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ざくアクZ外伝 ヅッチー神話
作者: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E  (総ページ数: 6ページ)
関連タグ: メイドウィン小説SEASON3 ざくアクZシリーズ ヅッチー 大人化 短編 
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*1*

時空の全てを歩き、全てを繋ぎ

稲妻のように過ぎ去って 梅雨明けのように晴れやかに平穏が訪れる

小さな小さな紫電の女王

その名はヅッチー。


これは後に神話のように語り継がれる女王戦記である。
――――――
『……』
そこは薄暗い洞窟であった。
その奥深くには光が差し込む空洞がある。
そこにいるのは巨大なドラゴンだ。
少し前からそこに鎮座し、表の場に降り立っては暴れまわっている。

今もそうだ。
「やべッ やべぇぞっ!帝都に向かってる」

「すぐに召喚士協会に連絡を入れろ!」

ドラゴンが翼を広げ、街へと向かっていく。
そのスピードは飛行機にも遠く及ばない。
このままでは帝都まで1時間もかからないだろう。
だが、

「ぬぅオオオオ!!!」

突如、ドラゴンの頭部を斜め上から横切るように何かが激突しそのまま地面へと叩き落とされる。
ドラゴンが止まったのを確認すると横切ったものは再びとんでもない速さで空へと消えていった。


「今のは……?」

「流星か?」

「いや、虫みたいに小さく見えたが……」


「…………」


「クロダさん!」

「はっ、お呼びですか」

「今龍を横切ったものを捕捉するのです!あの先に、龍以上の物があると見ます!」

「はっ、おまかせを……」



「カグラギ殿!」

この男、カグラギ・ディボウスキ。

自らの手で国を掴み、王殿となり『農業国』トウフを自らの手腕と口で発展させてきた1人の王。
今回、彼は偶然にも異世界に下見をしていただけなのだが……

「おお!」

街を出て、森を抜け、奥へ進む。
気がつくと日は暮れて月が上り。

今宵彼は、この世界の『王国』を見る。

「蝶が……蝶が月と舞っている!」


妖精の……王国を。

後にカグラギ・ディボウスキは語る。
普段二枚舌で、彼を知る他国の王はあまりにも現実味が無さすぎて耳を傾けることも無かった言葉だ。


「豊かな森の深部には……花の妖精が独自の文化を築き上げ、王国を作っていた!」
それは、ただの夢物語だと言われていた、だがカグラギは…
使えると思った。
――――――
森の中を駆け抜ける。
夜中だというのに、木々はざわめき、鳥たちは逃げ惑う。
あれからひと月、カグラギは大勢の人間を連れて森の奥へと入ったのだ。
トウフの優秀な国民を招き、正式に国同士として話を付けて、あわよくば互いに利益のある関係を築こうとしていた。

「お待ちしていました、カグラギ・ディボウスキ王殿」

「!」

「農業国トウフ……交易交渉、我々妖精王国も辺境の何も知らぬ国ではない故、そちらの噂や情報も耳に入れています」

「貴方が、この国を率いている王ですかな?」

「いえ、私はあくまで参謀……ヅッチー、この国の王は、多忙ですので」


「こういった交渉・示談は任せてもいいとお墨付きを頂いています」

トウフ国を待っていたのは……今までとは一線を画す風貌の青い妖精。
その妖精は他の子供のような風貌の物と違い、異様なことに大人の見た目。
雰囲気は氷のように冷たく、しかし何処か暖かさを感じる不思議な存在だった。

「私はヅッチー様の側近……プリシラ、以後お見知りおきを」

「…………ほう、これはまた異様……」

「……?」

「いや、失礼しました。此度はこのような場を設けていただき誠に感謝します」

……

「この国の王はどちらに?」

「妖精王国は…私の経営とヅッチーの交易によって広がりました」

「ヅッチーは自ら馬車を走らせ、世界を回り、その土地でしか取れない作物や鉱物などを見つけ、貿易をしてきました」

「その結果、多くの国や町と交流を持ち、妖精王国は発展を遂げたのです」

「なるほど……それもあり、今回のトウフとのの交易も了諾したと、誠にありがたい話ではあります」

「いえ、こちらとしても異世界の王国と何かしらの縁が出来るのであれば」
この世界において、カグラギがやってきたことは、この世界の文明レベルでは到底考えられないことだ。
それはつまり、この世界でカグラギが得たものは計り知れない価値を持つことになる。
それがもし、この世界でも有効ならば……

「それで、トウフ国からは何を出せるのですか?」

「よくぞ聞いてくれましたとも!」

「トウフの民が腕によりをかけて築き上げた野菜、果実、そして麦!」

「無論!織物から魚類まで全てが産地直送!どの国にもどの世界にも引けを取らない一級品でございます!」


「ふむ………私としては、どの世界にも引けを取らないと言ってくれる方が助かりますけど、ブランドは引き付けやすいですからね」

「おや?」



「ヅッチーが交易、言わば物々交換で国を広げるとするなら、私は商売で国を広げる」

「ただ国で得るのではなく、ヅッチーが回収した交易品や輸入品を商会を展開しあちこちに行き渡るように采配する、それが妖精王国参謀としての仕事です」

この世界には魔法がある。
魔力を込めればどんなものでも作れるし、それを燃料にして動く車もある。
だが、そのどれもが多数の世界には無かったものばかりだ。
例えば、ガソリンの代わりになる魔石や、電気を生み出す発電機、水道水を作る浄水器、ガスや灯油の代替となる魔導エンジン。
この世界でプリシラはそれらの物の購入権利を1部買取り、時空のあちこちに輸出と輸入を繰り返している。

「こちらからは輸出品として加工品の農具や季節外れでも栽培出来た野菜を送れます、更にトウフ国の野菜が売れた時には最大四割の金銭をそちらに」

「……………」

「いやぁ!商売上手な国にはとてもかないませんな!」
この異世界にはカグラギの世界にはないものがある。
それはカグラギにとって喉から手が出るほどのものだった。
それを今、この手で掴もうとしている。

「では、妖精王国の方にも何か利益が欲しいところですね……」

「えぇ!もちろん!何でも言ってください!」

「なんでも……と言いましたか?」

「はい!私共に出来ることであれば何なりと!」

「そうですか……じゃあ……」

……

「雷神トゥルギウス……とな?」

「はい」

「ヅッチーが言うには……同じ稲妻の力を宿していることから本能のように感じたというのです」

「雷神がこの地に降り立ち、この妖精王国を殲滅する……と」

「ほぉ……」

「まぁ、私も信じられない話ではありましたが、ヅッチーは嘘をつくような子ではありませんし」

「実際に雷神が被害を巻き起こした事例は?」

「………」

「おもそ四件、いずれも雷神の起こしたと思われる落雷の被害が」


「この辺り一帯を焼き尽くしたと聞きました」

「それは……確かに見過ごせない事態でしょう、ヅッチー殿のあの様子も伺える」

「というのも!私共が初めて見たこの国の王の姿は……街を襲う龍を沈めた時が最初だったもので」

カグラギは語る、ドラゴンが街に来たかと思えば頭上に流星の如く落ちてきた巨大な光。
その一撃は一瞬にして竜の鱗を貫き、肉を切り、骨を断ったという。
この妖精王国に住まう妖精達は、今は皆自ら国を作り、広げたヅッチーの事を尊敬している。

「この間は大蛇を、その前は3つ首の犬を」

「ふむ……なるほど、事情は分かりました」


「私共もある事情故、神の怒りは見過ごせませんな、ヅッチー殿のお力となりましょう!」

「カグラギ殿……」

「何、殺し合いや戦争をするわけではありません、ちょっとした鍛錬でありますとも」

「では、こちらに」

「はっ」

「プリシラさん、お願いします」
プリシラの案内で、二人は城の地下へと続く階段を降りる。
その先は真っ暗で何も見えない、プリシラは懐から出した蝋燭に火を灯す。

「此処に」

「おぉ……」

「……最近国に帰ってきてからは、ずっとここに」
地下にある開けた空間、そこにあったのは無数の剣と槍、斧、弓に鎧と様々な武具が並んでいる。
壁には木刀や竹刀など、訓練用の武器も揃えられている。
そこは、この妖精王国の兵士の訓練場であった。
妖精達の中でも精鋭の兵士達が日々鍛え上げている場所だった。

その奥に居るのが……

「ヅッチー……」

紫色の髪……他の妖精たちと風貌は似ているが、覇気が違う。

あれこそ妖精の王、ヅッチー。



「プリシラ、その男はなんだ?」

「これはこれはお初にめにかかる!私はこの度妖精王国と交易関係並びに行く行くは一生の同盟関係まで結ぶ為降り立った、トウフ国の王殿カグラギ・ディボウスキでありまして……」


「……まあ、いいよ、別世界だのなんだのには色々あって慣れてる」


「ここに来た理由は?」


「お付き合いしますとも、貴方の鍛錬、悪しき雷神トゥルギウスへの打倒」


「このカグラギ・ディボウスキ、存分に貴方と戦いましょうとも」


「…………」


「好きな武器を取れ、初対面の王を黒焦げにする趣味は無い」
ヅッチーが指差したのは、壁にかけられていた一本の大剣。
柄や刃には細かな装飾が施され、一目で業物だと分かる代物。
カグラギはそれを持ち上げる、見た目より遥かに軽い。
カグラギはその大剣を両手で構え、ヅッチーに向けて突き出した。

「なるほど、ひと握りで分かります、この国には腕利きの鍛冶職人が居るようですな」

「当然だ、国としては野菜しか出してないが、鉄製品においても遅れをとるつもりははい」

「ですが……このお気遣いは無用、誠意を込めて、この剣を使わせていただきます!」

そう言ってカグラギは腰に差していた剣を抜き……

『Hatch it!』

「これは……」

「いきますぞ、ヅッチー殿……」


「王鎧武装!!」

『You are the KING, You are the You are the KING!』
『ハチオージャー!!』
カグラギは剣を鞘に収めると、胸の前で手を組み、詠唱を始める。
すると、カグラギの体が輝きだし、その光が収まると……
そこには黒の甲冑に身を包んだカグラギの姿があった。
全身を覆う甲冑、手に持つのは巨大な盾。
その大きさはカグラギの顔よりも大きい。
そして何より目立つのは、狩りを行う蜂の如き威容。


「では参りますぞ、ヅッチー殿!」


「ああ……そうこなくちゃな」

「そうでなくちゃ雷神以上は超えられない」


………

プリシラは地下の扉を閉め、上へ上がると二人の戦いを見守る。
二人の戦いは壮絶を極めた。
カグラギが巨大な盾を正面から叩きつければ、ヅッチーは拳で受け止め、蹴りを放つ。
ヅッチーが雷を纏った一撃を放てば、カグラギは受け流し、反撃の隙を与える。
邪魔をしては悪い、というより邪魔出来ない。

「……………」


「今日も合戦ですか、あの子は」

「かなちゃん……」

釣れない顔のプリシラの前に現れたのは……ほぼ、この国から生まれ、この国の武器を全て担っている妖精の神『かなづち大明神』だった。


「あれから……なのかい?」


「ええ」

「ヅッチーは久々に妖精王国に帰ってきたかと思えば、ああして修行や戦いの繰り返し……」


「国に顔を出したかと思えば、勢力や発展の為に無茶もするようになって……」

「私も貴方から聞いて帰国した時は流石に驚きましたよ」


「………芯がある子とは思ってましたが、あそこまで修羅の顔をするような王では無かったはず」

「ヅッチー……どうしてそんなに………」


「……きっと、昔の事で貴方や妖精王国に引け目がまだ残っていたのでしょう」

「自分が、過去に自分の国を蔑ろにしたから貴方がそんな風になった時のように……」

「そんな昔のことを……」

「無論これだけでは無いだろうね」


「妖精戦争、第二次ハグレ戦争、魔王タワー、ヘルプエンド、魔神戦、魔導界戦争、リュージン達との戦い、異神カーレッジの侵略、そして破壊生物」

「色々あり、あの国でなんとか問題を解決して来た今、くすぶっていた彼女の1つの思いが雷神の予知によって爆発したのでしょう」



「自分が、この身でこの国を守らなくてはならないと」
「……でも、今の彼女を見てると、まるで別人みたいに……」

「だからなのですよ」

「……?」

「今の彼女は、この国を守る為に、妖精王国の為だけに戦う戦士となったのです」

「それが、彼女が妖精王国の王として生きる事を決めた道」

「………」

「分かってますよ、貴方が見てきた、貴方が追ってきたヅッチーの背中はそんなものじゃない」

「私達に出来ることはヅッチーを止めることじゃない」


「ヅッチーを後戻り出来ない方まで変えさせないことですよ」


これは、戦いの末に心が磨り減りそうな稲妻の妖精と、それを支える国民達の時空を超えた物語。

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