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作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (総ページ数: 23ページ)
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第1章第5話;「メゾン・ド・セグレート」 【初恋と猫耳。】
ちゃぷん……。
とお風呂場に響く。
辺りは湯気が立っていて暖かい、後ろを向けば夜空が鏡越しから見える。
温かいな――。
私は、湯の中で背筋を伸ばす。
今日は、慣れないクラスメイト達に九条君と帰ったことで、不信にらしく突き刺さるような視線が痛くて気まずかったのに……。
そのことも知らないで今日も帰ろうと言ってくるし、小倉さんはお菓子を食べる方に集中していたし……。
なんか、疲れたな……。はぁ…。
約2週間前では全然、違う日常で憂鬱だった、今は――。
それとは違う日常で明日に対する気持ちも違う。
憂鬱なんて思ったこともないむしろこの大変さが心地よくなっている気がする。
変わったな――私。
ガラっ!!
…ちょっとまってもしかして大変さが心地良いとか私、かなりやばいんじゃないか!?
なんか心配になってきた、心地よいとか思っていい事なのかな!?
服を着終わり、私はしゃがみ込む。
「……い、おいっ!?」
?誰かに呼ばれている気がする……というか、後ろに気配が―――。
「お前、誰だっ!!俺は水無瀬 盛!!このマンションの号室の入居人!そして……ヒーローだっ!!」
ヒーロー?はぁ?何この人……というか中学生?
より深みを持った茶色の髪色で瞳は抹茶色の子供っぽい男の子は怒ったようにプルプル震えて言う。
「……そうか、俺が弱いと思っているのか?見ててみろよ!!」
そう言いかけた瞬間、誰かが口を塞ぐ。
「八ッロ~~☆僕はキューティクルキャット!猫月君だよ~☆」
赤茶色の髪で瞳の色は銀色のいつも猫耳付きのパーカーを着ている人がニコッと笑いかけてくる。
そして、よろしく~と私の手を掴んでブンブン振り回す。
何なんだ、この人たち――……というか手、腕イタイ。
「こっちは、ペットのジョー。じゃね~日高 藤花ちゃん☆」
なんで、名乗ってもないのに私の名前を……。
「ジョーは中学生じゃないよ、君と同い年さ。そして、君はもっと他人と関わった方がいいよ☆」
彼はそっと私に近づき、小さな声で言ってくる。
私が思ったことを――。どうして?
「そんな深く考えないで☆猫さんは何でもお見通しなのさ!」
と言い残し、出で行ってしまう。
「………?」
本当に何なんだ……!!
次の日――。
「今日はレーズンブレッドとコーンポタージュだ。」
九条君が笑顔で話す。
パタン。
中に居たのは、昨日の人たち、藤谷と北小路さんだった。
「藤花ちゃん、おはよ~」
「お、藤花。はよー。」
「昨日の奴じゃねえか!昨日よくも……!!」
「グッモーニング☆うかたんとそーたん!」
うかたん!?どうしてその呼び名を……!?
お、おいっ聞けー!!と抗議しているが猫月さんは聞かない。
というか、わざとさえぎってる……?
「そーたんだなんて呼ぶな……!――というか知り合いだったんだ、猫月さんと。」
九条君は、知らなかったという目で見てくる。
……私と猫月さんが知り合っていて何がいけないんだろう?
私はじっと九条君のことを見る。
その時――。
バンっ!!
とラウンジのドアの方から大きくドアの開く音が聞こえる。
な、なんだ!?
「久しぶり!!みんなっ。」
スラリと高い身長。艶やかな黒髪、瞳は綺麗な金色。まさか……!!
「る、瑠璃ー!!」
「ちょっと!あんた何よ!?瑠璃ちゃんを離しなさいよ!?」
水無瀬君が突然現れた、男の隣に居る小倉さんの名前を呼ぶと、同時に北小路さんも離すように抗議する。
「……チーズタッカルビ!!」
チーズタッカルビ!?謎の韓国感……!!
なぜ、今それを!!
「俺は3号室の入居人で日野西 穂高!」
そして、と言い私の手を掴み上げる。
「日高 藤花の婚約者だ!!」
みんなが動揺の顔を見せる。
「そういえば、そういうの居たな藤花。」
と藤谷が呟く。
九条君と目が合うと目線を逸らして何かを私に呟く。
何を言ったんだろう……?
九条君の事を気にしていると穂高は私の手を取り元気に笑いかけて言う。
「早速、行くか!藤花!!」
えっ?ど、どこにっ!!
凛とした低い声が響いた。
「……待て、日高さんは朝食を食べていない。」
九条君は私たちを呼び止めると穂高をまっすぐに見つめて睨み付ける。
「誰だ、お前?」
穂高は九条君を下から頭の上まで見てってかと言い鼻で笑う。
ん?待ってなんか嫌な予感がするのは私だけかな?
「サイズ、おかしくね?」
サイズ=身長……。
あ……!!不味い、九条君がっ……!
当の本人は、前のように怒りを露にしていなく、プルプル震えキレたように穂高を睨み付けて言う。
あーあ……、やっちゃった――。
「おい、この脳無しバカ野郎。」
穂高は何?と目を光らせて九条君を睨み付ける。
「単刀直入に言うが突然現れといて婚約者だとか言い、どこに行くという事も言わないで旧家の嫁入り前の令嬢を連れて行くのは不謹慎だと思うが。」
私にだけ見えるのかな、二人の間に火花が散っている気がするのは……。
「やだ~、藤花ちゃんの事を奪い合ってるの?」
「なんかすごいことになってきたな。ハハハ。」
「…お腹すいた。お菓子、なくなちゃった。」
小倉さんは、スカスカとお菓子の袋を振る。
「る、瑠璃。こ、これ、お前の為に買ってきたんだ。ん、お土産。」
「!……ありがとう、水無瀬。」
「お、おう。」
小倉さんたちは知らん顔で話し始める。
なんでこんな状況なのにみんな、助けないんだ……!!
二人が争っているところに猫月さんが割って入る。
「おひさ~☆ほっちゃん!」
「「!」」
一番止めてくれなそうな猫月さんが止めてくれた!!←(失礼)
「おっ、成清!!久しぶりだな~。」
よ、よかったぁ。
そう、ほっとしていると九条君が近くに来る。
「僕達が争って嫌だったか?」
……?どうしたんだろう。
九条君は、背を向けて続ける。
「ただの独り言に過ぎない。返事はなくていい、聞き流してくれ。」
私は頷いて聞く。
「僕は、君が嫌だったと思う。大事な婚約者が守ると約束した奴と争っているから。」
そんなこと――。
「僕が嫌だったら、もしも君の事を不愉快にさせてしまったら君に言われれば、僕は身を引く。」
と言い残し、ラウンジを静かに出ていく。
私の心はポッカリ穴が開いたように寂しく冷たかった――。