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作者: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E (総ページ数: 6ページ)
関連タグ: メイドウィン小説 スマブラ戦記シリーズ バッドエンド サテラビュー オリ主
*1*
【第1話】
『任天堂世界』に招かれた人間はいつも最初は同じだ。
地面が雲で出来た未知の空間に、いつの間にか倒れている。
前後の記憶は無い、そして……必ず自分の前に長蛇の列が出来ている。
不思議とその列に自分達も並び、そこで任天堂戦士という肩書きと能力を与えられ、驚異と戦うために選ばれたと言われる。必ずそこから始まる。
この世界に来たばかりの人間は誰しも混乱し、困惑する。それはここに来るまでの過程の記憶がないからだと言われている。だがその内に「そういうものだ」と認識していく。
そうしているうちに他の任天堂世界から人間が集まってきて合流することになるのだが……中には特殊な人間もいるのだ。
「……コスモ、今は何時だ?」
『現在11時です』
「そうか、ありがとう」
このソラ・テンドウも任天堂世界に招かれた人間の1人だ。
しかし、彼は既に他の人間が辿ったような道を歩いていない。なぜなら……。
「……」
彼の視界にある光景は普通の空ではなかった。そこには色があったのだ。青空があり雲があって大地もある。ただそこに普通ではない。
「任天堂戦士の能力……こんな事も出来るのか、いや、あるいは俺だけなのか…?とにかく、便利ではあるが。」
任天堂戦士は皆、特定のゲームソフトを能力として与えられ、そのゲームの設定や力を自由に扱える。
ただしソラは通常とは異なり、得られた能力は『サテラビュー』だった。
「サテラビューといえば…ゲームソフトじゃなくて周辺機器じゃないか」
サテラビューとは、スーパーファミコンに外付けするアイテムで、衛星から受信されるゲームのデータと電波を受信するという当時で見ればあまりにも時代が早すぎたゲームとして有名だ。ソラが持つ能力によりその常識は覆され、サテラビューの世界に入ることが出来るのだ!
任天堂世界は異様な不思議な空間だったが、そこから更に入ったこのサテラビューの世界は『BS-X ~それは名前を盗まれた街の物語~』という同梱ソフトを完全に再現されていた。
既にサテラビューはサービス終了している為、住民はソラ以外誰もいないが、街並みは本物となんら変わりなく存在する。
ただ、違う所と言えば住人達の姿が見えず気配も無いことだ。住民どころか生き物すら存在しない。
「どうしたものかな……誰かいないのは分かってたけど」
とりあえずソラはこの世界を散策することにした。まずはこの街の事を詳しく知る為に、中央の大きな広場を目指して歩き出すことにした。
道にはレンガが敷かれており歩く度に音が鳴る、まるで現実のように感じられる程、精巧に作られた作りをしている。ただ……それだけである。何か変わった様子はない。本当に現実のようで少し不気味にも思えた。
(それにしても……)
しばらく歩いている内に気付いた事がある。
このゲーム機器は衛星の電波からゲームを受信する、しかし衛星はもう動いてないのでゲームとしてはもう何も出来ない。
だが、上手くやれば能力としては復旧出来るのではないか?と考えた。
「よし、やってみるか」
…………
「……駄目だな、やり方がよく分からない」
しかし、そんな簡単にいくわけもなく失敗に終わる。まぁそうだろうと思っていた。
ソラは何か私物が無いか確認する、鞄の中には水の入った小さなボトルとラジオがあった。ラジオはまだ使えそうだが水がもうすぐ無くなりそうなので一度休憩を挟むことにする。近くのベンチに座って休む事にした。
「これから俺はどうすればいいんだ……」
長い間1人でいるせいか独り言が多くなってる気がしたが、それを気に留めること無く呟いた。
今までは1人の時間も悪くはなかった、特に問題は無かった。
この広い世界で自分だけが取り残されてしまった感覚に陥りそうになりそうになるのを抑えながら、空を見上げる。青い絵の具で塗ったかのような綺麗な空だ、だがやはりここは異質だと再認識するだけだった。
1人でいることに苦痛はないが寂しさを感じないわけではない。むしろ感じて当然なのだが、ソラはそれを押し殺し、平静を装うようにしていた。
歩いてて問題がもう1つ出来た、食糧だ……
この世界はゲームを完全に再現した電子空間、換金機能はあるのでゲーム内のコンビニを利用することは出来るが、サ終した以上、商品は何も置いていない。
「………1度、任天堂世界に戻るしかないのか」
ソラが1人で行動してサテラビューワールドから出なかったのにも理由がある。
任天堂世界は……初日に降り立ってすぐ危険な場所と判断したからだ。
ルールも法律も通用せず、何をするか分かったものではないと……
だが、そんな事を言っている場合でもない。
一度能力を解除して、再び任天堂世界へと戻る……
任天堂世界は1つで独立したものではなく、任天堂作品のゲームをそっくり再現したような空間が
食べ物がありそうなゲーム世界といえば星のカービィだが、そんなことは誰もが考える。ただ……その先を考えろと言われても答えられる人間はなかなかいない。
「とりあえず、ゲームはその辺りに料理が落ちているから……危険そうな事が起きる前に急いで見つけてサテラビューワールドに入り直さないと」
この世界の仕組みをよく知らないまま、迂闊に出歩くことは出来ない。ソラはとにかくこの場を離れようとした時だ……
「待って!」
声をかけられた、ソラはすぐに警戒するがそこに現れたのは自分の知っている人物だ。
「あれ、君は……確か……?」
そこにいたのは山吹だった。
初めて任天堂世界に来た時、『ア・カウント・バーン』という自警組織とやらに出会い、ソラ達を案内してくれたのが彼女だ。ソラとは面識があるのだが、彼女の名前はソラには分からなかったので聞き返す形になった。
彼女は少し照れくさそうにして名乗る。
「わ、わたしは『山吹桜』。その……お久しぶりです」
「ああ……どうも……どうしてここに」
「この辺りは食糧を求める人達が多くて危険ですので巡回を…」
確かにこの世界は安全とは言い難いが、ソラは山吹の話を聞いて少し不安になった。
それはここへ来るまでの記憶が無いソラにとっては、自分のいる場所も分からないのだから、もしや全員自分と同じ境遇ではないか?と思い始めていたからだ。しかし……それを聞く勇気はなかった。
「えっと……食事はどうすれば……」
「食糧を分けることは出来ませんが、なにか私に力になれることがあれば……」
「あ、じゃあえっと……」
………
山吹桜の任天堂戦士としての能力は『ニンテンドーLABO』
同じく周辺機器が元になった能力で、ダンボールを組みたててバイクやロボットのコントローラーを工作してそれがゲーム内に反映されるというものだ、この世界でもその力は十分に発揮されるだろう。
「あの……これで大丈夫ですか?結局ダンボールですから簡単に壊れちゃいますけど……」
「ありがとう、助かるよ」
ソラは、早速サテラビューの世界へ戻ることにした。
サテラビューの世界から戻ってきたソラは一旦能力を使い、山吹が作ってくれたものを使う。
それは………ダンボールで出来た人工衛星。
サテラビューの電波を発信する物がないなら新しく用意すればいいのだ。
ダンボール製で壊れやすいと言っても、サテラビューに居るのは人間だとソラのみなので問題は無い。しかし、まだ完成はしていないのでソラは別の準備に入る。
「まずは……
「よし、こんなもんかな……」
ソラは作業を終えると完成した衛星を起動させる、まだここから電波も用意しなくてはならない。
「サウンドリンクゲーム……ラジオ音声に合わせた特別なゲームがあるとも聞いたことがあるな、アレのような物を作るには……」
そう思いながら探すと……見つけたのがカセット型のラジカセ、これはもう持っているアイテムだ。これならば使えるかもしれない。
電源を入れてみると普通に動くのでそのままラジオ機能の再生ボタンを押す。すると、中からゲームミュージックが流れる……が、その曲は普通の曲ではなくて、ゲームと連動してタレントやキャラクターが喋っている、ラジオ番組に近いものだった。
「いつの間にテープがこんなものに……!
「サテラビューワールドが……作り変わって、いや…発展していく!」
衛生、番組、そしてそれらを繋げる擬似的な環境。
それら全てが揃ったことにより、サテラビューワールドは数十年越しの復活を果たした。
「や…やった!凄い、大昔のゲームが復活した上に、俺だけがその世界に居る!」
サテラビューワールドの景色はまるで現実のようでいてどこか非現実的な光景が広がっていた。
「これなら……入れる、入れるぞ!!」
コンビニが、バーガーショップが……サテラビューを起動するまでは見えない壁のように扉に触れることも出来なかったのが、今はすんなりと通り抜けれるようになっている。
「中に……行ける」
しかし、すぐにサテラビューワールドに行くのは止めて、ソラはひとまず現実世界の情報を仕入れる事にした。
その辺りの事は山吹に教えてもらった。
自分たち『任天堂戦士』になった人間は皆、なんの脈略もなく気がついたら任天堂世界に飛ばされていた。
日本人が多いが性別や年齢、経歴は一切問わないので犯罪者もそれなりに多いことが任天堂世界が危険であると判断した理由だ。
現実世界への脱出方法は……現状見つかっていかい。
脅威に立ち向かうと最初に言われたが、その脅威はソラを含めた全員が分かっていない。
今はまだ安全だろう、しかし油断は禁物である。
1番危険視すべき相手は……おそらく、世界に住んでいる動物やモンスターなど。
ゲーム世界といえどその力は本物。
「俺の能力はサテラビューを元にした仮想空間を作るだけ…自分で言うことでもないが便利ではある、でも戦う力は無い」
「とても任天堂世界で生きていけるような物じゃない」
「………そうだ」
「この任天堂世界には『ア・カウント・バーン』という自警組織が存在する、この世界のルールに則って生きていくには彼らの指示に従って行動すべきだ」
「彼らは、俺たちを歓迎してくれるだろうか?」
「それは分からない、だが……この能力が知られたら、誰か悪用するものが居るかもしれないのが事実だ」
「この能力を隠して如何にこの空間で立ち向かうか……そんな事を考えなくていいようにはしたいな……」
………………
数日後。
ソラは再びサテラビューの世界に入り、ゲームの中の様子をうかがう事に。
サテラビューワールドは以前よりも更に発展を遂げていて様々な物が作られていた、もちろん現実にはない物もあるのだが。
「現実のシャイニーマートと同じものが売られているから食料問題は解決だな」
と言っても現実の紙幣は使えないので、サテラビュー内で稼いだコインで支払っている。
常にラジオ番組が流れており、サウンドリンクという連動したゲームもあるのでサテラビュー内で過ごすことは出来る、この能力を使ってサテラビューの環境を改善していこうと思ったのだ。
「ラジオ番組のデータをどんどん受信しよう、もっと沢山のチャンネルを登録すれば、色々できるはずだ」
これは、自分だけの世界を構築し、任天堂世界に一切関わらずに、何より快適に過ごすことを目指す男の物語。