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*紹介文/目次*
どーも、藍蓮です。
かつて、趣味で書いてた作品を載せてみました。神話ですね。よろしくお願いします。たぶん、四話で完結……。
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〈Stories of Andalsia myth 創世の絆〉
――それは、虚構と幻想に彩られた神話――。
★
遥かなる昔。世界は闇だった。否、闇さえ無かった。強いて言うならそれは「無」だった。そこには虚無しか無かった。そんな時代のことだった。
虚無の中に、一体の神がいた。其が名はネイロン。虚無の中にいた唯一の神だった。
或る時彼は、ふと身じろぎをした。彼は気付いた。己の中に潜む莫大な力と、己が為すべき役割に。それに気付いた時、彼の手の中に一つの大きな杖が現れた。それは、本来は実体なんて無いはずの、虚無で作られた杖だった。
彼はそれに、己の力を流した。
すると、その杖は光り輝き、彼の力を効率よく発動させるための、道具となった。
彼はその杖を振る。
すると虚無がかき混ぜられ、そこには渦が生まれた。
渦は辺りの虚無を巻き込んで、次々と大きくなっていく。そしてその時同時に、虚無から生まれた七の闇の神(闇の七柱神)が、誕生した。
それを見て、彼は杖に更なる力を流した。すると。
「――天地開闢(かいびゃく)」
拡大していった渦は収束していって球になり、圧倒的な光を撒き散らしながらも、これまでとは比べ物にならないくらい大きくなり、全てを光に染め上げた。
「萌えよ――燃えよ」
その光の中、次なる神が生まれる。
彼女の名は光女神アンダルシャ。立場としては、彼の妹神にあたる神である。――のちに、この世界の主神となる神でもある。
「――世界創造」
これにて世界の原型が完成する。
★
アンダルシャが誕生した後も、彼はその杖を振って創世を続けた。
空が、大地が。
星が、太陽が。
時が、空間が。
それぞれ生まれた。斯(か)くして世界の原型は創られ、まだ名も無きこの世界は、誕生の産声を上げた――。
★
世界には光が満ち溢れ、世界の創造は順調だ。
しかし、世界に光が増えるにつれて、避けては通れない問題が生じた。
それは――。
「…………っ!」
「ネイロン様」
不意に身体をよろけさせた原初神を、闇の七柱神が一人、アルヴェンジャが支える。
そう。原初神ネイロンは、自ら創ったこの世界に、あまり馴染めていないのだった。否、馴染めないのだった。
原初神ネイロンは闇から生まれた。光なんて知らずに生まれた。しかしこの世界には光がある。闇を払い、闇さえ喰らう、闇の対極とも言える光。
その光に今、彼は。少しずつその身体を蝕まれつつあるのだった。
「ネイロン様」
「……わかっている」
アルヴェンジャの手を振り払うネイロン。しかしその動作はどこか緩慢で、その顔には深い疲労があった。その姿はどこか弱々しかった。
「我の創世によって、光とともに生まれたそなたらは大丈夫なのかもしれぬが……。この光は我には強すぎる……」
このまま創世にその力を使い続けていれば。その、あまりにも強すぎる光に呑まれ、喰われ。いつか彼は消えてしまうのではないかと。闇の七柱神は危惧していた。
しかし、どうしようもない。ここは彼の創った世界だ。その世界にそれを創った原初神自身が負けてしまったって……。彼よりも弱い力しか持たない他の神々には、それをどうにかすることはできないのだから。
しかし、原初神は諦めなかった。
ある日ある時原初神は。闇の七柱神と妹神アンダルシャを呼んで、とある計画を話した。その頃には彼は、歩くことさえ困難な身体になっていた。
彼は呼ぶ。
「妹神アンダルシャ」
「はい、兄上」
天空の玉座に座った彼の前。かしずいた妹の手を取った。
「我が少しずつ弱っていることを知っているか」
「はい。兄上の対極たる光によってその御身体を蝕まれているとか。……何か解決策でも浮かばれたのですか」
「その通りだ。そこでアンダルシャよ、そなたに重荷を渡しても良いか。そなたに大きすぎる責任を背負わせても良いか」
「……兄上、何を――?」
彼は、力を振り絞って立ち上がる。そして、アンダルシャの手を握ったままで、厳かに言った。
「我、我の全ての創世の力を、そなたに譲り渡す!」
「――兄上……!?」
次の瞬間。アンダルシャは、つないだ手から勢い良く、凄まじい量と質の力が、兄神から自分に流れ込んでくるのを感じた。その力はまさに、創世の力、あらゆるものを創り上げる始まりの力、始原の力。この美しき世界を創った力に他ならなかった。
「あ、兄上、何を――!」
「離すな」
その、あまりにも圧倒的な力に恐怖して。彼女は思わず手を離そうとしたけれど。握られた手は万力の如く。まるで病身とは思えない程の力で彼女の細い手を握りしめ、彼女がどう足掻こうとも離れない。
「アンダルシャ、アンダルシャ」
怖くなって、思わず手を振りほどこうとする彼女のその瞳を、ネイロンは見つめた。未(いま)だ原初の虚無に包まれた、常闇(とこやみ)の瞳が。
ネイロンは言う。
「我はこれ以上、この世界を育てることが出来ぬ。されどこの世界はまだ幼く、弱く脆い。ゆえに誰かが守り育てる必要があるが、我にはそれがもう出来ない。しかし、そなたなら出来るはずだ。光とともに生を受けた、そなたなら」
我はこれより引退する、とその声は言う。
「よって我は、妹よ、そなたに後事を託すことにした。たとえ我がいなくとも、闇の七柱神がいるだろう? 彼らは闇でこそあれ、我とは違う存在であるがゆえに、光に消えることは無い。彼らとそなたに全てを任せる。
――我はもう、創世神ではないのだからな」
それは、撤退宣言だった。
創世から、世界から。
もしかしたらあるいは、己の生から……?
「では、では、そうしたら! 兄上はどうなってしまうのですか! これで世界は守られるがしかし! このままでは兄上は消えてしまいます! こんな……こんな、悲しい結末をわたしは認めません! 誰よりも世界のために頑張った兄上が、全然報われないままに消えてしまうなんて! そんなのわたしは認めないっ!」
「落ち着くのだアンダルシャ」
激昂する彼女をなだめるように、ネイロンは言う。
「――我が消えると、いつ言った?」
「――え……?」
ネイロンは、アンダルシャと忠実なる七柱神の面々を眺めながらも、柔らかに微笑んだ。
「案ずるな。我は決して消えたりはせぬ。この世界の外には闇がある。そこでならきっと、我は生きていけるだろう。ゆえに我はそこに潜むことにする。いつしかそなたがこの美しき世界に、我の住める場所を創るまで。そなたならばできるだろう? だから、それまでは、お別れだ」
兄神が消えないことには納得したアンダルシャ。しかし彼女は兄を愛していた。離れ離れになるなんてもってのほかだった。だから泣いた。泣いて兄を引き留めた。それが正しくない行動だとわかっていても。
「嫌、嫌です、兄上! わたしは確かに創世の力を譲り受けましたが、わたしはまだ若いのです。兄上の手助けなしでは……満足のいくように世界を構築できません! 行かないでほしいのです、兄上! ――わたしの前から、行かないでっ!」
「……ならば妹よ、そなたは我にここに残れと? そのまま光に喰われて消滅しろと、そなたは言うのだな」
「――そうは言っていない!」
アンダルシャの涙は止まらない。この世界の、理不尽に。妹神は涙する。
「わたしはただ……誰も抜けることなく皆で幸せに、この世界を見守っていきたかっただけなのに――……」
「ならばそのようにすれば良い。そなたが我の世界を創るのだ。そうすれば、また、会える」
「でも…………」
「アンダルシャ」
ネイロンの闇の瞳が、彼女を射抜く。
「約束するのだ、この世界を守り育てると。言い訳は許さぬ」
その迫力に押されてか、アンダルシャは、震えながらも頷いた。
「わ、わかりました、兄上。少しの寂しさくらい、耐えて見せます。そして、必ずや、必ず。この世界を、兄上の世界を、より良き世界に。創りあげて見せます」
「それでこそ我が妹よ」
そして彼はさらに言う。この世界における、とても重要なことを決める。
「我はもはや創世神ではない。これからを創るのはアンダルシャ、そなたに他ならない。よって――この世界の名を、アンダルシャ、そなたからとって、
――アンダルシアとする」
斯(か)くして新たなる世界は創られ、
こうして原初神ネイロンはいなくなった。
それでも、創世の絆は変わらず、其処に在り続ける――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
原本は13000字くらいです。キリがいいところで中断しました。
短編ですが、よろしくお願いいたします。
※Stories of Andalsia のシリーズは、私がこれまで書いてきた話の中で、最大のシリーズです。もしかしたら、このシリーズで、新たな話を書くかもしれません。よろしくお願いいたします。
*1*
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
続きです。
★
ゼクシオール、ヴァイルハイネン、アルヴェンジャ、クルースドラク、イグナバート、ラオルディア、フオルノイス。彼ら七の神をして、闇の七柱神という(内、ゼクシオールとヴァイルハイネンは兄弟神)。
ところで、「柱」という名称にはとても重要な意味がある。彼らは人柱ならぬ神柱、ネイロンによって創られた、世界の礎として消えるべきもの、詰まるところの人(神?)身御供であったのだ。そういう風に創られた。
それが発覚したのは、ネイロンが去ってしばらく経ったある日のこと。
★
「くっ……。どうして、どうしてうまくいかないのです? 七柱神よ、わたしはうまくやっているでしょう? なのに、どうして……?」
ネイロンが創り、アンダルシャが発展させた世界、アンダルシア。
その世界はいまだ不安定で、ちょっとした綻びから全てが崩壊するような事態にあった。
それに対して、ああ、ついにその時が来ましたか、と七柱が一人、フオルノイスが苦い笑みを浮かべた。
「その時、とは? あなた、まるでこうなることをあらかじめ予想していたみたいではないですか」
だからあらかじめ予想していたんだっつーの、と投げやりな口調でクルースドラクが口を挟む。
「つーか光の主よ、あんた、知ってんの? 俺たち闇の七柱神の存在意義をさー。俺たちは闇の主やあんたを助けるためだけに生まれたってぇわけじゃあねーんだぜ?」
「……どういうことです」
その問いは「メンドくせーから」とクルースドラクが丸投げにしてしまったので、(テキトーかつ中途半端な神様だ)仕方なくフオルノイスが代わりに答える。
「光の主よ。そもそも、なぜ僕たちは『柱』なのか、ご存知でしょうか?」
「……なぜ柱なのか、とは」
「別に僕たちを呼ぶ呼称は、何も柱でなくたって良かったんです。もっと探してみれば、柱よりも良い言葉があるでしょう……。なのに現に、僕たちは『柱』です。それはつまり、僕たちに、『柱』そのものになれということに他ならない……。去り際に、闇の主は僕たちに使命を残していきましたよ。それが――」
「……この世界を支えるために、礎に埋まれ、そういうことですか」
「その通りです、光の主」
闇の七柱神は文字通り柱。世界が不安定さに揺れるとき、その身でもってその不安定さを鎮めなければならない人身御供。
――所詮、創世の段階で使い捨てにされる道具。それが闇の七柱神の悲しき正体だった。
「ご命令を、光の主」
アルヴェンジャがひざまずく。
「我らが身をもってこの世界を鎮めよとの、ご命令を、我らが主」
「――――っ!」
気がつけば、七神七様、まるで彼女を取り囲むかのようにひざまずいていた。その様はまるで、感情のない人形に取り囲まれているかの様だった。
「嫌です……そんな命令を下したら、わたしは独りになってしまうではないですか。兄上が消えた後、あなたたちこそが私の支えだったのに……! 創世は一人でやるにはあまりにも荷が重い。だから、まだ傍にいて……!」
アンダルシャはネイロンとは違う。寂しがり屋で我がままで。孤独には耐えられない。そんな甘ちゃんだ。そんな女神だ。
だから命令を下せない。兄を失っただけであんなにもへこんだ。その上他の神々までも失ったら、アンダルシャは、一体何を頼りにすればいいのだろう? 何を頼りに生きれば良いのだろう?
「命令しろっつーの。つーかよ、このままだったら間違いなく世界が終わるぜ? 闇の主と約束したんじゃねーのかよ。あんたはこれでも構わないってわけかァ?」
「何を恐れておられるのですか。寂しいのならば、他に神を創れば良いのですよ。あなたにはそれだけの力があるし、そうすれば独りではなくなります――勇気をお出しください」
「僕はあなたの一存で世界が終わるなんて嫌だね」
クルースドラク、フオルノイス、イグナバートに言われても。アンダルシャは決断を下せない。別れたくない、そんな思いが。決断を次々と先送りにする。
別れたくない、一人は嫌だ! そんなことで駄々をこねる自分がいる。
こんな状況なのに。
――世界が揺れた。空間が歪んだ。これはかなりまずい状況なのに――。
「ご決断を、光の主――!」
――と、
「……それには及ばない」
その時、進み出た二つの影があった。
「ゼクシオールにヴァイルハイネン……? どういうことです、これは」
不審げに問うアンダルシャに、ゼクシオールが答える。
「埒があかない。こちらに残る。我々は柱として沈まない」
「……どういうことです?」
繰り返されたその問いには、ヴァイルハイネンが答えた。
「つまりゼクはこう言ってる……。自分とヴァイルハイネンが残るから、誰か残ればまだ、お前は決断できるだろう、ってことさ。オレまでいつの間にか巻き込まれてるのはちょっと意外だけどさ……。ゼクは色々考えてたんだな。……いいぜ、光の主。残ってやる。その代わりにさっさと命令を下せ。このままだと世界が終わっちまうぜ?」
「残る……」
つまりそれは、アンダルシャが独りになることはなくなるという事。
闇の七柱神。その全員がいなくなるわけではなくなるという事。
孤独にはならなくて済むという事。
「なあに、五柱でもオレたちは闇の七柱神だぜ? 一人一人の持つ力が半端ないからな、世界ぐらい支えられるだろ。どうにでもなるさ」
残ってくれる、そう聞いて。アンダルシャは安心した。覚悟も決まった。
――そして、決断する。
「ご命令を、光の主」
再び発せられるその言葉に。
深い深い寂しさを覚えながら。
わずかな安心を感じながら。
おそらくもう二度と会えなくなる友たちに。
大切な――相棒たちに。
命令を、
下す。
「我が闇の五柱神よ、この世界のために――――闇に沈め」
「仰せの通りに、光の主」
二人抜けて五柱となった神々は、彼女に深くひざまずき、
「ゼクシオール、ヴァイルハイネン。後を頼んだ。光の主と世界のこと、お前たちに任せたぞ。先に行く方は気楽だが、おそらくきっと、残った方は大変だろう。我らは感謝していると、覚えておいてくれ」
「じゃあな、ゼク、ハイン! おめーらと過ごせた日々、楽しかったぜぇ! 俺たちが行った後も、頑張れよっ」
「あなたたちに重荷を授けましょう。私は期待しています」
「より良い世界を! 元気でね、ゼク、ハイン」
「では、さよならです。僕たちの運命はここで分かれてしまいますが、大地の底でずうっと、僕たちはあなた方を見守っていますよ」
アルヴェンジャ、クルースドラク、ラオルディア、イグナバート、フオルノイスの順に、残る神々に挨拶した。
そして彼らは――消えていく。
一人、一人。また、一人……。まるで、闇に溶けていくかのように。次々と消えていく。
かつて彼らがその地にいたという、わずかな痕跡すら残さずに。
「……ありがとう、みなさん」
その様を見つめながらも、アンダルシャは涙を流すのだった。
こうして創世は第二期が終わり、第三期に入る。
★
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