさっさと命令を下せ。このままだと世界が終わっちまうぜ?」
「残る……」

 つまりそれは、アンダルシャが独りになることはなくなるという事。
 闇の七柱神。その全員がいなくなるわけではなくなるという事。
 孤独にはならなくて済むという事。

「なあに、五柱でもオレたちは闇の七柱神だぜ? 一人一人の持つ力が半端ないからな、世界ぐらい支えられるだろ。どうにでもなるさ」

 残ってくれる、そう聞いて。アンダルシャは安心した。覚悟も決まった。



 ――そして、決断する。



「ご命令を、光の主」


 再び発せられるその言葉に。


 深い深い寂しさを覚えながら。


 わずかな安心を感じながら。


 おそらくもう二度と会えなくなる友たちに。


 大切な――相棒たちに。


 命令を、


 下す。





「我が闇の五柱神よ、この世界のために――――闇に沈め」





「仰せの通りに、光の主」

 二人抜けて五柱となった神々は、彼女に深くひざまずき、

「ゼクシオール、ヴァイルハイネン。後を頼んだ。光の主と世界のこと、お前たちに任せたぞ。先に行く方は気楽だが、おそらくきっと、残った方は大変だろう。我らは感謝していると、覚えておいてくれ」
「じゃあな、ゼク、ハイン! おめーらと過ごせた日々、楽しかったぜぇ! 俺たちが行った後も、頑張れよっ」
「あなたたちに重荷を授けましょう。私は期待しています」
「より良い世界を! 元気でね、ゼク、ハイン」
「では、さよならです。僕たちの運命はここで分かれてしまいますが、大地の底でずうっと、僕たちはあなた方を見守っていますよ」

 アルヴェンジャ、クルースドラク、ラオルディア、イグナバート、フオルノイスの順に、残る神々に挨拶した。
 そして彼らは――消えていく。
 一人、一人。また、一人……。まるで、闇に溶けていくかのように。次々と消えていく。
 かつて彼らがその地にいたという、わずかな痕跡すら残さずに。

「……ありがとう、みなさん」

 その様を見つめながらも、アンダルシャは涙を流すのだった。
 こうして創世は第二期が終わり、第三期に入る。


  ★


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